お楽しみは、バスティースで 3
ゲームもそろそろ中盤戦。1枚もリストを完成させていないシャクラさんが、ビリである。完成リストが1枚もないどころか、リストのどの項目も埋められないまま、ゲームが終わっちゃうのかしら? それはそれで、すごいような気もするけど。違う意味で、ドキドキしていたら、シャクラさんが
「このままじゃ、ダメだよね。うん。今から本気出そう」
眠そうな顔のまま、ぎゅっと拳を握って、そう宣言したのだった。
今から本気出す、なんて単なるパフォーマンスに終わることが多い──と思う──のに、
「ちょぉっ!? 何スか?! 何なんスか!?」
「法具でルーレットの目を操ってるわけじゃないですよね?!」
「そんなこと、しないよ」
「えっ、ちょ……マジで覚醒しちゃったの?! すげえ!」
三つ子が騒いでいる通り、急にルーレットの出目が良くなり、次々とリストを埋めていく、シャクラさん。
「なんちょーぉっ?! どーなってゆの!? なにちたの!?」
「僕が本気を出したら、こんなものだよ」
ふふ~ん、と得意顔で胸を張るシャクラさん。
「そんなっ……! ず、ずるいですわっ!」
「有言実行できる人は、なかなかいませんよ」
ハロルド、何かズレてるから。後ろで、アト様たちが笑うのを我慢してるわよ。
シャクラさんが覚醒したため、ゲームはますますヒートアップ。
結果──クラリスとちびちゃんがそろってビリに。クラリスは、何度かカードを吐き出すハメになったせい。ちびちゃんは、頑なにクジラをゲットしようとしなかったせい。
「こえだから、クジヤはいかんのだ!」
ペシペシとテーブルを叩くけど……
「クジラ以外のカードが多すぎるのよ、あなた」
クラリスの言う通りだ。
クジラをゲットして、リストを完成させれば、順位はもうちょっと上になっていただろうに……。ここまでくると、その毛嫌いぶりも、いっそ天晴れよね。
トップは、ハロルドでした。2位以下は、クーン、キーン、あたし、シャクラさん、カーンという順位。カーンは、欲しいカードのほとんどがちびちゃんに握られているという……
「何で、要らないカードなのに取るんすか、ボスぅぅ!」
「うゆしゃい! クジヤなんて、わたちにはひちゅよーないのだ!」
「言い訳になってないし」
チトセさんが、爆笑している。アト様とフランチェスカ様、インドラさんも笑っていた。そりゃあもう、笑うしかないわね、これは。
さてさて、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。そろそろ会場に戻って、最終チェックをしないと、予定通りにお客様をお出迎えすることができなくなってしまう。
「レディ──」
インドラさんにも促され、プレゼントをちびちゃんたちに渡すことにする。
プレゼントを考える時間は、楽しいもの。みんなに喜んでもらえる物を考えるのも、特定の誰かに喜んでもらえそうな物を考えるのも。ただ、贈る相手が上流貴族だと、かなりハードルが高くなる。なんせ、みんなお金持ちだから、欲しい物は割と簡単に手に入ってしまう。
この後に控えているパーティー用のプレゼントもあれこれと悩んだけれど、ちびちゃんたちへのプレゼントも結構、悩んだわ。
それでも、チトセさんと三つ子へのプレゼントは、早い段階で決定することができた。チトセさんと三つ子は、言っても庶民籍だから、ハードルは低めである。
チトセさんには、お財布。トパズォン・スネークという琥珀色の蛇革財布だから、金運にご利益がありそうだと、あたしが一押ししたのである。
「これは……金運が上昇しそうだね。ありがとう。毎日拝んでから使おうかな……」
使い始める前に、お金をたくさん入れておくと良いらしいですね。
三つ子には、防寒用のマントとベルト。特にマントは、年が明けたらルドラッシュ村へ帰ると聞いていたので、丈夫で質の良い物を選んだ。冒険者ギルドのマスターお勧めの一品だ。
「うわ、こんな良い物……! いいんすか、マジで!?」
「このベルト、すっげーカッコイイな。うわ~、大事に使おう」
「マントも素晴らしいですよ。防寒性はもちろんですが、防御力アップの法術もかかっていますね。ありがとうございます!」
シャクラさんとインドラさんには、手巻き式の懐中時計。法具タイプの物なら、自分で作れるだろうから、あえて手巻き式を選んでみたのだ。スケルトンタイプの物で、中の部品の動きがよく見える。シャクラさんはシルバー。インドラさんは、ゴールドだ。
「ありがとう。とってもキレイだねえ。この歯車の組み合わせ……芸術品だよ……!」
「私にまで頂けるとは、ありがとうございます。とても素敵な品ですね。大切にします」
続いて、ちびちゃん。ちびちゃんへのプレゼントは、迷ったのよねえ。普通の女の子ならお人形やドールハウスが思い浮かぶんだけど……この子がお人形遊びをする姿が想像できなかったのよ……。大きなぬいぐるみを枕がわりに寝ている姿は想像できたんだけど。
だったらもう、外遊びを思いっきり楽しめるようにということで、毛糸の帽子とマフラー、手袋のセットに、お菓子の詰め合わせを付けた。
毛糸は、温かさに定評のある、アルプォーク。魔物らしいけど、あたしにはアルパカにしか見えませんでした。
「うわあ! あっちゃかそう! おねえちゃたち、ありやとー!」
ちびちゃんは早速、ニーニャの帽子を脱いで、プレゼントした帽子を被り、マフラーと手袋を装着。ぴょんこぴょんこと跳ねまわって、チトセさんたちに自慢していた。うん、かわゆい。
さて、問題はアト様とフランチェスカ様である。
この2人、欲しい物は大抵、手に入ってしまう。おまけに、センスも優れていらっしゃるから、本当に気が抜けない。そこで目を付けたのが、限定品とオーダーメイド。
「これは……ヒッリシーラの……?」
「ええ。一目で見抜かれるなんて、さすがですわ」
アト様へのプレゼントは、シオン侯爵領に窯を持つ磁器メーカー、ヒッリシーラのニューイヤープレートだ。ヒッリシーラは、一般にはあまり知られていないものの、その芸術性は国内外で高く評価されている。
「まあ、素敵! ノーマルタイプのニューイヤープレートは毎年手に入れているのだけど、限定の方は中々手に入らないのよ」
毎年、100枚しか作られないし、購入は予約不可、販売日は公表せず、工房がある本店でのみ、という強気な売り方をしていますものね。ハロルドの人脈のおかげで、何とか購入することができたのだ。本当に、ハロルド様々なのである。
そして、フランチェスカ様。こちらも迷いに迷って、ショールを贈ることにした。目を付けたのは、やっぱり我が家の領地に拠点を構えるブランド、ヌードフィオーレ。
フランチェスカ様に贈りたいとヌードフィオーレのデザイナーに依頼して、できあがったのが、緑の美しいグラデーションのショール。
「何て素晴らしいのかしら!」
「おばあちゃ、よくにあってゆじょ!」
蔦の葉のモチーフがついたショールは、社交界の秘華の葉、というわけだ。蔦は、生命力が強く、邪気を払うとも言われているそうで、縁起物でもあるのだとか。
最近は自分たちで、王都に進出するブランドも増えたけれど、自分の領地の良い物は上に立つあたしたちも自慢したい。我が家の領民は、こんなにも素敵な物を作れるんですよって、言いふらしたいのよ。こういう贈り物でのアピールは、常套手段と言えるだろう。
それは、アト様たちも同じなんだけど……さすが深魔の森に接する領地は違うわね。
「髪留めを作るのは、初めてだから気にいってもらえると嬉しいんだけど」
そう言って、シャクラさんから頂いたのは、飴のように透き通った石でできた、花をあしらった髪留めだった。クラリスとお揃いで、とても素敵。早速、髪に付けてもらえば、みんなからよく似合うと褒めてもらえた。
「しょのおはなは、わたちがとってきちゃんだよ。コリャボリェーションなにょ!」
細工したのではなく、採って来たとな?
……チトセさんを見れば「森原産です」と笑っている。
ハロルドには、スミレがあしらわれたネクタイピン。男性にスミレは、ちょっと以外な組み合わせ。でも、そのギャップがおしゃれかも知れない。
「これは、俺らからです。俺らが採って来たシャイニーシェルっていう貝を使って、作ってもらいました」
三つ子からはカメオのブローチ。スタンダードな女性の横顔があしらわれたそれは、光の加減できらきらと光って見える。ハロルドへは、同じ素材のカフスボタンが贈られた。
「ブローチもカフスも、防御力アップの法術が組み込んでありますから、ちょっとやそっとの攻撃で、貴方がたが傷つくことはありませんよ」
こちらは、三つ子とインドラさんのコラボレーションだったようです。一体、いつの間に……。
文字数の関係で、プレゼント交換は途中になってしまいました。
ここまで、お読みくださり、ありがとうございます。




