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タレントの検証はダンジョンで 3

 【歌姫】というのは、ずいぶんと分かりづらいタレントである。歌声に自分のイメージを乗せて、具現化させる事ができる、と説明されたところで、はあ、サヨウデゴザイマスカ、としか答えられない。すいませんねえ、おバカさんなもんで。

 インドラさんが言うには、ポイントは、歌詞ではなく、歌声なんだとか。



 言われて、思い出したのがかの有名な小学生、ジャ〇アンである。

 彼の歌を歌えば、何かつかめるかも? と考えたんだけど、却下するのも早かった。だって、味方まで巻き込みそうな気がするんだもの! あれ、絶対、某ゲームの某マップ兵器みたいに識別機能ついてないよね?! そこはお前の想像力で何とかすべきじゃ、って思った? あたしも思った! でも、ムリだった。想像できない! あれは、最終兵器扱いにして封印するべきだと思ってしまったワ……合掌。



 ムリと言えば、冒険者稼業もあたしにはできそうにないわね。

 いくら、前方に明かりがあるとはいっても、暗いのよ! 怖いのよ! 情けないとは思うけど、今だって、ちびちゃんの両肩に捕まらせてもらいながら、へっぴり腰で歩いているのよっ! だって、何かにつかまってなきゃ不安なんだもの!



 でも、クーンが壁に手をついて歩いちゃダメだって、言うのよ!

「人為的に作られたっぽいダンジョンにしちゃ、罠が少ないんだけど、罠がない訳じゃないんだよね。だから、下手に触って罠を起動させられると困るわけ」

 正論ですね! もうね、びくびくしながら歩いてますよ。



 遠くから聞こえるコウモリ? の羽音にビクーッ。天井からピチョ~ンと落ちて来た水滴にウギャァッ?! まだ、それほど歩いたとは思えないんだけど、精神がゴリゴリ削られていっているわ。もう、半泣きよ。

 気分は、お化け屋敷を歩かされているようなもの。目はせわしなく動いて、体は常にがっちがち。ただ、命の危険がないお化け屋敷と違って、ここはマジで危ないからね!



「レディ……緊張しすぎですよ」

「緊張するな、っていう方が無理だと思います」

 でもね、ちびちゃんみたいなツワモノもいるのが現実。

 ちびちゃんなんか、神の恵みを歌いながら歩いてるのよ?! 時々スキップまでしてるの! びっくりするから、やめてェ。そのくせ、あそこに変な虫、とか言って指さすの! どんだけ、余裕があるのよ?! この幼児はっっ! 末恐ろしいわね!



「前回潜った時は、45階で引き返したんで、そこまではさくっと進めると思うんだけど」

「それじゃあ、罠は全部解除されているんじゃないの?」

「いやあ……それがどうも妙って言うか……。なかったハズの罠が増えてたり、解除したハズの罠がまた設置されてたりしててさ……」

 歯切れの悪い言い方である。



 キーンによると、三つ子の目的は、シャクラさんを探す事。そのため、一度攻略した階層を、2度3度と回ってみたりしているそうだ。

「この迷宮が発見されたのは、わりとつい最近って言っても、もう30年くらい前の話らしいですけど。ギルドで開示されている報告書によると、いつの間にか階層が増えているらしくて──何年か事に最下層の階数が、更新されているんですよ」



「はっは~ん。だえかが、このめーりょをちゅくてゆな」

「えっ?! 現在進行形で建設中なの?!」

 最下層って100階でしょ? 階層が増えてるなんて、ゲームじゃそんな話、なかったけど? 本筋とは関係ないから、出て来なかっただけ?

「誰か、ではなく、シャクラでしょうねえ……おそらく」



「はぁ?! ちょ……迷子になって出られないって話じゃなかったんすか?!」

「自分で作った迷宮で迷子になってるって……何やってるんですか……」

「インドラさんにいう事じゃないけど、アホなの?! アホの子なの!?」

 三つ子が、パッカーンと口を台形にしている。あたしも多分、同じような顔をしていると思うわ。って、クーン、アホの子呼ばわりは、酷くない?



「おそらく、道がなければ作ればいい、と考えたんでしょうねえ……」

「したにひろげちゃ、めーでしょ」

 アンニュイな顔したって、ダメよね、ちびちゃん! インドラさんの心中は何となく察するものがあるけども! 



「あ……!」

「キーン? どちたの?」

 言いにくそうに視線を泳がせながら、彼は言う。

「今、一番潜っているパーティーは大体、70階あたりをウロウロしているらしいんですが、壁をよく見ていると、天然法石を採取できる事があるらしいです……よ?」

 しばしの沈黙。



 あたしたちの心は、今1つになったと思うわ。全員、ソレダー! って思ってるでしょうね。ええ。

「…………ほぼ間違いなく、それですね」

 再び、心中お察しいたしますワ、インドラさん。死んだ魚のような目になってるわよ。



 シャクラさんの行動を推測するに、最初、彼は、天然法石の採取をしていたと考えられる。

 天然法石と、法術使いが作る加工法石との違いは、長くなるので省略。

 そして、法石を採れば採る程、坑道は広がり、さながら迷路のようになる。はい、迷子確定。アホの子と言われてもしょうがないような気がする。



「でも、しょれだとわなにょせちゅめーには、なやないじょ?」

「法石の採取は、法具作成の為ですからね。途中で、採取に飽きて法具の作成に挑戦してみても不思議ではないかと。新しく作った法具は当然、実験してみたいでしょうし、法具の製図や過程でのメモなどは、誰かに見られたくないでしょうから──」

「あ、罠ぐらい作るっすね」

 納得。



 なるほど、彼が妖精さん呼ばわりされるのは、そう呼ばれる下地があったからなのね。ピッタリすぎるでしょ。デンパさんでも間違ってないような気がするけども! 天才と何とかは紙一重って、本当──

「本当に……我が弟ながら……一度本気でシメるべきですかね……」

 ひいィィィッ! ほ、ほどほどにお願いします! 目が、目がすわってるぅっ!



「どーどー、おちちゅけ、いっちゃ……」

 ちびちゃんが、インドラさんの膝あたりをぽんぽんと叩く。シャクラさんが見つかったら、壮絶な兄弟げんかの幕が開きそうな気がする。止められる人は……いない……と思う。

「今、すっげー帰りたくなった……」

「同感だわ」

 あたしたち、気が合うわねっ!



 泣きたい気持ちでいると、前方からずるっ、ずるっという何かを引きずるような音が聞こえてきた。音は、こちらに向かって来ている。

「ひっ?! ちょ……何!?」

 カーンとクーンが武器を構え、キーンが法術の詠唱を始める。



「なんなの?!」

 な、泣くぞ! 泣いちゃうぞ?! 怖くて目を瞑ったんだけど……瞑ったら、もっと怖いい! ちびちゃんっっ、お願いだから、「にゃんだろな」って歌いながら、体を左右に揺らすのやぁめぇてェェ……。落ち着けないからぁぁぁ……。



 やがて、ゆっくりと暗闇の向こうから姿を見せたのは、ヌルヌルの──

「コモドドラゴンっーーーーっ?!」

 あたしが叫ぶと、ドラゴンは後ろに吹っ飛んでいった。



「は?」

「あれ?」

「えーっと……」

 遠くで、どしゃ、という音が聞こえた。

 …………ねえ、今どこかでお鈴が鳴らなかった?



「おお、おねえちゃ、しゅごいな。トカゲ、ふっとばちたじょ」

「成人男性ほどの重量があったようですが、素晴らしい飛距離ですね」

 ぱちぱちと手を叩くちびちゃんとインドラさん。

「何か、具体的なイメージがありましたか? レディ」



「こ、来ないでって……それだけ……」

 何だ? 何が起きたんだ? ヌルヌルてかてかのコモドドラゴンが見えたので、叫んだら、ヤツが吹っ飛んだ。そうとしか、言えない。説明ができない。

「イメージ通り、遠ざかりましたね」

「……歌って、ナイんです……けど?」

 頭が、現実についていけてない。



「最初に説明した部分と重なりますが、歌声に限らず、声そのものに事象を具現化させる権能があるのではないか、という仮説がありまして──」

 はあ、サヨウデゴザイマスカ。

「疲労感があったりしませんか?」

「色んな意味で疲れていますけど……?」



 ウィスプとは別の明かりを持って、カーンがトカゲの吹っ飛んだ方向へ駆けていく。ややあってから、

「姫さん」

 戻って来た彼のイイ笑顔とぐっと立てられた親指に、トカゲ、ご臨終したのね、と悟ったあたしである。さっき、お鈴が鳴ったような気がしたのは、気のせいじゃなかったのかもっ。

 …………も、もう帰りたいィィッッ!!


ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

この頃になると、もう鼻はバカになっていて、匂いは気にならなくなってるでしょうね。

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