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第20話 マンション




「詩季の部屋が狭いわけじゃないからな? 俺、荷物が多くてさ」

「でも速水さん、洋服とか小物とか、そんなにないよね?」

「あれだよ。防音のパネルとか、マイクとか、そういう音響機材が多くて」

「お仕事の道具……」

「うん」

「じゃあ、広い家じゃないと駄目だね……」

詩季の声が、どんどん小さくなっていく。

「詩季? どうしたの?」

「……」

「なにがダメ? 引っ越すの、イヤだった?」

「ううん。それは良いけど」

「じゃあ、何?」

「……家賃、とか」

「家賃?」

「僕、あんまりお金ないし……高級マンションとかって、すごく高いんだよね?」

「ん~、よく知らねぇけど、高いんじゃねーかな」

「そうだよね……」

詩季が浮かない顔で呟く。

なんだ?

家賃の心配してんのか?

「大丈夫だよ、詩季」

「?」

安心させるように、詩季の頭を撫でた。

「俺が買うんだから、家賃なんかいらねーよ?」

「えっ?」

「詩季は、何も心配しなくていいからな」

「ちょ、ちょっと待って!」

「ん?」

「買う? え、借りるんじゃなくて?」

「ああ」

「高級マンションを、買うってこと?」

「そうだよ」

「……速水さんが、全額払うんだよね?」

「おう。もちろん」

胸を張って答えると、詩季が黙り込んだ。

「……」

「詩季? どうした?」

「……僕、そこまで甘えられない」

そう言って詩季が泣きそうな顔をするから、あわてて抱きしめる。

「詩季。大丈夫だよ?」

「ダメだよ……僕、そんなに貯金ないけど……ぜんぶ速水さんに任せるなんて、嫌だよ……」

今にも泣きだしそうに、瞳を潤ませる。

まさかそんなこと言われるなんて思わなくて、びっくりした。

「詩季? いいんだよ。俺が詩季と一緒に暮らしたいんだから」

「でも……」

「俺は、詩季が甘えてくれた方が嬉しい」

「……」

だけど詩季は、眦に涙をためたまま唇を引き結んでいる。

「ねえ、詩季」

「……はい」

「俺はね、家に帰ったときに詩季が居てくれたら、それでいいんだ」

「良いわけないよっ」

「うーん……ホントに、いいんだけどな」

「ダメ」

「……じゃあさ、ご飯作ってよ」

「ご飯?」

「うん! 俺が家にいる時は、三食分」

「そんなの、当たり前だし」

「それから、掃除? 俺、部屋の片付けとか苦手なんだ」

「……速水さんがいいなら、もちろんするけど」

「あと、洗濯?」

「それは当然」

「じゃ、とりあえずその三つお願い」

「え?」

「詩季が家事してくれたら、本当に助かるからさ」

「でも……」

「詩季」

まだ頷かない詩季を抱きしめて、頭をなでる。

「詩季が家でご飯作って待っててくれたら、俺は、すっげぇしあわせだよ」

「速水さん……」

「だからさ。一生、詩季の手料理を食べたいなぁ」

「……っ」

詩季が胸に顔を押しつけて、ぎゅっと抱きついてくる。

「俺、詩季のこと大好きだよ。一生、俺のためにご飯作ってくれる?」

「……はいっ」

やっと返事をくれた詩季は涙声だった。

けっきょく泣かせちゃったなって反省したけど、顔を上げた詩季はかわいく笑ってくれた。

だからもうガマンできなくて、赤い唇にかみついた。




◆ 詩季 ◆




速水さんは、本当にマンションを買ってしまった。

しかも、高級マンションの部屋を二つも。

金額を考えると怖くなるから、アイドルって儲かるんだなって思うことにした。

人目を気にしなくていいのは、すごく助かる。

だって、速水さんはアイドルだからね。

同棲してることは、絶対にバレないようにしないと。

家を決めた後の速水さんの行動は早くて、引っ越しもあっという間に終わってしまった。

気づけば、速水さんと二人暮らしが始まっている。

少し迷ったけど、速水さんに許可をもらってから、一応、たっちゃんにだけ引っ越したことを電話で伝えた。

そしたら案の定、

『ええ! 遊びに行きたい!』

「ダメ」

『いいじゃん! 別に寝室まで覗かないって!』

「当たり前だろ! たっちゃんが来たら、家の中がぐちゃぐちゃになるからゼッタイ嫌だ」

『そんなことしないよ~!』

「人んちのリビングでリバースしたやつが、何言ってんだよ」

『う……あのときはスミマセンでした……でも行きたいよ~!』

「とにかくダメ。速水さんが良いって言っても、家に上げないからな」

『ええっ! でもでも~! オレ以外は、誰も家に呼べないじゃん?』

「……」

気に掛かっていたことをズバッと言われて、言い返せない。

僕は元々家に人を招くのは好きじゃないから、別に構わないんだ。

でも速水さんは……僕がいたら友達を家に招くことはできない。

……僕、本当に速水さんと一緒に暮らしてもいいのかな。

『シキ? ごめんごめんっ』

「……何が?」

『オレ、一度も景ん家は行ったことないから!』

「え?」

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