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繋がりの仄めかしは、パーティーで 5

「わ、すごい!」

「だろう? お守りがわりに持ってるんだけど……本物は見たことがなくてさ。──ビスマルク閣下、本物と比べてどうですか?」

「ふむ……良く描けているとは思うが……私が思うに、この作者もイミルホースを見たことがないのではないかな」

 …………馬である。いやもう、これはお馬様と呼ぶべきか……。



 ビスマルク閣下の愛馬は、アミラルという名前なのだとか。勝手に皇帝(カイザー)だと思い込んでいたんだけど、残念。提督(アミラル)だった。

「ものすごく盛り上がっていますね……」

「本当にな……」

 ランスロット殿下が苦笑いで答えて下さる。



 良く描けている、と閣下がおっしゃるのは、殿下の側近の御一人が、ロケットになっているブローチに入れていらっしゃるイミルホースの細密画のことだ。本物とそっくりなのか、そうでないのか、イミルホースをご存知である閣下に見てもらおうと持ってきたらしい。

「混ざらなくてよろしいのですか?」

 ハロルドとクラリス、インドラさんとローザ様は盛り上がり組に入っているが、アト様とランスロット殿下、フランチェスカ様と義父母、それにあたしは傍観組である。



「イミルホースも美しいとは思うけど、私の好みではなくてね。猫の方が好きかな」

「私は、馬より犬の方が好きなんだ。──そういえば、チトセがケンの仔が生まれたら、一匹どうか、と言っていたんだが……」

 なるほど、そうでしたかと頷きかけたところで、爆弾が落ちた。

 ケンって……あのケンよね? それって、危険はないの?



 思わずアト様を見ると、表情筋を引きつらせながら

「その仔は、確実にフォレストウルフハウンドの亜種の血を引いているので……近衛隊あたりとも相談が必要になるかと──我が家は躾が出来そうにないので、断りました」

「待て。フォレストウルフハウンドの亜種だと? ……どうしてあの男は、そんな物をそこらの犬猫と同じレベルで気軽に、譲ろうかなどと言えるんだ?」

「それはもう……チトセさんだから、としか言いようがないかと──」

 答えるあたしの目が泳ぐ。チトセさんの中では、あの子も犬猫と同じレベルなんだろう。



「ぐぬぁっ……!」

 その一言に隠しきれない諸々の苦悩が見えますわね……ランスロット殿下。

 話が見えない義父母は、きょとんとしているけれど、分かっていらっしゃるのだろう、フランチェスカ様は、うふふふと笑っていらっしゃるだけ。ほんっと、この方は大物だわ。



「義父上も、馬よりは別の動物がお好みなのですか?」

「……そういう訳ではないんだが……その……イミルホースは、齧ってくるだろう? 昔、閣下の愛馬に齧られそうになったことがあって……」

「まあ、貴方! 大丈夫でしたの!?」



「ああ、うん。閣下がお止め下さったので、何とか。あの赤暗い洞を目の当たりにして、生暖かくて獣臭い息を顔面で受け止めただけで、実際に齧られはしなかったのだけど……」

 プルプル震えるオッサン。よっぽど、怖かったらしい。でも、赤暗い洞とか、生暖かくて獣臭い息とか……想像しただけで背筋がぞっとする。



 ──が、世の中、上には上がいるもので

「お転婆さんは、自分から頭を突っ込んでいって舌を引っ張っていなかったかしら?」

「何たる暴挙!」

 でも、ありありとその様子を想像できてしまうわ! 



「あれは、別格です。あれと同列に扱える人間は、ルドラッシュにしかいません」

「同意する。いや、ルドラッシュではなくて、商会の間違いではないか?」

「ああ、そうですね。そちらの間違いでした」

 アト様とランスロット殿下が、海水を飲んだみたいなしょっぱい顔をしておいでだ。



 ちびちゃんを知らない、義父母は、きょとんとした顔をしているけど。

 とりあえず、ローザ様の庇護下にいて、パトリシア妃殿下も虜にしている幼児なのだと教えておいた。また、マザー・ケートも、おばあちゃん呼びを許している、人気者でもあるわけですが。



「──ところで、話は変わりますが、弟があなたに粗相を働いたとか?」

「ああ、あれは……粗相というほどのものではなくてよ。ただ、あの方たちはお連れのお嬢さんにも、ハプニングにも弱くていらっしゃるのね。お嬢さんががなり立てるのを、窘めもせずに、ただオロオロしていただけだったわ」



「ダウィジャー・レディ・ルーベンス。何があったのか、お伺いしても?」

「もちろんでしてよ」

 優雅に扇を仰ぎつつ、フランチェスカ様はにこやかに微笑んで下さった。

 フランチェスカ様は、ビスマルク閣下と一緒に挨拶回りをされていたそうだ。

 その時、お二人は、あたしのことを話題になさっていたのだとか。



「それをどう解釈したのか、あのお嬢さんたら、突然『誰がスミレのレディーなのよ!?』と、酷い剣幕で……後ろから怒鳴りつけてきたのよ。びっくりしたわ」

 そりゃ、そうでしょうねえ……。それで「あなたとスミレのレディーを間違える人なんていない」っていう発言に繋がるのか。



 ランスロット殿下は、魂が半分抜けかかったような状態になっていた。義父母も、頭を抱えている。その気持ち分かります。あたしだって、今すぐシャベル担いで、あいつらを庭の片隅へ埋めに行ってやりたい。

「あのお嬢さん、とても強くあなたを意識しているわ。自覚のないまま劣等感を抱えて、あなたと比べられることに過剰なほどに反応するの」



 ヒロイン様は、スミレ色のドレスを着ていたそうだ。……何で? 何でわざわざ? その色を?

「その疑問については、私が答えられると思う」

 手を挙げたのはランスロット殿下だ。キアランたちは、ただ今絶賛、金欠中。だから、お金を使わずにドレスを調達する方法を考えたらしい。



「ドレスを献上させたのですね……」

 副音声で、バカ息子と聞こえたような気がしたのは、あたしの気のせいじゃないと思う。

 義母が憤るのも当然だ。あのメンバーで、ドレスを献上させられるようなツテがありそうなのは、我が家の長男しかいない。



「アネモスという、新しいドレス工房があるのですが、そこに宣伝目的で、キアランのパートナーにドレスを作る気はないかと、話を持ち掛けたようです」

 キアランのパートナーと言われれば、普通は婚約者であるあたしを思い浮かべるだろう。

 詐欺のような手口である。侯爵家の跡取り息子が取った手段としては、情けない限りだ。



「ふぅん……だから、あのお嬢さんはスミレ色のドレスだったわけね。お可哀そうに」

「男が見栄を張った結果が、あれか……」

 アト様は、しょうがないなと言いたげに肩をすくめた。

 貰った方も、腹の虫の居所が悪かったところに、スミレのレディーの話が聞こえて来たものだから、癇癪をおこしたって、わけね。



「気の毒ではあるけれど、背伸びをしたのがそもそもの間違いだった、ということでしょうね。ま、しょうがない方々は、他にもたくさんいらっしゃるのだけれど……」

 フランチェスカ様の視線の先には、お馬様の話題で盛り上がる野郎どもがいる。

 ビスマルク閣下の手ぶりからして、お馬様の高さを説明していらっしゃるようだ。閣下よりも、大きいんですね……。足が成人男性くらいって言ってたから、それも当然か。



「イミルホースって、そんなに大きいんですか?」

「大きいという言葉じゃ足りないな。あれは、巨大と言うんだ」

 ぶるぶると体を震わせる義父。齧られかけたことが、よっぽど怖かったのだろう。



「足だけで、成人男性ほどもあると聞きましたが……」

「それは、少し誇張されているな。個体差にもよるだろうが、アミラルは大叔父の頭と背中の位置がほぼ同じだ」

 ……誇張されている……んだろうか? う、う~ん? 何かもう、よく分かんないわ。背中が閣下と同じでも、そこから頭と首があるわけで……義父の言う通り、巨大よね。



「歩くたびに地面が揺れて、ほんっと……怖いんだ……」

「まあ、あなた……」

 ブルブル震えるオッサンを気遣う、義母。仲がよろしくて何よりですな。義母に礼を言う義父は、デレデレとだらしない顔をしている。仲がよろしくて何よりですな! 思わず、2回言っちゃうわよ。



「ランスロット殿下、一度ご一考願えたらと思うのですが、弟君を息子共々、グランドツアーに出してみるというのは? 自分の腕にも自信があるようですし──」

「ふむ……それは、悪くない考えだな」

 グランドツアーというのは、貴族版修学旅行のようなものである。ただし、期間は数か月から数年と長く、お金もかかる物だ。



 けど、義父の今の口ぶりだと、旅費は自力で稼がせようと思っているのだろう。冒険者ランクはCランクくらいだったっけ? だったら、義父の考えも無謀とは言えないか。

 あのメンバー全員引き連れて行ったなら、キアランの護衛としても十分だろうし? ただ、身分を伏せての旅になるから、旅路で何があったとしても、自分たちで何とかっていう、ことになるんだろう。……自業自得……かな。

ここまで、お読みくださりありがとうございました。

 マリエは、お馬様の話題の波には乗れなかったようです(笑)

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