表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/138

現状のおさらいは郊外で 6

「たぢゃいまー!」

 ぶんぶんと手を振りながら、大きな声で挨拶をしてくれるちびちゃん。この距離で返事をするのは淑女として少しためらわれるので、席を立ち、手を振り返すだけに留めておく。

 とはいえ、テーブルに着いたまま、帰って来たちびちゃんご一行を待つ、なんてことはしない。失礼にあたるもの。お茶会を中断して、ちびちゃんたちを出迎えるため、席を立って、彼らの方へ向かう。お馬さんが、ひいこらひいこら、歩いているように見えるので、収穫は大きかったのだろう。



 大きな声を出さなくても会話ができる距離になったところで、ちびちゃんに「おかえりなさい」と言葉をかけた。

 出かけた時と同じく、ビスマルク閣下の愛馬に乗せてもらっていたちびちゃん。

「んふふふふ。とったどー!」

 ぴょんと馬の背から飛び降りると、ドヤ顔でシャキーン! と特撮ヒーローのようなポーズを決めてくれる。

 うむ。かわゆい。



「お転婆さんは、一体何を獲ったのかしら?」

 うふふふ、と笑うフランチェスカ様。

「この娘はとんでもないな」

 愛馬からおりた閣下が、ちびちゃんの頭をぐりぐり撫でる。力が強いのか、ちびちゃんの頭がぐらぐら揺れて「おおぅ」という困り声がその口から漏れた。



「ビシュマユクじーちゃもなかなかやゆのだ」

「生意気な口をききおるわ」

 撫でまわしていたちびちゃんの頭を軽く叩いて、閣下が豪快に笑った。狩りの成果は、後ろにあるとのことなので、後ろへ回れば──

「ねえ、アート? これは何という生き物なの?」

 一瞬、ジブリ作品に登場する、シ〇神かと思ったけど、顔はアレよりもっと鹿っぽい。そして、角が凄い。体より大きいものだから、上半身が浮いていた。



「トライデントホーンと言うらしいですヨ?」

 アト様? 目が泳いでますけど? 

「ジャイアントディアーを狩るのだと、おっしゃっていたように思うのですが?」

「ジャイアントディアーもいますよ? レディ・クラリス」

 妹の質問に答えたのはキーンである。彼の後ろでは、カーンたちが本日の狩りの成果をずらずら~っと並べていた。

 トライデントホーン1頭。ジャイアントディアー2頭。ワイルドボア3頭。狐5匹。鳥17羽。

 結構な数である。



「わ~……すごいね~」

 パチパチと拍手をしたのは、いつの間に来ていたのかしら? シャクラさんだった。

「あなた、狩りには興味がないのではなかったかしら?」

「狩りに興味はないけど、解体には興味があるから。見学に来た」

 フランチェスカ様の質問に、ぽやや~んとした感じで答えるシャクラさん。妖精さんは相変わらずのようである。



 ただ、お父様たちがインドラさんにそっくりだけど、誰? ってなっているので、彼が「私の双子の弟です」と紹介。自分がこちらに来た理由だとも付け加え、

「君は、振り回されているのだな」

「お分かりになりますか、殿下」

「あ、ひどい」

 実兄の返事に、シャクラさんがぷくっと頬を膨らせた。イイ年した大人が、頬を膨らすな。大人のくせに、カワイイな!



 さて、シャクラさんが見学に来た解体ではあるけれど……正直、見ていて気持ちの良いものではないから、とあたしたちには隠された。

 マグロの解体ショーならともかく、哺乳類(?)の解体ショーは見たくない。

 本来は風よけの目的で使われる幕を目隠し変わりに、あたしたちの目に入らないところで、解体ショーは実施された。



 とは言え、会話はちゃんと聞こえてくるもので、

「血抜きにスライムを使うのか!?」

「爺ちゃんたちの代からずっとこの方法でやって来たらしいです。アタッカーは皆、連れていますよ? 冒険者はこのやり方でやらないんでしたっけ?」

「やらないね。内蔵とか肉とか、血以外も食われちゃわない?」

「ルビースライム……この赤いヤツは血以外のモンは食いたがらないんで大丈夫っす」

 ラノベの流行り、スライムの有効活用はここでも大活躍していたか。



 カーンたちとランスロット殿下の側近さんたちの会話の横で、チトセさんから、

「ちびこさん。ちびこさんの取り分は? どうすんの?」

「わたちは、みんなでたべゆおにくがありぇば、しょれでいーのだ。あとは、ビシュマユクじーちゃにあげゆのだ」

 フランチェスカ様が注いでくださったお茶を飲みながら、ちびちゃんが答える。解体には、興味がないらしい。そんな子供の返答を聞いた閣下は、

「太っ腹だのぅ」



「おにくは、おにゃかいっぱいになれゆけど、ほねとかわじゃ、おにゃかいっぱいには、なやないのだ」

「売って金に換えれば、腹一杯、食事はできるだろう」

「おしょとでたべゆごはんよりも、ちーちゃのごはんのほーが、おいしーのだ」

「嬉しいねえ」

 幕の向こうから、チトセさんの弾んだ声が聞こえてくる。



 ちびちゃんが、外で食べるご飯よりも美味しいと断言しただけあって、チトセさんが用意した料理はどれも大変美味しいものでした。

「鹿肉は、獲ってすぐは硬いから、2、3日して柔らかくなってから食べるんだけど、すぐに食べたいよね~。ってことで、村にある専用の法具でズルをします」

 もちろん、ちゃんと熟成させた方が美味しいそうなのだが、法具で熟成を加速させても、十分美味しいそうだ。



 そんなことを言い出す人なので……出て来る、出て来る……。前日から相当張り切って、準備していたんだろうと思うわ。マリネでしょ、野菜丸ごと入ったワイルドなポトフ。獲ってきた鹿肉を使った、香草焼き。鹿肉のステーキ、アヒージョ。温野菜サラダ。ひき肉のパイ包みには、とろ~りチーズも入っていてクセになりそう。表情筋が緩みっぱなしよ。もちろん、パンやクラッカーも用意され、飲み物も種類が豊富に用意されていた。

「お前は、本当に何でもこなすな」

 出された料理の数々に舌鼓を打ちながら、ランスロット殿下が感心半分、呆れ半分でチトセさんを見ている。



「そこらの下手な料理人よりも美味いな」

「本当。どれも美味しいわ。あなたの言う通りね」

 お母様は、お父様の言葉に表情筋をほころばせながら同意し、側のちびちゃんに話しかけた。ちびちゃんは、口の中にお肉をパンパンに詰めているため、得意顔で胸をはり、こくこくと頷き返している。

「リスみたいになってるよ」

 ハロルドがくくっと笑う。小さい子供って、カワイイんですねと、目尻を下げていた。



「おほめに預かり、光栄ですってね。ところで、娘さんは商会に来てくれるってことでいいのかな? 食事に関して言えば、絶対に飢えさせたりはしないけど」

 鹿肉を焼きながら、チトセさんはお父様に話しかける。

「あの話を聞いてしまっては、駄目だとは言いづらいのだが──マリエール、お前は行きたいと思っているのだね?」

「はい。もちろんです」

 あたしは、即答した。チトセさんと初めて会った時は、ただの事務員くらいのつもりでいた。多分、彼もそのつもりだったと思う。でも、いつの間にかそうではなくなってしまって。



 深魔の森で採取された、魔物素材の在庫一掃セール。森の中にある村の特産品の販売。商会のラダンスと王都の支店での商売の仕方。今あるツテを使って、商品の売り込み、宣伝。山脈の向こうにある、魔族の国との交易や文化交流。アタッカーズギルドと冒険者ギルドのすみわけと、業務提携の話。ルドラッシュの村おこし事業。



 やることは、まだまだ一杯ありそうだ。あの村で過ごす毎日は、刺激的なスローライフになるに違いない。少し考えただけで、今からワクワクソワソワしているのだ。

 あたしの答えを聞いたお父様は、それならば言うことはないと目を細め、

「娘をよろしくお願いします」

 チトセさんに頭を下げてくださった。


ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

 流行るものには、訳がある……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ