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人生最大の博打は、卒業パーティーで 3

「ミシェル──! キアラン殿下もお聞きになられたでしょう!? 今の声をっ!」

 オズワルドが大きな声ではしゃぎながら、キアランとミシェルに詰め寄った。

「あ、あぁ。確かに聞いたが……」

 返事はしたものの、キアランは彼の発言を本当なのかと、疑っているようだ。一方、

「確かに聞いたわ、オズワルド! キアランの言葉を神様が認めて下さったなんて──!」

 ミシェルは、ぱあっと晴れやかに笑っている。



 彼女、目に涙を浮かべながら、身分社会の理不尽さに耐える女を演出していたように思うのだけど……被っていた猫、どこにやった。

 ミシェルが神様の声だと断言したからだろうか。グレッグとダリウスも鬼の首を取ったように勝ち誇り、

「レディ・マリエール! 君が認めずとも、君の犯した罪は、神が存じておられる!」

「神の声が聞こえなかったのか?! あなたは国を追放されたのだ! 今すぐ、ここから立ち去るがいい!」

 フロアは、騒然となっている。キアランの暴言に、あの謎の声。とてもじゃないが、聞こえなかったフリなんてできないだろう。



「姉上……」

「レディ……」

 ハロルドとインドラさんが、気遣わし気にあたしに寄り添ってくれた。

 うん、大丈夫。平気よ。想像のちょっと斜め上ではあったけれど、こちらの筋書き、ひいてはゲームのストーリー通りと言える。なら、あたしの言うことは1つしかない。

 ピンチはチャンス。ここで、雰囲気にのまれたら、一世一代の大博打は大損だわ。

 深呼吸をして、背筋を伸ばす。



「何とか言ったらどうだ、マリエール! それとも、罪人らしく、騎士の手でこの場から追い出してやろうかっ!」

 キアランに促されるようにして、ダリウスが一歩、前に進み出て来る。

「それには、およびませんわ。婚約破棄の件、しかと承りました」

 あたしはキアランに向かって頭を下げ、彼に背を向けた。キアランやミシェルたちなんてどうでも良いが、会場にいる生徒や招かれたお客様たちはそういう訳にはいかない。



「この度は、生涯に一度のパーティーをこのような形で騒がせてしまったことを心よりお詫び申し上げます」

 生徒会長のノートン少年を始め、生徒会の皆さんや準備に走り回ってくれた在校生にも悪いことをしてしまった。そのことについても謝罪を述べて、

「それでは、皆さま、わたしは一足早く退室させていただきます」

 フロアの中央に向かって膝を折り、あたしはダンスフロアから退室した。



 人気のない廊下に出て、さて、これはどういうことかと思案する。

 だって、おかしいのだ。

 侯爵家から出ることは、あたしが望んでいたことだ。でも、国外追放までは望んでいない。国外となれば、当然、アト様の領地もアウトである。独立していないのだから、彼の領地も国内だ。

 こんなことを言うのはアレで、普段忘れてるくせにっていう気もするけど、あたし、神様の加護があるのよ? なのに、その神様が、国外追放も認めちゃうの? 辺境の村に引っ込むんだから、バレないってこと?



 訳が分からず、どこへ行けば良いのかも分からず、ダンスフロアから少し離れたところで立ち尽くしていると、

「レディ」

「おねえちゃ、こっち!」

 後ろからインドラさん。前からはちびちゃんに声をかけられた。

「ちびちゃん──!」

 い~や~ぁ~んっ。カワイイ! かわいすぎるっ! 王子系ゴスロリ! 頭にはシルクハットを被り、コバルトブルーのロングジャケットと同色のリボンタイ。フリルの一杯ついた白いブラウスと黒のピンストライプのベスト。ハーフパンツもコバルトブルーだ。白いニーハイソックスも眩しいですな。



「ちびちゃん、その恰好はどうしたの?」

「おねえちゃをエシュコーチョすゆんだったやって、あねごがきしぇてくえたの」

 ローザ様、グッジョブ。いや、カーワーイーイーってもだえてる場合じゃないんだけど。ちびちゃんは、あたしを追いかけて来てくれたインドラさんに気付くと、

「こや、イッちゃ! おねえちゃにけがしゃしぇゆなんて、なにちてゆの!」

「これは失礼を。彼らの評判を落とす為の演出だったのですが……神の声に圧倒されて、かすんでしまいましたね」

「そりぇは、しゃくりゃくなにょね? わじゃとなにょね?」

 じとーんと半眼になって、ちびちゃんがインドラさんを睨む。彼は、「はい」と頷き返す。



「しょれなや、しょーがないな」

 ちびちゃんは、あっさりと納得。「もくちぇきのためなや、ときにしゅだんをえやんではいかんのだー」と、うむうむ頷いている。

 ──と、ちびちゃんは、ダンスフロアから50メートルほどしか離れていない、控えの間の前に立つと、ドアをゴンゴンとノックした。コンコンではなく、ゴンゴンである。

「あーけーちぇー」

「あいてるよー」

 中からの返事はチトセさんの声だった。



「では、私が開けましょう」

 後ろからインドラさんが進み出てくれて、ドアを開けてくれる。ちびちゃんは、彼へお礼を言うと「おねえちゃをエシュコーチョしてきたのだー」部屋の中へ入っていく。

「できていませんけどね」

 こそっとツッコミを入れたインドラさん。あたしは、苦笑いしかない。

『お疲れー』

「っ!?」

 そっ、その声は──っ!



『ピンポーン。実は俺(僕)たちのユニゾンでしたー』

 あはははーと屈託なく笑うのは、チトセさんとシャクラさん。

「まさか、あんなにはっきり断言してくれるとはねえ……」

「ホントだねえ」

 オズワルドが、リュンポス神の声だと断定した謎の声の正体は、チトセさんとシャクラさんだったなんて──。今すぐ、この場にうずくまりたい気分だわ。

 でも、そんな訳にはいかなくて、ちびちゃんに椅子を勧められた。



「おけがにおくしゅりぬりましょー」

 ちびちゃんは、別の椅子を持って来てそれによじ登る。どこに持っていたのか、チトセさんが「持っててよかった、傷薬」と小さなケースをテーブルに置いた。

 それの蓋を開け、インドラさんがちびちゃんに渡す。ちびちゃんは、あたしのうなじに薬を塗ってくれた。痛いと思ったら、ネックレスのチェーンがこすれて、うなじに傷が出来ていたらしい。

「ありがとう、ちびちゃん」

「どーいたちまちて」

 それにしても、どんな仕掛けを使ったんだろう。



 ──と首を傾げれば、チトセさんとシャクラさんが、壁を見ていることに気が付いた。何があるのかと思えば、ダンスフロアの様子を映す、大画面があった。しかも、音声付。二人は、これでフロアの様子を伺っていたらしい。

 法具って、本当に何でもありなのね。現代社会並じゃないの。

『──っ! 何故だ、音楽をスタートさせない?!』

 画面の向こうではキアランが、子供のように癇癪をおこし、地団太を踏んでいた。



『お言葉を遮るようで申し訳ありませんが、キアラン殿下。あたくし、あなた方と卒業の喜びを分かち合いたいとは思いませんの。無礼であることは承知しておりますが、これにて失礼させていただきたく──』

 一歩前に進み出たベルは、キアランに向かって一礼すると、婚約者のキャロル少年を促し、彼に背を向けようとしたものの、その寸前で何かを思い出したらしく、彼を一瞥すると

『ところで、先ほどの声がリュンポス神のものだとどうやって証明なさるおつもり? もし、証明できなければ、あなた方は神の名を語る大罪人でしてよ』

 すっと目を細め、ベルは今度こそキアランたちに背を向けた。



『っな……』

 彼女に指摘されて、キアランたちはようやくそのことに思い至ったらしい。大丈夫なんだろうな。いや、しかし。そんな声が聞こえてきそうな視線が彼らの間を飛び交う。

 そうこうしているうちにも、『私たちも失礼させていただきます』と、キアランに一礼し、お客様方にも一礼をして、フロアを退室していく卒業生が続出。

 それだけじゃない。パーティーの演奏を担当していた吹奏楽部の生徒や、給仕に徹する予定だった生徒までもが

『これでは、パーティーになりませんので、失礼します』

 と、次々に退室していく。



 その一糸乱れぬ早業に、キアランたちはポカーン。

 お客様もポカーン。

 見ているあたしも、ポカーン。

 引き留める暇なんて、ありゃしない。あっという間の出来事だ。

ここまで、お読みくださりありがとうございました。

 チトセが演出する、ということは暴露していたのに、意外に皆さま、素直に受け止めて下さってビックリです。

 ところで、大阪の地震は、いかがだったでしょうか。まだ、完全復旧には至っていないようなので、一日でも早い復旧をお祈りしております。

 幸い、我が家は本棚から2,3冊本が飛び出た程度で、被害0でした。でしたが……通勤に苦労しました。まさかの徒歩……。徒歩の仕上げは階段地獄。日ごろの運動不足が身に染みる……。

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