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店の裏の男を見てみぬふりしたら同居人が連れ帰ってた。

作者: Milk
掲載日:2026/10/16

「冬子―、手伝ってー」

町中華のサッチャン。午後18時。

「はいヨー!」

「こりゃまた。すっごい混んでるネ」

お店に出るとシェフもホールも大忙し。

「ビールいっくヨー!!!」

大胆にホールを回して混雑に対応してく

「冬ちゃんいいねー!」

「よっ看板娘!」

常連のおっさんたちがいつも通りチャチャを入れてくる。

「今日も赤いな、潰れんじゃないヨっ」

「冬ちゃんごめん、これ外に捨てに行ってー!」

「はいヨ」

場所をとるゴミを何個も抱えてお店の裏に出しに行く。

裏口のドアを開ける。

「…あんた誰ネ」

ゴミを大量に抱えながら変な男と目が合う。

店の裏に隠れるなんて悪い香りがするな。

「店に迷惑かけねぇから。ちょっと隠れさせて」

ここで追い出して迷惑起こされても困るし。

「私は何も見てないヨ」

ゴミを適当に置いてそのままドアを閉める。ホールに戻るとまだまだ忙しく冬子!冬ちゃん!と頼る声が止まらない。

「あんた私に頼りすぎネ」

「僕こういうの向いてないんだよ」

「じゃあなんでここで働き出してんの」

「苦手を克服するのって悪いことじゃないだろ?」

「じゃあ私にたよっちゃダメネ」

「…ぅん」

「頑張れヨ!」

「おばさん、これ僕やるよ」

単純男の子。名前は泰伽(たいが)。冬子は小子(シアオズ)と呼んでいる。

いつも通りホールを回しつつ、冬子は店の裏の男が気になっていた。いつもなら何も気にしなくてすぐに忘れるのに。

閉店時間になり、いつも通り潰れた客を外に放り投げる。

「イッテェ笑ふゆちゃぁ〜ん、」

「だから潰れんじゃないよって言ったネ」

扉をパシャリと閉めて錠をかける。

「お客帰ったヨ」

「帰"らせた"だろ」

「ありがと冬ちゃん!閉め作業だー!」

ふぅとため息をついて立ち上がる。テーブルを拭いて椅子を机の上に乗せて床掃除をする。モップで床を拭いてると困ったような表情をした小子がこちらに向かってくる。

「冬子」

「ナニ」

「裏に男の人がいたんだけど…」

「冬子がゴミ捨てに行った時もいた?」

あー…まだいたのかヨ。

「どうしようもないネ。気づいてないフリするのが一番巻き込まれないヨ。」

「でも店の裏で騒ぎになられても困るよ」

「じゃあどうしたい?匿っておかゆでも作るのか?」

「そういうわけじゃ…」

「最後まで助けられないなら下手に手だすモンじゃないネ」

「うん…」

「ここの掃除終わったら私先お風呂入るヨ」

「わかった!」

ちゃっちゃか床掃除を終わらせる。

この男の子(小子)と私、そしておじさんおばさんは一緒に住んでいてお世話をしてもらっている。

「冬ちゃん、今日もお疲れ様っ!」

「おばさん今日もキレイネ」

「あらぁ嬉しい」

「掃除終わったからお風呂入ってくるネ」

「はーい」

・

ちゃぽん。古くて綺麗な青のタイルのお風呂に浸かる。アヒルを湯船に浮ばせてツンツンと爪で弾く。今日も何事もなく終わって良かった。裏にいた男のことが気になるけど。明日の朝にはいなくなってるはず。

お風呂を出るとおじさんとおばさんの話声が聞こえる。髪をまとめて部屋着に着替える。

「お風呂でたヨー」

おじさんたちの方面に声をかけると

「はーい!」

と元気な返事が返ってくる。私みたいに体力があるわけじゃないのに元気だな。

スキンケアを終わらせ長い髪をじっくりと乾かす。その後はおじさんたちとテレビを見てなんでもない話をしたり無言で携帯を眺めたりする。

おじさんもおばさんもお風呂に入って寝に行く。深夜2時。

「冬ちゃんも早く寝なね、おやすみ」

「おぅ、いい夢みろヨー」

手を振り、小子がお風呂に入るのを待つ。今週は私が当番だから夜のうちにお風呂掃除をしちゃいたい。あいつ。なかなか入らない。もう寝たい。早く入れヨ。どうせまた部屋でパソコンでもいじってるんだ。言いに行こうかな。

深夜3時。小子の部屋の前に立ちバンっとドアを開ける。

「何してる。早く風呂入れヨ」

薄暗い部屋で慌てたような顔をして小子が私を見る。

「なんだ」

「いや、なんでも…お風呂、今日は僕が洗っとくから冬子はもう寝て」

なーんか怪しい

「お前なんか隠し事か?どうでもいいけどエロ本は隠しとけヨ」

「そ、そうだね」

いつもなら否定するのに。

部屋をちらっと見ると廊下の明かりが当たっていない場所に誰かもう一人…

「あっ!」

あちゃー、、というように小子が気まずそうな顔をする。

「お前何拾って来てるネ!」

店の裏にいた男が床に座りベッドにもたれかかっている。男の前にはパンと水。

「僕の勝手だろ!冬子はいいからもう出てってよ!」

「お前の勝手でサッチャンに迷惑かけられたらたまったもんじゃないネ!」

「迷惑かけないから」

「そんなんお前にどうにかできる話じゃないヨ!その男の素性も知らずによくノコノコ部屋に上げたな」

男をギロッと睨むと真剣な面持ちでこちらを見つめてくる。目をつけられても厄介だ。

「風呂の掃除しとけヨ」

最後に一言だけおいて部屋から離れる。

ドアが閉まり、ごめんねという声が聞こえる。下手に手出すなって言ったのに。おばさん達を起こさないよう静かに廊下を渡り、ベッドに潜り込んでふて寝する。明日、どうなってるだろうか。小子は殺されないだろうか。一応・・・

・

ゴミを捨てに店の裏を見た時、男の人がフーッフーッと辛そうな息をして座り込んでいた。暗くてよく見えなかったけどきっと怪我をしている。それも大変な怪我を。冬子に関わるなと言われた手前かかわるべきじゃないんだろうけど。泰伽は男のことが妙に気になっていた。このまま見て見ぬふりをするのも夢見が悪い。冬子がお風呂に入っているのを見計らい、その間に声をかけに行く。

「・・・あの」

男がちらっとこちらを向く。

「悪ぃ、もう行くから」

ふらつきながら立ちあがろうとするがヨタヨタと足元がおぼつかない。

「僕の部屋に来ます…か、?」

ふらつく男の腕を支えて顔を覗き込む。

「ありがたいが…」

「大丈夫です。僕の部屋なら誰にも迷惑かからないはず」

「そう言うわけじゃなく」

「じゃあどう言うわけですか」

「・・・」

「そんなんじゃ辛いだろうから、手当します」

「・・・恩に切るよ」

おぼつかない足取りの男を半ば強引に引っ張り、部屋に連れて行く。おばさんにもおじさんにもましてや冬子にもバレないようこそっと隠れながら。男は泰伽に腕を握られながら俯き片手で前髪を押さえている。

「大丈夫、入って」

男を部屋に入れ電気をつける。泰伽は明るい部屋は苦手だから電気をつけても薄暗い。だが、その明かりでもわかるくらい男は予想以上にボロボロで立っているのもやっとなように見えた。

「ここ座ってください」

ベッドの前を指差し机の前に座らせる。

「お腹減ってませんか?」

「・・・入れてくれただけで十分だ。俺のことは気にしないで良い」

「お腹、空いてませんか?」

男は俯き、どう答えるか迷っているように見える。

「ちょっと待っててください」

男を部屋に一人残し、食料を取りに行く。取りやすい場所にあったレーズンパンとお水をサッと取り、急いで部屋に戻る。男は一ミリも動かず肩で息をしながらただじっと座っていた。

「パンとお水です。食べたいときに食べてください」

男の前の机に置いたは良いものの男は手を出さない。毒が入っていないか疑っていたりするのだろうか、普通の人っぽくないし。それよりもまず手当をしないと。その前に傷口を洗わないと・・・。

色々考えていると男の荒い息が聞こえてくる。

「何か、僕にできること・・・」

男はもう答えるのもやっとな様子で首を振る。とりあえず、

「これ飲んでください」

男の口元にグラスを押し付け飲ませる。ほとんどは口からこぼれ落ちているがゴク、コクと少しずつ飲み込む音が聞こえる。ハンカチで口元を押さえ水を拭う。男は抵抗せず泰伽のすることを受け入れ、長い前髪に隠れる瞳は泰伽のことを見ていた。

「みんなが寝たら傷口を洗い流しがてらお風呂に入りましょう。意識が持たなそうなら手伝います。」

自分よりだいぶ大柄で体格の良いこの男を支えられるかの確信もないまま理想だけを並べる。

「そんなことまでさせられない」

掠れた声でつぶやく。

「着替え探します。」

泰伽の服は当たり前だが泰伽の体型に合わせた小さい服しかなく、オーバーサイズで買ったものでさえ男には小さい。困ったな。このまま汚れた服を着させ続けるわけにもいかないし洗濯をしても乾かない。冬子のオーバーサイズくらいだったら入りそうだが仮にも女の子の服をましてや冬子が無視しろと言った男に着せるわけにもいかない。

「すみません、これ多分小さいんですけど一番マシかと・・・」

チャックでどうにかなるパーカーと伸びの良いパンツを用意する。男は何も言わないが心なしか少し笑った気がした。お風呂に入るまで傷の手当もしていいかわからないし冬子たちが寝るまでは何をすればいいかわからず沈黙が続き、男の辛そうな息だけが響く。

深夜3時。リビングを見るとまだ冬子は起きていて早く寝てくれと願う。

「・・・あの、お名前聞いて良いですか」

喋らせるのもどうかと思うがせめて名前くらいは

「俺は・・・」

言うのを躊躇って泰伽の様子を伺う。

「本名が躊躇われるなら偽名で大丈夫です。僕がなんて呼べばいいかだけ、、、」

男は視線を落とし、ため息を吐く。こんな小さい男の子に気を使わせてしまうとは。

「中也」

少し迷って男は偽名を伝える。こんな小さな男の子でも警戒を解いてはいけない。

「中也さん、僕は泰伽です。泰伽とお呼びください」

泰伽は本名か偽名かは問わず「中也さん、中也さん・・・」と名前を連呼する。

こいつは純粋なのか、俺を助けたことに邪推な気持ちがあるのか、俺を匿う意味は。

オドオドしてるのになぜ助けた。あんまりこんな危ないやつ部屋に入れるなよと忠告したくなる。

「あっ・・・」

中也は何かを伝えようと口を開くとバンっと勢いよく扉が開く。

扉の方を見ると中也が夕方出会ったもう一人、冬子がムスッとした顔で泰伽のことを見ている。扉の向こうからの光は泰伽だけを照らし、中也のことには気づいていない。

「何してる。早く風呂入れヨ」

急なことにびっくりした泰伽は慌てた顔を隠せないまま冬子を見つめる。

「なんだ」

冬子は幸い中也さんには気づいておらずそのまま僕だけを見ててくれと願う。風呂、風呂か、そうか今週のお風呂担当は冬子だったか。

「いや、なんでも…お風呂、今日は僕が洗っとくから冬子はもう寝て」

動揺した声を隠せないまま引き攣った笑顔を冬子に向ける。冬子は眉毛をクイっと動かし疑いの目を向けてくる。

「お前なんか隠し事か?どうでもいいけどエロ本は隠しとけヨ」

「そ、そうだね」

お願いだから早く出ていって。お風呂は僕が掃除するって言ったじゃん。冬子の目線が僕の後ろに向く。やばっ

「あっ!」

あちゃー、、バレた、、、、、。

「お前何拾って来てるネ!」

冬子は中也さんと中也さんの周りをジロジロ見て僕のやっていることに嫌気がさしているようだ。ツンとした怒鳴り声が耳と心臓に響く。冬子は関係ないじゃん。そんな怒らなくても良いじゃん。もう!!

「僕の勝手だろ!冬子はいいからもう出てってよ!」

つい叫んじゃった。

「お前の勝手でサッチャンに迷惑かけられたらたまったもんじゃないネ!」

冬子もいつもの落ち着いた様子じゃなく、こちらにもどかしいような目を向けて怒る。冬子の圧に圧倒される。

「迷惑かけないから」

もう怒鳴ることができずに冬子をなだめる。

「そんなんお前にどうにかできる話じゃないヨ!その男の素性も知らずによくノコノコ部屋に上げたな」

冬子は男を睨み、フンっと目をそらす。

「風呂の掃除しとけヨ」

低い声で言い放ち部屋を離れる。こんなに怒ってる冬子は珍しい。そんなに気に触ることだったのか。泰伽はドアを閉めながら「ごめんね」と中也に伝える。

冬子っていうのか、あの女の子は。冬子さんはここの場所を大切に思ってるんだな。俺に対する態度も納得できる。

「冬子も寝たのでお風呂行きましょうか」

泰伽は中也の手をとり立ち上がらせる。中也はふらつきながらも立ちゆらゆらと歩く。お風呂場に着くとしっかりした明るい光に当てられて中也の傷が浮き彫りになる。

「一人で入れそうですか?」

泰伽は中也の傷に驚いているのを悟られないようなるべく普通の空気を気取って質問する。

「あぁ」

洗面台に手をつきながら答える。

「じゃあゆっくりしてきてください、湯船にもきちんと浸かってくださいね!僕は今日シャワーで済ませたいので僕のことは気にせずに。あと着替え、ここに置いておきます。傷口きちんと洗ってきてくださいよ!」

言い終わると扉を閉め、前に座る。倒れちゃわないだろうか。溺死とか・・・。縁起でもないことを考えてしまう。それと冬子のことも。ふぅと膝の間に顔を埋める。そうだ今のうちに。部屋を少し片付け救急セットを部屋に運ぶ。手当しやすいように机やものの配置を考えガタガタと準備をする。

風呂は古き良き昭和のような風呂でこんな汚れた自分が入っていいのか戸惑う。服を脱ぎ、家を汚さないように比較的綺麗なシャツを一番下にして床に置く。シャワーは温かく冷たい自分を安心させてくれる。傷口に染みるがそんな痛みはもう慣れている。湯船に浸かったときに湯船が血まみれにならないか心配だが一応。体を流し終わったあと湯船に足を入れ、全身をつからせる。。あったかい。湯船の端っこに置いてあるアヒルを指でツンツン突っつきこの場所の安心する生活を感じる。そりゃこんな生活の中にボロボロの男が入ってきたら怖いよな。湯船がピンク色に染まってくる。やはりまだ傷口は塞がってなかったか。少し痛いがこの平和な風呂が心地よい。もう少し浸かっていよう。頭をフラフラさせながら自分が感じたことのない空気を楽しむ。

そろそろ、、と湯船から出て頭を洗おうとすると目の前が回りだしどさっと座り込む。無理したな。泰伽の部屋を、この家を汚さないようにしっかりと自分の汚れを落とす。言われた通り傷口もきちんと洗う。

お風呂から出ると黒いタオルが用意されていた。泰伽が用意していたのは白いものだったと思うが。匂いを嗅いだり触ってみたりしても何も変わったところはなく、用意されたもの以外勝手に触るのも気が引けるので大人しく黒いタオルを使う。泰伽が用意してくれた小さそうな服に着替えようとバスケットに目を向けると可愛らしいメモ用紙が置いてあった。そこには「小子に手出すなよ」と雑でも丁寧でもなく意思の込められた文字。冬子さんだろう。その下には泰伽が用意した服ではなく中也でも着れそうなジャージとTシャツ、そしてパーカーが綺麗に畳まれて置いてあった。そういえば、と自分が置いた服をみると中也の服は無くなっていてその代わりに洗濯機が回っていた。洗面台をみると石鹸がさっき使われたように泡立っていた。優しい子なんだろうな。

ドアを開けると泰伽がドライヤーを持って待ち構えていた。

「あれ、服・・・」

冬子さんの手紙のことを話しても良いのだろうか。だが泰伽が知らないということは泰伽にバレないように行ったのだろうと中也は悟り

「俺のだよ」

と明らかな嘘をつく。納得していないような顔の泰伽に向き合い

「お風呂ありがとう。」

と伝える。泰伽はまだ疑問が残るようだが、いえいえと首を振り髪乾かしましょうとドライヤーを差し出す。

髪も乾かし終わりスッキリすると、手当が始まる。泰伽は手当に慣れておらず中也の指導のもと一生懸命行った。深い傷に血の気が引いたような顔をしたり小さな傷にドヤ顔で絆創膏を貼ったり純粋な泰伽がすごく綺麗に見える。これ以上この家族に迷惑はかけたくない。中也は許容量を超えた幸福に、心の奥の温かさに戸惑う。手当が終わり片付けも済むと、

「中也さんは僕のベッドで寝てください」

と泰伽が微笑む。

「いや、俺は床でももったいないくらいだ」

「じゃあベッドの方が足りすぎちゃっていいですね」

今はこの幸せを受け入れてもいいだろうか。もうこの先感じることなんてできないかもしれない中也は自分にこんな心があったのかと思いながら

「・・・ありがとう」

と微笑んでみる。

「はいっ」

泰伽は嬉しそうに頷く。

「僕はちょっとやることがあるので先に寝ていてください。明日のお昼でも夜まででも寝てて大丈夫ですからね!」

電気消しますねと薄暗い灯りを消しドアを閉める。知らない奴の真っ暗な部屋に一人。だがこんなに満たされている。明日の朝早くに出ていこう。そんなことを考えていたらいつの間にか眠りについていた。

お風呂に入りお風呂掃除を終わらせる。湯船のお湯は落とされていて綺麗に洗われていた。シャワーを浴びながら中也のことを考える。助けたことに後悔はないが、手当した時にみた傷。傷跡、動揺しない姿。本当に普通の人ではないんだろう。冬子ともちょっと気まずくなっちゃったかな。でも中也さんが着ていた服は僕のものではないし、中也さんは自分のものだと言っていたけど絶対嘘。冬子のものだとしか考えられない。でも冬子は絶対そんなことしないし。悶々と考えて明日の朝中也さんは元気になっているかなとか、何か作ってあげられないかなとかと考えていた。

お風呂から上がった後も今日のことを思い出しいつもはしない経験に何か心を躍らせた。ただ疲れていたのも事実でリビングの座布団に吸い込まれるように眠りこけてしまった。髪も乾かさずに・・・。

ドライヤーの音がする気がする。髪が撫でられているような気もする。虚な目を開こうとしてもすぐに瞼が落ちてくる。なんだか気持ちが良くてまたすぐに眠りについた。

目が覚めるともう外は明るくおばさんとおじさんも起きてきていた。

「泰伽くんおはよう、朝ごはんできとるでね!」

いつもの朝に伸びをしながら起き上がる。泰伽には布団がかけられていた。そういえば、中也さんはまだ寝てるかな。おはようと二人に挨拶をして部屋に戻り、恐る恐るドアを開ける。中也さんはすでに起きていて、服も元の服に着替え、ベッドに座り指を組んでいた。すぐにこちらに気づき中也さんと目があう。

「あっ、おっひようございます」

ちょっと噛んだ。

「おはよう」

中也さんの低い声が響く。昨日の夜よりは元気そうに見えたけど、きちんと寝られたのかな。部屋に入りドアをきちんと閉める。

「調子はどうですか?」

「おかげさまで」

カーテンの隙間から入る光が中也さんの顔を照らし昨日はあまり見えなかった表情が読める。

「朝ごはん、何か食べますよね。僕なんか持ってきます」

中也は部屋を出ていく泰伽の後ろ姿を見つめ何も言わなかった。

今朝、中也はこの家を出て行こうとした。午前6時。眠りについたのが大体午前5時だから1時間の睡眠。泰伽もリビングで寝ていた。いつの間にか乾かされ畳まれていた自分の服に着替え、借りていた服を畳んでベッドの上に置く。出ていくには何も問題はなかった。しかし階段前に着くと

「出てくのか」

と後ろから話しかけられた。冬子だ。

「冬子さん、すみません勝手に。お世話になりました。」

「傷は」

「昨日泰伽くんに手当してもらって、もう大丈夫です」

ふーんと言ったように腕を組み上から下を舐めるようにみる。

「きちんと寝てけヨ。それじゃ治らないだろ」

「え?」

早く出ていってほしいのだと思っていたばかりに驚く。

「それに朝起きてお前がいなかったら小子が落ち込む。せめて元気になったふりでもしてやってから出てけ」

冬子は中也の心配をしているわけではなく泰伽のことを心配していた。中也もそれに気づいた。

「早く靴脱げヨ」

これもお礼か。と大人しく靴を脱ぎ冬子に見張られながら部屋に戻り服を着替え、ベッドに入る。俺が元気でいることで誰かが喜ぶのかと口元がゆるむ。ここが安心できない場所だったらなんとか冬子を掻い潜って逃げ出しているだろうが、そこまでする意味を感じない。ゆっくり寝て良いと目を瞑った。

 泰伽は台所に行って炊飯器を覗く。美味しそうなお米が炊けている。おにぎりを握ることを見透かしたように隣にはラップとふりかけと塩、そして海苔がおいてある。おにぎりを握る泰伽を冬子は横目で見守る。おにぎりを握り終わった泰伽はお盆におにぎりとお茶をのせ、ルンルンで部屋に運んでいく。

「おにぎり握ってきました。あとあったかい、お茶」

机の上に置いて差し出す。

「ありがとう・・・。泰伽くんの分は?」

「僕は後で、食べるので・・・」

ただ俺が食べてるのを見守られるのもなんだか。

「一緒に食べよう」

二つ作ってきてくれたおにぎりを一つ差し出し手に握らせる。

「えっ、あ、どうも・・・」

くれたおにぎりをむしゃむしゃと頬張る。良い感じ。美味しい。

冬子は泰伽の部屋の外でおにぎりとお味噌汁を2個と2杯、そしてお茶を抱えながら入るべきか2人の思い出に邪魔をしないべきか悩んでいたが、冬子はそっとドアの前を離れる。

 元気になったふりでもしろと冬子が言っていたことを中也は思い出す。元気になったふりってどうやれば良いのだろうか。汚れた仲間相手だったら対応が楽なのにこの子達にはどう接していいのかが難しい。

「おにぎり、美味しかった。」

お茶をすすり次の言葉を待つ。

「泰伽くんのおかげで傷口も塞がってきたし、体調もすこぶる良い。」

元気になったふりがわからずとりあえず腕に力を入れてマッスルポーズをとってみる。

「そんな力入れたら傷口からまた血が出てきますよ・・・」

泰伽は怪訝な顔をする。あれ。おかしいな。

「でも、元気になったなら嬉しいです。何があったのか聞きませんが、気をつけてくださいね」 

よろこ・・んでる・・・・のか?元気には見えたかな。

「あ、ああ。世話になったな。」

そろそろここを出ようとベッドから立ち上がると泰伽もそれを察して立ち上がる。

「帰るんですか」

ドアを開けようとする中也の服を泰伽は少し掴み、わかっていることを口にする。帰らないでほしいと願っているわけでも無いが非日常な感覚が名残惜しい。中也がどう思ってるかわわからないが泰伽は中也に対して少しの興味と親近感、そして好感を持っていた。昨日あった素性も知らない人に寂しさを覚えるくらいには。

 泰伽の表情は薄暗い灯りでよく見えなかったがなんとなく寂しさが滲んだ声色に中也も久しぶりに寂しさを感じる。また会うことなんてないだろうが。また会わないように俺が気を付けるだろうが。

「また会える」

と泰伽の頭を撫でる。泰伽は視線を落とし

「送っていきますね」

と答える。

 おじさんとおばさんがテレビに集中している間に階段を降り、裏口に向かう。冬子の部屋に声をかけたが冬子は返事をしなかった。

「じゃあ、また」

中也はぎこちなく手を振る。

「また」

気をつけて、怪我はしないで、言いたいことはあったがそれは中也さんには難しそうなので一番できそうな願いを口にする。

「ご飯、ちゃんと食べてね」

中也は口角を上げて頷き裏口から出てドアを閉める。ドアが閉まって数秒たったのち、泰伽は手を振るのをやめて鍵を閉める。

 中也は自分で閉めたドアを見つめて昨日の夜を思い出す。中也にとっても非日常だった。ドアに背を向けて、今度は背後の視線に気づく。

「冬子さん。」

「気づいてたのかヨ」

「色々気を使ってもらって、ありがとうございました」

深々と頭を下げる。

冬子は赤の風呂敷に包まれた四角い箱を差し出し、中也は目を丸くして冬子をみる。

「どうせ帰るとこもないんだろ。腹が減ったら食いな」

中也はぐいっと差し出されたそれを受け取り、本当に気が利く人だなとしみじみ冬子を見つめる。

「なんだヨ」

「俺、カウンって言います。」

本名を打ち明けた。なんの躊躇いもなく、疑いもなく、ただただ、自然に。

「小子には言ったのか」

「偽名を伝えました。」

「小子にも言うのか」

「いや、今は冬子さんだけ、知っていてください」

そして中也、改めカウンは二度と踏み入れない場所から足を遠ざける。迷惑を、面倒をかけたくない、一晩でできた大切な場所から。

「カウン」

裏を抜けて光が当たり出すところまで来ると、後ろから名前を呼ばれる。

「また来いヨ!」

冬子は初めてカウンに笑顔を向け、大きく手を振った。カウンもまた自分でもこんな表情ができたのかと思うほど純粋な笑顔を冬子に向け、手を振る。

 そしてカウンは光のなかへ、冬子は暗い店の中に戻っていくのであった。

ん?

「鍵が閉まってるヨ!」




終わり


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