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第21話 そばにいさせてね(完)




『景ってね、誰も家に呼んだことないって言ってた。シキと同じで、家に人を上げるの嫌いみたい』

「……本当に?」

『うん! ホントだよ~!』

「……そっか」

『天馬だって、行ったことないって言ってたし。オレたち、付き合い長いのに!』

「ふうん」

『まあ、景がイイって言うわけないよな。今度、一緒に飲みいこう!』

「そのうちな」

『じゃ、もう仕事始まっちゃうから! バイバイ~!!』

一方的に電話が切れた。

けど、たっちゃんの言葉にちょっと安心した。

僕……速水さんの負担になってないよね?

不安はいくらでも胸の内に残るけど、たっちゃんが嘘吐くわけないし。

今度、速水さんに聞いてみようかな。

「速水さん、今夜は遅いのかな……」

帰る前にはメールをくれるから、スマホは肌身離さず持ち歩くようにしてる。

明日は朝一でバイトだし、速水さんはお昼から仕事だって言ってたから……またすれ違いかな。

時間が合わないことはよくあるけど、でも、こうやって家で速水さんを待っていられるなんて、前は考えられなかった。

ただ待つだけの時間も、言葉にできないほど幸せ。

早く帰ってこないかな。

早く……速水さんに触れたい。




「ただいま。詩季」

「お帰りなさい。速水さん」

玄関まで出迎えると、速水さんは僕を呼んで、嬉しそうな笑顔を向けてくれる。

その度に、胸がドキドキした。

「お腹空いた~」

「ご飯できてるよ。先にお風呂に入る?」

「ごはん!」

「ふふ。ご飯ね」

「ね、詩季。今日も、一緒にお風呂はいろ?」

「……うん」

「やった!」

速水さんが嬉しそうに抱きついてきて、鼓動が跳ねた。

「は、速水さんっ」

「ん~、詩季が足りない」

「……ご飯、冷めちゃうよ」

「それも困る」

名残惜しそうに速水さんが離れていく。

でも、リビングまでなのに、手を繋いでくれた。

たったそれだけのことがすごく嬉しくて、涙がこぼれそうになる。

速水さんと暮らすようになってから、感情をうまく抑えられなくなった。

少しでも離れると、寂しくてたまらない。

一緒にいると、片時も離れたくないって思ってしまう。

だから、お風呂だって入らずに速水さんが帰ってくるのを待っていたり、眠るときも、自分から速水さんに寄り添って眠るようになった。

だって、離れたくない。

「詩季、どうしたの?」

リビングに着いても離れない僕に、速水さんが首を傾げる。

「あっ、ごめん」

慌てて繋いだ手を離そうとしたけど、速水さんがぎゅっと掴んできた。

「泣いてるの?」

優しい声で、眦に溜まった涙を掬い取ってくれる。

温かな指先に、また胸が熱くなった。

「詩季、悲しいの?」

「違うよ……嬉しくてっ」

心配そうな顔をする速水さんに、必死に首を横に振る。

すると速水さんが、そっと頭を撫でてくれた。

あやすように、顔中にキスの雨を降らせて。

こうやって慰めてくれるのは、何度目だろう。

どうしようもない僕の不安定さを知っている速水さんは、いつでも僕に優しくしてくれる。

「大好きだよ。詩季」

甘い声で囁いた。

僕の大好きな笑顔で「詩季」って呼んでくれる。

嬉しくて、溢れてしまいそうな想いを伝えたくて速水さんに抱きついた。

「僕もっ……速水さんが、好き。大好き」

「詩季、かわいい」

フフッと笑った速水さんが、唇に触れるだけのキスをする。

そして、ぎゅうっと抱き締めてくれた。

「詩季。ガマンしないで、俺には何でも言ってね」

「速水さん……」

「不安なことあったら、ぜんぶ言って」

促すように、頭を撫でながら囁いてくれる。

速水さんの優しい想いに触れると、寂しかった気持ちがスッと消えていく。

心の奥に燻っていた不安も、前よりは少なくなった気がする。

速水さんが側にいてくれる。

この幸せが、現実なんだって、ようやく心で理解してきたのかもしれない。

「速水さん……」

「ん?」

だから。

いつか、この不安が全部なくなるように。

何度でも言葉が欲しくて、優しい速水さんにねだる。

「ずっと……速水さんの側にいさせてね」

小さく、囁いた。

そうしたら、速水さんが蕩けるような笑顔を浮かべる。

「俺は一生、詩季の側にいるよ」

まっすぐに見つめて、誓ってくれる。

優しい速水さんの言葉に、心が満たされていく。

幸せ過ぎて、また涙があふれそうになった。

「速水さんっ」

涙をこらえていると、速水さんの優しいキスがたくさん降ってくる。

そして、僕が寂しい気持ちを忘れるまで、ずっとずっと、離さないでいてくれた。




(終)



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