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タレントの検証はダンジョンで 6

「まだ、今一つ納得していないみたいなんで、言い方を変えますね。戦闘中に、一か八かを試す必要性に駆られる事はあります。でも、それは最後の手段みたいなもので、普段からそんな賭けに出られると、非常に迷惑なんですよ」

 ご、ごもっとも。キーンさん、お説教モードですか?



「それにさ、姫さんって俺らみたいにアタッカーになる訳じゃないし、冒険者や女騎士を目指したりもしないんでしょ?」

 こくこく、とあたしは何度も頷いた。カーン、危ないからフォークをくるくる回すのはやめた方がいいと思うわ。地面に落ちたが最後、リカバリー不能よ。



「だからさ、なおさら気にしなくていーんだってバ」

「戦わない人間が、戦う事を恐れ、別のものを傷つけたくないと思うのは、当然の事です」

 クーンとインドラさんまでもが、プチお説教モードに突入した。

「あまえていいのよー、おねえちゃん。たたかうときめたにんげんが、ちからをもとめられたとき、それにこたえられないのは、はじだ。でもね、たたかわないにんげんにおなじことをもとめるのも、まちがいだ。だって、すじがちがうんだから」

 また出た。筋が違う。



「でも、戦わなくちゃいけない時があるかもしれないでしょう?」

 今はこうして平和に暮らしているけれど、いつ何時、戦いに巻き込まれるか分かったものじゃない。例え血は流れていなくても、あたしは貴族なのだから、戦う事を求められた時、戦えなくては意味がないと思うのだ。

「レディ……はっきり申し上げましょう。それは、考えすぎです」

「ぐっ……!」



「インドラさんの言う通り。ぶっちゃけ、そん時はそん時だと思うぜ~?」

「そうそう。そん時に戦う気になったら、戦えばいいんだって。難しく考えるのはナシナシ」

「戦い方も人それぞれですから、何も直接魔物を倒すだけが能じゃないですよ」

 それは……そうかも知れないけど……。



「おねえちゃんにもとめられているのは、たたかうことじゃありましぇんっ! もっとべつのことなにょ! そうでしょ?! ちあう!?」

「違いません……」

 おっしゃる通り、ごもっともです。ちびちゃんの活舌がまた、元に戻りつつあるようだけど、そこはスルーすべきよね。はい、空気くらい読めます。



「おねちゃが、ちーちゃに、おねがいしゃえたにょはなに!?」

「商会の手伝いです」

「あい。しょにょちょーり。おてちゅだいと、たたかうことはべちゅなにょ! おてちゅだいしゅゆまえから、あれができない、これができないっちぇ、いうのはめ! よくばり、きんし! わかっちゃ!?」

「はい、重々承知いたしました」



 粛々と頭を下げたら、よろしいって頭を撫でられました。

 欲張り。欲張りかぁ~……そう、なのかなあ? 承知したとは言いつつも、どこか納得しかねていると、

「あのさ、姫ちゃん。一応、言っとくけど、兄ちゃんを基準にしちゃだめだからね?」

「ああ……! そうね、はい。おっしゃる通り」

 チトセさんが出来るんだからって、どこかで思ってたのかも。



 確かに、あの人を基準に考えたら、あたしなんて足りない事だらけだわ。そうか。そうよね。いくら、規格外の商会とはいえ、全員にあの基準を求めていたら、世界征服だって夢じゃなさそうだものねえ。

 ようやく、納得できたわ。ホッとしたら、何だかお腹が空いて来ちゃった。まだ、ほとんど手を付けていなかったお弁当に、手を伸ばしかけたその時だ。

「かくまって……っ!」



 転げるように、セーブポイントへ入って来たのは、アラビアンナイトの人でした。

 くすんだ金髪に、明るい黄緑色の瞳。褐色の肌。背は高く、やや細身の男性だ。

 半泣きの顔は、とある人にそっくり。彼の耳には大きなイヤリングがずしっ。

濃紺のローブから伸びる手には、ブレスレットやバングルがじゃらっ。指輪もずらっ。ペンダントにネックレスもじゃららっ。ハーレムパンツから覗く足首もアンクレットがずららっ。重たそうだし、歩く金庫みたいにも見える。



「シャクラ……っ?!」

 はい、妖精さん登場っ! でも、何で半泣きに? かくまってって、一体何が? 突然過ぎて訳が分からない。どう、反応したものか困っていると、

「全員、壁際に寄って! 私がいいと言うまで静かにしていなさい!」

 インドラさんから、厳しい声が。三つ子はお弁当箱を持ったまま、慌てて立ち上がり、壁際に寄る。



 彼の手ぶりは、全員一か所に集まれ、という風に見えたので、三つ子はあたしたちの方へ近づいて来た。もちろん、妖精さんも。彼は、

「あ……え? インドラ?」

 双子の兄弟がいることに、驚きが隠せない様子でした。

「おにいちゃ、いまはしー、なにょ。ね?」

 ちびちゃんが人差し指を口に当て、妖精さんを嗜める。



 彼の返事は、腹の虫でした。

「おにゃかすいてゆのね。だったら、こえ、あげゆ。ちーちゃ、とくせーおべんちょー!」

 まだ、あったのね。ぼそぼそと小声で言いながら、ちびちゃんはバッグからお弁当箱を取り出した。あれ、子供用バッグだと思っていたけど、容量アップの法術がかかっている、特殊バッグなのね。でなきゃ、あの大きさで7つもお弁当箱入るわけないもの。



 隣を気にしつつも、あたしは彼が飛び込んで来た出入り口を見ていた。だって、ドドドドドっていう、ヌーの大移動かって思うような爆音が聞こえてくるんだもの……。

 ねえちょっと、妖精さん、アナタ、一体ナニを連れて来たのよ?



「うわあ……とっても美味しそうだね。僕がもらってもいいの?」

「いいちょもー! たんとおたべなたい。ちーちゃのおべんちょーは、おいちーのだかや」

「嬉しいなあ。ありがとう」

 ちょ……ちびちゃんを膝に乗せて、ほのぼのしてる場合じゃないと思うんですけどもっ!?



「認識阻害と気配遮断の法術をかけていますが、音まで消せるわけではないので、静かに」

 インドラさんに再度釘をさされ、あたしたちは唇に力をこめた。

「来ます──!」

 何が来るっていうの?! ああ、妖精さんからちびちゃん借りればよかったぁぁ! しがみつく物がないから、感情を逃がす場所がないィィッ!



 涙目になって、べったりと壁に張り付いていると、

「ここかっ?!」

 まさかのミシェル、登場ォッッ?! は?! え? ちょ……今のドドドドは、ヌーの大移動じゃなかったの!? どうやったら、あんな足音立てられんの?! え? えぇっ?!

 とりあえず、叫ばなかったあたし、偉い。三つ子も山姥に遭遇したような顔してた。冗談抜きで、ガクブルしてたよ。キミら、何かあったのかね?



「ミシェル!」

「どう?! いた!?」

 続いて顔を見せたのは、グレッグとオズワルド、それにダリウスだった。ダリウスは、最後尾のようで、周囲を警戒しているようである。

「ううん、いないわ。おかしいわね……ここに入ったと思ったんだけど……」

「そう見せかけただけかも知れない。法具を使えば、それくらいのことはできるはずだ」

 そうだろう? とグレッグに水を向けられ、オズワルドは「ああ、できるよ」と頷く。



 そこまで考えたなら、法具が使われた形跡があるかどうか、調べたらいいのにそういう話は一切でなかった。何でだ。天才じゃなかったのか、オズワルド。

 法具は、法術を簡略化するためのツールなんだから、痕跡が残ると思うんだけど。法術は使えなくても、法術の理論は勉強していたので、それぐらいの事は、あたしでも想像がつく。

 花畑菌が判断能力だけでなく、思考能力まで侵食し始めたのだろうか?



「ミシェル、少し疲れたんじゃないか? 俺たちはこの先を見て来るから、ここで休憩しておくといい」

「あ、ありがとう、ダリウス。それじゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらうわ」

 ……野郎ども、何で、全員で行くのさ? ミシェルを1人にしないでよっ。こっちに背中を向けているので、彼女の表情こそ分からないけど、気持ち悪いくらいの猫なで声で「気を付けてね」「無茶しないで」なんて言いながら、男たちを見送っている。



 3人の顔は緩みっぱなし。チョロいな、アンタら。

 グレッグは、顔を赤くしているし、オズワルドは、咳払いをして「大丈夫だよ」ダリウスは、ぷいっと横を向いていた。

 カワイイっちゃ、カワイイけど……ヌーの大移動を聞いているから、何だかなぁという気になる。もしかして、これも【伝染源】効果なんだろうか。

 3人は「すぐに戻るから」と言い残して、あたしから見て左側の方向へ進んでいった。



 彼らが見えなくなると、

「……何で、逃げられなくちゃいけないのよ……っ!」

 こちらを振り返ったミシェルは、般若顔。歯ぎしりまで、聞こえるし。どんだけ、顎の力が強いんだ。その内、歯がすり減って噛み合わせが歪むんじゃないかと心配になる。



「ただでさえ遭遇率は低いってのに、このままじゃ攻略できないじゃない!」

 ん~? 妖精さんと会わなくても攻略はできるけど? 1回、会ったとしても何も上げない、というドSプレイをした事あるし。ちらっと彼の様子を伺えば、ちびちゃんをぎゅっと抱きしめて、ガクブルしてました。

「あの子、すっごく怖いんだよ……」



 今の彼女、般若ですからね。三つ子もガクブルしながら「同意見。関わりたくねえもん」

「女子コワイ。怖すぎる」「あぁ、後で教会へお祓いに……」どんだけ、怖いのよ……。

 インドラさんはインドラさんで「マーキングしておいて正解でした」って、祈りを捧げる司祭様みたいな顔してるし。ちびちゃんは両手で顔を隠して、俯き「わたちはなにもみちぇないじょ」こちらも、プルプル震えている。ちびちゃん、ビビらせるなんてどんだけ……。



 「こうなったら、おびき寄せるしか……」

 ミシェルは背負っていた荷物の封を開け、中からお弁当箱らしきものを取り出した。

 ダンジョン内で料理を作ったり、食べたりしていると、妖精さんが自分から来る事もあるから、それを狙ったのね。あたしもよくやったわ。



 ──でもね、油断大敵。天災は忘れた頃にやってくる。

 ほんと、昔の人はいいこと言うわ~。その通りだと思ったわ。

 彼女がお弁当箱を開けたとたん、それは襲って来たのよ!

 声に出して叫ばなかった、あたしたち、とっても偉い。でも、心の中では大絶叫よ!



 ラフレシアァッッッ!!!!? てね……。


ここまで、お読みくださりありがとうございました。

 ようやく、ダンジョンのゴールが見えて来た……。

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