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タレントの検証はダンジョンで 1

「ふはははは。わたちのここりょが、いしゃんでおどゆ! からだがたぎって、ふりゅえておゆわ! おねえちゃに、わたちのカッチョイーとこ、みしぇてやんじぇ!」

 今でも十分、カッコイイよ、ちびちゃん。胸当て、籠手、脛当てを身に着けた姿は、あたしよりも重装備で……違和感なし。初々しさなんてなく、まるで歴戦の古強者のようです。

 唯一、微笑ましく思えるのは、デフォルメされた黒いライオンの刺繍がある、ボディバッグを背負っているトコロかしらね。このギャップがたまらん。カワイイじゃないか。



「頼もしいわね、ちびちゃん」

「まかしぇちぇ! おねえちゃは、わたちがまもゆから!」

 むんっと小鼻を膨らませて、あたしを振り返る幼女。鎧が新品で、着られている感漂えば、微笑ましく映るのだろうけど──大事な事だから、2回言うわ。このコ、歴戦の古強者のようなのよ。装備している防具は、使い込まれているし、とても手入れが行き届いている。

 一方、あたしが着ているローブは、新品です。着られている感、満載でアリマス。



「え~っと……ボス? 張り切ってるトコ、悪いンすけど、ボスの仕事はあくまで、姫さんの護衛っすからね?」

「だいじょーぶ! わかってゆのだー。ちーちゃにもいわえてゆもん! いっちゃと、おねえちゃをまもゆのが、わたちのおちごとだもん!」

 くるっと芝居がかった動作で、あたしとは反対方向に振り向いたちびちゃんは、心配するな、とカーンに言う。



彼の隣には、もちろん、キーンとクーンもいる。3人のちびちゃんを見る目は、とても疑わし気だった。じと~ん、という音が聞こえてきそうである。それに気づいたちびちゃんは、むむむと唸り、

「せなみゆめをみちゅめかえしゅも、しゃきゆくとーしのやくめだじょ!」

 地団太を踏む。その動きが某芸人のネタに似ていたので、「そんなのカンケーねえ」と心の中でアフレコしていた、あたし。



 ──絶対知られちゃいけないな、と思いつつ、ちびちゃんが何を言っているのか、あたしにはさっぱり分からなかった。

 何がちびちゃんの役目なんだろう? インドラさんに視線で通訳を求めてみたら、分かりませんよ、とばかりに肩を竦められてしまった。チトセさんじゃないと、通訳は無理のようだ。

 ここは、無難にスルーしておく。



 後日、チトセさんに会った時に、通訳をお願いしたところ「(せな)見る目を見つめ返す」と言っていたそうで、下の面倒を見るのも上の者の役目、という意味なのだそうだ。下? 上? と、多少の疑問を持ったけど、ちびちゃん、ボスだもんねぇ……スルー、スルー。



 さて、先だって、競馬場で「やれる事は何だってやる」といったあたしですが、振り返ってみて思ったの。外堀を埋める事以外は、特にやってないって。思わず、視線が泳ぐわね。

 だって、あの子自分で、どんどん墓穴掘っていくんだもの。はっきり言って、あたし、する事がないのよね。ミシェル、本気で逆ハーエンド狙ってるみたいで……現実的ではないでしょうに……馬鹿な子。



 そうそう。つい3日ほど前に、2回目の階段落ちイベントをやったみたい。前回は、演出過剰だったために、返り討ちに遭っていたので、今回は演出・公表を控えたようだ。

 結果、犯人は分からず仕舞い。モブ人気度は低いようだから、公表したところで、目撃者ゼロで、犯人不明のままになるだろうけど。

 でも、犯人はあたしではないかと疑っているらしい。バカバカしい。



 だって、今のヒロイン様のボディーは、階段から落っこちたぐらいで怪我するような、やわな体じゃないでしょうに。ええ、無傷だったと聞いているわ。あの図太さからいって、脅しにもなりはしないでしょうよ。やるだけ、無駄よ、無駄。それに、Cランクの冒険者が素人の接近に気付かなかっただなんて、説得力なーし。これでも、ちゃんと調べたんだから。結果、Cランク以上の生徒は男子のみで、女子生徒はD以下の子しかいなかった。



「わざと突き落とされたにしては、その後がズサンね。おへそのラッパがぷー、だわ」

 ベルさん、どこでそんな言い回しを覚えたんですか。お茶を吹き出しそうになったじゃないのよ。

「同意見ですわ。何より、スミレのレディーがやったのだと、仄めかしているのが……ッ! にっちもさっちも煮えたぎりそうで……ッッ」

 ミス・クレメル? 手に持った扇子がミシミシ言ってます。怖いから、ヤメテッ。心の中でひェェェと悲鳴を上げつつ、アルカイックスマイルを保つ、あたし。



「まあ、酷い話ですわね。どうしてそんな(ムダな)事を、わたしがしなくてはならないのかしら?」

 ミシェルへの嫉妬? ナイナイ、そんなもの。だって、

「一時の気の迷いだと信じておりますわ。わたしたちの婚約は(キアランの地位を確約するために)国王陛下がお決めになられたものですもの」と答えつつ、胸元に光る花十字のペンダントを指先でいじる。

 こっちのバックには、教皇サマがいらっしゃいますが? と暗にアピール。

 同じテーブルを囲む令嬢たちは「デスヨネー」って、顔をしていた。



 それと、以前、あたしが消えた後の消息を伝える方法として目を付けた、暗号広告。こちらは、いよいよブームとなりつつあるみたいだ。

 お茶会でも、よく話題に出るようになったし、広告を出した人や、誰に向けたものなのかなど、答えのない謎解きも楽しいし、以前、ベルと話したみたいに、自分のモチーフはどんな物にするか、という話でも盛り上がれる。あたしはやっぱり、スミレ一択のようでしたが……これは、しょうがないね。



 チトセさんは、リッテ商会のエンブレムに使用している、女性と獅子の横顔に、日時と『王都西地区3番通り689番地 我々が分かった方、先着300名様に小さな幸運を』という謎解き広告を出した。

 リッテ商会の広告だと分かった人、先着300名様に粗品をプレゼントします、という内容である。粗品は、深魔の森に生える、アヴィティアスという植物繊維を使った、ポーチにしたそうだ。宣伝は上手くいき、午前中で粗品はなくなったらしい。



 こんな感じで、水面下では着々と準備は進んでいる訳だけど、本日は遠出をしております。



 ワタクシ、ただ今、タロス迷宮を歩いているところでゴザイマス。……今日、冒険者ギルドに登録したばっかりだから、ランク最下級なんですけど!? 入れないでしょ、ココ!

 でもね、抜け穴が存在するんだって。三つ子はCランク。インドラさんてバ、三つ子と同じランクアップ試験を受けて、ヴァラコでAランク取って来たらしいです。なので、入れちゃうらしい。うっそーん。



 でも、まあ……あり得ない話じゃあないか。ヒロインがCランク以上だと、モブがレベル1であっても、タロス迷宮に連れていけるんだもの。要は、そういう事なんでしょう、多分。

 ただ、迷宮の出入り管理をしている人が、顎をカクーンと落っことしてたところを見ると、普通はナイわよね。



 ちびちゃんは、さすがにムリなので、いつぞやのようにキーンのローブの下に隠れて、迷宮へ。バレないかとひやひやしたけど、バレませんでした。多分、きっとインドラマジックのせい! いやでも、インドラさんがいなくても、ちびちゃん、キーンのローブの下に隠れてたしなぁ…………。よし、スルーだ。



 さてさて、迷宮へ来た理由は、2つ。1つは妖精さんこと、シャクラさんを探す為。もう1つは、あたしのタレントの検証。

 ──あるんだってー! あたし、タレント持ちらしいよ!? びっくりしたけど、そう言えば、マリエールを連れてダンジョン攻略してたら、レベル30を超えたら、覚醒イベントが発生して、法術が使えるようになるんだよねー! 回復もできるサポートタイプの法術使いになるんだよー。



 自分の事なのに、自分の事だから? すっかり忘れてたー。

 ちなみに、マリエールは、レベルが30になるまでは、法術は使えないし、物理攻撃もショボいという、お荷物キャラ。ただ、何もメリットがないかと言うと、そうではなく、彼女が一緒だとモブ好感度が上がりやすく、夏季休暇に入るまでの間、街でチャーリーとの遭遇率が上がる。法術が使えるようになると、優秀なサポート要員になってくれるんだけどね。



 おっと、脱線。あたしのタレントが発覚したのは、レースの日の翌日。登校するため、寮まであたしを迎えに来てくれたインドラさんが、

「レディは、【歌姫】のタレントを持っているようですね。昨日、歌声を聞かなければ気付きませんでした」

「は?」

 歌ってたっけ? と首を傾げて思い出したのは、そう言えば、馬車の中で鼻歌を歌ってたかも、という事実。ハロルドと思いがけず和解できたから、だいぶ浮かれていたみたい。



「あの……? タレント? え? あたしが? 【歌姫】って……あ、あのキラキラ……?」

 戸惑うあたしに、インドラさんは、【歌姫】のタレントについて、懇切丁寧に説明しれくれた。どうも、【歌姫】の能力は、RPGに出て来る吟遊詩人に似ているみたい。呪歌と呼ばれる特殊な歌を歌って、聞いている人間に何らかの影響を及ぼす、っていうアレね。



 吟遊詩人は楽器が必須だけど、【歌姫】の場合、あってもなくても構わないらしい。というより、レベルが上がると、伴奏が勝手につくそうな。どんな仕組み!? と驚けば、どうやら精霊の働きによるものらしい。音って、要は空気の振動だものねえ。

 また、この効果には、この歌、という決まりもないそうだ。効果をイメージできれば、それでいいらしい。これもまた、精霊の働きによるものなのだとか。精霊って、万能なのね。



 そんな訳で【歌姫】の能力を検証しつつ、インドラさんの弟を探す為、タロス迷宮にやって来た次第。はっきり言って、めっちゃ不安で、めっちゃ怖いです。

 三つ子がいて、ちびちゃんがいて、インドラさんがいるって分かってても、ゲームじゃないんだもん! 目の前で、流血とか、怖すぎる! あ、チトセさんは、本日、商売の為の接待なんだそうです。



 チトセさんがいてくれたら、百人力なのに……。ぽつりとこぼせば、

「レディは、私を信用して下さらないのですか?」

「えッ?! あ、いえ……そういう訳ではないんですが……」

 本日のインドラさんは、いつもの執事スタイルではなく、ローブスタイル。ジェ〇イの騎士! と思ったけど、誰にも分かってもらえないので内緒である。



 イケメンに、悲しそうな顔をされると困るわッ。後、近い! 顔、近いから!

 別に、インドラさんが頼りないとか、そういう訳じゃないのよ? でも、まだ、知り合いになって日も浅いですし……と、しどろもどろになりつつ、言い訳する。

 何て言うんだろ? チトセさんて、究極の安全牌のような気がしているのよ。お兄ちゃんと一緒だから、何があっても大丈夫! っていう感じ。



「ちょ、インドラさん、そういうの、ズルイっすよ」

「そーだよ。俺ちゃんたちだって、姫ちゃんのこと、いーなーって思ってんだよ?」

「そうですよ。姫さまみたいに、優しくて──」

「カワイくってさ~」

「逞しいコって、なかなかいないんすからね!?」



 ちょっと待って。あたしは、それほど優しくもないし、可愛くもないってバ。そこはお世辞半分で聞き流すとしても、

「逞しいってナニ!? 褒めてないわよね、それ?!」

 あたしのどこが逞しいっての!? このぷにょんぷにょんの二の腕を見てよ!

「腕力とかじゃなくて、内面がってコト」



「おねえちゃは、ちゅよいじょ! わたちがほしょーしてあげゆ!」

 ぽんと、あたしの足を叩く、ちびちゃん。

「あ、ありがとう」

 うん。褒めてくれているんだろうけど、褒められている気がしないわ。

ここまで、お読みくださりありがとうございました。

 ちっこいのに、存在感はビッグなちびこさん。お仕事中のインドラさんとは、逆ですな(笑)

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