王宮で最強すぎて孤独すぎる私が、黒衣の魔法使いをデコピンで倒し、仲間と未来と友情を全部奪還して、結局世界をめちゃくちゃ面白くしてしまった話
第1章 祝福されなかった僕
僕には、才能がない――そう、最初から分かっていたわけではない。
でも、あの日、あの瞬間、僕は世界に突きつけられたのだ。
「君には、何も授けられない」
王都の大神殿。天井は高く、荘厳な光に満ちていた。石畳の冷たさが足の裏に伝わる。ここで、僕の運命は決まる――そう、誰もが言っていた。
僕、セシル――グラネド王国の第一王子として生まれ、周囲からは「次代の光」と呼ばれ、神の加護を得るのが当然だと思われていた。なのに、僕の手は空を握ったまま、何も触れられなかった。
「セシル……?」
母の声。優しく、しかしどこか震えていた。父の目は、僕の前に落ちた祝福の光を追うように、揺れている。
僕の手には、何も、ない。
周囲の人々の視線が、僕に刺さる。興味、期待、そして――失望。
神官の長が、静かに、しかしはっきりと告げる。
「この者には、スキルも加護も授けられませんでした……」
その瞬間、僕の世界は一瞬、凍った。
凍りついた空気の中で、耳をつんざくような声はしなかった。ただ、僕の心臓が、頭の中でバクバクと音を立てる。
「な、なんで……?」
口を開けるも、言葉は出ない。僕の脳は、無理やり理由を探そうとしていた。計算するように、可能性を列挙する。神様が忘れた? 儀式の順番が間違った? いや、あり得ない。
でも、目の前の事実は変わらない――僕は、祝福を受けられなかった。
父は、僕の手をそっと握った。
「絶対に、君は偉大な人間になる。隠された才能が、いつか花開くはずだ」
その声に、僕の体は硬直した。心のどこかで安心した自分と、理不尽さに怒る自分がせめぎ合う。
安心してはいけない。怒っても、どうにもならない。
でも――なぜか涙が、頬を伝った。
大神殿を出ると、外はまぶしいほどの晴天だった。
風が、僕の顔に触れる。誰もが僕を讃える視線を向けているはずなのに、僕にはただ、孤独が押し寄せてきた。
小鳥のさえずりも、騒がしい露店の声も、祝福を受けた王子を讃える拍手も、全部遠くで鳴っているように感じた。
それからの日々――
僕は「才能がない王子」として扱われるようになった。
それは決して冷たく、意地悪な扱いではなかった。むしろ、父も母も、側近たちも、全力で僕を支えようとしたのだ。
でも、その支えは、僕には重すぎた。期待という名の鎖に縛られ、無力な自分を突きつけられる毎日。
「セシル、今日は剣の稽古をしよう」
幼馴染のソダスが笑いかける。彼は天才だった。どんなに僕が努力しても、普通の人間なら数年かかる稽古を、軽々とこなしてしまう。
僕は剣を握る手が震えるのを感じた。隣で木剣を振るうソダスの姿は、眩しく、そして遠かった。
「……僕も、強くなりたい」
心の中で何度も呟いた。だけど、現実は違った。僕には才能も加護もない。努力しても、天才たちの影にかき消される。
それでも、僕は諦めなかった。
「僕は、僕なりに、誰かの役に立とう」
そう決めたのだ。
その日、初めて僕は気づいた。
才能がないことが、絶望だけじゃない。
自分の手で道を切り開く自由が、まだ残っていることを――。
そして、僕の物語は始まった。
神からの祝福はなかった。でも、僕は歩く。傷つき、迷いながらも、歩き続ける。
僕にはまだ、誰も知らない未来があるのだから――。
第2章 平凡な僕の選択
僕は、今日も早朝の王宮庭園を歩いていた。
薄い霧が芝生を覆い、朝日の光がキラリと雫に反射する。歩くたびに草の匂いが鼻をくすぐる。僕は――こんな小さな世界でも、少しだけ自由を感じられるのだ。
「おはよう、セシル」
声に振り返ると、ソダスがいつものように笑って立っていた。
「おはよう……」
僕はぎこちなく笑う。彼の明るさが眩しすぎて、自分の影の薄さを痛感する。でも、僕は少しずつ、この時間を楽しむことにしていた。誰かと比較するのではなく、自分のペースで歩くこと。
今日も剣の稽古が始まる。だけど、僕の手は震えていた。前章で経験した“祝福されなかった瞬間”の記憶が、今も胸の奥で鈍く疼く。僕は神の力を持たない。だから、普通の努力でしか自分を磨けない。
「でも……やってみよう」
小さく呟く。目の前の木剣を握りしめ、僕は一歩ずつ踏み出した。ソダスは軽やかに振るが、僕はぎこちない。体が思うように動かず、呼吸が乱れる。周囲の声も、風の音も、すべて僕に重くのしかかる。
けれど、その中でも、僕は気づく――失敗すること、遅れることは、悪いことばかりじゃない。
「誰かと比べる必要はない……僕は、僕なりのやり方で進めばいい」
剣の振りを終え、汗が額を伝う。ソダスは僕の横で笑って言った。
「まあ、最初はそんなもんだ。ゆっくり上達すればいいさ」
その言葉に、僕は少し肩の力を抜いた。才能がない僕でも、少しずつできることは増えていくのかもしれない。
午前の稽古を終え、庭園を歩きながら僕は思った。
「もし、祝福されなくても、道はあるかもしれない……」
そのとき、ふと木陰から声がした。
「セシル……?」
振り向くと、見知らぬ少女が立っていた。肩までの黒髪、真っ直ぐに僕を見つめる瞳。何か言いたげだが、言葉を飲み込んだように黙る。
「君は……?」
僕が尋ねると、少女は小さく微笑んだ。
「……手伝えるかもしれない。あなたの、やり方を見つける手伝い」
その一言で、僕の胸の奥で何かが弾けた。希望――それは小さく、まだ頼りない光だけど、確かに僕の心を温める。
「手伝ってくれるの?」
少女は頷いた。名前はリリィ。王宮の外から来た魔導士見習いで、誰にも認められず、ひっそりと力を磨いているという。僕と同じ、少し孤独な立場の人間だった。
「一緒に、方法を探そう」
その言葉に、僕は小さく頷いた。初めて、誰かと“平凡な自分”を共有できる気がした。
才能がなくても、祝福がなくても、僕は進める。誰かと一緒なら、道は少しずつ開けるかもしれない。
そして、僕は決めた――
「僕は、諦めない。才能がなくても、誰にも負けないやり方を見つける」
庭園の風が、再び僕の頬を撫でる。日の光が雫に反射して、僕の心を淡く照らした。
失敗も、孤独も、すべて僕の物語の一部になる。
才能を持たない王子――セシルは、今、新しい一歩を踏み出したのだ。
第3章 僕の初めての試練
朝の光が差し込むと、僕はすぐに目を覚ました。心臓が早鐘のように打っている。今日は、僕にとって初めての“実戦訓練”の日だ。剣や魔法の練習場は、王宮でも特に厳しい場所として知られている。才能のある者ばかりが集まり、僕のような凡庸な存在はすぐに弾かれてしまうのだろうか――そんな不安が胸を締め付ける。
リリィはすでに待っていた。髪を束ね、魔法の書を胸に抱え、真剣な眼差しで僕を見つめる。
「準備はできた?」
「……うん、できてる」
僕は少し声を震わせながらも答える。嘘じゃない。本当に、できる限りの力は出すつもりだ。
練習場に着くと、すでに数人の見習いが剣を振ったり、魔法を試したりしていた。光の奔流、炎の壁、風の刃――そのすべてが僕には遠く、眩しすぎる世界だった。僕は肩をすくめ、木剣を握りしめた。
「最初は簡単な動きからだ」
リリィの声に励まされ、僕は剣を振る。だけど、体は思うように動かず、何度もバランスを崩す。周囲の笑い声や冷たい視線が耳に入る。僕は思わず目を伏せた。
「大丈夫だ、セシル。君のやり方を見つけるんだろ?」
リリィは僕の手を握り、軽く力を込める。その温もりに、僕は少し落ち着いた。自分だけじゃない。誰かが一緒にいてくれる。
練習が進むにつれ、少しずつ動きはスムーズになった。リリィは魔法の指導もしてくれる。僕の手のひらに淡い光が流れ込む感覚――それは奇妙で、不思議で、怖くもあった。
「手を開いて、集中して……心の中で光を想像してみて」
僕は息を吸い込み、心の中で光を描く。すると、指先に微かな輝きが現れた。失敗も多かったが、光は確かに形になったのだ。
休憩時間、僕は木の下で膝を抱えながら考える。
「才能がなくても、努力で何かを掴めるかもしれない……」
リリィは隣に座り、無言で微笑む。彼女もまた、王宮の枠に収まらない存在で、日々の小さな戦いを積み重ねているのだろう。
午後の訓練では、模擬戦が始まった。相手は同じ年齢の見習いだが、剣も魔法も僕より遥かに熟練している。緊張で手が震え、思考が混乱する。相手の動きに目が追いつかない。剣を振るたび、空を切る音だけが響く。
「セシル! 落ち着いて! 相手のリズムを見て!」
リリィの声が胸に届く。彼女の言う通り、深呼吸をして、相手の動きを観察する。心を静めると、少しだけ世界が広がった。相手の剣の先が少し遅れる瞬間、そこに隙がある――僕は一歩踏み込み、木剣で軽く受け止めた。
「やった……?」
思わず自分で呟く。成功は小さく、しかし確かに僕の手にあった。リリィも小さく頷く。
「そう、その感覚を覚えて。次はもっと大きく、自分のリズムで」
訓練が終わる頃、僕は体中が痛く、汗で服は濡れていた。でも、心は少し軽かった。
「できた……少しだけど、できたんだ」
帰り道、庭園を歩きながら僕は考えた。
才能のない僕でも、諦めなければ何かを掴める。誰かと一緒なら、恐れも孤独も、少しは軽くなる。リリィの存在は、ただの仲間以上のものだった――僕に、自分の力を信じる勇気をくれる光。
そして、僕は小さく呟いた。
「明日も、頑張ろう。もっと上手くなる……僕は、諦めない」
風が木々を揺らし、光が僕らの影を長く伸ばす。
才能がなくても、祝福がなくても、僕は前に進む。僕の物語は、まだ始まったばかりなのだから。
第4章 王宮の影
朝の光は、昨日の訓練の疲れをまだ残した僕を包む。眠りから目覚めた瞬間、胸の奥で小さな不安がざわついた。今日は、僕にとって初めての魔法試験の日だ。王宮で行われるこの試験は、見習い全員にとっての試金石。合格すれば、さらに高度な魔法訓練を受けられる。しかし、落ちれば後戻りは許されない――そんな噂が僕の心を締め付ける。
リリィはすでに準備を整え、静かに僕の横に立っていた。
「今日は絶対に、失敗しないでね」
彼女の声は優しいが、その目は真剣だった。僕は小さく頷く。嘘じゃない。今日こそ、僕は自分の力を証明する――自分自身にも、リリィにも。
王宮の大広間に足を踏み入れると、空気が変わった。魔法の光が漂い、練習場とは違う緊張感が全体を包んでいる。見習いの顔は皆、引き締まっている。僕は木剣を握る手に力を込め、息を整えた。
試験は二部構成だった。まずは基本魔法の制御。目の前に浮かぶ水の球を、指先で形作り、指定された形に変える。最初の瞬間、指先の光が暴れた。水の球は跳ね回り、床に散った。僕は思わず顔をしかめる。
「落ち着いて、セシル。心の中で形を描くんだ」
リリィの声が耳に届く。僕は深呼吸をし、目を閉じて球の動きを想像する。指先から光が伝わる感覚――それは昨日よりずっと強く、確かに僕の意志に従って動いた。球は宙で旋回し、徐々にきれいな球体へと整う。
「やった……」
自分でも驚くほど、成功の実感があった。リリィも小さく頷く。
「いい感じだよ、セシル。その調子」
次に、実戦形式の模擬戦だ。相手は僕より経験豊富な見習いで、剣と魔法を同時に操る。緊張で手が震え、思考が追いつかない。剣を振るたび、空を切る音だけが響く。
「セシル! 相手の動きを読んで!」
リリィの声に従い、深呼吸して相手を観察する。相手の剣の動きに僅かな遅れがある。その瞬間に踏み込み、木剣で受け止める。成功は小さいけれど、確かに僕の手にあった。
試験が終わった直後、王宮の廊下で小さな騒ぎが起きていることに気づく。近づくと、何やら上級魔法使いの一団が、怪訝そうに話している。耳をすますと、僕たち見習いの魔法に関する陰謀の噂だという。
「見習いの中に、禁術を使おうとする者がいるらしい」
その言葉に、僕の胸がざわつく。禁術――魔法の規律を破る危険な技術。もし僕が巻き込まれたら、どうなってしまうのだろう。
「セシル、大丈夫?」
リリィが手を握る。心強さと同時に、胸の奥で恐怖が広がる。僕たちは無意識に、互いの存在を支えにしていたのだ。
その夜、僕は自室で魔法書を開いた。手に馴染む感覚、光が指先を伝わる感触――昨日よりも少しだけ自分を信じられる力が増していた。だけど、王宮の影は確かに存在していて、僕たちの知らない場所で動いている。
「僕は……逃げない」
暗い部屋で呟く。才能がなくても、祝福がなくても、僕は前に進む。明日も、もっと強くなるために。リリィと一緒なら、怖くない――少なくとも、孤独じゃない。
外の風が窓を揺らし、光と影が交錯する。王宮には美しい装飾が施されているが、その華やかさの裏に、冷たく鋭い刃が潜んでいることを、僕はまだ知らない。
でも、それでも進むんだ。僕の物語は、まだ序章に過ぎないのだから。
第5章 禁断の魔法と影の襲撃
朝の光が差し込む中、僕はいつも通り魔法書を開いていた。だけど、今日は昨日までとは違う緊張が体を包んでいる。胸の奥で小さく何かがざわつき、指先に力が入らない。禁術――あの噂が、現実になろうとしている。
「セシル、今日は訓練のあと、王宮の指令があるって」
リリィの声が耳に届き、僕は顔を上げる。彼女の瞳は真剣で、だけど少しの不安も映していた。
「指令……? 何か悪い予感がする」
言葉に出してしまうと、さらに胸が重くなる。けれど、逃げられないことは分かっていた。
訓練場に向かう途中、王宮の中庭で不穏な気配を感じた。影が、静かに蠢いている。目を凝らすと、上級魔法使いの一団が僕たちを見ている。彼らの視線には、計算された冷たさがあった。
「セシル、気をつけて」
リリィが手を握る。その手の温もりで、少しだけ心が落ち着く。僕たちは互いの存在に、支えを求めるしかなかった。
訓練はいつも通り始まった。魔法の光が指先から弾け、僕の体を包む。しかし、集中しても、頭の片隅で不安が蠢く。ふと気づくと、遠くの廊下で何かが動いた。人影――いや、魔力の波動だ。
「逃げて!」
リリィの叫びに反応して、僕は体を翻す。突然、影が二人を包む。魔法の矢が飛び、木剣を握る手に力を込めても、完璧には防げない。痛みが走り、床に膝をつく。
「くっ……!」
血の味が口に広がる。敵は僕たちの動きを完全に読んでいた。しかも、ただの見習いではなく、禁術を使う者の気配がする。
「リリィ、後ろ!」
彼女はすぐに反応して、僕の横に立つ。二人で力を合わせ、魔法の盾を展開する。だが、矢は次々と襲いかかり、盾の光がはじかれるたびに小さな火花が飛ぶ。
「こんな……力、どこから……」
僕の心は混乱する。だけど、逃げるわけにはいかない。僕は昨日学んだ魔法の集中法を思い出す。指先に力を込め、全身で魔法の流れを感じる。
「今だ!」
リリィと息を合わせ、反撃の魔法を放つ。光が弾け、敵を弾き飛ばした。その瞬間、影の中から一人の黒衣の魔法使いが姿を現す。禁術の魔力が体を震わせるほど強烈だ。
「セシル、気をつけて……!」
リリィの声が心臓に響く。僕は体を翻し、全力で魔法を放つ。しかし、黒衣の魔法使いは不意に姿を消し、次の瞬間、僕の背後に現れた。
「これは……!」
恐怖と興奮が入り混じる。体が自然に動き、盾で防ぐ。しかし、魔力の波が僕の意志を押し返す。痛みが全身に広がり、視界が揺れる。
「諦めるな、セシル!」
リリィの叫びが、僕の耳に届く。僕は再び集中する。体の奥で、昨日の光の感覚が呼び覚まされる。光はまだ僕の中にある。恐怖に押し潰されそうになりながらも、僕は一歩前に踏み出す。
魔法の光が体を包み、黒衣の魔法使いを弾き返した。その瞬間、敵は壁に激突し、動けなくなる。僕たちは息を切らしながら、互いを見つめる。心臓がまだ激しく鼓動している。
「……大丈夫?」
リリィの顔を見ると、安心と同時に恐怖が残っているのが分かる。僕も同じだ。だけど、今は勝ったんだ。勝った――いや、ただの勝利じゃない。初めて、僕が王宮の影に立ち向かった証だ。
その夜、部屋で僕は魔法書を閉じ、深く息をつく。恐怖と興奮が混ざり合い、体は疲れている。でも、心の奥底で、確かな手応えを感じていた。禁術の脅威は去っていない。だけど、僕たちは生き残った。
「これが……僕の戦い方……」
呟きながら、指先にまだ残る魔力の余韻を感じる。王宮の闇は深い。だけど、僕は一人じゃない。リリィが隣にいる。そして、僕はまだ、これから強くなるんだ。
外の月が窓に映り、影と光が交錯する。王宮は美しいけれど、裏側には冷たい刃が潜んでいる。だけど、僕は逃げない。明日も、もっと強くなるために。
僕は立ちすくむ。胸の奥で、リリィの手の温もりを思い出す。もし従えば、王宮の闇の一部に加わることになる。もし拒めば、二人でこの危険に立ち向かわねばならない。どちらにしても、後戻りはできない。
「……僕は、自分の道を選ぶ」
小さく、しかし確かな声で呟く。魔法の力が指先に集まり、体全体を駆け巡る。選択の瞬間、僕は恐怖よりも強い意志を感じた。
黒衣の魔法使いは微笑む。
「いいだろう……その覚悟、見せてもらおう」
その夜、僕たちは王宮の影の中で初めて、自らの選択を行使した。禁術の危険は去っていない。でも、僕たちはもう、ただの見習いではない。未来はまだ不確かで、影は深い。だけど、僕は決めた。自分の意志で、道を切り開く――それが、僕の戦い方だ。
窓の外、月光が冷たく輝き、影を長く伸ばす。僕たちの背中には、確かな希望と覚悟が刻まれていた。リリィが隣にいてくれる限り、僕はもう、ひとりじゃない。
第7章 影との対峙と覚悟の証明
あの夜から、僕の胸はずっとざわついていた。黒衣の魔法使いの声――あの冷たい響きが、頭の奥で繰り返し反響していた。僕は眠れず、窓の外の月光をただ見つめていた。影はいつもより長く伸び、僕の心の迷いまで映しているかのようだった。
「セシル……大丈夫?」
リリィがそっと僕の肩に手を置く。優しさは温かいけれど、それでも恐怖は消えない。
「うん……でも、もう逃げられないね」
小さく呟くと、リリィはうなずいた。僕たちには、もう選択肢は一つしかない。黒衣の魔法使いに立ち向かうしかないのだ。
翌朝、王宮の広間に向かう足取りは重かった。だけど、リリィが隣で励ましてくれる。それだけで、少し勇気が湧く。僕たちは情報を集め、黒衣の魔法使いが現れるであろう場所を突き止めた。それは、王宮の最も古い塔の一角。長い廊下と階段、そして無数の影が僕たちを待ち受けている。
「覚悟はできてる?」
リリィが手のひらに力を込める。僕も自分の手に魔力が集まるのを感じた。指先から静かに光が溢れ、体の奥まで熱が走る。決意と恐怖が混ざり合い、心臓が早鐘のように打つ。
塔の最上階にたどり着くと、黒衣の魔法使いが待っていた。闇に紛れたその姿は、まるで夜そのもの。
「やっと来たか、セシル」
声は低く、響き渡る。僕は自然に剣を握り、魔法陣を描く。体が震えているのを感じる。でも、後退はできない。
「あなたの正体……もう隠せないでしょ」
僕の声は震えていたけど、力を込めて言う。黒衣は静かに笑った。
「うん……もう、隠す必要もない。だが、知ったところでどうする? 君には選択しか残されていないのだよ」
そして、黒衣が動く。魔力が空気を切り裂き、僕たちに迫る。僕はリリィと視線を交わし、呼吸を整える。
「リリィ、私たち、いくよ!」
「うん、セシル!」
二人で同時に魔法を発動する。光と闇が交錯し、塔の壁に反射して眩い光を放つ。黒衣は軽やかに避け、僕たちの攻撃を読み取るかのように動く。その動きは、人間のものではない――まるで影そのものが意思を持っているかのようだった。
「くっ……!」
僕は咄嗟に盾を展開する。心臓の奥が熱くなる。恐怖と緊張が入り混じり、思考が一瞬停止する。だが、リリィの手を握ると、冷静さが戻ってくる。二人で協力すれば、どんな敵でも突破できる――そう信じた。
黒衣は一瞬、動きを止めた。そして低くささやくように言った。
「君たちは……なかなかやるな」
その言葉には、どこか認めるような響きがあった。僕は心の中で呟く。
「認められたって、油断はできない……でも、少しだけ希望が見えた」
攻防は続き、塔全体が振動する。光と影が交錯し、床や壁に魔法の残滓を刻む。僕は全力で魔法陣を描き、リリィも隣で補助魔法を放つ。息が合い、二人の魔力が重なる瞬間、黒衣の動きが一瞬止まる。
「今だ!」
僕は声を上げ、全力の魔法をぶつける。黒衣の体に光がまとわりつき、影が裂ける。抵抗が強く、塔が揺れる。でも、僕は恐れない。リリィが隣で同じく力を注いでいる限り、僕たちは無敵だ。
黒衣の姿が揺らぎ、ついに力を見せる。闇が砕け、光が勝利を告げる。息を切らしながら、僕は胸の奥で誓う。
「これからも、絶対に守る……リリィも、王宮も、そして自分の意志も」
黒衣は倒れたわけではない。だが、確かに後退した。その目には、僕たちを試すだけでなく、何かを期待していたような光があった。
「これで……終わりじゃない。でも、私たちは前に進める」
リリィが笑顔で言う。僕も微笑み返す。恐怖はまだ消えないけれど、それでも希望は確かにここにある。僕たちは選んだ。未来に向かって、共に立ち向かうことを。
塔の最上階から見下ろす王宮の景色は、まだ闇に包まれていた。でも、月光が照らす影は少しだけ短くなったように感じた。僕たちはこれからも戦う。でも、もう一人じゃない。
僕は心の奥で強く呟く――
「僕は、これからも自分の道を選び続ける。どんな影が現れても、恐れない」
そして、僕たちは塔を下り、王宮に戻った。闘いはまだ続く。でも、この夜、僕は確信した。どんな試練も、リリィと共に立ち向かえる――それが、僕の覚悟の証明だった。
第8章 最後の決断と私たちの未来
塔での戦いから数日、王宮には静かな緊張が漂っていた。黒衣の魔法使い――あの夜、影のように僕たちを試した存在――の正体を突き止めるため、僕は自分の魔力と知恵を総動員していた。
あの戦いのあと、黒衣は完全には消えていなかった。塔の影の奥深く、闇に紛れて静かに息を潜めていたのだ。その存在は僕たちの動きを見ている。恐怖もある。でも、リリィと一緒なら、もう逃げない。
「セシル、準備はいい?」
リリィが目を輝かせて僕を見る。彼女の瞳には、あの戦いの時よりも強い意志が宿っていた。僕も拳を握りしめる。
「うん、最後までやる。もう、後戻りはできない」
僕たちは王宮の最も古い書庫へと向かった。そこには黒衣の魔法使いが隠した古文書と、王国の秘密が眠っている。光と影の魔法を駆使して、慎重に扉を開けると、静寂の中に、かすかな魔力の残響が漂っていた。
「ここだ……」
僕は声を潜めてつぶやく。魔力が反応して、書庫の奥から薄暗い影が立ち上がる。黒衣は、ついに姿を現した。だが、その顔は――予想外のものだった。
「……エリオス……?」
僕の声は震えた。黒衣の魔法使いは、かつて僕が信頼していた学者の姿をしていた。だがその目は、完全に闇に染まっている。
「驚いたか、セシル」
その声には冷たさだけでなく、かすかに哀しみが混じっていた。
「どうして……こんなことに……?」
僕は問いかける。リリィも僕の肩に手を置き、静かにうなずく。二人で支え合いながら、最後の決着に臨む覚悟を固める。
エリオス――いや、黒衣――はかつて王国の研究者で、魔力の秘密を追求していた。だが、過去の事故で心が闇に触れ、力を制御できなくなったのだ。彼は王宮の未来を試すため、影として僕たちの前に立ちはだかった。
「君たちの覚悟、見せてもらおうか」
黒衣が魔法を放つ。闇と光がぶつかり、書庫の空気が振動する。僕もリリィも負けずに魔力を放つ。
戦いの中で、僕は決意を新たにした。
「僕は、王宮も、リリィも、そして自分の意志も守る!」
心の奥で叫びながら、光の魔法陣が完成する。リリィも同じく力を集中させ、僕たちの魔力は一つになる。
黒衣は防ぎきれず、闇が裂ける。その瞬間、彼の姿が一瞬、人間らしい表情を見せた。目には後悔と哀しみが宿る。僕はその表情を見て、胸が締め付けられた。
「もう……終わりにしよう、エリオス」
僕は静かに、しかし強く言う。リリィも同意するようにうなずいた。二人の意志が、黒衣の力に勝る瞬間だった。
黒衣――エリオスは静かに膝をつき、魔力を消す。闇が消え、書庫には静寂が戻る。僕たちは深呼吸をして、初めて心から安堵した。戦いは終わったのだ。
「ありがとう……セシル、リリィ」
かすかな声が聞こえた。エリオスは最後の力を使い、僕たちに微笑みかけた。その笑顔は、かつての学者のものだった。
「もう、王宮も僕たちも守れるね」
リリィが微笑む。僕も微笑み返す。胸の奥に、確かな温もりが広がった。
その後、王宮では平和が戻り、僕たちはそれぞれの役割を全うする日々を取り戻した。戦いで得た絆は、以前よりも強く、そして深く僕たちを結んでいた。
月明かりの下、僕はリリィの手を握る。
「これからも、ずっと一緒に進もう」
「うん、セシル」
二人で未来を見つめる。過去の影はもう恐れるものではない。僕たちは自分たちの意思で歩む。闇があったからこそ、光の尊さを知ったのだ。
そして僕は、心の奥で誓う――
「これからも、どんな困難があっても、僕たちは一緒に立ち向かう。未来は、僕たちの手で作るんだ」
王宮の塔の上から見下ろす街は、静かに輝いていた。僕たちは歩き出す。未来へ向かって、一歩ずつ。もう、影に怯えることはない。
終




