表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/138

情報の発信元は、学園の生徒で…… 2

「ええと、話を元に戻すとして、ノートン生徒会長? その方向で進めるための材料というのは、どういう?」

 少しぬるくなってしまったお茶を口に運びつつ、あたしはノートン少年に問いかけた。

「まず、今期から監査役を設けることにしました」

 おらんかったんかいっ!



 あぁでも……貴族の経済観念って、わりとザルなところがあるから……。基本、買掛だし。チャリティーだからって、ほいほいお金を使っていたあたしにも、そこはちょっと耳の痛いトコロね……。

 過去支援したことのある団体について、きちんと調査したら、いかがわしい団体もあったもの。あれは、ショックだったわ。反撃の手段が、イヤミくらいしかなかったのが悔しかったわね。精進せねば。



「それから、今まで、各部の備品等は、個別に発注していたようですが、学園の事務を通すことに決めました。これで、大幅な経費の削減ができます」

 部費は、生徒会費の中に予算として組み込まれているはずなのに、何故? と首を傾げれば、ノートン少年は有名なゲ〇ドウポーズで、

「何で、部費で万年筆を買うんだ、文芸部……! 執筆に必要? そんなもの、鉛筆で十分だろうが! 練習着が破れたから新調? そんな物は繕えば済むはずだ。というより、そんな物は自費で買え、運動部! ユニフォームだって、そうしろ。ケチるな、金持ち共。それから、毎年、衣装を新調する必要がどこにあるんだ、コーラス部。使わない衣装は売りに出すべきだろうが、演劇部。衣装保管庫? ふざけやがって。棚卸して合わない分は、全部、部費から差っ引いてやるからな……」



 怖い、怖い、怖いっ。何か、黒いのが出てる、出てるから! ズゴゴゴ、いってる! マジ、怖い! おっしゃることはごもっともですけれども!

「え、えぇと……会長? 察しが悪くて申し訳ないのですけれど、それとこれとが、どう繋がりますの?」

「先の生徒会役員による、生徒会費使い込みにより、今年度の後期予算はほぼ残っておらず、このままでは、ハルデュスの祝祭はもちろん、プロムや文化祭の開催すら危ういので、後期の部費は支給できません、と通達しています」

 そう来たか。当然ではあるが、前代未聞である。



「結局のところ、生徒会費を一時的に横領してでも、予算を増やそうとしたのは、予算を動かす立場にある生徒が、物価を知らない、というところに原因があるようでして……」

 貴族の買い物に、値札なんて、存在しませんからね! 予算オーバー? 気にシナーイ。借金? 別に? 普通でしょ? 庶民の感覚からすれば、普通ではないが、貴族感覚では普通なのである。担保がなくても、信用貸しが成立するのがこの世界なのだから。



「ハイドロック卿にも手伝っていただいて、前期の収支を明らかにしました」

 決算報告を作ったんですね。それで?

「生徒会役員の横領を抜きにしても、各部、各委員会、どこも赤字でしたね。それはともかく、ない袖は振れないので、各部用の祝祭と文化祭特別予算は0だとも伝えてあります。衣装を保管している部には、過去5年分の棚卸の実施も通達し、不足分については、盗難事案として、届け出る予定です」

 うっわあ……。色んな意味でダメージは、大きかろうな。



 ちなみに、ノートン少年。盗難事案として届け出たとしても、未解決で終わるだろうと踏んでいるらしい。要は、この学園は何年も前から、腐ってますよと対外的にアピールしたいのだそうだ。

 OBが吐血する姿──イメージですけども、今から目に浮かぶわ。赤字なのは、今年に限ったことじゃないような気がする。



「ハルデュスの祝祭は、予算を切り詰めて、我々の手でできる部分は、全て我々で行います。本当は中止にしたいくらいなんですが、さすがに学園の伝統行事の1つですので、それは無理だと判断しました。とはいえ、去年から思っていたことではあるんですよね。学園内の飾りつけぐらい、自分たちでやれよ、できるだろうと……」

 フフフフフ。笑ってるけど、黒いわよ、ノートン少年!



 ──しかし、飾りつけを自分たちでやれ、と言われて気が付いた。学園の行事なのに、学園の装飾については、何にもしてなかったよ! 考えることすら、してなかった! 何の仮装をしようかってことで、頭が一杯だった! 恥ずかしいッ。当日会場で、美術部頑張ったのねぇ、なんて思ってた!



「では、予算をかけずにいかに盛り上げるか、知恵の絞りどころですねえ」

「はい。ミスターのおっしゃる通りですね。準備期間も1か月ほどしかありませんし、大忙しです」

 おっと、ただの護衛が出しゃばってしまいました、とお詫びを口にするインドラさんへ、ハロルドがにこにこと笑って答え、何かお知恵などございましたら、ご教授下さいと頭を下げる。

 ええコや。



「ところで、監査役ですが、学園側がよく許可して下さいましたわね」

 学園はガチガチの保守派である。今まで、問題がなかったのだから、これからも必要ない、とか何とかいって、反対しそうな気がするのだけど……。

「僕は、生徒会長として、当たり前の防止策を立てたにすぎませんよ?」

ノートン少年? にっこりしてますが、目が笑ってませんよ? もう、この顔見るの、何回目かしら。



 あたし、このコを敵に回しちゃいけないって、学習したわ。後、機会があったらチトセさんにノートン少年のことを話しておこう。ブラック×ブラックのオソロシイ化学反応がありそうだ。怖いもの見たさであることは、否定しない。

 でも、彼の実家は大きな商会だから、リッテ商会にとってもプラスになると思うのよね。



「交渉の方は、姉上のお蔭でスムーズに進みましたから、問題ありませんでしたよ」

「は?」

 あたしのお蔭? どういうこと? あたしは、な~んにもしてないけども?

 疑問符だらけのあたしへ、ハロルドは、ぽやぽや笑いながら説明してくれました。



 マリエール・ヴィオラは、チャリティー活動に熱心でしたー。慈善活動に熱心なご婦人は、大抵知っております。その中の、オバチャン、バアチャン世代は、当然、学園のお偉いさんとも同世代なのでお知り合い。貴族社会って、広いようで狭いですからね。

「スミレのレディー。封印してしまいたい過去を持たない人間なんていないのですよ」

 脅したんかいっ!



 ハロルドのツテは、オッサン、ジイサン系。そこから、奥様をはじめ、身内を紹介してもらい「姉がお世話になっております」とあたしの名前を出した後、ちょっとした行き違いで仲たがいをしていたけれど、先日和解することが出来ましてと、話したら、警戒心なんて、ころ~っと消えて、喋る喋る。

 ハロルドは、ジジだけでなく、ババまでも転がしてきたらしい。──この短い期間に……なんて、恐ろしい子っ!



「それでも、資金難は解決しませんからね。先ほど申し上げた通り、生徒会コレクションを対象にした、オークションを開くことにしました。前期生徒会の生徒会費横領による資金不足で、とカタログにはきっちり記載して、学園を卒業なさった伯爵家以上の家と一部の資産家の家に、開催日などの案内を送っています」

 通常、こういった資金難によるコレクション買取り依頼は、生徒会役員の実家に持っていく場合がほとんどなのだとか。もみ消しですね。でも、ノートン少年はイイ笑顔で、

「知ったことではありませんね」

 うん。怒ってるね。



 しかし、いいのか、ハロルド。一応、その愉快な仲間たちには、身内が含まれているのだけども? 言われるまでもなく、分かっているだろうけども。アナタ、愚兄大好きっ子だったのに。心配して、表情を伺えば、

「やることが多すぎて、そこまで調べられませんでしたので」

 身内の恥で、大好きなお兄ちゃんがしでかしたことだけに、余計に怒ってるんだね。



 ちなみに、カタログの制作費や送料、オークション開催の経費などについては、お花畑オーナーズの借金に上乗せしたらしい。

「クレームがつきそうですけど……」

「ええ。今朝がた、怒鳴り込んで来ましたけど、横領した金額プラス今回の案内にかかった費用をオークション開催予定日までに、全額返金して下されば、その旨お伝えして、お越しくださった方々には、お詫び申し上げる用意はございます、と返事をしましたので」

 自業自得だ、バカヤロウという副音声が聞こえたのは、気のせいかしら?



「他の方の懐事情は存じませんが、兄上だけを見ても、厳しいでしょうね。兄上の絵画の査定価格は下がる一方ですし──」

 それこそ、私物は全て売り払うくらいでないと、返せないのだそうだ。いや、返せるかどうかも怪しいらしい。どんだけ、横領したんだ。身の丈に合った買い物をしなさいよ。



 冒険者ギルド視察済みのあたしだから、そうなってしまったからくりは何となく分かる。

 ギルド内に併設されていた、アイテム販売店も見学させてもらって分かったのだが、ここではゲーム中盤以降でないと登場しない品が、普通に売っていたのだ。当然、武器や防具もお店に行けば、終盤戦で売りに出されるような物も販売されている。考えてみれば、それも当然。冒険者は、ミシェルたちだけじゃないのだ。彼女たちより上のランクの冒険者だって、いっぱいいる。



 ミシェルたちは、最初っからこの中盤以降登場する、高いヤツ使ってたんじゃないかな~? と。

 また、武器や防具は、例え法術がかけられている物であっても、日ごろのメンテナンスは欠かせないのだそうだ。冒険者の人が言っていたのだから、間違いない。

 しかし、である。ゲームでは武器、防具のメンテナンスなんて必要なかった。

 ということは、すなわち、武器防具がくたびれるのも早いと。



 素人でも分かることなのに、なんで分からないんだ、ダリウス。お前さんは騎士の家に生まれたんじゃないのかね? 日ごろのメンテナンスがいかに重要か、習っただろうに。

 包丁だってたまに研いでやらないと、切れ味落ちるんだからな!

 ううむ、これも【伝染源】とやらの悪影響か。



 そもそも、である。普通にゲームの攻略を進めたら、Cランクに上がれるのは、1週目後半。2週目でCになった、という人も少なくない。

 なのに、ミシェルさんたちのこの異様な出世スピード。学園に通いながらなんだから、普通に考えれば、とんでもない話である。しかし、身の丈に合わない高級品をつぎ込んで、基礎ステータスを底上げしていたのなら……うん、しっかり弾けちゃったトコロまで含めて、バブリーですな。

 貴族(王族)は、お金持ちとは限らないのに、ミシェルのことだから、分かってないんだろう……。

「あの人たちは、どうしてこうもまあ、見事に自滅の道をせっせと歩いていくのかしらね?」

 あたしのつぶやきに、応える声はありませんでした。

ここまで、お読みくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ