4話
昨日起こった出来事の衝撃は、もちろん今日の朝にも影響してくる。
今日は朝から不機嫌なのだ。
「ヌルヌル取れねえ...」
昨日のイカのようなキモイ生物の、触手のヌルヌルが未だに取れないのだ。
服を着ていたため、ヌルヌルが着いたのは手だけだったのが幸いだが。
しかし取れそうになかったので、これ以上は考えないことにした。
「おはよう、明人君」
いつものように彼女と登校する。
「どうしたの?疲れてる?」
「なんでわかる?」
「顔に出てる」
「そうか...まあちょっといろいろ」
彼女に言ったら余計な心配をさせてしまうだろう。
それに彼女以外の女の人と関係を持っていることになるので、誤解を招きかねない。
「ふーん...何事も程ほどにね」
彼女なりに理解してくれているのだろうか...
僕の心は何故か、少し申し訳ない気持ちになった。
「おはよう、明人君」
うん、今日も笑顔ですね黒道さん。ずっとその笑顔でいてください。
やっぱり彼女には真剣な顔じゃなくて笑顔が似合ってる思う。
って何分析してんだ僕は...
ちょうど近くに彼女の由理がいなかったので、とりあえず昨日のことについて話してみる。
「昨日は疲れた?」
「あんまり疲れなかったけど」
さすが、と言うべきなのだろうか。
というかこいつの父親は何者なんだろう。
昨日ソレ関係と言っていたが、親がいるからこいつがいるんだよな...
となると、もしかして黒道って結構エリートなんじゃないか?
「なあ黒道、お前の父さんって何やってんだ?」
「んーと、神の遊びの調査...かな。研究してるって言ってもいいよ」
神の遊びの調査...
つまり科学的に研究してる人ってことか。
父がそういう仕事ならそういう事も詳しそうだしな。
「ちなみに国からの援助もあってなかなか給料は高いらしい...ハッハッハ」
黒道がいやらしい顔で笑っている。
本当に面白いやつだな、こいつは。
「んで、明人君の親は何やってるの?」
「2人とも絶賛海外出張中だ」
「へー、それじゃ一人暮らし?」
「そうなるな」
やっぱり羨ましいとか思うんだろうか。
なかなか大変なんだけどな。
「今度泊まっていい?」
...おいおい、なんてこと聞いてくるのこの人。
「ダメに決まってるだろ!」
「よっ童貞」
「誰がだ!!」
痛いところをつくな!
そもそも俺はかなりモテるんだ!
そんな...例のそれだって捨てようと思えば捨てれんだよ!
彼女もいるしな!
まあ僕そういうのにあんま興味ないし!?だから別に今はいいかなって思ってるだけだし!?
「...動揺しすぎだし声漏れてるし」
「えっマジで!?」
...油断したな。
授業の内容は、前よりは入ってくるようになった。
普通に集中できるし、あまり黒道の事も気にならなくなった。
まあこれは彼女と親しくなったのが原因だし、良いことだと思う。
ということで僕の問題はほとんど解決したのだが...
「.........はぁ」
問題はパートナーの黒道だ。
こいつ授業を真面目に受ける気がない!
一度しっかり授業を受けろとは言ったのだが、全く聞く気がないらしい。
これで本当にテスト大丈夫なのか...?
「......!」
彼女がいきなり驚いた。なんだ?
携帯の画面を見つめ、そして
「今日、また神の遊びが来るって」
「...マジかよ?」
まあ仕方がない、星を守るためだしな...
しかし前回のこともあるせいか、たまらずため息が出てしまった。
「どうしたよ、珍しくため息なんてついて」
前の席のやつが僕の方を向いてきた。
こいつは親友の悠人だ。
「まぁな、色々疲れてんだよ」
「そうか...あまり由理に迷惑かけんなよ。お前の彼女なんだから」
「......わかってるよ」
そんなことわかってる。彼女が心配してくれてんのも、お前らが最近僕を心配してることも。
だけど僕は、お前らを救うために戦うんだ。
感謝してくれとは言わないけど、事実を知ってから心配して欲しい。
だけどその事実は、言えない。
言ったらみんながどうなるのか、僕には想像がつかないからだ。
だから自分のためにもみんなのためにも、知れ渡ってはならない。
知れ渡ってはいけないのだ。この平和な世界を維持するためには...