4話 鮮血の殺戮者
「――帰って……これたぁ」
「おお!! ここが旦那様たちの暮らす地上というやつか!!」
照明の灯りが俺の目を刺激。
でもこの人工感がどうにも心地いい。
最近は部屋に引きこもる方が多かったから、すっかりインドア派ってわけだ。
にしてもあんだけ威圧感たっぷりで殺気を振りまいていたインドラがこんなにいい表情をするなんて……やっぱり文明の進化ってすげえよな。
まるで小さい子みたいに目を輝かせてさ、誰が見てもただの可憐な女性にしか――
「――う、わあああああああああああああああああああ!! あれ、あれです!! 報告していたモンスターは!! は、早くS級探索者を呼んでくださいよおっ!!」
……んなわけがなかった。
俺のことを置いて逃げってた探索者が大慌てで職員の人に泣きついてる。
うーん、これどうしたもんかな。最悪モンスターをここまで連れてきたとか何とかで俺まで処分対象になる……とかはないよな?
「お、落ち着いてください! 既に本部に要請はしてますから! 専用口を使ってこられますからもうまもなく到着するはずですよ!!」
「は、早く! 多分『Fラン暴投無駄筋君』もやつに洗脳されてますから、一緒にやってしまわないと!!」
あいつ、余計なことを……。
ロビーにいる連中がインドラだけじゃなく俺にまで鋭い視線向けてくるようになったじゃねえか。
「なあなあ旦那様! ここはどういう場所なのだ? ダンジョンの出入り口だけというにはなんというか……凄く近代的だぞ!」
「ああ、それはな……ってもうちょっと緊張感持てよ」
「ん? 別に我より強そうなやつもいないから緊張する必要などないだろ?」
ここは初心者ダンジョン用に建てられた施設。
S級探索者どころかC級探索者が現れただけで目立ちまくりの場所なわけだから、そりゃ余裕なのは分からなくもないけど……。
これだけの人数から一斉に視線を浴びたら普通は緊張するだろ。
おれなんかもう手汗がひどくてひどくて……こんなことなら他のダンジョンみたいに出入口は厳重にしてくれた方がありがたかったな。
初心者用だからって出入口になんの警備もなけりゃ、受付とかもあるロビーに野ざらしってやばすぎんだろ。
「はぁ。ま、まぁこれ以上面倒がないようにおとなしくな。説明のターンになったら俺が上手いことするから」
「おお!! 流石は旦那様!! 頼りにしているぞ!! ただ奴らをひれ伏させるとなれば全力で助力する。覚悟はある。元々我はこやつらを蹂躙するために出てきたのだからな」
「あのなあ、そんな物騒なこと言うのは本当にやめ――」
『――レベル320のモンスターとそれに囚われた探索者、か。これはまずいな……』
やる気満々なインドラを宥めていると、いつの間にか俺たちの前には赤い甲冑を着た人物が立っていた。
声が籠っているせいで女のか男なのか、それすら分からないこいつは……。
「まさか『鮮血の殺戮者』がおでましかよ。はは、俺でも知ってる有名人じゃねえか」
ネットニュースで見ない日はない超有名人……わずか一か月でS級探索者となった天才オブ天才。
「……旦那様、少し下がってて」
ロビー全体がまがまがしい殺気で満ちる。
もしこんな時におじいちゃんおばあちゃんが依頼を持ってきたら卒倒すんじゃないか?
そりゃ、やばすぎる。と、なれば……。
「ここは俺の出番だ。下がるのは俺じゃなくてインドラ、お前だよ」
「!? ふふ、あははははははは!! そうだ、そうだった!! 許せ旦那様!!」
豪快に笑って俺の後ろまで下がるインドラ。ちょっと胸が当たってる。
「ふぅ……あの、これはかくかくしかじかでして――」
『まさか、これほどのモンスターを自在に操るとは……。驚愕せざるを得ないな。お前、名前は?』
両手をハエみたいにこすり合わせて必殺のゴマすりを発動しようとした瞬間、鮮血の殺戮者は勝手に納得してくれた。
都合良すぎでこわぁ。
「えっと……飯田っていいます」
「!? そうか、あの天才……。元天才投手だったか。であれば不思議ではないな」
めっちゃ俺のこと評価してくれてる。え、実はいい人なん?
「だが、320レベルのモンスターを連れ歩く行為は探索者、並びに一般人を不安な思いにさせる。悪いがそいつは斬り殺させてもらうぞ。……ふふ。丁度血に飢えていたところだったのだ」
鮮血の殺戮者はそういうと腰に下げていた剣を握り一瞬で間合いを詰めてきた、のだが……。
「――あっはっは!! これはこれは面白いシーンに出会えたもんだ! いやぁ、たまにが視察に来てみるもんだねえ」
また唐突に人が……イレギュラーなことが起きてるからってことが大きくなりすぎてやしないか? ってこいつは……。
「まさか迷宮省、大臣?」
「おお! よくわかってくれたね! 改めて、私は迷宮大臣菅井智弘。以後お見知りおきを願うよ、飯田君」
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