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第一話 もしも願いが叶っても・2

「夢って普段見ます?」

 研究所であるマンションの一室。ベッドと三台のパソコン、複数のモニターやキーボードやマウスの置かれたやや薄暗い部屋で、八紘はどうぞと差し出された椅子に座り十三と対話していた。

 八紘は質問に答える。

「あんまり見ないですね。夜はぐっすり眠る感じで」

「あ。いえ。夜見る夢じゃなくて、将来の夢とか、そういう夢です」

 なるほど、と思い八紘は改めて答える。

「見ますよ。音楽やりたかったなーとか、もっと天才に生まれたらなーとか」

「それはいいですね」

「明晰夢って、夢を自由に見れるんですよね」

「そうですね。なかなか際限はない感じで」

「じゃ、例えばというか、今からミュージシャンになってプロになって大成功みたいな夢が見られるわけですか。ぼくの好きなように?」

()()()()()()といくかはあなた次第です」

 む? と訝しみ、八紘は訊ねた。

「と、おっしゃいますと」

 十三は柔和な笑みは崩していないものの真剣な表情で答えた。

「この実験は、人の表層意識と深層心理を、そうですね、噛み合わせることで成功します。だからあなたの例えばミュージシャンになりたいという夢にあなた自身がどこまでリアリティを持っているか、ということですね。ざっくり言えば“もしもあなたが”ミュージシャンになったらどうなるか、ということです」

 ちょっとよくわからない。

「だって、ぼくが夢を見るんでしょ?」

「あなたの深層心理に眠る真の願いが実現するといいますか」

 黙り込む。

 十三は説明した。

「このデジタナログという概念は、最終的には何らかのデバイスを装備することにはなるわけですが、わかりやすく言えば人間の思ったままにコンピュータを動かすというのが最終目的です。だから公共機関も例外ではない。だから電車とかバスとか料金の支払いとかに関して思った通りにならなかったという結果になることは絶対に避けなければならない。そのための実験です。人間はあらゆる雑念や想念に満ちている。その中で、決定的に“これをするためにこれがしたい”と情報伝達するために意識を整備しなければならない。ただ人工的に意識を整備することはできないので、そこはそのデバイスが調整することになるわけですが、今はまだそのデバイスが完成していません。そのために夢、つまり、“こうなれ”と望んだことをどこまで自在にコントロールできるか、の、実験です」

「……」

「どうしましょう。帰りますか。その場合、流石に謝礼金は出せないんですが」

「……そうですね」

 説明と明晰夢を見るという実験がどうリンクするのかは今ひとつわからなかった。

 しかし。

「いや。やってみようと思います」

 実験の後、体調不良になるとか異変が生じるとかいう可能性も考えたが、ただ、十三の言葉には説得力があったし、何より、自分自身の興味がちょっと止められそうになかった。所詮夢を見るだけだし、異変と言っても悪夢を見た後に気分が悪くなるレベルのことだろうと思い、そして、夢を自在にコントロールするということ自体に関心が注がれるのは変わらなかった。

 所詮夢でも、どうせ現実世界では絶対に叶わないミュージシャンになってみたかったし、あるいは、天才になってみたかった。

 十三は、八紘の決意に、はい、と、頷いた。

「では、始めましょう」

「はい。どうすれば」

「このベッドに」立ち上がり、ベッドに腕を差し示した。「寝てください」

「やっぱり寝るんですね」

「このベッドの周囲に、そうですね、Wi-Fiみたいなものと考えてもらって構わないんですが、特殊な電波を発生させます。まあ結界みたいなものですね。最終的には装備することになるであろうデバイスがその発生装置をも担うわけですが。で、それであなたは半覚醒の状態になり、そのまま睡眠に入り、擬似的にレム睡眠に移行し、やがて明晰夢に突入します。後は桜井さんのお好きなように」

「はい」ドキドキしながらもワクワクしていた。

「夢を見るのをやめたくなったらいつでもどうぞ。すぐに覚醒に至ります」

「やめたくならないかも?」

「それはないですね。いつまでも睡眠状態に陥ることはできないので最終的には実験がどうであろうが目覚めます」

「それはそうですね」

「で、私なんですが、あなたの夢を見ることになります」

「え?」

「神の視点とでも言えばわかりやすいでしょうかね。桜井さんの状況把握をさせていただきます。あなたとコミュニケーションを取ることも可能です。もちろんテレパシー的にあなたの思考を読み取るとかそういうプライバシーの侵害にはならないのでそこはご安心を」

 それなら大丈夫だ、と思い、八紘は再度頷いた。

「わかりました」

「では始めましょう。靴を脱いで、横になってください」

「はい」と言って、八紘は言われた通りにする。ふかふかのベッド。これは寝心地が良さそうだった。ちょっと四方を見てみると確かに何らかの装置が設置されている。これで睡眠電波みたいなものが発生するのであろう。「じゃ」

 寝転んで、机の前の椅子に座った十三に訊く。

「これでいいんですか?」

「はい。では、よろしいですか」

「はい。いつでもどうぞ」

「では始めます」

 十三はパソコンのモニターを見ながらスイッチを押す。

 そしてすぐ『眠れ良い子よ』のメロディが流れ、そのまま空間が静かになる。

 このまま自分は眠るのだ、と思い、そして思ったより早くすぐに眠気が訪れ、瞼を閉じそうになり、ふと横を見ると十三が黄色いヘッドホンを付けてキーボードをカタカタと叩いているのが見え……。

 やがて眠りに落ちた。

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