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攻略の報告会は、シスターの前で 1

「あ、そうだ。今更だけど、初めましてだよね。僕はジェレミス・シャクラ・バルバート。インドラとは双子なんだ」

 シャクラと呼んでほしい、ということだったので、妖精さんのことはシャクラさんと呼ぶことになった。名前は聞いても教えてもらえない、という噂の真相をたずねたら、

「名前は法術使いにとって、あまり知られたくないものだからねえ。でも、インドラの知り合いなら、大丈夫でしょ?」

 ぽやぽや~っとした笑顔で答えてくれた。



何でも、名前を知られると呪いをかけられやすくなるので、魔族の間ではフルネームを名乗ることはごくごく稀なことなのだとか。

 ファーストネームではなく、セカンドネームで呼んでほしい、というのも呪いへの対応策なのだとか。ちなみに、魔王様や一部の自信家の人は、ここまで用心しないそうだ。俺を呪えるなら、呪ってみな、という事らしい。



「こちらの人間は、そのあたり疎いようなので、大丈夫でしょう」

「……肯定しづらいコメントですね」

 キーンに賛成。「あれ? 確か、呪いは禁止っしょ?」とは、クーンの意見。



 そんなやり取りもありつつ、シャクラさんがお弁当を平らげるのを待ち──彼以外は、お弁当の残りを食べる気にはなれなかった──あたしたちは、セーブポイントの魔法陣を利用して、ダンジョンから脱出した。

 もちろん、ちびちゃんとシャクラさんは、認識阻害と気配遮断の法術付きである。



 2人の事があるので、ダンジョン攻略に向かう冒険者の待機所から離れ、外に出た。

タロス迷宮は、草原にポツンと入り口があり、その周辺にキャンプ場と屋台村を足して2で割ったような集落ができている。普通の街ならある壁がなく、建物もテントやプレハブのような物ばかりなのは、迷宮から魔物が出て来た時、素早く逃げられるように、という理由からなんだそうだ。



 なので、少し中心から離れれば、広々とした空間になっている。ちょっと暑いけど、今はその暑ささえ、心地よく感じられるわ。ダンジョンの中は、じめっとしていたから。

「生き返る、ってこういうことを言うのかしら。空気がとっても美味しく感じられるわ」

 ゆっくりと大きく深呼吸をしていたら、

「すいません! トリオの方々でしょうか?」

 冒険者ギルド職員の腕章をした人が、小走りで近づいて来る。



 トリオ、というのは三つ子のパーティーの名前だ。これは、ギルドにもきちんと登録されているのだそうだ。今回のダンジョン攻略にあたって、あたしとインドラさんもトリオのパーティーメンバーとして、登録されている。一時的なものですけどね。

「そうですが、何か?」

 呼びかけに答えたのは、パーティーリーダーのカーンだ。



 ギルドの人は、膝に手を当てて、はあと大きく息を吐いてから、

「あなた方あてに伝言を預かっています」

 折り畳まれていた、メモをカーンに差し出す。不思議そうに首を傾げた彼は、メモを開き、

「あ~……ダンジョン攻略の報告は、東地区の教会で聞くってさ」

「ということは、マザー・ケートもいらっしゃるでしょうね」

「タのつく能力の事もあるし、しょうがないか」

 そうね。しょうがないわねぇ……。今は疲れてるから、あんまり行きたくないけど。マザー・ケートってば、とってもパワフルなんだもの。弱ってる今は、イロイロと負けそうな気がする。



「ありがとう。確かに受け取ったよ。ところで、NWから、何か報告がなかったかな?」

「あ~……はぁ~~~っ……ありましたよ。弁当をめちゃくちゃにされた上、難癖をつけられたとか何とか。支離滅裂で、何を言いたいんだか、さっぱり分からなくて……」

 その様子からして、ギルドもミシェルたちの扱いには苦労してるのね。



 ちなみに、NWというのは、ミシェルたちのパーティー名、Noble Wingの略なんだとか。気高い翼とは、大きく出たなって? いえいえ、ゲームの初期設定のまんまですから。

 あまり大きな声では言えないけれど、ギルド職員や一部の冒険者の間では、No wayの間違いだと言われているのだとか。無理とか、ありえないっていう意味だけど……そんな風に言われること自体、ありえないと思うわ。どんだけ、嫌われてるの、ヒロイン様よ。



 ギルドの人の話に、三つ子はやっぱりなという顔をして、その件で報告があると、彼に切り出した。報告となると、ちょっと時間がかかるそうなので、三つ子たちとは別れ、あたしたちは先に教会へ移動する事になった。

 教会側で馬車を手配してくれていたので、ありがたくそれを使わせていただく。



 シャクラさんは、「この馬車、法石も魔物も使ってないんだね! すご~い!」と、子供みたいにはしゃいでいたのに、ちょっと引っかかるものがあったけど! 昔の人は凄かったんだなあ、っていう感想に似てると思ったのは、きっとあたしだけなんでしょうね。

 それでも、馬車の乗り心地は快適でしたよ。



 何事もなく、無事に教会へ到着し、案内の為に待っていてくれたのだろう、女司祭様へ挨拶をすれば、

「そのお姿では、お会いいただけませんので──」

 にっこり笑った彼女の指示で風呂場へ直行させられた。臭いんですね、分かります。

 ちびちゃんは、烏の行水でさっさとお風呂から上がってしまうし。まあ、いいか。



 あんまりのんびりもできないけど、ちょっとだけゆっくりさせてもらおう。足がツライのよ。何て言うか、3年分くらい歩いた気分だわ。

 軽く足をマッサージしてから、お風呂を出ると、女司祭様が2人、脱衣場で待機していてくださったわ。有無を言わせない、その笑顔がちょっぴり恐ろしゅうございますが。

「お召し物はこちらでございます」



 用意されていたのは、白の7分袖のブラウスと紺色のマリンデザインのワンピース。白いセーラーカラーには、赤いラインが2本。スカートの裾には白のフリルがあしらわれていて、こちらも赤いラインが2本入っていた。丈は、安心の(?)マキシ丈ですよ。

「ウエストのリボンはきつくないですか?」

「はい、大丈夫です」

 髪もお揃いのリボンで纏めてもらったわ。



 ところで、今更だけど、このワンピース、あたしの物じゃないんですけど? どこから、来たのかしら?

 不思議に思いつつ、女司祭様の後について場所を移動する。移動先は、まあ、予想通り。チャリティーの時にも通されたマザー・ケートの部屋だ。



 女司祭様がドアをノックし、あたしが来たことを告げると、ドアが開く。ドアを開けたのは、執事スタイルに戻ったインドラさんだった。

「やはり、冒険者の恰好よりもそちらの方がお似合いですよ、レディ」

「ありがとうございます」

 あっちも動きやすくて好きなんだけど、いつの間にかマキシ丈スカートの方に慣れてしまったみたい。こっちの方が、何だかしっくりくるわ。



「あたくしの若い時のドレスをリメイクさせたんだけど、さすがルーベンス卿ね」

「でしょう?」

 は? え? ちょっと待って。このドレスが、マザー・ケートのドレスをリメイクしたっていうのは、まだいいわ。でも、さすがルーベンス卿っていうのは、どういう意味?



 インドラさんにエスコートされながら、着席すると、アト様は得意げに笑いながら、

「そのドレスのデザインは、アタシがしたのよ」

 なんだって~!? と、言うか、アト様、その口調! いいんですか、マザー・ケートがいますけど?! 隠してたんでしょう!?



 あたしの言いたい事が全部顔に出てたのか、

「バレたのよっ! 諜報に精霊を使うなんて、ズルイと思わない?! そんなの、対策のしようがないじゃないっ! 何で、ここに来てこんなにポロポロとっっ」

 アト様が悲鳴を上げ、ヨヨヨヨとばかりにテーブルに突っ伏した。



 え~っと、マザー・ケート? どういうことですか?

「相変わらず、法術は使えないままなんだけど、精霊と会話はできるようになったのよ」

 うふふと得意げに笑うマザー・ケート。何て言うか……そう、鬼に金棒的な? やあね、悪用はしないわよ、これでも聖職者の端くれなんだから、と笑っていらっしゃるけど……。



「マダムだもんねえ……」

「おばーちゃだもんにぇ~……」

 チトセさんとちびちゃんが、こっそりため息。シャクラさんもいるけど、こちらは会話に加わる様子なし。サンドイッチを黙々と口の中に詰め込んでいる。この人、まだ、食べるの? どれだけ、飢えていたのよ、アナタ。



 あ、シャクラさんの額の目は閉じられていた。恰好も、ジャラジャラしていたアクセサリーが消えて、こちらの一般的な恰好、ブラウスとズボンに変わっていた。

 魔族のことって、誰がどこまで知っているのかしら? 下手に突いて蛇を出すのも嫌だし、マのつく一族のことについては、黙っていよう。保身、大事。



「とりあえず、本題に入りましょう。本当は本職の目から見た意見も聞きたかったのだけど、トラブル発生では仕方がないわね。それで? その、マリエのタレントはどうなの? おちびちゃんの話じゃ、笑えそうで笑えない結果だったみたいだけど?」

「ええ、まあ……」

 たった数時間前の事だけど、思い出せば遠くを見ちゃうわね。オトナの階段を1つ上ったような気分よ。あたしの表情を見て、マザー・ケートはいろいろ察してくれたみたい。



 でも、

「しょおだった! ちーちゃ、アトしゃもきいちぇ! おねえちゃたやね、じぇーたくいうのよ! おばーちゃも、め、ちてやっちぇ!」

 ちびちゃんてば、容赦なかったわ。その事は、反省したじゃない……。イジワル。

ここまで、お読みくださりありがとうございました。

ダンジョンを脱出したら、お久しぶりの人が出てきました。

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