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職場見学は、本拠地で 1

 ミシェルのことを「あんなもの」呼ばわりしたフランチェスカ様。多少思うところはあるものの、その助言に従って、他人のことではなく、自分のことを考えることにした。

 あたしが、この春に立てた目標はたった1つ。

 キアランとの婚約を撤回させること。



 リッテ商会への就職は、その後の進路として決めたことである。

 ハロルドには、もう話していることだ。クラリスにも、キアランとの婚約を撤回させて、田舎へ引っ込む予定であることは、祝祭の日の夜に告げた。

 養父母は蚊帳の外であるが……正直、話す気にはなれない。



「ルーベンス辺境伯のご領地へ行かれるのですか?」

「ええ、その予定よ」

「でしたら、わたしも安心して送り出せますわ。ルーベンス辺境伯は、とても素敵な方でいらっしゃいましたから──」

 夢見る少女のようにうっとりと目を細めるクラリス。



 結婚相手としては申し分ないけれど、年齢的にハードルが高いわよ? と言ったら、

「何をおっしゃるんですか! わたしでは、見向きもされない以前に、そんなことを考えたことはありませんわっ! 辺境伯に失礼です!」

 怒られた。



「ただ、ああいうお義兄様がいらして下さったら、と思っただけですっ!」

「スチュアート様がお兄様だったら……ふっ、ブラコン一直線ね。間違いないわ」

 ですよねー、と同意してもらえると思ったのに、

「そうではなく! もう、いいですわっ! ダウィジャー・レディ・ルーベンスとルーベンス辺境伯の行動力に期待いたします!」



 何故そこにフランチェスカ様のお名前が? 首を傾げるあたしが、何故にと質問をする前に、クラリスは「そうと決まったら、早速お手紙を送りませんと!」と宣言して、部屋から出て行ってしまった。

 …………慌ただしい子である。

 あたしはあたしで、妹がおかしな手紙を送っているかも知れませんが、未成年のしたことですので、笑って許していただきたく思います、と手紙を送っておいた。



 それはまあ、ともかくとして、キアランとの婚約撤回の話である。

 これはもう、水面下ながら、ほぼ決定事項だと言えるだろう。

 ランスロット殿下が、それはもうイイ笑顔で「順調に進んでいるよ」と仰って下さったのだから、安心だ。──安心していいものかどうか、微妙ではあるけれど。



 ただ、キアランの評判を落とせるだけ落としたいので──ランスロット殿下の王位継承を確実にするためだ──クライマックスの舞台になるであろう、卒業パーティーであたしには泣いてもらわなくてはならなくなる、と頭を下げられた。

 それは当初から織り込み済みなので、問題ない。

 が、問題のある人もいる。



 パーティーに出席する卒業生並びに、準備をする生徒会と在校生たちだ。しかし、こちらも織り込み済みであれば、事前に計画することが可能である。

 ハロルドには真相を話してあるし、ノートン少年には、キアランの失脚をランスロット殿下が考えていらっしゃること。その舞台として、卒業パーティーの場が選ばれたことを話している。もちろんではあるが、国家機密扱いである。ちなみに、国王夫妻も知らない。



 ということで、今後、あたしがしなくてはならないことは卒業パーティーのフォロー計画のお手伝いと、パーティー終了後の出奔計画の立案である。

 出奔計画には、あたしについてくれている3人のメイドの身の振り方についても含まれているから、しっかり立てないと!

 ああ、それからもう1つ。パトリシア妃殿下の出産祝いについても考えなくては。妃殿下は、もうすぐ10か月目を迎えられ、お城では間近に迫ったお産に向けて、慌ただしく準備が進められているそうだ。



 まだ、男の子か女の子かは分からないのだけれど、妃殿下のお腹はかなり大きく、双子の可能性が高いらしい。パトリシア妃殿下は「男の子と女の子、1人ずつよ」と自信満々に言い切っておいでだと聞いている。

 ちびちゃんも「シアねーちゃのあかちゃは、おちょこにょことおんにゃのこできまりよ」と断言。ちびこ予報は当たる、とチトセさんまで言うものだから、そのつもりで準備する。



 何がいいかしらねえ? よだれかけなんかは、どれだけあっても困らないらしいけど。フランチェスカ様に相談してみよう。そうしよう。義母上には……あ~……相談相手として、真っ先によその家の方を思い浮かべてしまう、こういう態度が溝を深めるのかしら? 一度、ダメ元で相談に伺うことにしますか。お祝いの品が被ったりしても、それはそれで、一悶着ありそうだし。



 さて、これはこれとして、出奔計画である。まずは、メイドたちの身の振り方を決めなくてはいけない。選べる選択肢としては、1、次の奉公先を世話する。2、嫁ぎ先を世話する、の2択くらい。ジャスミンは、2の代わりに子供の世話になる、という選択肢があるけど、これは本人が選びそうにないので、忘れた方が良いだろう。

 ただ、あたしには嫁ぎ先を世話できるほどの世間知はないので、必然的に1を中心に考えなくてはならなくなる。



 どうしたもんかと思っていると、チトセさんの言葉を思い出したのだ。確か、商会の販売員の教育係として、いい所の御屋敷に勤めていた人間がほしい、というようなことを言っていた──ような気がする。

 早速手紙で問い合わせてみると、「今も探しているところ」とのこと。ジャスミンたちに聞いてみると、やりがいがありそうだと、意欲的。というより、そのつもりでいたらしい。



「以前、そのようなお話があったように思っておりましたが……」

「そうだったかしら? ごめんなさい、すっかり忘れてしまっていたわ……」

 3人に頭を下げてお詫びをし、再び、チトセさんに連絡。すると、フランチェスカ様が面接をして下さるそうで……

「何故に、フランチェスカ様?」

 ああでも、貴族相手の商売をすると考えれば、悪くない人選なのかも知れない。とりあえず、ジャスミンから面接を、ということになった。



 彼女を連れ出す口実として採用されたのが、フランチェスカ様のお茶会。あたしはまだ学生なので、成人女性からのお誘いは、義母を通さなければならないのだけど──

「どっ、どうしてお前がラダンスの秘花からお誘いいただけるのよ?!」

 招待状を見た義母が、学生寮まで乗り込んで来てびっくり。

 義母が口にした、ラダンスの秘花の言葉に、2度びっくり。



 ラダンスの秘花は、社交界では伝説になっている淑女。彼女のお茶会に招かれたとなったら、それは社交界での大きなステータスになる。

 あたしも、彼女のことは噂でしか知らなかった。舞踏会や晩さん会で見かけることもなければ、王家主催の催しにも、秘花はお見えにならなかったのだもの。



 きりきり白状しろと、血走った眼で詰め寄られ、

「ランスロット殿下のご紹介で、ご子息のスチュアート様とお話をする機会がございまして。親しくさせていただいているからだと思いますわ」

 公的な関係であって、婚約者が眉を顰めるような関係ではないと、暗に示唆しておく。ランスロット殿下の名前を出せば、王家も知っていることだと推測できるからだ。



 そんな、ちょっと面倒臭いことはあったものの、フランチェスカ様のお茶会への参加許可を頂き、ジャスミンとインドラさんを連れて、馬車に乗り込んだ。



 ルーベンス辺境伯家は、王都にタウンハウスを所有しておらず、今はアト様だけがホテルに長期で滞在しているのだそうだ。

 フランチェスカ様はどこにいらっしゃるのかというと、王都から馬車で1時間ほど揺られた先、ヘシュキアにある別宅にいらっしゃるとか。

 ヘシュキアは、日帰りリゾート地として貴族にも人気のある町である。



 チトセさんたちも、普段はこちらで生活しているそうだ。ちなみに三つ子は、ホテルと別宅を行き来しているらしい。

 始めはアト様と同じホテルなんて、と遠慮していたそうだけど、かかる費用は大してかわらないんだから気にするな、と押し切られたそうだ。良い経験だと思えば儲けものよね。



 馬車に揺られてたどり着いたアト様の別宅は、やっぱり大きかった。マリエの感覚で言えば、滞在型リゾートを提案するホテルのようよ。

 前庭には壺を持った女性の像が立つ噴水があり、その向こうに外階段を備えつけた、2階建てのお屋敷が建っている。正面左側には、温室らしきものも見えて、維持費も相当な物だろうな、と庶民根性が顔を出してしまう。



 馬車から下りて外階段を上り、出て来た従僕に訪問を告げると、

「いらっしゃい、マリエールさん!」

 取り次ぐ必要もなく、フランチェスカ様がお見えになった。

「本日はお招き、ありがとうございます。フランチェスカ様」

 一応、お茶会という名目なのでそれっぽく挨拶する。



「そんなに畏まらないでちょうだい。わたくしとのお茶は後にして、まずはルドラッシュへ行ってくるといいわ。ああ、ほら案内役も来たようよ」

 案内役とは言わずもがな、チトセさんとちびちゃんのことである。

ここまで、お読みくださりありがとうございました。

 まだ、現地に行けてない……

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