第15話 ずっと
「でも……」
「好きな相手から連絡もらったら、俺は嬉しいよ」
「……」
「でも、詩季からメールや電話くれたこと、一度もないよね?」
「っ!」
やっぱり、気づいてたんだ。
速水さん、怒ってるのかな。
怖くて速水さんの顔を見れないでいたら、思いもよらないことを言われた。
「だから……詩季は、俺と付き合うのイヤなのかなって、ずっと思ってた」
「えっ!?」
驚いて顔を上げると、速水さんは悲しそうな顔で僕を見た。
「俺の仕事のせいで、なかなか会えないしさ。付き合ってても、詩季と外に出かけたりもできないし。一緒にいても、詩季、ときどき悲しそうな顔してただろ?」
「ぁ……」
僕、そんな顔してたのかな?
いつも、これが最後かもって思ってたから。
「だから詩季は、俺といると、つらいのかなって……」
「そんなことないよ!」
「詩季……」
「僕は、速水さんと一緒にいられて、幸せだよっ」
思わず叫んだ僕に、速水さんは目を瞬かせたけど、すぐに優しく微笑んでくれた。
速水さんの大きな手が、そっと僕の頬を撫でてきて。
その手の温かさに、胸が熱くなる。
「うん。今はね、詩季が俺のこと好きだって、ちゃんと分かってる」
「速水さんっ」
僕の気持ちが誤解されてないことにホッとした。
でも、速水さんがそんな風に思ってたなんて。
「俺はさ。口下手だから、思ってることを詩季にちゃんと伝えられなくて、詩季を傷つけてきたと思うんだ」
速水さんは僕の頬を撫でながら、ごめんねと謝った。
僕は首を振って、微笑んでみせる。
「ねえ、詩季。俺はね、詩季が好きなんだよ」
「僕も、速水さんが好き」
「同じ気持ちだよね。でも俺は、ずっと詩季と一緒にいたいって思ってるよ」
「……うん」
「ずっと。って……いつまでか分かる?」
速水さんの問いかけの意味が分からない。
でも、速水さんの顔がすごく真剣だったから。
今は素直に答えた方がいいような気がして……ためらいながら、小さく答えた。
「……速水さんが、誰かと結婚するまで?」
そう言ったら、速水さんが眉をしかめた。
図々しいことを言ったからだって、慌てて謝る。
「ごめんなさいっ……速水さんに好きな人ができたら、ちゃんと別れ……」
「違うよ。詩季」
言葉を遮って、速水さんが額にキスしてきた。
「……速水さん?」
「あのな、詩季。ずっとって言うのは、一生ってことだよ」
「……え?」
「俺は、詩季以外の人と一緒になるつもりはないからな」
「……そんなの、ダメだよっ」
「どうして?」
「僕、男だから……」
「うん。知ってるよ」
「だったら! 僕は、速水さんと結婚できないし、……当たり前だけど、子供も産めないから」
「そんなこと、最初から分かってるよ」
速水さんは、あっさりと頷いた。
続く言葉を失って、ぼう然とする。
だって、速水さんの顔は、冗談を言ってるように見えないんだ。
……どういうことだろう?
黙っている僕に、速水さんはもう一度言った。
「詩季が男なのは分かってる。俺だって男だし……今の日本じゃ、正式な入籍はできないんだよなぁ」
残念そうに呟く速水さんに、僕は相づちすら打てなかった。
「あ、そうだ詩季」
そして速水さんは、申し訳なさそうな顔になると、僕を見て、
「詩季にも、諦めてもらうことになるけど、いい?」
「え?」
「ちゃんとした結婚……諦めてくれる?」
「……!?」
「俺、詩季を手放す気はないから」
「速水さん……」
告げられた言葉は、あまりにも衝撃的だった。
どうしても、自分の都合の良いようにしか聞こえない。
そんなわけないって思いながらも、頭の中は混乱していた。
一生とか……。
諦めるっていうのは……戸籍上の入籍ってことだよね?
でも、速水さんと一緒にいられるなら、こんなに幸せなことはない。
けど、すぐに自分の立場を思い出して恥ずかしくなった。
馬鹿みたいだ……そんなの、無理に決まってるのに。
「……僕は、ダメだよ」
「なんで?」
「だって……速水さんは、僕とは、住む世界が違うから」
「一緒だよ。何も違わない」
「違うよ……僕、フリーターだから」
定職にもついていないし、他人に誇れるものも持っていない。
それに引き替え、速水さんはアイドルで、たくさんファンもいて、人を幸せにする仕事をしている。
僕には想像も付かない、華やかな世界に生きている人。
そんな人と僕が一緒に、なんて、身の程知らずもいいところだ。
「詩季は、ちゃんと仕事してるだろ?」
「ただのバイトだよ。何の資格もスキルも持ってないし、正社員になりたいとか、そういう目標もないし……」
「でも、ずっと辞めないで続いてるだろ。何年も同じとこでさ」
「それは……時間の都合がつきやすいからだよ」
本当に、ただそれだけなんだ。




