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第十三話

また同じ夢見ている。


ぼんやりとした感覚。海にいるよう。


軽く首をしめられている。息が苦しい。


指が動く。ゆるりと動く。


これは夢だから、現実でも動いているかも知れない。


子供の頃のわたしなら、泣いていた。


今は泣かない。泣くこともできない。


目から涙が出ないだけだ、今のわたしは。


身動きが取れない。逃げたい。


息が詰まる。呼吸が嗄れる。


海から出なきゃ。呼吸しなくちゃ。


夢から覚めなきゃ。




--------------------




「はー、はー」

目を覚ましたわたしは、呼吸を乱していた。左右を見渡す。

「大丈夫?おはよう四季」

「おはようございます。はあ」

リセが少し眉をしかめわたしを見ていた。

「大丈夫?うなされてたよ?」

「えー、ええ。大丈夫です」

おでこを軽く撫でる。汗をかいていた。

「どうかしたの?」

「いえ、少し嫌な夢を見て」

「夢。夢、どんな?」

「はい。その。あれ……あれ?」

「四季?」

「思い出せません」

「夢らしいね。無理しないでね?」

ボタンをひとつ外す。髪を整えて起き上がった。

「ソファーで寝たからじゃない?どうしたの急に」

「夜目覚めて水飲みに来たらそのまま寝ちゃいました」

お風呂用意してあるよ、とリセ。

「うなされてたからね」

さすがの気遣い。リセがテレビに出ていたら憧れる女性は数知れないだろう。

「ありがとうございます。入ってきますね」

「今日ほら、皆と戦う日だけど、厳しかったら日にちずらす?」

「ありがとうございます。お風呂入ってから決めますね」

わたしはリセが作った朝食のにおいを嗅ぎつつバスルームに向かった。




「今日はよろしくおねがいします」

昼前、わたし達はいつもの場所へ。ナナに空間を作ってもらい中へ。先についていた鈴鹿ちゃん達は準備体操をしていた。

「とりあえずチーム戦で、余裕があったら個人戦しましょうか」

「オッケーです。全力で行かせていただくんで。周波数こっち変えときますね」

インカムをいじる四人。

「やりましょうか。作戦会議大丈夫ですか?」

「そこそこしとるよ先輩方。お手柔らかに」

「どうする?四季」

「数の上で不利ですからね。頑張らないと」

「鐘ヶ江さんいませんしね。いたらかなり厳しかったかも」

「そうね。アウトだったわ」

「3対4でも勝ちたいね!勝とうね!」

「ん、そうだね」

わたし達と逆側に歩いていく四人。

「鈴鹿ちゃんをどうするかですね。確かに3対4ですが藍ちゃんはあっても援護ですので。楯でも恐らく止まりますがアリスちゃんの攻撃を防ぐのは楯が適役です」

「はーい!」

防御と言う面で、攻撃に柔軟なアリスちゃんにこれまた柔軟に対応できるのは楯だ。

「リセは飛ぶ莉子ちゃんの対応と藍ちゃんの牽制を。鈴鹿ちゃんはわたしが対応します」

「わかったよ」

「二人とも、大丈夫そうですか?」

「うん!思いっきり戦うのなんて久しぶり!頑張んないとね!楽しまないとね!」

「あの子達がどれくらい強くなったかも直接肌で触れたいし」

どうやら余裕そうだ。

「そうですね、それじゃ」

喉を鳴らす。

「ナナー、開始の合図お願いします」

「わかったー」

天の声的にナナがこたえる。向こうは鈴鹿ちゃん莉子ちゃんのみ武器を出して構えを取っていた。

「3、2、1、スタート!」

開始と同時、鈴鹿ちゃんが飛び込んでくる。両手に拳銃を持ち二発。跳躍を止め鞘から抜かず弾丸をはじいた。わたしが突っ込み撃ち込んだ三発を今度は抜刀し切り落とす。

「ほう」

「次っ」

鈴鹿ちゃんの合図で大型の氷が飛んでくるがそれは壁がせき止めた。遅れて楯とリセが後ろから。莉子ちゃんが飛んでくる前にリセの霊力派が襲いわたしには向かってこなかった。

「行きます!」

「どうぞ」

直接わたしに斬りつけてくる。とんでもないスピードの一斬だが右の銃身で防ぎ左で二発。逃げたと思ったら今度は左後ろからと見せかけ正面から斬ってくる。捌いて右で二発、避けられる。

「速いですね」

「まだ速くなりますよん!」

一歩下がり納刀。からの抜刀。受ける。突いてくる。避ける。そのまま斬ってくるところを防ぐ。撃つ。鞘で受けられた。

「銃で普通に防がれちゃうんだもんなあ。壊れたりしないんですか?」

「さすがに霊力かけてますから」

左側ではリセと楯がアリスちゃん達と戦っているようだった。

「必要以上に使ってるわけですね。よし」

納刀。鈴鹿ちゃんの言うとおり銃身への負荷は多い。いたずらに消耗戦を続けるなら彼女が有利になるだろう。左の銃でアリスちゃんに向け三発。

「アリス!」

防ごうと銃口線上に飛ぶ鈴鹿ちゃんに合わせて銃撃。足に一発当たった。

「ちぃっ」

日本刀を消し両ももにつけたクナイを八本同時に私に投げてくる。指を鳴らし左の銃を“ハンドガン”から“ライフル”に。銃身と銃剣、右のハンドガンで弾いた。突っ込んできた鈴鹿ちゃんの斬撃を銃剣で捌く。片手同士なのでお互いに弾くだけ。片手で振り回せるのは銃身中央あたりに片手で持てるようくぼみを作ったからだ。

『リセちゃん!』

『はいっ!』

十年前巫女になったばかりのわたし達は冥界の事情もあり十分な霊力を扱うことが出来なかった。そんなわたしが敵を倒すだけの攻撃力を得るために防御力を捨て“狙撃”を手に入れた。その時霊力から生み出したスナイパーライフルだったが。

「ちぇい!」

「さすがですね」

その五年後再び敵が襲来したとき、十分に霊力を扱えるようになっていたわたしはライフルの形を変えた。接近用のハンドガン、中距離用のライフル遠距離用にスコープ、と格闘用の銃剣とわたしなりにバリエーションを考えたつもりだ。結果敵よりも生み出した四年後あの子達に教えるため使った回数の方が多い。

「が」

彼女がいくら接近戦のエキスパートといえ、わたしには十年間戦闘に身をおいていた実績と素質スキルがある。

「チッ、普通追いきれないんだけどなっ!」

避ける。捌く。防ぐ。合間にアリスちゃんに牽制。楯とリセに攻撃をしかけつつ藍ちゃんを守っている。わたしの攻撃は鈴鹿ちゃんが叫んだり藍ちゃんが支援したり。本人が氷の盾を出し身を守ってもいる。鈴鹿ちゃんがいなければ彼女がエースだろう。

「はっ!」

突きを避け銃剣で反撃、一歩下がった鈴鹿ちゃんが前に出、

「嘘よん!」

なかった。後ろからの攻撃に一瞬反応が遅れ右手の銃身で捌く。追撃のクナイを落とす。

「あーおっしい、残念」

攻撃を続けながら話を続ける鈴鹿ちゃん。

「なるほどやっぱり、空間認識って凄いんですね」

「そんなことないですよ」

「いや、空間認識自体はっ!たいした事ないのか。凄いのは四季さんかな?」

鈴鹿ちゃんが勘付いている通り、わたしは自分の素質スキル空間認識を使い鈴鹿ちゃんのスピード攻撃に対応している。彼女の出す摩擦係数神楽と霊力の流れから次の攻撃を予測し攻防に転じる。

「それわかっても、あの速さで摩擦係数のフェイクを入れられるのはさすがです」

「それでも反応でき、アリッ!」

鈴鹿ちゃんの反応と自分の神楽からアリスちゃんがリセの攻撃をくらい倒れていることを認識する。

「余所見は禁物ですよ」

「くっ!」

倒れたアリスちゃんが気になるのかスピードもキレも落ちていた。

「ちっ、耐えて!すぐ行くから!」

インカムを飛ばすがもちろんわたしが通さない。超速とは言っても妨害すれば通しはしない。

「焦りも禁物です」

「アリィス!!!」

叫、足、冷、わたしは飛んだ。直後に地面から40センチほどが“凍る”。ナナの空間ほぼすべてに発生した氷に着地した。

「これは」

「らぁっ!」

鈴鹿ちゃんのラッシュに空間認識がにぶるが倒れていたアリスちゃんが立ち上がっており、楯は自分の体を壁で飛ばし鈴鹿ちゃん藍ちゃんはジャンプし莉子ちゃんは元々飛んでおり逃れていた。リセだけが捕まる。足が氷に包まれ動けない。

「私は摩擦係数で氷の上とか関係ない。藍は元々動かない。莉子は飛べる。アリスはそもそも能力者。よってェ!」

「こちらのフィールド、や!」

後方からアリスちゃん。先ほどの倒れは演技か。

「いくら四季さんでも」

「不十分な足場で二対一やったら!」

中振りな剣を持つアリスちゃんと鈴鹿ちゃんの攻撃を受けていく。リセと楯は莉子ちゃん藍ちゃん相手に防戦気味。

「さすがですよ」

ここにきて体力霊力が削られてきた。コンビネーションも良い。飛んでくる氷を打ち落とすのに右手を、鈴鹿ちゃんの防御に左手を、剣による攻撃に右の銃身で防ぐ。足場の問題もあるので跳躍し空中で攻撃を捌いた方が楽だった。

『カウント2』

ぼそりとリセのインカムが聞こえる。わたしと楯の跳躍に合わせ地面の氷がすべて“消滅した”。

「なっ!?」

「なんやっ」

おそらく範囲全体の氷を気化させる神楽を設置し発動させたのだろう。それは驚く。手足が一瞬でも止まる。

「がっ!!」

鈴鹿ちゃんに六発撃ちこむ。最後の二発は避けられたが表情は苦痛を訴えていた。左手もハンドガンに持ち替えアリスちゃんに牽制しつつ手負いの鈴鹿ちゃんを追撃。莉子ちゃんがリセの攻撃をくらい落ちて行った。

「鈴鹿、あっちが!」

「ちぃっ」

武器を出し自ら戦う藍ちゃんも倒れる。アリスちゃんの持つ武器が消える。氷で剣を作り構えるアリスちゃんと顔を歪めつつ納刀する鈴鹿ちゃん。

『二人とも無事だよー』

楯からのインカム。

「どうすんねんな鈴鹿」

「隙無さ過ぎ、なんだよなあ」

時間差で攻めてくるが銃剣で対応する必要はなさそうで、銃身での防御と銃撃で今度こそ崩れ落ちる。

「やっ!」

下以外のほぼ全角度から氷を飛ばしてくるがすべて撃ち落す。アリスちゃんは攻撃こそ二発ほどしか当たっていないがフルパワーで戦い続けている。片膝を付いて呼吸を荒くしていた。楯とリセに周波数を変えるように指示。

「皆さんお疲れ様でした。すばらしい戦い方でした。楯、リセ、怪我は?」

『大丈夫だよん。あー、久々に全力で戦ったね!疲れたかも』

『私は全体氷結のとき足をちょっと』

四人の荒い息が聞こえてくる。

「ナナー、楯の車まで空間作ってください。皆さんを運びます」

わかったよーの声。

「はあ、やっぱり勝てへんかったなあ」

「大丈夫ですか?アリスちゃん」

「そこそこには。みんな立てへんみたいですか?」

「無事ですけどね。歩けますか?」

「それは何とか。すみません、帰りもお世話になります」

乱れた髪を手梳かししつつ軽く笑うアリスちゃん。

「あー、大丈夫です、私も」

ゆっくり鈴鹿ちゃんも立ち上がる。

「新今川流抜刀術、まだ通用しなかったなあ」

「なんやそれ」

「始祖私。門下生ゼロ。募集中です。よければアリスちゃんいかが?」

「遠慮や。ほら、あの子ら車まで担ぐで」

「それはこちらでやりますよ。ウチで休んでください」

わたし達は車に向かった。




「引退?」

「ええ。以前から少しお話していましたが、今回の模擬戦で決めました。皆さんに席を譲ります」

わたし達の家リビング。四人はソファーでまったりとしていた。リセがお菓子を持って戻ってくる。

「完全に戦えなくなる前に渡したかったんですよね。既に弱くなっています。体の中に留めておける霊力の量が減っているんです」

「弱くなってあれなのね」

「末恐ろしいちゅうんはこういうことやなあ」

「恐らく全盛期の七割程度かと」

「見せたかったよーマックスのあたし達!そっかあ、引退かあ」

楯には一度電話してあったが、本人もその予測はしていたようだった。

「と言っても、まだ幹部が一体、残っています」

「あー、姫巫女様言ってたって話ですね」

「かもしれない程度だったんですがほぼ間違いないと姫巫女様との結論に至りました。その幹部が来るまで、もしくは完全に戦えなくなるまで、いや、今まで通り観戦になるんですが。不測の事態には備えさせていただきます」

不足の自体。五年前現れた幹部の最後の一体のような今までよりも強いイレギュラー要素。わたしの目を潰せる存在。

「それを倒したら、後は皆さんにすべてを託します」

「重い、重い席ですね」

鈴鹿ちゃんは手を合わせ目線を下にやった。

「やることは同じです。皆さんは強い。巫女として必要な精神も持ち合わせています。背負えますよ」

ここから、ぽかりと穴が開くんだろう。彼女達に席を譲り、そのうち霊力も体に保てなくなる。誰かに話そうにもファンタジー過ぎて信じてもらえそうにない。自分でももしかしたら夢だったのかもしれない、なんて考えたり。


しばらく休んでから、四人は帰っていった。楯が送っていくと言ったが大丈夫だと返された。三人でリビングにいる。

「リセ。楯。楽しかったですね」

楽しかった。素直にそう言えるかと聞かれたら嘘かもわからないが、トータルでは楽しかったと、良い思い出だと胸を張れるだろう。

「10年。10年かあ。長かったね」

「あの子達より子供だったんだねあたし達。凄いなあ」

「それももうすぐで終わり。正直な話をしていいですか?」

「うん」

「これ以上、弱くなる自分を見たくないんです。世界を守れなくなる自分達を。“あの時”はそういう訳には行きませんでしたが、今は、あの子達がいます」

「うん。うん。そうだね。もうつらい思い、しなくていいんだね」

楯は少し、泣きそうだった。彼女の気持ちも考えたらわかる。

「すぐには飲み込めないかも知れないけど、何日かしたらきっちり頷けると思うよ。皆、いい子だしね」

「人間的にもいい子ですからね。楯、浦木くんとは最近どうですか?」

「あっちも忙しいみたいでねー、あんまり会えないんだよね。あっでも一昨日直接ウチ来てくれたよ!ご飯食べただけだけど」

楯の彼氏浦木くんは中学からのクラスメイトでわたし達も面識がある。巫女として戦いつつ女性としての幸せも掴もうとしている。うらやましい。

「おーいいなあ楯。結婚は?」

「えへ照れちゃうよおー。んーどうなんだろ。結婚、してくれんのかなあ」

「楯は可愛いですから、大丈夫ですよ。式呼んでくださいね」

「ロンモチだよー。四季ちゃんリセちゃんはどうなの?」

「……はは」

「この前鈴鹿ちゃん達と話になりましたよ。クリスマスケーキですよって」

「おおうあと一年じゃんか!わーそこ狙い目かしら」

なんだか普通の二十代だった。




--------------------




夢だった。


夢だと判断できるのはわたしの外見が五年前のものだったから。


わたしは仲間と一緒にいた。


仲間と笑っている。


戦いの後。


夕暮れ、幸せな空間。


わたし達と誰かがいた。


ぼんやりしている。


誰かわからない。


仲間?


仲間かどうかわからない。


よく見えない。


近くにいるのが仲間。


遠くにいるから、仲間じゃない?


夢のわたしにも、仲間がいた。




--------------------



「夢?」

「ええ。この頃変な夢ばかり見るんですよね」

「でも思い出せない、と」

リセと朝食を取り終えテレビを見ながら。今日は特に目覚めが悪かったというわけではないので、あれは寝た場所がやはり悪かったのだろう。

「夢は思い出せないものですけどね、それでもここ最近ずっと思い出せないなと」

「心配なら病院行ったら?風邪とは違うと思うからわかんないかも知れないけどさ」

「わたしなりに引退のことについて考えていたのが影響しているんでしょうかね。それくらいしか候補がありません」

「今日は家でゆっくりしてなよ。みんなの観戦には私が行く」

「そういうわけには行きません。リセの目が失われたらわたしは生きていけません」

「生きてよ。わたしは生きたんだし」

そうか。リセがわたしと同じ気持ちなら心が折れるつらさだったはずだ。

「あっ、今日は一緒に寝てあげようか?うなされてたらすぐ起こしてあげる」

「嬉しい提案ですが、ますます婚期が遅れそうですね」

「わーそれ酷いなあ。ちなみに遅れるってどっちが?」

「リセ、いえ、わたし……両方ですね」

笑いあう。中学生みたいだ。

「合コンでもする?」

「24歳だとリアル過ぎますね」

「同窓会とか」

「がつがつするのも見られたくないものですね」

「お見合い?」

「はい、普段は巫女をしております。いえ、アルバイトではなく。拳銃や魔法のようなものを出し鬼と戦っています。17時から18時です」

「ははっ、言えないね絶対」

武器や霊力神楽は見せることができるますがそれですべて信じてもらえるかと言えば違うだろうし、そんな人とはお近づきになれないだろう。

「今後の身の振りも考えて。日々を過ごして行きましょうか」

「うん。そうだね」

わたしと親友はソファーでテレビを眺め続けていた。



第十三話 十二今日とおあまりふたつ超えて見るは鬼か人の子か おわり

     to be continued……


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