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淑女への警告は、バルコニーで

「はあ……寒っ……」

 この真冬の夜中に、ナイトドレスとストール1枚という恰好で庭に出たのだから、寒いに決まってるんだけど。日付が変わるまで、後もう少し。そろそろ眠らないと、明日の朝が辛い。

 それでも、今日がとても楽しかったから、なかなか寝付けそうになくて、庭に出てみたのである。



見上げれば、満天の星空だ。冬は空気が澄んでいるので、星が良く見えるって聞いたことがあるけど、本当なんだなって思う。真理江が見ていた星空とは全然違うけど、その美しさは同じだ。

星空を題材にした唱歌を思い出したので、つい鼻歌で口ずさんでしまう。

 今日は、本当に楽しかった。ちびちゃんたちとお茶会をして、その後はベルたち、学園のお友達を招いてパーティーをしたし。パーティーは、大成功だったわ。



 ロビーにミシェルがいて、ベルたちと一悶着あったと聞いた時は驚いたけど。ホテルのスタッフが迅速に対応してくれたので、大騒ぎまでには発展しなかったそうだ。

さすが一流ホテルは違うわ~。国内外の要人も宿泊するのだから、当然のことかも知れないけど。こちらの都合もあった訳だけど、ホテル・ペルディエムを選んで正解だったわね。



 ただ、ベルから聞いた、ミシェルのセリフ。これがね~……今の今まで気づかなかった、あたしもどうなのかと思うけど──ミス・クレメルってば、サポートキャラのエレナだったのね。似てるな~とも思わなかったわ、あたし。これはちょっと、反省しなくちゃ。

 他のライバル令嬢にも、あんまり注意を払っていないし……ゲーム通りになるとは限らないのだから、チェックしておいた方が良いわよね。



 それにしても、ミス・クレメルである。彼女は、攻略対象はもちろん、ライバル令嬢の情報の他、パーティーに加えることのできる育成可能キャラについての情報も網羅している。

 ミスター・リードのことも、さらっと話していたしね。その時は、情報通なのね、程度にしか思わなかったけど、考えてみればすごいわよね。

 それに、彼女が把握している情報がゲームと同じだとすると、各キャラクターの行動パターンまで知っていることになる。



となれば、ゲームと現実にどれくらいの差があるのか、気になるのは当然よね?

 好奇心を発揮したあたしは、ミシェルは、ミス・クレメルが情報通だということをどこかで耳にして、それを聞き出し、もっと簡単にどこかの誰かさんに近づきたかったのでは? という、推測を述べてみたのだ。



「なるほど……あり得ますね。実は、あまり大きな声では言えないのですが、そういう相談はよく受けるんですよ。誰々と仲良くなりたいからチャンスを狙える場所などはないか、教えてほしいと──」

 おお。ヒロイン以外のサポートをしていたのね。



「まあ、そうなんですの? でも、その誰々と親しくしていない限り、そういったことは分からないように思うのですが……」

「それが、そうでもないのよ。この子ったら、とんでもないことを考えつくんだから……」

 最初に聞いた時は、感心するべきか呆れるべきか、とても困ったわ、とベル。

 一体何を考えついたんだ、彼女。ドキドキしながら、ミス・クレメルの回答を待つ。



「まあ、大げさですわ。私はただ、ストリートチルドレンに声をかけただけですもの」

「えぇと……?」

 光あるところに必ず影があり。という訳ではないけれど、華やかな王都であっても、スラム街はあるのである。ボランティア活動で、あたし自身、出かけていったこともある場所だ。

 スラム街には、親のない子供たちも少なくない。彼らはストリートチルドレンと呼ばれ、冒険者の真似事をしたり、道行く人の雑用を請け負うなどして、日銭を稼いでいる。



 孤児院もあるにはあるのだが、生活環境が整っているとは言い難く、逃げ出す子供が後を絶たないのだと聞いていた。

 つまり、ミス・クレメルはそういう子供たちを情報源として使っているということらしい。

 リアル少年探偵団かっ!

 そりゃあ、お金になるって分かっていたら、子供たちも必死で覚えるでしょうよ。情報通になって、当然よね! っていうか、怖っ! 街のあちこちに、動く防犯カメラがあるようなもんじゃないの……。



 こういう言い方はよくないとは思うのだけど、街を行く多くの人々にとって、ストリートチルドレンは、人ではなく景色なのだ。

 彼らがよっぽどのことをしていない限り、ほとんどの人は気にかけない。だから、裏社会の人間に上手く使われたりする。負のスパイラルに近いものがあるけれど、こればかりは少しずつ改善していくしかないことだ。



「ご心配なく。情報を提供する相手は、きちんと弁えておりますから。オホホホホ」

 オホホ、じゃないよ、ミス・クレメル……。思わずベルを見れば、こちらも苦笑い。

「大丈夫よ。元々は、お父様のお仕事を手伝いたくて始めたことらしいから……」

「お父様の──?」

 はて。ミス・クレメルのお父様はどのような職業についていらしたか……首を傾げれば、

「役人の新卒採用や教育などに関わっていらっしゃるらしいわ」

「……もっと怖くなったのだけど?」



 お父様はともかく、ミス・クレメルについては、人事関係のお仕事ではなく、諜報部などのお仕事の方が合っているのかも知れないわ。

 とりあえず、ランスロット殿下に情報を流しておきましょ。優秀な人材は、どこも喉から手が出るほどほしいでしょうし。

 ミス・クレメル、恐ろしい子!





「お父様は役人とは言え、ミス・クレメルは庶民。でも、ベルのお友達。……あらゆる階層に何らかのツテがあるってことね」

 もちろん、ハロルドには彼女と親しくしておくようにと言っておいた。もちろん、クラリスにも。ミス・クレメルは、あたしたちと一緒に卒業してしまうけれど、彼女のことだから、学園にいなくても、生徒以上に学園を熟知しているに違いない。女の繋がり、とっても大事。



「ックシュ! そろそろ、部屋に戻らないと風邪を引いてしまうわね」

 今のこの時期に体調を崩すとツライ。なんせ、パーティーシーズンでもあるので。部屋に戻るべく、夜空に背中を向けた直後、上からバサバサと大きな羽音が聞こえてきた。

「!?」

 バサバサという大きな羽音の正体は、あたしとほぼ同じくらいの大きな梟だった。



 梟の背中から顔を覗かせたのは、

「ちびちゃん!?」

「おねえちゃ、こんばんはー。ふくりょーとっきゅーびんです」

 とおっ! と、どこぞの変身ヒーローよろしく、勇ましい掛け声と共に梟の背中から飛び降りるちびちゃん。……昼間被っていたニーニャ帽子の上に、プレゼントした帽子を被っているのは──まあ、良しとしましょう。思わず、笑っちゃうけど。



「こんばんは、ちびちゃん。あの、この梟は?」

「わたちのおともだちなにょよー」

 ねー、とちびちゃんが言えば、梟はコクンと頷いた。続いて、挨拶のつもりなのか、今度は頭を下げたので「初めまして、こんばんは」あたしも、挨拶を返す。

 ちびちゃんのお友達って……範囲が広いのね……。



 ちびちゃんは、いつものライオンボディバッグを下ろして、地面にしゃがむと、

「あい、おねえちゃ。アトしゃから、おちぇがみのおちょぢょけです」

 中から封筒を一通。

「アト様から?」

 何だって、こんな時間にこんな手段で? 首を傾げつつ、ちびちゃんから封筒を受け取る。



「えっちょね、ないちょのおはなちで、ランにーちゃのとこには、ちーちゃがいってゆの」

「ランスロット殿下のところにも?」

 思わぬ人の名前が出て来て、眉間に皺が寄る。

「しょれちょ、あにぇごかやおねえちゃに、しゃしいりぇでしゅ。しぇんばいきしゃくのえいよードリンク? だっちぇ」

 茶色い瓶は、真理江が知っている栄養ドリンク類を思い出すわ。元気ハツラツのあれとか、ファイト~のあれとか。にしても、千倍希釈……トキジクなんちゃらを使ってるのね。



「ありがとう。いただくわ」

 渡されたドリンクは、全部で6本。これから忙しくなるし、助かるわ。飲むと気分だけでも違うし、何よりトキジクなんちゃらを使っているのなら、効果のほどは期待できるもの。

「しょれじゃあ、わたちはかえゆね。おねえちゃ、かじゃひいちゃ、めーなんだかやね」

「ええ、気を付けるわ。ちびちゃんも、気を付けてね」

「あい。ありやと」

 ちびちゃんは、背を屈めた梟によじ登る。ポジションを確保できたのか「よち」と小声で合図を送れば、梟は翼をはためかせ、音もなく夜空へ舞い上がっていった。

 梟の姿はすぐに見えなくなり、あたしはクシャミを1つ。慌てて部屋へ戻ったのだった。

ここまで、お読みくださりありがとうございました。

 私信ですが、温泉県の温泉でゆだって参ります。年末前のリフレッシュ! では~

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