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雑談交じりの対策会議は、堂々と人前で 2

某スーパーで流れている洗脳ソングが、頭から離れません……まだ、10日ほど付き合わねばならず……苦痛。

 苦悩するあたしたちをよそに、インドラさんは、

「あちらでの爵位は、こちらで言う冒険者ランクのようなものですから、気にする必要はありませんよ。王の位を持っていても、これといった役職を持たない方も珍しくありませんし」

 のほほんとした顔で、紅茶のカップを口に運ぶのだった。その穏やかな顔が、今はとっても憎たらしくってよ、インドラさんッ。



彼の話をどこまで信じて良いのか、判断がつかないが、一部の例外を除いて、魔族内での爵位はそれほど強い力を持っていないらしい。日本で言う旧家、名家の人っていう程度の物のようだ。もちろん、それなりに発言権はあるけれど、あくまでそれなりに。

 法力の容量が高いほど、上の爵位を授かるのだそうだ。なので、爵位持ちは多く、家族の爵位はバラバラです、という例も珍しくないのだとか。



「あちらで重要視されるのは、爵位ではなく役職ですよ。爵位が高かろうと、使えない無能に仕事は任せられませんのでね」

 実力主義か。魔族らしいと言えば、魔族らしいですな。

「あの……ミスター? あなたはヴァラコの騎士だと聞いていますが、違うのですか?」

「ヴァラコ共和国の前に住んでいた国の話です。この国とは国交が結ばれておりませんので、混乱を避けるために、手っ取り早く」

 彼が魔族だという事は、あたしたちの一存では話せないので、まだ内緒。



「あ、あのね、ハロルド。わたしの望みは、マザー・ケートもご存知なの。多分、マザーを通して、教皇様もご存知だと思うわ」

「国も教会も黙認している、という訳ですね」

 知らないのは当事者ばかりで、囲い込みは少しずつ進行しているのだ。

 あ、義父に打ち明けていないのは、頼りないからよ。ハロルドくらいしっかりしていてくれたなら──うん、我が家でのあたしの地位はもうちょっとマシだったでしょうよ。



「あのさ、興味本位で聞くんだけど、どうやって公爵だって信じさせたわけ? 国の名前を出したって、知らないでしょ? まさかとは思うけど、ちちんぷいぷい、開けゴマ?」

「さすがにそれは無理ですよ。法術感知がかかっているようなので」

 それがなければ、やりますがって、吹替が聞こえた気がするんだけど、気のせいですよね、インドラさん。



「国交がないので、名前を出したところで、意味がありませんよ。チトセの言う通り、知らないでしょうしね。身分詐称を疑われても、文句は言えません。ですが、これがあれば話は変わってくるかと思います。もしかして、と疑わせる程度には……ね」

 彼がテーブルに乗せたのは、精巧なカメオだった。



 横が4センチ、縦が6センチくらいの楕円形で、周りには蔦をあしらった銀のフレームと、火・水・土・風の表しているのだろう、4色の宝石。中央には魔法陣のような紋章のようなものが浮かび、それを取り囲むように、4つの属性の精霊が描かれている。翡翠色のそれは──

「っ!? これ、法石か?」

 アト様が、信じられないという顔で、テーブルの上のカメオを覗き込む。ハロルドも「まさか、嘘でしょう?!」と、顔から目玉が落ちるんじゃないかっていうぐらいに見開いた。



「このレベルの法石を作れる人間が、公爵位を賜ると同時に、これが身分証明の代わりとして、国に登録されるのです」

 カメオにしたのは、インドラさんの趣味らしい。中の紋章もどきは、台座に彫られているもので、所属している役所と役職を表すものなんだとか。だから、役職が変われば、台座も変わる。



「うっわ……これ、出されたら信じるわ……」

「このレベルの法石は……無理だな。私ではとてもじゃないが、作れない」

「作れる人間がいる事の方に、僕は驚きました……」

 うん。とんでもなく凄い物らしいって事はよく分かった。法石としての価値は、あたしには分からないけど、装飾品としての価値ならば、何となく分かる。最低でも億の値段が付くのは間違いないだろう。



「ちなみに、所属の役所と役職は?」

「それは……いつかのお楽しみにしましょう」

 笑ってごまかしたな、インドラさん。でも、下っ端ではないでしょうね、確実に。最低でも課長クラス。雰囲気は部長クラスだと思う。大臣だって言われても、うなずけるわ。



「私の事は、これくらいにしてリストを参考に、予想を立てましょうか」

 ひらひらと手の中の紙を揺らした時、盛大なファンファーレが聞こえて来た。次のレースが始まるようだ。

「気分転換がてら、移動しようか」

 ため息交じりのアト様の提案を、断る理由はどこにもない。衝撃の事実を聞かされましたからね。



 あたしはハロルドにエスコートされ、レース会場へと向かった。インドラさん以外の人間の足取りが、心持重いように思えるのは、気のせいではないだろう。

 思わず出そうになったため息を何とか堪えたその時、

「マリィ! ここにいたのね、あなた」

「まあ、ベル。ごきげんよう」



 声をかけられて、振り向けば、今日もダリアの君は華やかな装いであった。

 つばの大きな帽子に、赤みの強いオレンジのドレス。スカートの右半分にあしらわれたフリルが素敵だ。

 美少女は、眼福ですね。こんな美少女が友達だなんて、幸せ者ですわ。



 ベルはアト様たちにも挨拶をしてから、あたしを見て

「こんなに素敵な殿方に囲まれているなんて、羨ましくてよ、マリィ」

「そんな事を言わないで、あなたもご一緒にいかが?」

「ぜひ、そうさせて頂戴。お久しぶりね、シオン侯爵子息」

「お久しぶりです、ダリアの君。こちらでお会いできるとは思ってもおりませんでした」



 ベルがハロルドに挨拶をしてくれたので、あたしはこの2人が知り合いなのだと初めて知った。驚いたけど、そんな事はおくびにも出さず、楚々とした佇まいのまま、

「ベル、そちらの紳士を紹介して下さる?」

 彼女をエスコートしている少年に目を向けた。

「キャロル・フォードよ。あたくしの従兄弟で、まだ、正式に発表はしていないけれど、あたくしの婚約者なの」



「お初にお目にかかります、スミレのレディー」

 赤毛の少年は、緊張した面持ちであたしに挨拶をしてくれた。初々しいわね。2歳年下だという少年は、今年学園に入学したばかりなのだそうだ。社交界にデビューしたのも、今年に入ってから。

「初めまして、フォード子爵令息」

 従兄弟でベルの婚約者と言う事は、恐らくは、この少年が次のハーグリーヴス公爵だ。



 ベルの紹介でその事に気付いたのか、アト様が自分を紹介してほしいとベルに望んだため、この場にいる全員が、一応、お互いを知る事となった。

 まさか、キャロル少年も伯爵探偵シリーズの大ファンだったとは驚きである。学園の図書室で行ったお茶会の話を聞いて、とても羨ましかったのだと話してくれた。



 雑談を交わしている間にも、第2レースも順調に終了し、あたしたちは話題を今のレースに変えて、辺境伯の席へ戻った。

 レースだけではなく、美形に囲まれてシアワセね、という話も、こっそりとしたわよ。アト様は、学園の生徒会運営についてや、学園生活についてなどをハロルドとキャロルに尋ねていた。

 インドラさんは、特に学校などには通わなかったそう。意外なのは、チトセさんも学校には通っていなかったという事。お金に苦労したので、お金に関する事だけは覚えが早かったのだとか。



「硬貨が落ちる音だけで、いくら落ちたか分かるよ、俺」

「私が知る限り、外した事はないな」

 すごい特技ですけど、何の役に立つんですかね、それ。あ、余興としてはウケるかも。



 席に落ち着くと、ベルが、何となく予想はつくんだけど、という副音声を付けて、

「そう言えば、さっき王族の席があるあたりが騒がしかったようだけれど、何があったのか知っていて?」

 知っているも何も……現実逃避したいのをこらえて、さっきあった事をベルに話すと、

「愚かね」

 ズバッと一言。あなたのその、衣着せぬ物言いが大好きよ。



「あなたに不利な事は、何も起きていないのであればいいのだけ……いえ、何かあったのね」

 勘が良いですね、ベルさん。誤魔化せそうにないし、クラリスのドレスの事は彼女にも知っていてもらった方が良いような気がしたので、兄の愚行とチトセさんの見解を話した。

「──なるほどね。どこまでも、あの小猿に踊らされたいのね。猿回しならぬ、猿回されじゃないの」

 彼女の意見に、チトセさんとインドラさんは、苦笑い。アト様以下、我が国の貴族男性陣は、ため息をつくばかり。ベルの中で、ミシェルは今も小猿のまま、らしい。



「その中に、ミスター・コーランも含まれているのですよね」

 キャロル少年が、残念そうにため息をついた。

 どうしたのかと思えば、実はダリウス・コーランに憧れていたらしい。

 何でも、入学前の学園見学会で、騎士志望の生徒たちによる訓練風景を見学した事があったそうなのだ。その時、キャロル少年の案内役を務めたのが彼。親切にしてもらったし、こちらの話も真摯に聞いてくれたし、生徒同士の模擬訓練の時の、彼の姿が格好良かったのだとか。

 脳みそに花畑を作る前の彼らしい、エピソードだ。



「入学当初は、よく剣術の指導をして下さいましたし、お願いすれば手合わせもしてくださいました。騎士とは、こういう方の事を言うのだと……なのに、ミスター・コーランはすっかり変わってしまいました……」

 ぐっと涙ぐむ、キャロル少年。このコ、とってもピュアなのね。アト様が、思わずといった様子で手を伸ばし、少年の頭を撫でていた。うん、イイコっていう声が聞こえるようだわ。



「残念仕様になっていくのは、彼だけではないけれど。本当に、心の底から思うわ。あなた、結婚相手を見直すべきよ」

「そうできたら、どんなに良いか」

 実際は、そうできるように、婚約の白紙撤回に向かって外堀を埋めていっている訳ですが。



「ベルは、スミレのレディーのご結婚に反対なのですか?」

「ねえ、キャロル。このまま、あのぼんくらが王冠を頂いたとして、あなた、心から彼に膝を折る事ができて? あたくしはできないし、できそうにもないわ。だから、マリィには身を引いてもらいたいのよ。ご自分の為、国の為にね」



「フォード子爵令息。それは、わたしの意思でもあります。そのためには、やれる事は何だってやるつもりでおりますわ。こちらにいらっしゃる方々は、そんなわたしのワガママを叶えようとして下さっているの。お力をお貸しくださいなどと、図々しい事は申しません。ただ、黙認して頂ければ、それだけで十分なのです」



「スミレのレディー……分かりました。僕もお手伝いさせて下さい。あの方を含め、彼女の側にいる方々は、通すべき筋を間違えてしまったと思っていますから」

「ありがとうございます」

 決断した少年の顔は、とても凛々しくて素敵だ。隣のベルが、誇らしげに微笑んでいたのが、少し羨ましく思う。逆光源氏計画ぷち、って感じね。



 仲間が増えたところで、インドラさんのリストを元に情報操作について検討を開始。

 愚兄とドレスの件については、基本放置。藪を突く必要はナシ、と全員で判断した。

 1人の令嬢に、貴族の令息がべったりとくっついている事は、社交界に広まっている。その中に、キアランが含まれていて、婚約者も放置している事も。


 

 そこで、情報操作ではなく、自分の立ち位置も理解できないような愚かな王子に王位を継承させて良いのか、という疑問を投げかける形を取る事にした。

 同時に、このままでは、あたしが不幸になる事は容易く想像でき、そうなれば、ガイナス聖教と溝ができてしまいかねない、と警鐘を鳴らす。



「あたくし、思うのよ。自分の立場を忘れた愚かな男たちと、自分の立場を理解できない愚かな女。お似合いといえば、お似合いのカップルだって」

 キッツイですね、ベルさん。

ここまで、お読みくださりありがとうございました。

 ベルさんの存在感、知ってたけど、パネエっす。

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