9話
「ねえ早く入れてよバカ野郎」
案の定こいつは夕方にやってきた。
なんだよバカ野郎って...
「お前を泊めるつもりはないって」
「今日は一人で寝たくないんです!」
「じゃあお前の父さんと寝ればいいじゃねえか!」
「なんであんなジジイと!」
「......聞いたら泣くぞ」
僕だったら泣くな、うん。
「とにかく」
僕が言いかけた途端、電話がかかってきた。
かけて来た相手は、由理だった。
「もしもし」
「...明人君?」
「どうしたんだ?」
「聞いたよ...あなた達がやってること」
教頭から説明を受けたことだろうか。
「ああ、それなら――」
「やめて」
...ん?
「なんだ?」
「やめてって言ってるの」
「......どうして?」
「明人君が死ぬかもしれないの!」
由理が突然大声を上げた。
「大丈夫だって、あいつらアホばっかりだし、それに俺たちがやんないと」
「違う!違うの!今日学校に来たのは変化が起こる前触れ...変化が起こったら、本当に手がつけられなくなっちゃうみたいなの!」
そうだったのか...
正直、そんな予感はしていた。
あんなヘンテコな生物で世界征服できるわけがないからな。
だが、それでも...
「僕は、死ぬ覚悟は出来てるとは言わねえよ」
「やっぱり」
「僕はまだ人生でやり遂げたいことがたくさんあるんだ。お前ともいろんなことがしたい。だから、俺も出来るだけ危険なことはやりたくない」
「じゃあ、やっぱりやめてよ!」
由理の叫び声は、悲鳴のようだった。
「だが、それは無理だ」
「なんで」
「僕は、黒道のパートナーだからな」
「...何それ」
「絶対契約だ。絶対、契約してなければいけないんだ」
「私と別れるってこと?」
「そういう意味じゃない...彼女はお前だけだ」
そんな彼女を不安な気持ちにさせている僕は、ダメなんだろうな。
だけど。
「僕はやっぱり、みんなを守りたい」
「......危険なんだよ?」
「安心しろ、俺はもう少しだけこの優越感に浸ってたいんだ」
由理はそれでも納得のいかないようだったが...
「わかった...それと、黒道さんにごめんって言っておいて」
由理は、少々強引そうに電話を切った。
「......話したいことがある、入ってこい」
僕は、突っ立ってる黒道を家に入れた。
「何話してたの?」
「これから神の遊びが...危険になるらしい」
「そうなんだ...お父さんもそれっぽいこと言ってたから」
「だから、気をつけないとな」
今までは本当にふざけてるようにやってきた。
それでいいのか悪いのか、まだ今の俺には良くわからないが...
「それと、由理がお前にごめんだってよ」
「......そっか」
「許してやってくれ...お前も言ってたように、おかしくなってたところもあったと思う」
「うん...わかってる、わかってるけどね」
黒道...なんだ?
「やっぱりまだ許せそうにないや」
......お前
「本人も反省してるんだしさ」
「わかってるって」
「お前は由理に何をして欲しいんだ?」
「それがわからないから許せないの!」
黒道が大きな声をあげた。
「す...すまん」
「......明人君はまだ知らないだけだよ」
「何を?」
「......本当に許せないことは許せないの」
さすがにその夜に黒道が布団に入ってくることは、無いと思ってたのだが...
「入れて」
......こいつは
「今日は絶対一緒に寝ないからな」
「じゃあ、寝なきゃいいじゃない」
徹夜するつもりか...
「おい黒道...それは僕にゲームで勝負することを挑んだってことだよな!?」
「いやそうは言ってないけど」
「ようしさっそくゲームだ!僕が負けなしで朝まで連勝してやる!」
僕も、今日はなんとなく寝たくなかった。




