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繋がりの仄めかしは、パーティーで 1

 パーティー会場へ入場すると、愚兄を含めたキアランの愉快な取り巻きたちを発見した。一人ではパーティーに参加できないので、全員パートナーを連れている訳だが……

「仲間がいるわ……」

「何か言ったか?」

「いいえ、何も」

 説明できるワケがないので、誤魔化す。



 仲間とは、愉快な取り巻きたちのパートナーをつとめる女性たちだ。いわゆるライバル令嬢ポジションにいる彼女たちだが……全員、見事に目が死にかけている。

 取り巻きたちも、キアランと同じく残念なことになっているのね。分かります。

 彼女たちと視線が合えば「お互い苦労しますわね」とアイコンタクト。一瞬で通じ合えてしまった。正直、嬉しくない。



 目線でお互いを労わりあっただけで、彼女たちはこちらに近づいてこない。当然、オマケである愉快な仲間たちも、である。

 ──キアラン……アナタ、側近との人間関係はどーなってんの? お兄ちゃん夫婦を見てごらん? 護衛役と知恵袋的ポジションにいる人が、入場と共にささっと近づいて来て、脇を固めているわよ? 他の方もご自分の役割があって、それを果たせる位置にきちんと立っていらっしゃるのだと分かるわ。



 それに比べて……チームキアランときたら……何でこう、ギスギス? ギラギラ? とにかく、雰囲気がよろしくない。何があったのよ?! アンタら、仲良かったはずよね!?

 もう、見なかったことにして、さっさと帰りたい。帰りたいけど……帰れるはずがない。



 キアランに挨拶しに来た人たちへ挨拶を返したり、雑談をしたりしていると、国王陛下夫妻の入場が知らされた。会場にいる人間全員が頭を下げれば、陛下から「楽にせよ」とのお言葉がある。この言葉で下げていた頭を上げ、陛下のお顔を…………おか…………え?

「……何も言うな、マリエール」

「……承知いたしました……」



 国王陛下の毛根が、死滅している……。あれ、どう見てもカツラ…………。もっと腕のいいカツラ職人いなかったのかしら……。超不自然なんですけど。

 って言うか、禿げて、もげて、折れてしまえ、と願ったのは初夏の頃だったかしら? …………万単位の数が、わずか半年ほどで殲滅されてしまうなんて……怖っ! 怖いわ! 怖すぎるっ! 三段活用しちゃうほど、おっかないっ! 効果てきめんすぎて、背筋がぞぞっと凍るんですけど!?



 短期間すぎて、ザマァって言えない、思えない……むしろ、謝りたい気分。

 マリエール・ヴィオラ……反省している人の毛根は復活させてくれるよう、神様に伝言を頼めるかしら? あたし、色んな意味で吐血しそうよ……。



 心的貧血を起こした状態で、あたしは国王陛下夫妻へご挨拶申し上げた。やつれて見える国王陛下に比べ、王妃陛下はお変わりなく──と思いきや、キアランのポケットチーフを見たとたん、両目がカッ! と見開かれる。落雷があったかと思ったわ。

「キアラン、貴方、そのチーフ合っていなくてよ」



「は……」

 返事こそしたものの、キアランの頭の上にはクエスチョンマークが飛び交っているようだ。王妃陛下の言いたいことが、全く伝わっていない。国王陛下も、喉まで出かかったため息を何とかこらえた、という雰囲気である。

「問題がないことは態度と行動で示せ」

「は…………」



 うん。まだ分かってないな。ご夫妻から「苦労をかけるな」とお言葉を頂いてしまったが、苦労の生みの親は、不満を隠そうともせず、唇をへの字に曲げた。ホンット、子供だな!

 国王陛下夫妻に挨拶した後は、ランスロット殿下とパトリシア妃殿下にご挨拶。こちらは、先ほども会っているので、事務的に終了した。その後は、この場にいらしている有力貴族へキアランと挨拶回り。



 こんばんは。おほほほ。

 笑顔をはりつけ、時には親し気に、時には事務的に。頭の中に、挨拶しなくちゃいけない人のリストを思い浮かべ、チェックしていく。うん、あらかた回ったけど、アト様はまだだ。

 一体、どちらにいらっしゃるのか。給仕に見なかったか聞いてみようかと思ったその時、

「マリエール、王族としての義務は果たしたから、俺はもう行くぞ」



「はい?」

 こちらがきちんと返事をする間もなく、キアランはあたしの手を離し、さっさと何処かへ消えていく。……をい。このっ……空中で固定されたままの手をどこへやれとっ……!

「……王族の義務は果たしても、紳士の義務は果たしていませんね。最低男のレッテルが、そんなにほしいのでしょうかね? あの男は──」

 怒るべきなのか、呆れるべきなのか。パントマイムのように空中で固定されていたあたしの手を取ってくれたのは、インドラさんだった。



 存在希釈を解いたらしい彼は、

「スチュアートのところまで、私がエスコートいたしましょう」

「よろしくお願いします」

 イケメンの微笑み、ありがとうございますっっ! ここまで頑張った、あたしへのご褒美ですね! 分かります。そういうことにしておいてください!



 エスコート役がインドラさんになったことで、がぜん注目を浴びるようになってしまった。あのイケメンは、どこのどなたなの?! というワケである。皆さん、興味津々で秋波を送ってくるけれど……ごめんなさい。インドラさんを紹介することはできないの……。

 チクチク視線を感じながら、アト様を探していると、バルコニー近くが何やら騒がしい。



「何でしょうね?」

「さあ?」

 二人して首を傾げる。別に無視しても良かったんだけど、野次馬根性が勝ってしまって、少しだけ様子を見に行くことにした。人ごみをかき分け、少しずつ前に進めば──

「いやあね、あなた。あなたをスミレのレディーと間違える人なんて、誰もいなくてよ?」

「っな?! だっ、だって今、あたしを見てスミレのレディーって!」

「いやあね、あなた。あなたはこちらを見ていなかったじゃないの。なのに、どうしてあなたを見ていたとお分かりになるの? 言いがかりはよしてちょうだい」



 がふ。来なければよかった……いやでも、あぅ…………。泣きたい気持ちで隣を見れば、インドラさんも同じような顔をしていた。

 はい。騒ぎの中心は、フランチェスカ様とヒロイン様です。

「あの……一体、何が?」

「さあ? 私もよく分からなくてね……」



 近くの人に聞きまくった結果、フランチェスカ様たちの会話──あたしと会うのが楽しみだとか何とか──をミシェルがたまたま聞いたらしく「誰がスミレのレディーよ!?」と、喧嘩を売ったらしい。

「どこまでも、残念な頭をしていますね」

「いえ……残念を突き抜けすぎて、上手い表現が見つかりませんわ……」

 煤けた気分で、キャンキャンと噛みつくヒロイン様を見る。



 あのね、スミレのレディーに間違われたくないって言うんなら、そのスミレ色のドレスは脱ぎなさい。社交界では、みなさん、あたしに気遣ってか、その色は避けて下さる方が多いのよ。あるいは、スミレのレディーのファンなんです、という方はあえてスミレ色を身に付ける、らしい。



 ちなみに、フランチェスカ様はミントグリーンのドレスをお召しになっている。一番上の透ける素材でできたオーバースカートには、和柄の牡丹。ある意味、フランチェスカ様がお召しになるのは当然と言えるけどね。

「しかし……どうしたものですかね。我々が出て行けば、ますます混乱しそうですし……」

「ええ、本当に……」



「そもそも、何故アレがここにいるのかも、私には理解不能です。招待客リストに、アレの名前はありませんでした。加えて、アレを取り巻いている男共も、どうしてアレを止めないのでしょう? 家の名はもちろんのこと、自分の評価も下げていますよ?」

「あのお顔を見て下さいな。あれは絶対に、何が起きているのか理解できていない顔ですわ」

 アレとは、もちろんミシェルのことだし、男共とはキアランを始めとする愉快な仲間たちのことである。



「最近、分かったのですが……こちらが用意した制服他一式を、全員ダメにしてしまったらしいのです。制服のまま、冒険者と乱闘だなんて……何を考えているのか……っ!」

「何も考えていないに決まっているじゃありませんか」

「ぐっ……!」

 そういえば、そんなイベントもありましたねー。



 制服という名の法具は、すでに壊されていたのね。違和感を与えてはいけないので、防御力を普通の制服と変わらないようにしたところが、敗因だったようである。普通、制服が破けるような事態には陥らないものねぇ……。

 あ、ようやく愉快な仲間が再起動した。ミシェルを落ち着けようとして──あ、失敗。

 怒りの矛先が、キアランたちに変わってしまった。うん、ご愁傷様。

 ……ところで、警備の人はいつ来るのかしら?

ここまで、お読みくださり、ありがとうございました。

 公爵ゥゥゥ! また、出番ナシ……おかしいな。こんなはずでは……

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