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布石の一手はギルドの中で 1

8/8 サブタイトル変更いたしました。

 今日は、とある場所で人と待ち合わせをしている。

 とある場所とは、学園にほど近い、南地区の冒険者ギルドだ。

 あたし、冒険者ギルドに行くのは、初めてなのよ。昨夜は興奮しすぎて、中々寝付けなかったのよね。小学生か! って思うけど、しょうがないじゃない。だって、冒険者ギルドって聞いて、ワクワクしないオタク趣味人間っていないと思うの。



 とはいえ、冒険者として登録、活動する訳ではないので、恰好はシンプル。白のドレスシャツに、紺色のスカート。水色と青のチェック柄リボンタイがポイント。帽子と日傘は、レディの必須アイテムだから、持ってますよー。



 屋敷から馬車を出してもらって、冒険者ギルドの前で下ろしてもらう。今日は、ジャスミンたちではなく、従者のエルンストがついて来ている。ジャスミンたちじゃ、護衛は無理だからね。エルンストも強いって話は聞かないけど、女の人よりは……ね。



 本日も晴天なり。冒険者ギルドは、南地区の大通りから一本横道にそれたところにあった。大通りは沢山の人が行き来しているけれど、横道に入るととたんに通行量が減っている。

 それでも、冒険者ギルドのあたりだけは賑やかで、絶えず人が出入りしているようだ。出入りしている人たちは、男女年齢を問わず、ほぼ全員がアイアム冒険者! と主張している。



 さて、マリエールと同い年くらいの三つ子はいるかしら──っと、いたわ。向こうもこちらに気付いたみたいで、剣士風の恰好をした彼が、

「おはようございます。えっと……マリエールさん?」

「ええ。おはよう。カーンさんで良いのかしら?」

「そうです。さん、なんて要りませんよ。俺らの方が身分下だし──」

 呼び捨ててほしいと言われたので、その通りにさせてもらう。



 カーンは、2人の弟、キーンとクーンを紹介してくれた。この3人、見た目は本当にそっくり。髪型まで、同じなのよ。仲良しなのねえ。

 見分け方は、泣き黒子の位置だそうで、カーンが右、キーンは両方、クーンが左にあると言う。



 他に違うところって言えば、選んだジョブによる装備の差くらいかしら。

 カーンは剣士らしく、鎧と剣を装備。キーンは法術使いだそうで、法術の発動媒体兼鈍器の杖とローブ。クーンは盗賊──実際はレンジャーの方が正しいらしいのだけれど、盗賊の方がカッコイイ、と本人が主張──で、いたって軽装。腰に差しているのは短剣だ。



「姫さま、今日はよろしくお願いします」

 キーンがそう言って会釈してくれたので、あたしも「こちらこそ」と返事をしようとしたその時──

「ちぇいやー!」

 彼が袖を通しているローブが、大きくまくり上がった。とある映画のワンシーンが頭の中によぎったけれども──あれと違って、犯人は──



「ちびちゃん!?」

「シュジュメーズだけ、おねえちゃとあしょぶなんて、じゅりゅいまね、ゆゆしゃんじょ!」

「「「ボス?!」」」

 え? ちびちゃん、ボスなの? 現れたちびちゃんだけでなく、三つ子の言葉にもびっくりだ。



 三つ子は、ちびちゃんがキーンのローブの下に隠れていた事に驚き、それに全く気付かなかった自分たちにも驚いていた。

「ふははははー。みじゅくもにょめ」

 そんな彼らに対し、ちびちゃんは小鼻をぷくっ、と膨らませてドヤ顔をしている。えへんと胸を張って、三つ子が慌てているのを見て満足したのか、

「おねえちゃ、わたちもいっちょにあしょんでくれゆ?」

 あたしの方を見て、こてっと首を傾げて、おねだりしてきた。



 その仕草、計算しているわよね? ちびちゃん。今日のドレスもまたかわいいのよ! エキゾチックな花柄のワンピースは膝上5センチ。ワンピースの裾からは、ドロワースの一部がのぞいていている。

 つい、ほっこりとなごみたくなるのだけれど、そういう場合じゃないのよね。



「あのね、ちびちゃん。あたしたち、遊びに来た訳じゃないのよ?」

「あしょばないの?」

 申し訳なく思いながら、ええと頷けば、ちびちゃんは振り返り、「ほんちょに?」と三つ子にも確認する。三つ子は、「マジっす」「僕たち、用があるんで」「姫ちゃんと遊ぼうって発想自体、俺ちゃんたちにナイから」口々に、遊びに来たわけじゃないと否定した。



「あ……あしょばないにょか……」

 しょーぼんと露骨に肩を落としたちびちゃん。つまらなさそうに、コンッと歩道に転がっていた石を蹴る。ああ、とっても申し訳ない気持ちになってしまうわ。

 それは三つ子も同じみたいで、どうする? と目配せしあっていた。1人で帰らせる訳にもいかないし、でも、自分たちにはこれから用事があるし、と困惑顔を浮かべている。



「ねえ、エルンスト。視察の後は夜会まで時間があったわよね?」

「はい。おっしゃる通りですが……」

 今夜、招かれている夜会は社交上、顔を見せる必要があるもので、楽しむものじゃない。夜会が開かれている時間は長いし、多少遅れたって問題ないし。今のシーズン、夜会や舞踏会の梯子は当たり前だから、遅れて来るのも当たり前だしね。

 よし。という訳だから、日が暮れるくらいに戻れば、大丈夫だろう。



 あたしは膝を折ってちびちゃんと目線を合わせ、

「ねえ、ちびちゃん。あたしの視察と3人の用事が終わるまで、いい子にしていられる?」

「いいこ? できゆけど……なんで?」

「用事が終わった後は、皆でお昼ごはんを食べに行きましょう。その後、このあたりのお店を見て回るのは、どうかしら?」



 南地区は、学園があるため、学生向けの店舗も多い。王都観光スポットの1つにもなっているし、散策するにはちょうどいいだろう。

「ごはんとおしゃんぽ! いく! わたち、いいこちてゆから、みんにゃでいこう!」

 ちびちゃんの目が、きらきらと輝いた。

「決まりね」

 あたしはちびちゃんの頭を一撫でして立ち上がり、エルンストに昼食の手配をお願いした。陽気な羊の歌声亭で良いかと確認されたので、了承する。



「あの……いいんすか、姫さん」

「もちろんよ。あなたたちが目的遂行したお祝いもかねているのだから、きちんと結果を出してちょうだいね?」

「お、おうっ! 任せてくれよ!」

 クーンがどんと胸を叩いて請け負ってくれる。カーンとキーンも控えめながら「やります」と頷いてくれた。信じてるからね?



 それでは、気を取り直して、ギルドの中へ入りますか。

 ちびちゃんと手を繋いで、あたしは冒険者ギルドへ足を踏み入れた。

 ギルドの外観は、武骨なレンガ造りの二階建て。羽根飾りのついた盾に、ブーツに立てかけるようにして置かれた剣の紋章が描かれた看板が、掲げられており、同じ紋章が観音開きの扉にも描かれていた。これが、冒険者ギルドの紋章らしい。



 扉をくぐっての第一印象は、銀行や郵便局みたい、だった。入り口の真正面には受付窓口が5つほど並び、その手前は背の高い机と椅子が並んでいる。

 この机と椅子が置かれたスペースには、あたしより少し年下くらいのコから、義父くらいの年齢の人まで、様々な年齢の人が集まっていて、いくつもの小グループを作り、話をしているようだ。



 とりあえず、空いている窓口に名前を告げ、このギルドの責任者であるテュッセンと面会の約束がある事を伝える。窓口に座っていた女性は「少々お待ちください」と言いおいて、カウンターの奥、カウンター業務の責任者らしき人の机に向かった。

 そこに座っていたのは、キャリアウーマン風の女性だ。年は20代半ばくらい。銀縁メガネの知的美人は、さっそうとした足取りでカウンターの内部から出てくると、

「お待ちしておりました。レディ・マリエール」

 貴族令嬢並のパーフェクトな作法で頭を下げてくれた。



 ならば、こちらも完璧に挨拶を返さねば。気合が入るわ。

「お忙しい中、お時間を割いていただき、恐縮ですわ。本日は、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。では、ご案内いたしますわ」

 大歓迎という雰囲気ではなかったけれど、彼女は微笑んでくれて、あちらですと手で行き先を示してくれた。もちろん、きちんと先導してくれたわよ? 



 案内されたのは2階の部屋で、ドアに第1応接室というプレートが埋め込まれていた。

「ようこそ、お待ちしておりましたぞ。レディ・マリエール」

「本日はこちらのご無理を聞いていただき、感謝いたします」

 部屋の中には、40歳くらいの男性が2人、ソファーに腰を下ろしていた。1人はギルド長のテュッセンさん。もう1人は、王都のギルドマスターをしているクーパーさんだそうです。

 立ち上がって挨拶をしてくれた2人と握手を交わし、勧められたソファーに腰を下ろす。



「よいちょ」

 ちびちゃんにはちょっと大きいみたいで、ソファーに両手をついてよじ登っていた。その動作もかわいい。もう、ちびちゃんてば、何をしてもかわいいんだから。

 テュッセンさんとクーパーさんは、何でこんな小さい子供が? と目を丸くしていている。



 その視線に気づいたちびちゃんは、

「んぉ? あ、わたちのこちょはきにちないでいーよ。いいこちてたや、おねえちゃとシュジューメジュとおひゆごはんたべにいくにょ」

 ぱたぱたと顔の前で手をふった。



 テュッセンさんは「はあ……」と生返事。クーパーさんも「そういう事なら」と、話を進めてくれる。

「──まず、そこの3人にランクアップ試験を受けさせてほしい、という話ですが……」

「ええ、その通りですわ。ギルドの規約を確認いたしましたが、いくつかの条件をクリアできれば、受験資格を満たしていなくても、受けられるとか」

「それは……そうですが……しかし、その条件をクリアできる者など──」

「ご心配には及びませんわ。必要な物は、こちらに持参いたしております」



 テュッセンさんの言葉を半ば無視して、あたしはバッグの中から封書を取り出し、テーブルの上に並べていく。

「これは父、シオン侯爵の推薦状。こちらがルーベンス辺境伯とハーグリーヴス公爵。それから、キアラン殿下とランスロット殿下から頂いた推薦状ですわ」

「っな……!?」

 ランクアップ試験は、ギルドからの依頼をこなして貯めたランクポイントが一定基準を満たすか、貴族からの推薦状を2通用意し、なおかつ受験費用を用立てる事で受けられるとギルドの規定に定められている。ずいぶん大昔の規定だけど、今も生きているので、問題ないはずだ。2通どころか、5通もあるし。

 これだけ揃えられたのには、もちろん、からくりがある。単純な仕掛けだけどね。



 さらに、特別試験に必要な金銭も三つ子が「現金じゃねえけど」と前置きをして、テーブルの上に封を解いた、小袋を乗せた。中身はルビーやサファイアなどの宝石である。

「……確かに、条件は満たしていますな。分かりました。それでは、受験資格ありとみなして、試験をいたしましょう。イリヤ、頼む」

 テュッセンさんに言われて了承の返事をしたのは、銀縁メガネの知的美人だった。



「では、試験場の方へご案内いたしますので、どうぞ、こちらへ」

 彼女が三つ子を部屋の外へ促すと、

「わたちもいく! シュジュメージュのかっくいーとこ、みてゆ!」

 ちびちゃんがソファーからおりた。



 試験は実戦形式だと聞いているので、ちびちゃんが一緒だと危ないから、ついて行かない方が良いと思ったのだけれど、

「だったら、かっこ悪い所は見せらんねーな」

 何だか三つ子がすっごくやる気です。

 3人同時に試験をする訳ではないので、ちびちゃんの面倒を見つつ、試験を受けると本人たちが言うので、そういう事になってしまった。



 ……大丈夫かしら? 4人は知的美人について、退室。う~ん、分かっていたけど、何だか寂しい気もするわ。

 それでも、こんな機会はめったにないわけだし、しっかり勉強させてもらわなくては。

 あたしも三つ子に負けないよう、がんばるわっ。


ここまで、お読みくださりありがとうございました。

次は晩さん会だと楽しみにしていて下さった方、御免なさい。晩さん会はスルーしました。……前にもありましたね、こんな事。

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