表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/138

人生最大の博打は、卒業パーティーで 5

「しゅごいものをみてちまった……!」

 椅子から腰を浮かせ、ちびちゃんは、机の上に乗せた両手で体を支えている。腕がプルプルと震えているのは──怖かったとかそういうんじゃなくて、

「あにょひと、かっちょいい! おーとのおんにゃのひともやゆもんだ」

 感動(?)しているっぽい。う~ん。感動するところじゃないと思うんだけど。



 そうこうしている間にも、ダンスフロアから人はいなくなっており……結果、キアランとミシェル、ダリウス、グレッグ、オズワルドの5人だけになりました。

 この後、どうするんだろう? 他人事のように思いながら、紅茶を一口。

 あたしは、チトセさんたちとここを出ることになるんだろうけど。ここを出たら、屋敷に寄って荷物を受け取って──と、これからの予定を考えていたら、コンコンとドアをノックする音が。



 振り返ったあたしに待ったをかけたインドラさん。彼が席を立って、ドアのもとへ行く。2、3言葉のやり取りがあって、

「レディ、お迎えが参りましたよ」

 インドラさんがドアを開ければ、

「ハロルド!?」

 少し前の出来事を再現するかのように、笑みを浮かべた弟がいる。

「お待たせしました、姉上。卒業パーティーの続きと参りましょう」

「えぇ? ど、どういうこと?」

 弟はニコニコと楽しそうに笑いながら、あたしの手を取り、椅子から立たせる。



「いてら~」

「いちぇら~」

 振り返れば、チトセさんとちびちゃんが、笑い顔で手を振っていた。インドラさんとシャクラさんからは、

「楽しんで来てください」

「これからが本番だってー」

 えぇ? どういうことなの? クエスチョンマークが、頭の上でフレンチカンカンを踊ってるわ。訳の分からないまま、ハロルドに促され、部屋を出る。



「姉上、生徒会長からサプライズの件を聞いたでしょう?」

「え? あ……! えっ、じゃあ、あれって全部、織り込み済みだったの?」

「もちろんです。お客様にも、招待状にはそのように──」

 ハプニングが起きる可能性があり、それの事と次第によっては生徒が退出すること。そうなれば、卒業パーティーどころではないので、お客様方も退出いただき、学園の敷地内にある教会の方へ移動をお願いすること。教会では、保護者会ガーデンパーティーの用意をしているので、そちらの方に参加して頂ければ……という案内をしているのだそうだ。



「……あたしが言うのも何だけど、よくそんな予算を確保できたわね……」

「ビスマルク閣下から、寄付をいただきました」

「まあ! ビスマルク閣下が? 他国の学園に?」

 と驚いたものの、実は閣下の懐はちっとも痛んでいないらしい。というのも、先日の狩りでゲットしたトライデントホーンの売却金をそのまま寄付して下さったのだとか。

「ちびこには負けていらない、とのことで」

 幼児のぽっこりキューピー腹に負けるような、貧弱な腹はしとらんとかなんとか。分かるような、分からないような言い分である。



 その上さらに、帰郷の旅に出た三つ子たちからもガントレットバッファローが3頭、届けられたそうだ。

「解体前の3頭がそっくりそのまま届けられたので、女子役員が卒倒しかけましたが……」

 何をやってるの、何を。ハロルドは、面白そうにクスクス笑ってるけど、笑いごとじゃないわ。……あ、分かった。あの村なら、解体できない人の方が少ないから。村に送る感覚でそのまま送ったのね……。

「カーンたちは、変なトコロが抜けていますね」

「本当にね……」

 登録してて良かった、冒険者ギルド。



 ──という訳で、生徒会役員を驚かせた、ガントレットバッファローは、ハロルドとノートン少年がギルドへ持って行って、肉を食材として確保し、他の部位を売却。今日の予算確保、と相成ったそうである。

「学園としては異例ですが、今年の卒業パーティーは、生徒だけで行うことにしました」

 大きく開いたドアの向こうには、つい先ほどお別れをしたばかりの生徒たちがいる。

 みなさん、あたしに気付くと、労わりがこもった微笑みを向けて下さった。



「良かった……」

「姉上?」

 ポロリ、涙がこぼれる。

「良かった。本当に良かった……みなさまには関係ないのに、一生に一度しかない卒業パーティーなのに、台無しになってしまうから──申し訳なく思っていて……」

 特に女性は、ドレス選びも入念に行っていたはずだ。ドレス選びにかけた時間や、ドレスにかけたお金を全部無駄にさせてしまうと思うと、とても心苦しかったのだ。





「──はい。マリエさんの方は無事、大団円って感じにおさまったみたいだね」

「そのようですね。やはり、ハロルドとミスター・ノートンをこちら側に引き入れられたことが功を奏しました。レディには、沢山の良い思い出を作っていただきたいものです」

 カメラは戻って、こちら別室で待機中のチトセ君です。王子サマたち、観察なぅ。実況、俺。解説は、インドラとシャクラの双子兄弟。特別ゲストはちびこさん──。



「ちーちゃ、こにょフユーチュタユト、おいちーの。しゅごく」

「…………さよか…………」

 後で差し入れしてくれたハロルドにお礼言おうね。うん、タルト生地のカスが口の周りについてるから。それ、拭いて。



 さて、ダンスフロアを映す画面には、剣呑な雰囲気のランが登場していた。その後ろには、マムことマザー・ケートと3人の護衛、事務官っぽい人が2人。

『──やってくれたな、キアラン』

『兄、上……』

 物凄く殺気立っちゃってるもんだから、王子サマ、後ずさり。あ、騎士のコは、治癒の法術をかけてもらって、復活したね。しない方が幸せだったかも知れないけど。



「画面越しにでも伝わってくるこの殺気……何かあった?」

 らしくないんじゃない? 何があったんだろ? 俺が首を傾げると、シャクラの後ろに、人影がしゅっ。人影は、シャクラにメモを渡すと、しゅぱっと消えた。……今の彼、いつだったか、侯爵家の馬車の上でタンデムした彼だと思うな。それはともかく、

「えっと……ランスロットのお嫁さんが、数時間前に産気づいたらしいよ?」

「マジか! よりによって今、この時に産気づいちゃうか、パトリシアッッ!」

「予定日からだいぶオーバーしているという話ですから、心配ですね」

 そうだね。そうなんだけど、何でこのタイミング?



 教会の方で行われている保護者会は、急きょ、パトリシア妃殿下の安産祈願の場に変わるらしい。

「シアねーちゃ、がんばりぇ~! シアねーちゃもあかちゃも、だいじょーぶだっちぇ、しんじてゆ! わたち、おいのりしゅゆから!」

 そうね。とりあえず、簡単にではあるけど祈ろうか。4人で母子共に無事でいてくださいと祈っている間も

『私の白薔薇が産気づいたので、早く戻って側にいてやりたいのだよ、私は……っ!』

 嫁バカのランにしてみりゃ、そうだろう。殺気立つのも無理ないわー。ランの後ろで、マムが「嫁バカですもの。そうでしょうねえ」って顔で頷いている。



『結論だけ言うぞ。父上は、私に全権を委任して一線から退かれるそうだ。それが、どういうことかは、言わなくても分かるな?』

 ランが次の国王として、決定したってことだね。

『そっ、そんなっ?! だって、キアランが次の王様のはずでしょう!?』

『発言を許した覚えはないぞ、ミス・グレゴリー』

 お嬢さんは、王族の迫力に負けて、小さな悲鳴を上げる。ついでに哀れっぽく、王子サマの陰に隠れるけど……意味ないね。王子サマは、ランに圧倒されてるんだもん。庇えないよ。



 ところで、お嬢さんの扱いが平民のそれになってるけど、ヘラン姓はどこにいった?

「本日付にて、ヘラン男爵は爵位を返上。王家がこれをお認めになられたそうですよ」

 シャクラが持つメモを覗き込みながら、インドラが言う。あ、今日付けだったんだ。



『陛下は、まだ王太子を決めかねていらしたようよ? キアラン殿下が優位だと言われていたけれど、それもレディ・マリエールとの婚約あってのことですもの。あんなことをした以上、キアラン殿下が王太子として指名されるなんて、ありえないわ』

 マムが肩をすくめれば、ランが冷ややかな視線で、

『このありさまを見て、まだそんなことが言えるとは……ずいぶん、オメデタイ頭をしているのだな? ミス・グレゴリー。ああ、そうだ。君の卒業資格は取り消しになったよ』

 不正が発覚したのでね、と説明が付け加えられた。悪い顔してるなー2人とも。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

 マリエは、パーティーを楽しんでいるので、チトセに交代しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ