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お楽しみは、バスティースで 4

 バスティースプレゼント、チトセさんからは、すでに美味しいお料理をいただいている。しかも、ホテルのスタッフにお持ち帰り用のケーキを預けてあるそうで──

「帰る時にもらってってね~」

 ひらひら~と、にこやかに笑ってくれた。ちびちゃんが

「わたち! わたちも、デコエーショ、てちゅだったの!」

 必死にアピールしてくるのがかわいい。



「まあ、そうなの? だったら、ゆっくり味わって食べなくちゃいけないわね」

 頭を一撫でしてそういえば、ちびちゃんはこくこくと何度も頷いていた。

「次は、わたくしからね」

 そう言って渡されたのは、ちょっと大きめの箱だった。受け取ると、重さはそれほどでもなく、割と軽め。あたしたち全員がそう。



 さて、何を下さったのかしらと、ご本人の了承を得て開けてみれば──

「かわいい!」

 中を見た瞬間、クラリスが大きな声を出した。

「これは──とても良い物ですね。ありがとうございます」

「素敵! これはどちらの品ですか?」

 中から出て来たのは、帽子だった。あたしの帽子は、つばの広い濃い目の紫色。クラリスは、同じデザインの柔らかな黄色の帽子。ハロルドは、チェックのハンチング帽だった。ベージュの無地とチェックの組み合わせが、とってもおしゃれ。



「アートがね、支援している子の中に帽子を作るのが好きだっていう子がいるのよ。その子の作る帽子はとっても素敵だから、今回お願いしてみたの」

 ふふふ、とどこか得意げに笑うフランチェスカ様。自分が応援している人の物を褒められるのは、嬉しいですもんね! 分かりますわ、その気持ち。



「私からはこれを──」

「まあ!」

「綺麗……」

 アト様が下さったのは、扇だった。扇は、パーティーなどには欠かせない物。扇に描かれているのは、鮮やかな牡丹。和柄である。着物を頂いたのだから、和柄の扇もありなのかも知れない。このデザイン、今はまだ誰も持っていないわよ。



「予想していると思うが、先日贈ったドレスと出どころは同じだよ」

「わたし、この扇を持って王宮拝謁に参加いたしますっ」

 そうそう。クラリスのデビューが決まったのよね。年が明けて最初に行われる王宮拝謁にて、社交界へデビューすることになったの。ドレスも決まって、今は時間があれば、裳裾と格闘している。あたしも、王宮拝謁を前に苦戦させられたことを思い出すわあ。



 そして、ハロルドに贈られたのはステッキだった。

「学生の間はまだ持ち歩く機会も少ないだろうが、いずれは必要になるだろう?」

 ステッキは、紳士の必需品。汗水たらして働く必要のない身分であるということを示す物でもある。そのため、男のこだわりが如実に表れる部分でもある……らしい。女のあたしには、よく分からない部分だ。



「しょえね、ジョニーにちゅくってもやったんだよ」

「ジョニー……って……もしかして、あの?」

 エルダー・トレント伐採のプロフェッショナル……

「そ。そのジョニー。木工細工の職人でねえ、作ってもらったんだよ。ちなみに、素材はハイ・トレントです」



 エルダー・トレントよりは落ちるものの、やっぱり珍しい魔物素材のようです。濃茶色のステッキは、ツヤツヤに光り輝いていて、綺麗だ。グリップ部分は、シンプルなL字型。素材は元より、グリップ部分は持ち主のこだわりが出る部分なので、シンプルイズベスト、にしたのだとか。

「ありがとうございます。一生物のステッキですね。大切にします」

「それ、下手な金属より硬いんで、護身用としても十分通用しますから」

 それ、マジなの、カーン。



 聞けば、安物の剣とこの杖では、剣の方が負けて折れてしまうらしい。魔物素材は、恐ろしいな。本当に。生物のカテゴリに入れて良いモンかどうか、本気で悩む。

 まあ、そんなことはどうでもよろしい。いよいよ、時間が差し迫ってきてしまった。ジャスミンとカーラが迎えに来てくれたので、お茶会はお開きだ。



 次は年明けに会うことになるだろう。三つ子とは、当分会えなくなる可能性も高い。この時期特有の挨拶をして、あたしたちは退室した。

 さ、ちょっとばかり意識を切り替えて、お客様をおもてなしするために頑張らなくちゃ。







 アト様たち追加ディスクから登場するキャラは、全員、学園には通っていない。あ、1人いるって言えばいるんだけど……悪役令嬢の護衛なんだもん。

 大体、何だってあんな女に護衛が必要なのよ!? 意味分かんない! 護衛が必要なのは、あの女じゃなくて、あたしの方でしょ?! 自分のミリョクのなさを棚に上げて、嫉妬からあたしをいじめるようなヤツなのよ、あの女は! 一体、何からあの女を守るっていうのよ!? 必要ないじゃない! ホント、ムカツク。



 今だって、いじめは続いてるんだからッ。あたしだって、四六時中キアランたちと一緒にいるわけじゃない。特に寮に帰ったら、1人になっちゃうもんだから、ホンット、インシツないじめがあるのよ。

 あたしを見かけると、あからさまに眉間に皺を寄せて、避けていくし。ヒソヒソ話をするし。中には、あたしを見て笑うコだっているのよ! 酷いと思わない?! 中にはワザとぶつかってきたり、足を引っかけようとしてきたり。ホント、もてない女のヒガミってこれだから!



 ゲームだと、寮は2人部屋。ヒロインと同じ部屋のその子は、ヒロインの親友なのだ。名前は、エレナ。探偵部に所属している、情報通って設定の地味なメガネキャラ。

 そ、ヒロインの恋を助けてくれるサポートキャラね。



 同室のコだって紹介されたそのコは、見た目は同じだったけど、名前がエレオノーラっていって、別人だった。ここは、ゲームの世界だけど、ゲームじゃないから、そんなこともあるのかなって思って、特には気にしなかったんだけど──

「……あなた、あの方たちには婚約者がいらっしゃるのに、何を考えているの?」

 設定がゲームの通りか確認しようと、あれこれ聞いていたら、だんだん、不機嫌になっていったのよ。



 サポートキャラが、ヒロインをサポートしなくて、どうするのってハナシ。それしか、存在価値がないじゃない。なのに、あの女と来たら、最後には、「悪いけど、あなたと同じ部屋で共同生活はできないわ」って、1か月くらいで部屋から出て行ってしまった。何が、共同生活はできないわ、よ! 腹が立つったら! 名前が違ってたから、もしかすると、サポートキャラじゃなかったのかも知れないけど。



 そんな訳で、あたしは自分の記憶を頼りに、キアランたちを攻略するしかなくなっちゃったってワケ。で、も、あたしには秘密兵器があるから、心強かった。

 あたしの秘密兵器──スマホもどきは、形はスマホだけど、中身は『ファン・ブル』のゲームアプリしか入ってないっていう、ちょっと半端なモノ。ネット検索とかできたら、NAISEIチートも出来たかもしれないんだけど。



 でも、すごいのよ。このアプリを使えば、ゲームでやるみたいに、あたしを育成することができるの。アプリの中でアバターに勉強させれば、それが全てあたしの知識になる。冒険させたら、それがあたしの経験値としてステータスアップに繋がるのだ! もちろん、自分のステータスを確認することもできる。




 それだけじゃなくて、モンスターを倒してドロップするアイテムは、全部あたしの物になるの! アプリの選択肢の中に『現実化』って言うのがあって、これを使うと、ぽんッ! って、目の前に出て来るのよ! すごくない?! 1つ不満を言えば、お金が手に入らないこと。

 でも、別に不自由していないから、困ってないんだけどね。



 他にも攻略対象キャラの好感度を確認することもできるし、メモ機能もある。ゲームの記憶は、このメモに残してある。あたしのスマホは、あたししか触ることができないから、誰かに見られる心配もない。

 このスマホであたしのステータスを確認すると、スキルのところに『???の恩恵』って言うのがあるのよ。あたしが、このスマホを持っているのは、この恩恵スキルのおかげみたい。



 ふふ、これのお蔭であたしはリアルヒロインになれるってわけ。

 さて、この好感度を確認する画面には『???』になっているところが、7つある。

 チャーリーとアト様、三つ子。インドラと妖精さんで7つ、全てが埋まるから、この『???』を埋める人間は、すぐに分かった。──で、も!

「何で、リストに名前が表示されないかな~?」

 全員会っているはずなのに、リストはずーっと『???』のまま。



 おかしい。絶対におかしい。ゲームじゃないんだから、バグなんてことはないと思うんだけど。

 でも、ゲームじゃないからこそ、チャンスはいつだってある。ゲームではエンディングを迎えたらそれで終わり。また、初めからやり直しになっちゃうけど、ここは違う。

 逆ハーエンドの後も続くんだもん。もしかしたら、ゲームとは違って、そこからアト様たちの攻略ができるようになるのかも知れないしね。



 とにかく、掴めそうなチャンスは、掴まなくちゃ!

 そんな訳で、あたしは今、とあるホテルに来ている。今のシーズン、このあたりをウロウロしていると、アト様たちに会えるのよ。何でも、アト様は王都滞在中、ホテルに宿泊しているらしいのよね。王都観光でもしているのか、三つ子ともこのあたりで会えるワケ。



 気になる人と会う時は、カワイイあたしでいたいって思うのは、女の子として当然よね。だから、最近、キアランにプレゼントしてもらった、淡いピンクに白のファーの縁飾りがついたワンピースでおしゃれして、ホテルのロビーにいたんだけど……

「何で、アト様じゃなくて、あの女がいるわけ?!」

 あの女──悪役令嬢でも何でもない、ただのモブのくせに、とてつもなく偉そうな女よ!

 年下の男のコを連れて、優雅に笑っちゃってさ! ムカツクったら! おまけに回りには、何人もの人間を侍らせちゃって……モブが生意気なのよ!!


ここまで、お読みくださり、ありがとうございました。

 後半は言うまでもなく、ヒロイン様視点でお送りしております。

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