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攻略の報告会は、シスターの前で 2

「何を言うかと思えば、そんな事」

 ちびちゃんの訴えを聞いたチトセさんは、軽く眉を持ち上げる。その顔には、拍子ぬけ、と書いてあるような気がした。

アト様とマザー・ケートは「なるほどねえ」と頷いている。



「でも、まあ……気持ちは分からなくもないよ。使いようによっては、誰かを守れる力があるんだから、いざっていう時には使えるようになっておきたいっていう、ね」

「あたくしも同意見。でもね、そのためにはきちんとした手順を踏むべきだというのも、分かるかしら? 冒険者ギルドに登録して、Fランクから始めて、採取依頼やゼリースライムあたりの討伐依頼からこなしていくっていう、ね。いきなり、タロス迷宮攻略は、ハードルが高すぎるわ」



 はい。ごもっとも。分かっております。ちびちゃんと三つ子にも言われて、きちんと反省しておりますので、あまり多くはおっしゃらないで下さい。今日はもうすでに、メンタルがかなりすり減っているので……。その原因は他にもありますが、精神疲労がハンパないのは、事実ですので……。



風に吹かれる柳の枝になったような気分で、げっそりしていると、

「ダンジョン攻略は貴族の嗜み。この言葉の意味を勘違いするコって多いのよ」

 ティーカップに口を付け、物憂げにアト様が発言なさった。

 イケメンは、何をしても絵になるな! 反省してないのかって言われそうだけど……言わせてちょうだい。反省したからこその、ご褒美なのではないのでせうか、と! 眼福ですわ~! 脳内アルバムにばっちりおさめて、脳内美術館の目玉として、額装して飾っておくからっ。それはともかく、



「勘違いって……えっと、万が一の時、男女の区別なく戦えるように、ダンジョンを攻略する事で、実戦の経験を積み、常日頃から鍛えておくべし、という意味ではないのですか?」

「残念。それは、下級貴族、もしくは次男三男あたりの回答よ。上流貴族が、剣や槍を持って前線で戦うようになったら、その戦はほぼ負け戦と決まったようなモンね。基本、上流貴族は人を動かす立場にあるんだから、戦場へ出たってそれは同じよ」

「な、なるほど……」



「汗水たらして、血みどろになるのは、俺らみたいな下っ端ってことだね」

「あなたの場合、その血の9割9分が返り血でしょうに」

「うん。そんな感じするね」

 インドラさんもシャクラさんも、ズバッと言いますね。でも、その意見を否定できません。コメントを求められたらこまるので、つつつーっと視線はそらしておく。



 ひっでえ、ってチトセさんは唇を尖らせたけど、誰からもフォローはなかった。泣いていい? ってぼやいたチトセさん。でも、ちびちゃんまで

「ちーちゃ? ないても、だえもよちよちしてくえないよ?」

 幼子の言葉の砲弾、右舷着弾。チトセ号、撃沈させたる由。



「つまり、どういうことかというと、貴族っていう枠組みから外れた、別の視点で世の中を見ろっていう事よ。貴族にはない発想、考え方、習慣。外国人もいるし、外国を旅してきた人間もいる。話を聞くだけでも、勉強になるわ」

 確かに。下の事を知るには、便利な立場かも知れない。



「同時に、多種多様な人間と出会える場でもあるから、冒険者稼業を通じて、貴族階級以外のコネも作っておけ、っていう事でもあるのよ」

「貴族という立場を一時的にせよ、棚上げできる立場になりますからね」

「侯爵子息だったとしてもぉ、商人からの依頼を受けたら、立場は逆になるもんねぇ。使われる側に立つっていうのも、経験しとくといいかもねぇ」

 魔族の双子が、なるほどと頷いている。



「女性もダンジョン攻略を推奨されているのは、怪我人を見慣れるように、っていう意図があるのよ。戦闘要員ではなく、治療や後方支援として期待してるわけ。ただ、戦場となると男どもも殺気だっちゃうから、女性に乱暴を働くような輩も出てくるのよね」

「自衛手段も獲得できて、一石二鳥というわけですか」

「ついでに、多少なりとも荒くれにもまれて、度胸もつけとけって事なんだろうねえ」

 チトセ号、今だ浮上ならずも、沈没は止まった模様。



「だったら、まずまずの成果が出たと言っていいのではなくって? マリエの性格もあって、タレントによる直接攻撃は不向き。ただし、サポート要員としては万能なのでしょう?」

「おそらくは。ただ、検証はまだまだ必要かと──」

「でも、他のダンジョンを勧めるのもねえ……レベルの差が激しすぎるもの」

 アト様が見たのは、チトセさん、インドラさん、シャクラさん。もちろん、ちびちゃんも。



 あら、ちびちゃん、ちびちゃん。お口の回りにクリームのおヒゲができてるわよ。

「ちびこさん、もうちょっと上品な食べ方を覚えようか。ヒゲ生やすの、かっこ悪いよ」

 テーブルに突っ伏していたチトセさんが起き上がり、ささっとちびちゃんの口の回りをナプキンで拭う。チトセさん、ほんと、お父さんですねえ。



「むぅ……ちーちゃは、むじゅかちーこちょをいう」

 不満げに唇をへの字に曲げたって、ダメよ、ちびちゃん。

「何言ってるの。ケーキをもう少し小さく切り分ければいいだけでしょ。今のサイズの半分にしなさい、半分に」

 アト様から指導が入りました。



 ちびちゃんは「むぅ」と不満顔。唇を尖らせるけど、

「その内、三つ子にも笑われますよ?」

「しょ、しょれはいやだ!」

 インドラさんにからかうように言われ、ちびちゃんは従う事にしたようです。



「おくちいっぱいにしゅゆのが、しあわしぇなにょに……」

 不満は消えていないようだけども。

「だったら、1回の量じゃなくて、回数で攻めるべきだよ」

 シャクラさん、余計な知恵をつけない! ちびちゃんが、目からうろこが落ちた、って顔してるじゃない……。

「なゆほど。かじゅでせめゆのか……うむ。ありだな」

 まあ、いいけど、ほどほどにね。



 和んでいいのか、悩んでいると、ドアがノックされた。

「トリオの方々がお見えになられました」

「待っていたわ。通してちょうだい」

 三つ子が追いついてきたようだ。遅くなりまして、とカーンが頭を下げて入って来る。その後にキーンとクーンも続いていた。3人とも、お風呂に入った様子はないし、着替えてもいないのに、何だかこざっぱりとした雰囲気である。法術を使ったのかしらね?



 お茶を淹れてもらった3人は、早速それに口を付けて喉を潤した。一息ついたところを見計らって、アト様が

「それで? あの小娘の処分はどうなったの?」

「まだ、被害を被ったパーティーがダンジョンから引き上げてないんで、通達はまだです。でも、今までの警告とか注意が重なって、今日のパーティーメンバーは、全員、ランクダウンすることになりそうだって、話でした」

 え~っと……ミシェルのパーティーメンバーは、全部で6人。ダンジョンで見かけたのは、その内の4人。この4人が1ランクダウンしたら──



「タロス迷宮には挑戦できなくなる……のかしら?」

「姫ちゃん、正解~。あの4人は、また、1からランクアップのポイントを稼がなきゃならなくなったわけ」

「という事は、どんなに早くても次に挑戦できるようになるのは、年が明けてからになるでしょうね」

 あ、ソレ、無理。これから、イベント目白押しだもん。ゲームでも、適当なタイミングで日数が経過するようになってたから、焦ったわよ。



 当然、イベント発生日にダンジョンにいれば、イベントは起きない。ただ「あ、今日は○○ね」という言葉から始まる特殊会話が発生する。ちなみに、あたしはダンジョン攻略してて、夏の建国祭をサボったことがある。前期生徒会においては、とても重要な行事であるにも関わらず、他人事のような会話をする攻略キャラたち。



 おィィィ! お前ら、生徒会役員だろぉぉぉ?! と、画面に向かって叫んだのもいい思い出だ。当然の結果として、モブ好感度は地の底まで落ちたっぽい。この時は確か、卒業パーティーまでいかずに、ヒロインが学園を追放されてしまという、バッドエンドだったかなあ? うん。自業自得だよね。っていうか、最初に警告しててほしかった。あんまり、長く籠りすぎると、建国祭に出られませんよって。いや、準備期間を考えたら、そういう問題じゃあないか。



 あ、ちなみにこれから起こるイベントは、ハルデュスの祝祭ハロウィンイベント、文化祭イベント、リュンポス生誕祭クリスマスイベント、年越しイベント。それから、デリュテの祝祭バレンタインイベントね。

 これだけのイベントを消化しつつ、ダンジョン攻略してまた1ランク上げるって、無理だから。



 もちろん、全部のイベントをダンジョン内でスルーすることも可能だけど、普通の恋する乙女はやらない。あたしは、全員攻略してほぼスチルを埋めた後、やってやったけども!

 現実でそれは、しないでしょう。攻略キャラの好感度下がるしね。っつか、さすがにそこまでスケジュール管理が破綻するとか、あり得ないと思うし。



「普通に冒険者していたら、ランクはそうそう下がるものじゃないはずだけど。あたくし、Cランクに上がった冒険者が、犯罪以外の理由でランクダウンしたっていう話、初めて聞いたようなきがするわ」

「奇遇ね。アタシもよ」

 すごいね、ミシェル! 何か、冒険者ギルドでもめったにない珍事のようですよ! どんだけ、自由に活動してるんだ、アンタ。



「次にマリエのタレントの事だけど……貴方たちの目から見て、どうだったのかしら?」

「初めての経験で戸惑いも大きかったのですが──」

 凍っちゃったり、燃えちゃったり、挙句の果てが焼肉のかほりだったもんね。そりゃ、戸惑うわ。あはははは。



「それでも、きちんと使いこなせれば得難い戦力になると思います」

 キーンが言い切った!

「個人の感想でしかないけど、いや、ないですけど、調子悪い時でも、姫ちゃんに歌ってもらったら、調子いい時のカンジでやれると思う……です。調子が良かったら、もっと──」

 クーンは、敬語を使いなれていない! ちょっとかわいいぞ。



「ふぅん……だったら、ウチの騎士団の訓練に参加してもらおうかしら? ダンジョン攻略や冒険者稼業を続けるよりは、絶対的に安全だもの」

「あ、だったら、身体能力測定しようよ。具体的にどれだけの効果があるか、数字ではっきり表せるなら、それに越した事はないでしょ」

 チトセさんの発言に一番興味を示したのは、ちびちゃんだった。



「あい! わたち! わたちもしょれ、やりたい! しょくてーしゅゆ!」

「…………だ、そうだから、ドラゴンが使っても問題ないような測定器の制作を依頼してもいいかな? シャクラ」

「いいよ~。面白そう。何を計るのか、具体的に教えてほしいな」

 楽しそうなのはいいけど、アト様が

「ドラゴンが使ってもって……」

 頬を引きつらせておりました。あたしも同感です。ちびちゃんって、ホント何者?

ここまで、お読みくださりありがとうございました。

 ちびこさんの入浴シーン、入れるかどうかちょびっとだけ悩みました(笑)

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