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第九話 ピアノ・レッスン?・1

「ここかぁ」

「ここだねぇ」

「多鍵十三博士ってどんな人なんだろ」

「サイトにあったじゃん」

「本人に会ってみないとわかんないじゃん」

「じゃ、ま、チャイム押してみようぜ」

「あ、おれがやるおれがやる」

「じゃ、プーマ押して」

 と、ドアチャイムを押してすぐに、

「はい。多鍵十三研究所です」

 という声が聞こえたので、二人は、

「あ、約束してた萩山はぎやまと」

猪俣いのまたです」

「お待ちしていました。少々お待ちください」

 しばらくしてドアが開かれた。

「こんにちは。多鍵十三です」

「よろしくお願いします」

 と、二人で頭を下げた。

「ではどうぞ」

 そして、二人は研究所内へと入っていく。


「ええと。萩山風磨はぎやまふうまさんに、猪俣道人いのまたみちひとさん」

「はい! プーマって呼んでください。で、こっちはミッチー」

「じゃ、プーマさんにミッチーさん」

「わー、嬉しい。話のわかる博士さんだ」

 と、ウキウキしている風磨をよそに、道人はちょっと呆れた。

「別に本名でいいのに」

「ステージネームは大切にしなきゃだろ」

「ステージで大切にすればいいだろ」

「世界中がおれたちのステージさ」

 十三はクスッと笑った。

「仲良しですね」

「音楽デュオなんです」と、道人。「仲は悪くないですが」

「仲良しだろーおれたちー」

「はいはい。仲良しですよ」

「漫才コンビのようだ」

「掛け合いの歌もやってるんですよ」と、風磨。「いつか博士もおれらのライヴに来てください」

「機会があればぜひ。というわけで、ええと。普段、夢って見ます……でしょうねぇ」

「おれはもう毎晩が映画館だし、音楽の夢は絶え間なく」

「それはいいですね。いい実験になるといいです」

「明晰夢を見るとか」と、冷静な態度を崩さず道人は訊ねた。「危険なものではないんでしょうね」

「今のところ、実験後に異変が発生したという方は一人もいらっしゃいませんね。本日もそうなることを願うばかりです」

 しかしミッチーはプーマの方を向いた。

「——でもさあプーマ。おれたち、別にそんなに急がなくてもいいんじゃないかなぁ」

「何を言っとる。もうおれら二十三だぞ。そろそろ芽を出さなきゃ」

「明晰夢でプロ意識が持てたら今後の活動に有利っていうのもなんかよくわからん理屈だなぁと思うよ」

「意識が全てだろ」

「うーん。このままゆっくりやってていいと思うんだけどなぁ」

「というわけなんです博士。そういう夢って見られます?」

「もちろんです。ミュージシャンになりたいって夢を見にくる方、結構いますよ」

「ああ、やっぱり誰もがときめくんですなぁ」

「作者が音楽好きですしね」

「は?」

「いえ、完全にこちらの話。そんなことより、でもプーマさんは夢が見たくて見たくて仕方がないって感じですけど、ミッチーさんはそうでもなさそうですね」

「ああ、まあ……おれは、地道にやっていくのが昔から好きで。そんなに一足飛びじゃなくてもいいって思ってますし」

「でも、今日スカウトされたらそれは乗るだろ」

「それはそうだけど」

「だから一刻も早くプロになれるようにまずは意識から変えていこうよ。おれたち、地道に気長にっていうのはそれはいいと思うんだけど、もうちょっとペース上げてくべきだとも思うし」

「うーん。科学実験までしなくてもいいと思うんだけどねぇ……」

 と、乗り気の風磨とさほど乗り気ではない道人の会話を聞きながら、十三はふと思いついた。

「じゃあ、ミッチーさんがプーマさんの夢の中の登場人物として実験されるのはいかがでしょうか」

「ん?」

 二人で怪訝そうな顔をして十三の言葉を待つ。

「あくまでも主人公はプーマさん」

「もうちょっと具体的に」と、道人。

「いえいえ。プーマさんの夢を傍観者的に見る、ということです。まあ現実世界の私の役割と似たようなものです。ただ、明晰夢の中ではあるのでミッチーさんも動きたいように動けるのですが、プーマさんに影響を与えることはあっても邪魔をすることはありません」

「ああ、それ、いいですね。プーマがどういう夢見るのか、夢を見たいのか自体は気になるし」

「うーん。二人でプロになる夢見たいけどなぁ」

「それも可能ですよ」と、十三。「あくまでも主人公がプーマさんなだけで。ミッチーさんは、自律型の脇役、といった感じです」

「ま、とりあえずおれが先に進めばいっかぁ」

「追いつけ追い越せ、さ」

「おっけ。じゃあ博士さん、それで行きたいです」

「かしこまりました。それでは、別室にもう一台ベッドがあるので、どちらかがそちらへと行ってください」

「じゃんけん」二人で声を揃えた。「ぽん! お、おれの勝ち。じゃ、おれが部屋を移るよ。ミッチーこっちね」

「おっけ」

「そんなわけで博士さん。博士さんの力で擬似的とはいえこのグループの方向性をいい方向に変えられそうで嬉しいです。このときめきが観察している博士さんに伝わりますように。そして良かったらおれたちの音楽人生を応援していてください」

 と、風磨に一気にまくし立てられ十三は苦笑した。

「いやま、あなた方の人生がどうなろうがそこは別にどうでもいいんですよね。音楽も別に大好きではないですし」

「あらま。好きじゃないすか?」

「うーん。普通に好き、という感じです。あなた方のように大好きとかっていうんじゃないですね。あなた方は日常的にたくさん聴いてるんでしょうけど、私は普通、です」

「おれもそんなにはたくさん聴かないですよ」

 という道人に、でも、と風磨は言った。

「前まで狂ったように聴いてたんだろ」

「前の話は前の話だろ。蓄積っていうのがあってもそんなの意味ないと思う。今、自分たちの曲しか基本聴いてないし」

「でもいい曲いつも作ってくれるんだもんなー」

「音楽を知らなくても音楽は作れるけど、音を知らないと音楽は作れない。ただそれだけのことだよ」

「ああ、私の知人の作家も似たようなこと言ってましたね」と、十三はやや感心したように言った。「小説を読まなくても小説は書けるけど、言葉を知らなければ小説は書けない、という」

「わかります」

「ミッチーさん、お若いのに色々悟られているようで」

「悟ったりしたらおしまいですよ」

「素晴らしい」

「ミッチー、こいつタメになること割と言うんすよ」

「例えば?」

「何だっけ、学校のテストは用意されてる答えをそのまま書けば点数が取れるけど、音楽とかはそうはいかないし、仮に点数が取れてもそれで売れるとは限らないとか昨日言ってたよな」

「部分的に、歌八十点とか発音とか発声八十点、曲のクオリティとか歌詞が八十点でも、トータルで最終的に百点百二十点が取れるような人が受賞したりするわけだろ。何となくラジオとか聴いててそう思うよ」

「音楽とか絵とか小説とか、合格の基準がよくわからないものはそういうものなんですかね」

「部分的に見れば粗が目立つけれど、みたいなことって割と気になるから、そう思っただけです」

「なるほどね」

「まあ〜それにしても応募規定、募集要項、禁止事項をきちんと読める人じゃないとスタートラインにすら立てないわけですけども」

「ふむふむ」

 などとそんな話をしながら、やがて、

「じゃ、そろそろ実験始めましょうか」

「はい!」

 そして、二人で声を揃えて頭を軽く下げた。

「よろしくお願いしまーす」

 十三は二人を見ながらニコニコと答える。

「はい、こちらこそよろしく」

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