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  作者: とにあ
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占い





 カイは次に訪れる予定日を告げ、その日は帰っていった。


 公務が忙しいのだろう。

 王という役職は激務のはずだ。

 見送り、部屋に戻ったオレはそっと準備されていたロウソクに火を灯した。

 朱金色の蝋燭は赤い炎を水晶に映し出す。



「ヴァーユ・アバス・プリティヴィ・アバス・アカシャ・ヴァーユ・プリティヴィル」



 それらしい呪文を精神統一のため唱えながら(呪文はなんでも良いのである)水晶の奥を見据えてみる。準備段階が必要なほど未熟で若い自分を情けなく思う瞬間だ。

 しかし、若いのだからしかたないといつものように開き直り、集中する。



 水晶はゆっくりと透明な闇に満ちていった。

 闇の中に浮かぶのは『ハーティー・ブレス』の今の姿。

 それは彼が今生きているということ。


 灰緑がかった黒髪は今も短く、その外見は20代半ば。

 身なりは良く、多くの部下が彼のために立ち働いている。彼はそれを当たり前のように見つめていた。


 そして、彼には主、生涯の主君がいた。

 彼自身の従兄弟でもある王、ソルティーガートがそうだ。


 その妹こそ彼が定めた、ただひとりの妻。つまり、王は彼にとって義兄でもある。

 ゆっくりと眺めていると気のせいか、ソルティーガート王がこちらを向いた。


 次の瞬間、オレは蝋燭の炎を吹き消した。

 王は間違いなくオレの視線に気がついたのだ。

 オレは背中に冷たい汗が流れ落ちていくのを感じた。

 上には上がいると知っていたつもりの事がこんなにもショックだったとはこれっぽっちも知らなかった。

 いや、忘れていたのだろうか?


 オレはふと気がついた。

 生きているとかの大まかな情報は得たが、本名の捜索がまだだということに。

 オレって間抜け。



……………みるの、やだな……


         ……また、みつかったら、やだな………

  




 よっし! 明日にしよう!





……………………………………………………オレって……………………



              ……………根性なし?………………



「ハーティー・ブレス。現在も生存。あそこは浮遊大陸『シリス』。だっかぁら」

 オレは気を取り直し、陽気に声を出しながら羊皮紙の上にペンを走らせる。

『浮遊大陸『シリス』にてハーティー・ブレス生存』と書き込んだ。

 問題は依頼主殿が信じてくれるかどうかである。

 第一の問題は『伝説の』ということだろう。



 伝説の浮遊大陸『シリス』



 オレはその存在も在り方の理由も彼らが今おかれている状況も、また彼らの変貌の様もある程度は知っている。彼らははっきり言って世界に対する脅威と言える存在だ。

 ゆえに情報はあまり氾濫しているとは言えない。

 魔力・体力・寿命・技術において優れた種ならいくらでもいる。良き特徴を併せ持った種族とて珍しくはない。多少、他種族を食料と見なしていようともだ。

 この大地に生きる者の中にとて肉や魂を食らって力にする者は少なくはない。共食いの習性がある種も。


 ただ、彼らの種はあまりにも貪欲だ。

 貪欲にして知力・体力・寿命において遥かに他種より優れている。

 ただ、救いと言っていいのかどうかはわからないが、彼らは自己崩壊を起こしやすいという脆さと、貪欲さを示した同胞に対しいかなる容赦も示さない冷酷さをもっている。

 少しでも気配やそぶり、兆候のあった同胞は削除、排除するのだ。

 自己の種の保身と言えるだろう。小数を排斥し、多数を救うというやり方を彼らはこの世界に降り立って以降ずっと続けてきた種族なのだ。

 そして、彼らは未だに夢を見る故郷へと帰るその日を。

 カイ、カイザーの中には濃く彼らの血が流れている。

 いつ兆候を示すとも知れない狂暴で貪欲な血が。


 そう、カイザーを調べる方は簡単だった。

 カイザーは常に片親にシリスの民をいだき、王位に近き者として生まれ、王として国を統治する。

 そして必ず18から26才までの若き日に病死する。

 発病から死亡までの期間は1ヶ月。

 一ヶ月の間、苦しみに苦しんでようやく死に至る病。

 それがカイザーのために約束のように織り上げられた運命。

 そしてほぼ確実に彼の死後、国家は崩壊する。

 いくど、転生を繰り返そうが彼の運命はすでにひかれているかのように、ひとつの過程と結果を描き出す。

 それは苦しみのうちに若くして死亡。そしてその後の国家の崩壊という運命。

 予定外にもカイザーこと、カイ・ローウェンが『アスカ』を訪れたのは次の日の朝だった。




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