第十六話
わたしは心を落としていた。
「中々にアグレッシブでしたわね」
ため息をつく。
「待ちに待っただったからな」
頭をかく。
「……楽しかった」
煙草を口に。火をつける。
「祝賀会ですわ町に繰り出しますわ」
「そんなんじゃねェだろ」
わたしの低い声に会話が止まる。
「お前が何が言いたいかもわかるぞ、ナギ」
「あら、負けたのがくやしいんですの?」
「負けて!……いや、負けたようなもんか」
「そんなこと……ない……。……引き分け……」
サラがフォローしてくるがそれすらもわたしの心を落とす。
「大体よ、なんであいつが使えんだよ!いや能力的に使えるのはわかんぜ。ただ初見、しかも攻撃を受けながら」
「想定の範囲ではあっただろうよ」
確かにその話はした。使えるようになっているという可能性。その場合は四人全員で畳み掛ける。行ってみたら使えなさそうだったので計画通りじゃんけんで勝ったわたしが指名して力の差を見せつけ絶望させる。
「戦闘中に使い方を覚えられるとは思わなかった」
「本当に使えなかったんですの?そういう振りをしていたんではなくて?」
「終始わたしがイニシアチブを握っていたんだ。使えるならわたしのに合わせて使うだろうさ」
「となると見て盗んだわけだ。つーかそんなことできっか?いや、やったのはやったんだけどよう」
「……見よう見まね?」
声真似間隔でできるようなものではない。再生の欠片で得た霊力をどう使ったかをしっかり、しっかり。
「空間認識か」
「なるほど、そういう事かよ」
チカとサラが納得する。
「どういうことですの?」
「あのクソ巫女、わたしがどうやって発動させたかを空間認識でしっかり覚えて、それをそのまま使ったってわけだ。戦闘中、疲弊した状態で人の“体内の霊力”まで認識しやがった」
「つまりナギさんはこうやってやるんですわよとまんまと手ほどきしたわけですのね」
「ま、そういうことになるな」
「随分ナメた口聞いてくれんなキョウ。わたしは今おだやかじゃねェんだぜ?」
「その銃、降ろしてくださいます?向ける相手間違ってますわよ“手ほどき”さん」
「黙れよ、“ですわ”ちゃんよ」
キョウが日本刀に手をかけこちらを見る。
「おい落ち着け。不本意と予想外から起こったことだ。ナギに落ち度はねーよ。だからお前ら武器しまえ」
「……止める」
沈黙。沈黙。
「オーケーオーケー。悪かったよキョウ。わたしのせいなんだ。いらいらしてた」
「いいんですのよ。かゆい背中に手が届かないのは私も、いえ全員そうですわナギさん」
「ったくよー。さて、それよりも情報の整理といこうぜ」
「ああ、そうだな。飯は?」
「……買ってくる」
「私も行きますわ」
サラとキョウはゲートを開き入っていった。今日もコンビニ飯。たまには手料理でも食べたいね。
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「じゃあ、今日はゆっくり休んでください」
「はい。すみません送ってもらっちゃって」
「家の前でなくていいんですか?」
「ええ。大丈夫です。歩く練習。ありがとね四季さんリセさん」
鈴鹿ちゃんが車から降りる。気絶はしなかったおかげで霊力を回復に当て痛みは残っているはずだが一般人女子高生としての生活は可能そうだった。
「帰ろっか。楯も送り終えたって」
「ええ。うちに来るように伝えますね」
「もう言っといたよ。行こ」
「それじゃ出た項目のまとめと考察に入ろっか」
「ええ。ですがその前にもうひとつ」
「あれっ?まだあったの?」
「いえ。もう一人、話し合いに参加していただきたい人がいまして」
「誰?」
「鈴鹿ちゃんかなっ?」
「桐子に」
わたしの喉が鳴る。この名前を呼ぶのは、なんだか久しぶりに感じた。リセは右下に目線を流し、楯は大きな目をいつもより少しだけ見開いた。
「桐子ちゃん?」
「ええ。楯、ごめんなさい、連絡」
「オッケー。してみるね!」
「いえ、待ってください」
楯が取り出した携帯から手を離した。
「わたしが連絡します」
携帯の連絡先を開く。鐘ヶ江桐子。4コールで繋がる。
「もしもし」
『四季?久しぶりだね。どうしたの?』
「お久しぶりです。今リセと楯と一緒にいるんですけど」
『あー、襲来終わったのね』
「それで、少しお話したいことがあるんですが。今大丈夫ですか?」
『っと、大丈夫なんだけど。どうすればいい?』
「迎えに行きますよ。楯」
「うんっ、桐ちゃんに待っててって言って!」
「だそうです」
『わかった。支度しとくね。何かあったの?そうだよね』
「その辺もこっちでお話します。それでは後で」
「なんかこの家来るのも久しぶり」
「一年ぶり、くらいですかね?」
「そうなるかな。私が戦わなくなってそれくらいだもんね」
一年半ほど前から桐子は戦列から退いた。理由は霊力の低下。衰退そのものはわたし達全員に見られていたことだが桐子は一番顕著に表れ、そんな桐子の姿は桐子本人もわたし達も見たくなかった。特に楯は泣きじゃくり、結果桐子は引退の道を選んだ。それから徐々に会わなくなる。
「ええ。体調はいかがですか?桐子」
「悪くないよ。病院行ってるけど本格的になるのは四ヶ月くらいからみたい。あーでもつわりとかはちょっと」
中学のときに出会いここ二年を除きずっと一緒にいた桐子。その桐子が結婚し、身篭っている。その報告を電話ではあるがしてもらったときは心から喜んだ。桐子が母親になる。今はまだ見た目の変化はないが体内では少しずつお母さんになる準備をしているのだろう。
「大変なんですか。今日このあとの食事は」
「ありがとう。これずるなんだけどね、自己防衛に霊力使うとあんまりつらく感じないっていうか。全身に纏うだけでも全然違うみたい」
つらいときだけにしてるけどね、と桐子。確かに10年の戦闘を潜り抜けてきた実績がある。内側の痛みも和らげることは可能だろう。
「でも私達って霊力自家発電してないよね?何でまだ使えるんだろって思うんだけど。ナナ、今日いないの?」
「鈴鹿ちゃんのところにいますよ」
「そなんだ。聞こうと思ったんだけど」
「使えるんだね。霊力」
「ちょっとだけね」
桐子が手を出すと手首のリングがゆっくりと槍の形になっていった。
「これが限界。ほとんどつぎ込んでこれだからね」
優しく槍を触ると元のリングに戻していった。
「恐らくですが、ナナが供給する霊力の一部が地域全体に撒かれているのでそれを受け取っているのだと」
「そうなの?」
「霊力を感じ取れる子を発見するためにですね。今は鈴鹿ちゃん達がいますが」
「あの子達は元気?」
「今日も戦ってきました。そのことでの話であって桐子をお呼びしたんですが」
「うん。どうしたの?」
「今日現れた敵が、いつもと違ったんです」
「幹部ってこと?」
お茶用意するね、と立ち上がるリセ。キッチンに向かいながら髪を縛りなおしていた。
「冷たいほうがいいのかな?」
「うん、ありがとリセ」
「幹部だとは言い切れないのですが。一人一人がわたし達並の強さでした」
「一人一人?」
「四人いたんですよ。が、わたし達三人とほとんど互角、やや不利といったところでした」
「それ、幹部、にしては弱いよね?もっと圧倒的だったような」
「っても強かったんだよ!防戦一方って感じ!」
「その通りです。幹部にしては弱く、一般兵にしては強すぎる。他にも不可解な点がいくつかあったんです」
「なるほどね」
「それの特徴などを話し合って、答えにたどり着いておきたいなと」
「それ、私がいても意味なさそうだけど」
「あなたの意見が必要なんです。お願いします、桐子」
「ま、私にわかることがあるんなら」
「ね、桐子ちゃん。お腹さわっていい?」
リセが前のめりになる。ごめんね四季とわたしに舌を出した。
「いいけどまだ動かないよ?」
「うん。ありがとう」
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「まず第一だ。どうして人数が少なかった?」
「欠席ではないんですの?」
「例えば誰かが非番だったとしても電話で呼び出すだろ。ファッキンエマージェンシー」
「まーあたしならそうするな」
それが無かった。サラがサンドイッチをかじりながら頷いている。
「そうしない。転がってる奴らが危機入っちまうこと見越してなのかも知れねェが、コールするタイミングなんざそこそこにあったはずだ」
「それが無かったですわね」
「加えて桃桜のあの反応。過敏さと水華の止め方から察するに鈴が怪我、もしくは動けない状況にいる」
「あいつだって一級品の強さだったろ?負けるか?あいつが」
「……強かった」
「そこで第二だ」
ビールをあおりから揚げをつまむ。
「ひははんほはふはっへはっはひはへんへひはは?」
「飲み込んでから喋れよ」
「まったくだぜ」
口の中のものを紅茶で流し込もうとするキョウを呆れつつ見る。
「あいつら弱くなってなかったか?」
「そう言ったんですのよ」
「……言えてなかった……」
チカが笑いながら賛同する。
「“あの時”からしてるはずの成長が無かった。拍子抜け感はちょいとあったが」
「そもそも4対3でしたわ」
「4対4のつもりだったんだけどな。甲木が死んでいるのはいいとして」
奴らの仲間の一人甲木ひかりはわたし達があちらの世界を離れてすぐ命を落としたと聞いている。その際に記憶を改竄される巫女共は甲木を忘れている。
「ですが今までゴリさんからの連絡は無かったんですのよね?ブッ殺しましたわって」
「鈴に関してはな。だから怪我か何かさ」
一般兵を送り込む役を担っているゴリがしっかりと働ききっちりと報告しているのなら、ウチの雑魚共は一度としてあいつらを痛めつけてなどいない。こちらがいたずらに戦力を減らしているだけのようだ。
「鈴が死んでりゃ、桃桜にあの反応はできねェ。鈴の記憶そのものが存在してるからこそのキレっぷりさ。ひょっとしたら、弱くなって怪我負ったのかもな」
「ただ、弱くなったとは言ってもあたし達は互角だったぜ?」
「いや、能力的にはウチのが上回ってたさ。一日の長。あいつらのが戦い慣れたヴァルキュリアだったって話さ。元々あいつらは自分達より強い相手とファックするのが得意だ。桃桜と利府なら防戦に持っていくことも可能だろうよ」
「手ごわいですわね」
「そのための“解除”さ。こちらの切り札は三枚。あちらも禁じ手を使ってきたら、そのときはま、死ぬだけだ」
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「それでは、そろそろ」
「あっそだね!ごめんねおなかに夢中になっちゃった!」
楯が手を合わせて謝り、桐子がまくった服を戻す。
「桐子。改めて、おめでとうございます」
「ん、あ、うん。ありがとう」
「元気な赤ちゃんを産んでください」
「私もそうしたいと思ってるよ」
「では」
紅茶を一口。
「まず第一に、わたし達が対当した四人について。彼女達はそれぞれをナギ、チカ、キョウ、サラと名乗っていました。桐子、聞き覚えはありませんか?」
「いや、わかんないや。皆も知らないんでしょ?」
「ええ。やはりですか」
四人とも四人を知らない。
「しかしあちらは、こちらを知っているようだったんです」
「知ってる?何でさ」
「何故かはわかりませんがわたし達の名前、それから素質スキルを把握していました」
「やっぱり敵の幹部ってことじゃないの?いや、今までの奴らはこっちのこと知らなかったけどさ」
「角もありませんでした。順を追って説明しましょう。まずいつものように襲来があり、鈴鹿ちゃん達がそれを撃退。わたし達の元に戻ろうとしたところで強襲を受けました。楯の壁のようなもので四人を閉じ込め、強襲であの子達を倒してきました」
「こーんな感じ!」
楯が片手をかざすと机の上に箱が出来上がる。
「その相手もそういう特殊能力があるってこと?素質スキル的な」
「今までの幹部はそういったものは持っていませんでしたからね。ますます違うと考えたほうがいいかと」
幹部じゃない、桐子がつぶやく。
「わたし達が今まで出会っていないだけの第三勢力という可能性も考えられるんですが。それよりも気になるのはわたし達を知っているということ」
「考えられる理由は?第三勢力の幹部で、別のどこからからこちらを観察しているため知っていた、とか?」
クッキーを一つまみ。
「その線が妥当だとわたしも思っています。話を戻しましょう。わたしの眼帯に対してのリアクションがあったんですが、眼帯をつけていないわたしを知っているような感じだったんです」
「つけていない四季、って、五年前?」
「十年から五年前になりますね。それ以降に観察している場合眼帯に驚くことはないでしょう」
「矛盾が出ちゃう、か」
「ご飯そろそろ準備しよっか?」
「出前にします?会議中ですし」
「はいはーい!ピザ!ピザ!あっでも桐ちゃん食べられないかな?」
「大丈夫。じゃ、ピザにする?」
「そうしましょうか。適当に選んでもらえます?」
「まっかせて!」
リセがピザデリバリーのパンフレットを持ってくる。
「鬼かどうか聞きましたが、はぐらかされました。自ら宣言してきた今までの鬼と違うことを鑑みてもやはり鬼とはまた別の存在なんでしょう」
「女の子だったんでしょう?」
「ええ。二十歳そこそこの。ますます鬼でない可能性が高くなっていますね」
「で、こっちと同じくらいの強さだったと」
「素質スキルもそれぞれ違ったようです。わたしはナギとしか対当していないので他の三人についてはわかりませんが。まずはナギから説明しますね」
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「ビール取ってくれ」
「……はい」
「おう。さて、要点をまとめるとだ。確実とは言えないが、残存戦力は3。後輩のガキ共を加えても合計7だ。水華は確実に、加えて次のファックまでに利府と桃桜も使えるようになっている可能性がある。その時には後輩も回復、立ち向かってきてもおかしくない」
ビールを開ける。
「どう見るよ?こっちが不利か有利か」
「六分ってとこだ。有利。こちらに先がある限りな。しかしそれもわかっているはず。まず警戒してくる」
「そうですわね」
「ゲリラ的に襲って精神削るって手もあるが、そんなんで潰れるタマじゃねェだろうし」
「同じようなこともできねーし」
「そこでひとつ。少し危険だが調べた結果によっては効果抜群な手がある。王手飛車取りだ」
「ってなわけさ」
「それ、成功するんですの?」
「奴らが3人しかいない状況をフェイクしていたとしたらこっちが危険だがな。現状ではこれが最良だぜ」
「ま、いーんじゃねーの?リーダーの意見だ、あたしは従うぜ」
「眠い目擦って練りに練った作戦ですものね」
「……私も」
「作戦はわたしとチカで行う。キョウは有事の際の戦闘要員。サラはモニター役ですべてを観察し指示を出す。実行は明日だ」
「急いで大丈夫ですの?」
「明日に限り水華の思考と動きが読みやすい。ま、細かいこたァ調べてからだ。危険も伴うが何よりわたしが適役だ。行ってくるぜ」
「私が代わってあげてもよろしくてよ?」
「テメーは一番駄目だ」
世界一おっかないお化け屋敷。道を間違えたりトラップに引っかかったら終わり。コンテニューは不可だ。
「さて、早速行ってくるぜ。緊急用の戦闘準備だけ任せるぜ」
わたしは霊力を出し、ゲートを開いた。
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「なるほどね、鋼線使いに、拡散魔法を使う斧と槍が一緒になったハルバート?に、重力を操る日本刀を使う人、妖精を引き連れた人、か」
「妖精使いに関してはそれを戦闘に利用していたと考えると妖精に関してもナナとは違う存在なのかと、まだ見えて来ませんが」
どうなんだろうね、と桐子は相手の能力をまとめたノートを置いた。机にはピザとホットスナックと飲み物。なんだか大学生の頃みたいだ。
「鋼線使い、ナギの能力、というより素質スキルですね、は“霊力変換:追尾”になります。それを使い対象を定めどこまでも追いかけて攻撃するタイプですね」
「急に巫女服になって解除?したのもその人だよね」
「ええ。わたしが出来たことも考えると巫女全員が可能のようです。再生の欠片が必要になりますが」
喉を鳴らしわたしは覚えた解除の方法を伝え始めた。
「じゃあ、おやすみ」
「ええ。お気をつけて」
二人を玄関で送る。時間は八時半を回っていた。
「四季」
「はい」
「リセも。今日は楽しかった。皆と喋れて」
「ええ。わたしも同じ気持ちです」
「うんうん」
「やっぱりいいね!皆でいるの楽しいね!」
「最近は会ってなかったからね。うん。やっぱいいよね」
こんな状況でそんなこと言うのよくないかも知れないけど、と桐子は軽く笑った。普段きりっとしている彼女の微笑みは魅力的に見える。
「何があるかわかりません。どんなときでも何かあればすぐ電話してくださいね」
「わかったよ、ありがとう」
「またねー!」
ドアが閉じた。
「疲れましたね。わたし達も寝ましょうか」
「そうだねえ」
玄関を開けるとそこに一人立っていた。一歩踏み出した瞬間に強烈な殺気を放つ存在。本が入った袋を玄関口に置きゆっくりと扉を閉める。昨日の今日で。
「アローアロービッチ。オカエリナサイ、なァんてな」
「……どうして、あなたがここに」
「安心しなよ。ドアも窓も正常さ。中にもわたし一人。ほら、きっちり靴脱いでやってんだろう?」
空間認識を展開するが言葉のままこの家の中にはわたしと彼女しかいない。地下室にゲートが発生していた。これで来たのか。しかし。
「ええ、そうですね」
「そうカッカすんなって。ほら霊力閉じろよ?今日は話し合いに来たんだぜ?」
「と、いいますと?」
「二度は言わねェ。空間認識解きな巫女。わたしには仲間がいてお前の可愛い後輩にロックオンしてるかもしれないぜ?」
わたしは空間認識を解く。下手に隠しつつ展開したのが知れたら宣言の通り後輩達が危険に晒されてしまう。
「オーケーだ。さ、リビングでトークといこうか」
先行くナギに続きリビングに入る。ある程度の距離を置いて歩いたが攻撃する様子はなさそうだ。
「ブルジョアーだねェ。茶もミルクも必要ないぜ、おかまいなくだ」
ソファーにどかんと腰掛け素材を撫でるナギ。
「座りなよ。そこならわたしの鋼線が届く前に防御反応ができんだろ?」
見通されていた。
「攻撃する時ァ宣言してやる。わたしは親切設計なのさ」
「それはどうも」
「さて、答え合わせと行こうじゃないの。テメーは“わたし達”に辿り着いているんだろう?」
彼女の強襲から覚醒状態に至るまでの対抗はできるだろう。多少部屋が壊れてしまうが仕方が無い。
「クイズですか」
「はぐらかしなさんな。強くて格好良くて頭も切れる最強の巫女水華四季さんが正常稼動かって聞いてんだ」
彼女達の正体。昨日の話し合いでは第三勢力の幹部かそれに類する何かという見解になった。三人はそう納得しただろう。
「あなたは、どこまで知っているんでしょうか」
「ここ禁煙かい?」
「喫煙している人はいませんね」
「そうか。じゃ、遠慮なく」
一本咥え火を付け息を吐くナギ。
「大体知ってんぜ。この家は今わたしとテメーだけだ。だから腹割って大きな声で喋れよビッチ」
わたしの言葉が止まる。
「記憶保護」
ナギの眉がほんの少し上がった。
「それをご存知ですか」
「こっちの台詞さ。あのワン公から聞いたのか?」
「ナナのことでしょうか」
「なるほどねェ。信頼されてたってわけだ。そいつはそいつは」
ナナの姿は昨日の時点で見せていない。犬型だと言うことはできないはずだった。
「……わかりました」
「何がだ?明日の天気か?」
「しましょうか。答え合わせとやら。記憶保護に関しては確かにナナから聞きました。ですがナナが自ら教えてくれたわけではなく、実際に記憶保護がわたしに行われた際にこちらからそうではありませんかと伺い、それに対して答えてくれました」
「自らァ?どうやってだよ。記憶保護された奴が記憶保護の認識なんざできるわけが」
「微かでしたが記憶保護に関して違和感を覚える事象が発生し、ナナに聞くに至りました」
「素直に死んだって言えよ。そうかそうか、仲間がファックされて知りえたと。涙が出るぜ。誰が死んだんだ?鈴か?」
「桐子を知っているんですね」
「ああ。そうか、テメーにゃ鈴の記憶がある。つまりヤツは死んでねェわけだ」
「ええ」
「昨日はいなかったのにな」
「答えあわせと関係あるんでしょうか?」
「いいじゃねェの。昨日いなかった理由は何だ?」
「年齢により体に保てる霊力が大きく減少してしまいました。彼女はもう、戦えません」
「へーへー。そいつは嬉しいこって。戦力外に、いてもらっても困るもんなァ?」
「桐子に傷ついて欲しくないだけです」
「いっそ連れてけよ。死んだら忘れるぜ?“お前がかつての仲間を忘れたように”よ」
わたしは息を飲んだ。
「できるわけがありません」
「友情だねェ。反吐が出る。本当は、追い出したかっただけじゃねェの?」
「……何を」
「鈴も頭は切れる。利府もだが、あいつはテメーにイエスだろ?鈴にあれこれ口出されちゃのびのびとリーダーできねェ。キックしてしかるべきさ」
「ありえません、そんなこと」
「邪魔者の排除は基本中の基本。テメーならそれがベターだとわかるはず。記憶保護もどうせ説明してなかったんだろ?」
「……彼女が知る必要は、ありません」
「仲間なのにか?」
「仲間だからです」
「それは名目だよ、水華。テメーが心を許しているのは利府だけ。後はただのオトモダチさ」
「あなたに何が」
「わかるんだよわかるんだよ。お前の本心もわかるんだ水華」
「わかるわけがありません!わたしの気持ちなんて!」
「推測できんだぜ水華。テメーが記憶保護を説明しなかったこと。鈴を追い払ったこと。霊力の減少?ハッ、ナナにけしかけたんだろ?あいつに霊力送んなってな。ナカヨシコヨシなテメーの言うことなら聞くだろうよ」
「憶測でそんなくだらないこと!」
「くだらない?鈴が戦えなくなったことがくだらないってか?」
「そんなこと言ってません!」
「そうだよなァ、テメーはハッピーハッピーなんだもんな?」
「桐子達に話さないと決めた日から、必要ないと決断した日からそれは封印しているんです。数が減って、戦力が減って嬉しいはずないでしょう!!」
「戦力?」
その声で興奮気味だったわたしは体を揺らした。目の前でへらへら笑うナギの声ではない。地下室へ続くドアが開く。
「……桐子」
「戦力って、どういうこと?」
「違います、桐子」
くふと笑いを漏らすナギ。わたしに近づく桐子の奥にナギの仲間チカが見えた。
「私の耳には確かに聞こえたんだけど。私をイチ戦力扱いしてたあんたの言葉が」
まずい、これは。
「落ち着いてください、桐
「落ち着いてるよ!落ち着いてキレてんだよ!!へーそう思ってたんだ。いやま、ある程度予想はしてたけどね。ちゃんと聞いてたよ。記憶保護?何それ?誰か死んだの?それ隠してたの?ねえ説明してよ!」
胸倉を掴みわたしを睨みつける桐子から目を離さないまま空間認識を展開する。家にはわたしと桐子、ナギとチカの四人だけだ。
「桐子」
「前からそう思ってた。あんた私のこと嫌いでしょ?ま、お互い様か。もう説明もいいよ。いつまでも偉そうにリーダー気取られるのも癪、私が勝ったらあんたチームから出てって」
「お願いですから、桐子。あなたは戦えるような」
「関係ない。関係ないよ関係ないよ関係ない」
拳を握る桐子。
「外出なよ四季」
第十六話 後ろの正面その目は誰? おわり
to be continued……




