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人生最大の博打は、卒業パーティーで 7

「でた……!」

「でたねえ……。あれって、法術無効と物理無効がかかってるんだっけ?」

「ん~ん。ほぼ法術無効とほぼ物理無効かな。後、サイズの自動調整とか清潔とか……」

「何それ。ほぼって、何よ。ほぼって」

「世の中、絶対はない、ということですよ。以前、法術無効の防具に対抗して、法術無効無効の法具を作り出した職人がおりまして──」

「何だそれ。ギャグか」

 しかしまあ、法術無効も結局は法術なんだから、そういうのもありなのか?



「じゃあ、つぎは、むこーむこーむこーだね。イッちゃ……」

「大当たりですよ、ちびこ。そのような感じで、鼬ごっこになってしまうので、わざと抜け穴を作って、無効シリーズを封じるようにしているのです」

「ってゆーかね、勘違いしてるっぽいけど、法術や物理でチョーカーを壊されないように施したものであって、中身までは守らないんだよ?」

「鬼畜仕様ってそういう意味!?」



 法術で壊そうと思ったら、チョーカー全体に同時に攻撃を仕掛けなきゃいけないらしい。つまり、範囲系の法術。それも結構、威力の高いヤツ。ただし、中身は守らないので──

「鬼か──」

「物理的に壊す場合はねえ、櫛の歯一本分くらいの丸をピンポイントで貫かなきゃいけないんだよねえ」

「つやぬくのー?」

 チョーカーを? でもさ、中身は守らないんでしょ? だったら──

「悪魔か──」



「ちなみに、鍵はありますが、作った本人にもどれが鍵かは分からないそうです」

「うん。我が君に5人の血をサンプルとして送ってもらったんだけど……」

 その5人が誰だかは、知らないらしい。

「外道な──」

「ひどーだ」

 外道で非道。さすが鬼畜仕様。とんでもねーな……。感心していいのか呆れていいのか、反応に困る。それでも、俺たちがどう思っていようが、事態は勝手に進んでいく。



 こっちで話している間にも、チョーカーはお嬢さんに装着される。お嬢さんは、暴れて抵抗してたけど、実力と経験の差は埋めることができなかったみたい。

 ま、そりゃそうか。相手は、国内トップレベルの人間だもん。抵抗なんて意味ないし。

『ちょっ……!? 何なのよ、コレぇっ?!』

 チョーカーと首の隙間に指を突っ込んで引っ張ってみたり、首の後ろに手をやって金具がないか探したりして、何とか首輪が外せないかともがくお嬢さん。王子サマたちに、『ねえ、コレ取ってよ!』と訴えるけど……誰も聞いちゃいない。

 ショックなのは分かるけど、受けすぎなんじゃないの? という気もする。



『実はね、あたくしたち、あなたに1つだけ謝らなくてはいけないことがあるのよ』

 お嬢さんの反応は、完全無視をして、マムがため息をついた。

『あなたが、精霊の語り部だということに、あたくしたちがもっと早く気付いていれば、色々と教えられたのでしょうけれど……ごめんなさいね』

 前半は、ウソです。タレントのことは公表できないので、精霊シリーズの1つにすることでごまかそう、という方針。何かそれっぽい言葉をひねり出して、語り部ってことになった。



『なっ……何を言ってるの? 精霊の語り部? 何ソレ……あ、あたしもマリエールと同じだって言うの?!』

『同じ、ではないわね。似ているけれど、違うものよ。詳しく説明してあげてもいいけれど、聞いたところで、あなたを指導できる人間がいないもの。聞くだけ無駄ね。あたくしたちは、語り部の力を把握したうえで、それを野放しにはできないと判断したの』

『な、何よ、こんな物なくたって、あたしは自分で力をコントロールできるわ!』

『できるとは思えないから、それを付けさせてもらったのよ。それは、力を封じるための物よ』

 トントンと自分の首を指先で叩くマム。



『法術でも物理でも壊す事が出来ない特別製よ。日付が変わると、自動で清潔の法術が発動するようになっているから、不潔にはならないし、サイズの自動調整も付いているから、首がしまって息ができない、というようなことにはならなくてよ。』

『なんっ……! 何で、出来ないって決めつける訳!?』

 お嬢さんはキャンキャン吠えたてるけど……弱い犬ほどよく吠えるっていう、あれにしか見えないね。マムは、少し眉間にしわを寄せるだけで、全く動じていない。



『あなたの今までの行いから、そう判断したの。恨むなら、恨んでくれてよくてよ? それで、あなたの気が済むのなら──』

 恨まれたところで、痛くも痒くもないけれど、って聞こえてくるね。

 あのお嬢さんは、良くも悪くも恐れ知らずだった。

 普通は、何でも自分の思い通りにいくことをおかしいと思うだろうし、それを恐ろしく思うもんだ。例えそれが、良い思いをするものだったとしても、それが続けば怖くなる。人生は、常に上向きでいけるわけじゃないからね。必ず、下向きになる時がくるんだ。

 あのお嬢さんは、自分で落差を広げていっただけ。自業自得だよね。



『ああ、そうそう。忘れるところだったわ。猊下からあなたに伝言を預かっているの』

「伝言? 何だろ? 聞いてる?」

「いえ、存じません。そもそも、猊下からお言葉があること自体、驚きです」

「だよねえ」

「なんだりょね?」

 外野4人が首を傾げれば、

『リセットも2周目もない。ハルデュスのゲームは、これで終わり。──だそうよ。あたくしには、何のことだかさっぱり分からないけど……あなたには、分かるのかしら?』



『っな……!?』

 マムから伝言を伝え聞いたお嬢さんは、スカートの横の縫い目あたりに手をやると、そこから手のひらサイズの板を引っ張り出してきて、表面を指先でなぞり始めた。

「……ドレスにポケット? いや、いいんだけど……」

「あれ、何だろうね。見たことない」

「報告にあった、1人になると確認している板状の何か、でしょうか?」

 角度的な問題で、お嬢さんの手元を見ることはできない。あの板がどんな物なのかは、全く分からなくて、やきもきしていたら、

『ちょ……何よっ、これっ!? 追放バッドエンドって……こんなラスト、ゲームにはなかったはずよっ?!』



 親切にもお嬢さんが解説してくれた。普通は分からない解説だけど、マリエさんからファンタジック・ノーブルとかいうゲームの話を聞いていた俺には、何となく理解できる。

『ちょ、えっ?! なっ、何で……っ!?』

「板が消えた……っ!」

 ゲームが終わったから、板も消えたってことかな? ハルデュスは、死者の国の王であると同時に、トリックスターのような一面も持つ神だ。この神は、フットワークが軽く、気まぐれに加護を与えては、その人間の生きざまを眺めては楽しんでいると言われている。

「ハルデュスの名前が出てきたということは……遊ばれていたのかも知れませんね」



 インドラが言うように、今までうつろだった少年たちの目が光を取り戻し始め、

『……ミシェル……お前……何だその姿は──っ?!』

『え? な、何? 何かへ……ちょ、何これぇっ?!』

 王子サマに言われ、お嬢さんが絶叫する。一体何に驚いているんだろうと思いきや、

『マ、マリ……マリエールよ! マリエールが、あたしをこんな風にしたんだわ!』

 お嬢さんの視線が、自分の二の腕へ交互に向けられているので、絶叫した理由が分かった。あのマッスルボディがハルデュスのお遊びのせいで、目に入ってなかったんだね。

 筋肉は一日にしてならず。そもそも、どうやって君をそんな風にしたって言うんだか。



『証拠もないのに、何を言っているの。ちっとも学習していないのね。呆れた』

 マムはため息をつくと、控えていた部下に何か指示を出して、退室していった。

 残された少年少女は、騙したのかとか何とか、罵り合っている。まあ何と醜いことで。泥沼化し始めた頃、彼らは急にパタパタと倒れ始めた。

『はあ~……。これで静かになったな……』

 どうやら、眠りの法術をかけたらしい。隙だらけだったから、簡単にかかったんだろう。部下の人たちは、手際よく少年少女を運び出していった。



「あ、マリエさんが歌ってるね」

 かすかに聞こえてくる歌声は、耳に心地よく……エンディングとしてはちょうどよいタイミングだと思う。


ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

 してやったりを目指していたはずが、こうなりました。してやったりではなく、墓穴掘りご苦労さんでしたね。──どうしてこうなった……。

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