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令嬢のため息の裏で3(ランスロット視点と……)

「伝染源というタレントの事が分かっているのに、我々には打つ手なし、なのか?」

「いいえ。タレントも、法術の一種である、というのが定説ですからね。ある程度の対処方法は、確立されていますよ。ただ、問題の人たちは、万全の手を打てない事と、影響度が強いという事で、どこまで抜けるかは分かりかねます」




「それでも、何もしないよりはマシだろう。タレントが法術の一種、というところは少々納得しかねるものがあるが……」

「あ~、俺も1つ聞いて良い? 伝染源の効果範囲なんだけど。どこまで、通じんの、あれ」

 ああ、それも気になるな。バルバートには伝えていないだろうが、マリエにはリュンポス神の加護があるはずだ。

マリエの幸せとカノジョの幸せは、両立しないであろう事は容易に想像できる。

現状、どちらの力が強く働いているのかと聞かれれば、伝染源の方が強いように思われた。



「マリエールは、自分の存在を認めてもらいたい、自分の居場所が欲しいと願っていた。しかし、それは叶えられずにいた。カノジョが、学園に現れる前からずっと」

「ってぇ、事は距離なんて関係なく、カノジョは、物語風に言うと伏線を発信してたワケ? 悲劇のヒロインぶってたって、マリエさんは言ってたけど……それだけじゃないと思うし……」

 うえええ、とチトセが苦い物を一息に飲み干したような顔をする。



「まず、最初の質問から。我々が特にこれといって意識せずに、手足を動かせるように、タレントを持つ者は、その能力に関する事だけ、手足を動かすように行使する事が可能なのです。筆にインクを付けて絵を描くよりも、スタンプにインクを付けて押した方が何倍も効率的でしょう? それと同じです」

 伝染源の元になる法術は、暗示や洗脳、催眠といった類の法術だろうとバルバートが付け加える。



 次にチトセがたずねた効果範囲についてだが、これについては検証が難しく、よく分かっていないのが現状なのだそうだ。

「洗脳系の法術は、アストラル・サイド……精神世界を仲介して対象者に影響を及ぼすようです。精神世界では物理的な距離など何の意味もなしませんし、直接的な面識も必須条件ではありませんから、カノジョがいつの段階で今のような状況を望んでいたかによっては、面識がなくともレディや彼らに影響を与えていた可能性があります」



「うっわ、マジで? あ~……でも、あのお嬢さんが昔っから、そんな事を言ってたって、どっかで聞いたような気がする。あれ? でも、じゃあ、俺は? マリエさん曰く、俺も坊やたちと同じ括りン中にいるらしいよ?」

「ドラゴン級の男と張り合える10代の娘が、町中で暮らしている訳がなかろう。お前に向けて、邪な想いを発信していたとしても、届く訳がないと断言できるぞ」



「……その発言には、そこはかとない悪意を感じる……」

 ジト目で睨みつけられたが、無視だ、無視。私は間違ってなぞ、いない。

「いつまでも平行線をたどりそうな議論は、時間の無駄ですよ」

 さり気ないので、さらっと流しそうになるが、何気に君も毒舌だな、バルバート。



「また、天候などには影響しませんし、精霊に植物、意思なき物質も同じです。ただ、動物については何とも……」

 検証が難しいので、動物にも影響する、しないは意見が真っ二つに分かれているそうだ。それもそうだろう。確かに、どう検証すれば良いのか、方法が難しい。



「最初の質問の答えに戻ります。法術の延長である以上、対策を取る事は可能です。伝染源の能力を封じるのに使われているのは、主に反射や攪乱の力を付与した法具です」

 反射は法術の効果を跳ね返すもの。攪乱は、法術の発動を邪魔する効果がある。

「攪乱だと気分を悪くする場合がありますので、使用されているのは反射が中心です。できれば、ピアスや髪飾り、ペンダントといった頭部に近い装飾品が望ましいのですが──」



「学園の服装規定があるから、どうだろうな? それに女性ならともかく、男が頭部に装飾品を付けることはまれだし……ペンダントか、イヤーカフスがせいぜいといったところか」

「影響を受けている人間が身に着けるのであれば、バングルや指輪などでも大丈夫ですよ」

「どっちにしろ、渡す口実って言うのが問題じゃね? 特に野郎ども」

 確かに。



「と、いう理由で装身具を用意するのは難しそうなので、とりあえず制服に特殊な糸で刺繍を施して、反射の法具にしようかと考えています」

「っつか、もうすぐ一式揃うけどね、制服」

 何を言っても今更だが、本当にしれっと様々な物が出て来るな、お前はっ!



「対応が早くて大助かりだが、予算という都合がある事を忘れていないか?」

 仮にも国の将来を左右する計画に、他人の懐をあてにはできない。

 もちろん、借りてでも出来得る限りの手は打ちたいし、貸してくれるのであれば、借りられるだけ借りたいところだ。しかし、何事にも限度という物がある。



「そちらに請求させていただくのは、制服代だけです」

「待て。法具は金食い虫だろう? なのに、制服代だけだと?」

 法具の素材自体が、モンスターの部位であったり、希少な植物や、高価な貴金属であったりと金がかかる。技術料を始めとする人件費も同様だ。



「糸をはじめとした素材も全て、どこかの商会が大量に倉庫に眠らせていましてね……」

 バルバートが、私から視線を外した。彼のやさぐれた視線は、誰も見ていないが、分かる。

 どこかの商会とは、辺境にある『リ』で始まるあそこしかあるまい。常々、あそこの『リ』は、理不尽の『リ』だと思っている私がいる。



「クレシェント・ドラゴンと対等な取引をする人間がいるとは思いませんでしたよ。何ですか、年に一度の拳の語らいって──鱗も牙も爪も、血液、涙にいたるまで、どれだけ手に入れるのに苦労するとっ……」

 どらごん素材……考えるのはよそう。真面目に考えれば、国庫そのものが破綻しかねない。



「おまけにミラージュ・キャタピラーの絹糸までっ……!」

 聞いた事はないが、希少な品なのだろう。私の心の安寧の為にも聞かなかったことにするのが一番だと思う。ちらりとチトセを伺えば、こちらは「いやあ、不良在庫が減って助かっちゃった」とすっきりした様子。確かに、どんなに希少な品でも売れなければ意味がない。

 ギリギリと歯ぎしりが聞こえてきそうなバルバートと違い、チトセの表情はどこまでも晴れやかだ。



「……本当に制服代だけでいいのか?」

「いいよ~。ウチは不良在庫が減って、倉庫が片付く。インドラは、珍しい素材が手に入って、それの検証、研究ができる。ランは坊やたちの脳発酵の悪化を食い止められそう。良い事尽くめだもん」

 そうか? いや、王家に借りが作れるという点も大きいか。



「問題は制服のすり替えかなあ? 洗濯ってどうしてるんだっけ?」

「寮付きのランドリーメイドがいるはずだ。基本、チトセが考えているタイミングでのすり替えで構わないと思うが、カノジョについては少し変則的な方が良くないか?」

「と、おっしゃいますと?」

 首を傾げるバルバートと違い、チトセは悪い顔をして

「あ~……制服をわざと汚したりとか、切り刻んじゃったりとか? 身分差とか相手がいるオトコとの恋路に付き物の嫌がらせってヤツ? ドラマチックにしてやろうって?」

「まあ、そんなところだ。疑いの目がマリエに向いて、周りが騒がしくなるだろうが……」



「そのあたりは何とかなるでしょう。レディには、レディ・イザベルという頼もしい味方もおいでのようですし──」

「マリエの耳には入れておいてくれ」

「はい。確かに」







 うふふふふ。何度見ても、いい気分だわあ。好・感・度・MAX!

 キアランもヴィクトリアスも、オズワルドもグレッグもダリウスも、みィ~んな、MAX!

 能力パラメータを見られないのは、残念だけど、好感度だけでも見られるんだから、よしとしなくちゃ。



 ゲームもいよいよ終盤だし、MAXまで上がった好感度は、もうほとんど下がらないし、後は卒業パーティーの断罪イベントを起こせば、逆ハーENDは、ほぼ確定! 嬉しいけど、それまでの間がねえ……ちょっとだらけちゃうって言うか……別にいいんだけど。

 なぁんて、思ってた時期があたしにもありました。でも、今はそんな事思ってないわ。



 だって、追加ディスクの攻略キャラに会っちゃったのよ! これは、もう攻略するっきゃないでしょ! それに、彼らと会った事で、チャーリーとの出会いイベントも復活よ!

 追加ディスクに登場する新キャラは、全部で6人。

 隠れオネエの辺境伯スチュアート。三つ子の冒険者、カーン、キーン、クーン。それから、中盤に登場する魔族のインドラ。それに、タロス迷宮の妖精さん!



 で、新キャラは、ファン・ブルのセーブデータがあると、チャーリーを通じて紹介される。

 セーブデータがないと、初対面のため、好感度がかなり低い状態から始まるらしいのよね。

 同じ学園の生徒っていう、仲間意識みたいなのもない、全くの初対面だから、っていうのがその理由らしいわ。ま、言われてみればそうかも知れないわよねえ。



 だって、スチュアートは辺境伯で、三つ子は同年代だけど、学園には通わない、冒険者。インドラは魔族だし──セーブデータがないと、彼ってバ、マリエールの護衛として登場するのよ、信じられない! 妖精さんは、タロス迷宮を攻略して、外へ連れ出さないとダメだし。



 セーブデータなしだと、イベントを起こすのも一苦労なのも、当然かも知れないわ。くぅ~……チャーリーとの出会いイベントを失敗しちゃったのが、つくづく悔やまれるわ。

 でもでも、キアランたちもそうだったけど、新キャラたちも、ヒロインの天真爛漫さ、裏表のない明るさ、努力家で健気で、優しいトコロに惹かれていくのよ。



 その無邪気さに癒される(byスチュアート)

 負けられない、一緒に頑張りたいって思うんだ(by三つ子)

 貴方のいじらしさに惹かれ、守りたいと思うようになったのです(byインドラ)

 頑張り屋の君をね、応援したいって思って(by妖精さん)

 ──ってね!



 そ・し・て、何より重要なのは、この追加ディスクには、キアランたちの逆ハーとは別に、逆ハーEND2が存在するって事! こっちの逆ハーメンバーは、新しい攻略キャラプラス、チャーリーなのよ! これは、もう、ヤルッきゃないでしょ! 

 そう、あたしが目指すのは、禁断のダブル逆ハーENDよ! 大逆ハーはかっこ悪いから、ダブル逆ハーに訂正。



 雑誌の攻略記事によると、追加キャラとの交流を通じて、チャーリーとの出会いイベントリベンジ、があるって事だったから、可能性は絶対にあるのよ!

 だらけてなんて、いられないの! キアランたちに気を配りつつ、追加キャラたちの好感度を上げなくちゃ。乙女の夢は、大きくなくちゃ!



 そんな訳で、次のターニングポイントは、今度の週末にある、競馬場イベントよ。

 ダリウスを応援して~、キアランとの好感度がMAXだから、王妃様にも紹介してもらえるの。王妃様は、あたしを「あら、かわいらしいお嬢さんだこと」って褒めてくれるのよ。



 その後、キアランとは別行動を取ると、チャーリーとスチュアートに出会えるの。

 2人は知り合いだから、片方に会うと必ずもう片方にも会えるのよね。ここでチャーリーに会っておかないと、次の機会は会えるかどうか分からないから、何としてでも絶対に会わないと!



 ああ、それからマリエールには注意しなくちゃ。あの女はまだ、一応、キアランの婚約者だから、競馬場にも来ているのよね。この女、図々しくも王妃様と一緒にいて、キアランに紹介されるあたしを睨むだけじゃなくて「ここはあなたが来て良い場所ではないと、分かっていらっしゃるの?」なんて、イヤミを言うのよ。ほんッと、ムカつく! こんな女の護衛をしなくちゃいけないインドラが可哀相だわ。



 他の悪役令嬢と会う可能性もあって、こっちはこっちでムカつくけど、マリエールに比べたら、まだカワイイもんよ。

 マリエールなんて、侯爵令嬢です、って取り澄ました顔してるけど、アイツ、侯爵サマの浮気でできた子供でしょ!? 素性が怪しいくせして、お高く留まってんじゃないわよ! 

 ホント、ゲームの時もそうだったけど、直で会っても、マジ、嫌い。生理的にダメってヤツね。なのに、何であんなのが『スミレのレディー』なんて呼ばれてんだか。



 あれがスミレなら、あたしはユリかバラでしょ!

 ユリとバラのレディー……『レディ・リリーローズ』って悪くないわね。誰か、そう呼んでくれないかしら。


ここまで、お読みくださり、ありがとうございました。

えーと……長くなってしまった野郎どもの後に、毒花が咲きました……

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