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情報の発信元は、学園の生徒で…… 1

「ねえ、ハロルド……あたし、初めてホンモノの生徒会長に会った気がするわ……」

「気がする、ではなく……実際に、会いましたよ、姉上。後、偽者の生徒会長というものを、僕は知りません」

 お気持ちは分かりますが、とハロルドが額に手を当て、小さなため息をこぼした。



 あ、そうそう。ハロルドには、話せることは全て話してある。本当の名前は、シンジョウ マリエだということも。素性とか、細かい事情については、サジリウス3世自ら、花十字を下賜していることをくみ取って、聞いてくれるな、と誤魔化した。

 その辺、ハロルドは空気が読めるコ、とってもイイコ。少し寂しそうにはしながらも、話してもらえるようになるまで待つし、努力すると言ってくれた。

 何このコ、すんごいカワイイんですけど! 今更ながらに、可愛がってやろうと決意しちゃったわ。



 ハロルドに話したのは、以下の通り。

 元は庶民の生まれであったこと。教会内部のごたごたで、この春まで、そのことを忘れさせられていたこと。キアランとの婚約を破棄して、田舎に引っ込みたいと思うようになったり、言動が大きく変わったりしたのは、マリエの記憶が戻ったことが原因だということ。

 はじめは、信じられないと目を丸くしていたハロルドだけど、競馬場の後も、文通(笑)したり、一緒にお茶を頂いたりしているうちに、納得してくれたようである。



「僕の知っている姉上とは、全然違っていますから──そういうこともあるのかと……」

 考えることを放棄した、ともいうかも知れない。それはともかく、今はシオン侯爵家落ちた株を持ち上げよう計画──計画名に再考の余地あり──を一緒に練っている最中である。

 同時に、愚兄を切り捨てても我が家は安泰計画とキアランの株下げ計画──両方、計画名に……以下略──も進行させている。



 この二つの計画は、ほぼ同じプランで進められるので、頭のこんがらがりが複雑にならずに済む。あたしの頭じゃ、難しいことなんて考えられまっせぇ~ん。

 さてさて、本日は計画進行のため、ハロルドを仲介役に、新しい生徒会長、ホレイショ・ノートンに会って来たのである。



 カワイイ顔して、なかなか辛辣な少年だったわ。幸運だったのは、ハロルドが随分と気に入られているところ。お蔭で、余計な腹の探り合いをせずにすんだ。

 ハロルドを下さい、って言われた時には、目がテン、口ぱっかーん、ってなったけど。

 返事? 上がアレでアレだし、あなたは嫡男なんだから、考えられるパターンを色々想定したうえで、本人を口説けと言っておいた。



 当の本人は、クエスチョンマークを頭の上に幾つも浮かべながら、

「僕は、副会長ですから、会長を補佐するのは当然のことかと……?」

 姉上に言われずとも、身分にこだわるつもりはありませんが? と大きく瞬きをしながら、答えていた。ハロルド、ピュアなコで、お姉ちゃん嬉しいわ。生徒会長は、カワイイってもだえていた。

 そうでしょう、そうでしょうと激しく同意しつつも、外面だけなら、アナタの方がカワイイと思いますが、とは言えなかった。



 まあ、それはともかく。今日、生徒会長に会わせてもらったのは、卒業パーティー、いわゆるプロムのことで、こちらの意向を伝えておきたかったからである。

 生徒会長は、そういうことなら、アレでソレな連中の情報収集を強化して、対策を考えると返事をしてくれた。

「では、その方向で進むための材料を僕からも提供しましょう」

 にっこり笑った美少年の口から情報は、はっきりいって頭痛の種でしかなかった。



 建国祭で生徒会が衣装代なる、謎の経費を計上していたことは知っていたが、それ以外にも使途不明金が多数計上されていたらしい。明細を調べるに、どうも生徒会費を横領して、ダンジョン探索の為の資金──主にアイテム代──として、使用していたらしいのだ。

 もちろん、と言っていいのかどうか、ダンジョン探索で儲けが出た場合には返金されているようなのだが、使い込み分を補てんする前に、生徒会役員としての任期が満了。結果として、今年度の後期予算が、大幅に減っているらしい。



「過去の記録を見ると、歴代生徒会の中には、同様の手法を取って資金を増やしていた時もあったようなので、大っぴらに批判はできないのですが──」

「うん。でも、それはそれで、問題よね」

 ある意味貴族らしいって言えば、貴族らしいかも知れないけども! ノートン少年は、

「おっしゃる通りです。経費と私費の区別も付けられないような人間は、クズですよ。資金が増えたから、良いだろうとか、そういう問題ではありません」

 にっこり、イイ笑顔で答えた。貴族ってヤツは、ここまで腐っていやがるのか、という声が聞こえたような気がする。……気のせいであることを願いたい。



 さて、微妙に知りたくなかった裏事情を知らされた訳ではあるが……裏事情は、これだけではなかったのです。

「は? え……あの……生徒会コレクションって……」

「万一のための、予算補てん口実らしいですよ」

 けっと吐き捨てる、ノートン少年。何度も言うけど、カワイイ顔してるのに、ガラ悪いな、君! ハロルドの様子を伺えば、平常運転っぽい。懐がデカイな、この子。それとも、このギャップに一度涙して、諦めの境地にたどり着いたのかしら?



 生徒会コレクションというのは、先日アト様が買い付けにいらしていた、アンティーク品を含めた、代々の生徒会役員が寄付として残していった品のことである。

 アト様が交渉に来ていたのは、偶然らしいけど、そういうことはたまにあるそうだ。

「家は商売をしていますから、そういう話はよく耳にしますが……ここから、その素地があるのかと知り……馬鹿か阿呆かと……」

 ギリギリギリ。歯ぎしりしないの、少年。お顔が乱れておりましてよ……。思わずハロルドへ、何とかならんもんかねと視線を送れば

「楽しそうでいいですよね」

 どこがやねん。微笑まし気にすな。……この子は、この子でちょっとどっか、オカシイのかも知れないわね。かわいい弟ではあるけども、それはそれ、これはこれである。



 大人の意見はどうだろうと、空気になり切っているインドラさん──いたんだよ、実は! をちらっと伺うと、こちらも、微笑ましいですねえ、なんて顔で立っていた。あっるぇ~? もしかして、あたしの方がおかしい? ……ま、少々感性がオカシイくらいじゃ、何の被害もあるまい。下手の考え休むに似たり。スルーよ、スルー。



 えぇと話を戻して、生徒会コレクションとは、予算オーバーした時に使う、裏金のようなものらしい。コレクションを実家やOBに買い取ってもらい、それを生徒会予算に補てんする。と言うと、代々の生徒会は無能揃いか! なんて罵りたくなってくるが、

「実家に買い取ってもらった場合は、本当の無能。OBに買い取ってもらう場合は、単なる口実ですよ。本当の目的は、売買を通じての人脈作りです」

 ……貴族社会とは、複雑怪奇ナリ……。



「そうなの?」

 これは、少年も知らなかったらしい。

「ええ。クレバー卿から、教えていただきました。クレバー卿は、5代前の生徒会書記でしたから。そのご縁で、今の奥方を娶られたそうですよ」

 クレバー卿って、若いのに偏屈で有名な方よね。財務部で辣腕を振るっていらっしゃって、ついたあだ名が、苦悩の大熊。いっつも、眉間に皺を寄せていらっしゃるから、そう呼ばれているのだとか。



「ハロルド、あなたクレバー卿と親しくなさっているの?」

「ええ。あの方、猫派なんですよね。キティーハウスで、時々お会いしますよ」

「キティーハウス?」

「動物と触れ合える、クラブですよ。猫の他にも犬やリス、ウサギなんかもいます」

「どこからツッコめばいいの?!」

 お姉ちゃん、キミのその顔の広さにビックリだよ。何、その、キティーハウスって! 苦悩の大熊なんて呼ばれてる人が、にゃんこと戯れてんの?! 怖いけど、ちょっとみたい!



「後、赤字計上になってしまったのも、嵐で壊れたクラブの備品修理費とか、法術が組み込まれた楽器の買取りなど、イレギュラーな出費が理由のようなので──」

「僕が無知でした……」

 ごめんなさい、と素直に言える子は良い子だと思います。



 確かに、そういう理由であれば、予算オーバーもやむなしかと思われる。最初にある程度、修繕費が予算として組まれているのだろうけど、どれだけの物がどれくらい壊れるかなんて、実際に壊れてみないと分からないもの。一番コントロールが難しい予算でもあるわよね。

 ハロルドは、いえいえ、と微笑んでいる。コレクションの売買は、そういう理由があるけれども、ダンジョン攻略の軍資金として、生徒会費を流用していた時代もあるのは事実。

「あなたは間違っていませんよ」

 ノートン少年は、椅子の背もたれに倒れ込み、嫁にほしいとこぼしていた。婿でなくて、嫁なのか……。まあ、好きにしてちょうだい。最悪、クラリスの子供に継がせるっていう手もあるはずだから。



「ねえ、その法術が組み込まれた楽器の買取りって、何なの?」

「吹奏楽部にある、涼風のフルートのことですよ。マスターだったテーゼリア・ルフレインが事故でフルートの演奏ができなくなって以降、誰も演奏できる人間がいないので、死蔵されていますけど」

 法術を組み込んだ以上、法具扱いとなり、たまに法具が使用者を選ぶ、という事態が発生するらしい。涼風のフルートとやらも、その類なのだそうだ。



「そういった場合の資金源として、二束三文で売買されるような物とは別に、きちんと価値のある品もコレクションされていますよ」

 OBや実家を頼らず、学生だけで資金調達しているのだから、すごいのかも知れない。資産を売って、資金を調達するというのも、貴族らしいやり方と言えばやり方だしね。

 正しいかどうかは、別として!


ここまで、お読みくださりありがとうございました。

 備品の修繕費とか、学校からお金出してもらえるんじゃない? とか、金持ちの坊ちゃま嬢ちゃまが通ってんだから、寄付金がたんまりあるんじゃねえの? という疑問は、忘れて下さい。ご都合主義というヤツです。

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