やおよろず仕事納め 上⤴
BlueFireは年末を迎え、スタッフは大掃除に駆り出されていた。
モップ、ぞうきん、掃除機、バケツ。
道具を各自手に取り、汚れと共に色恋でついた垢も落としていく。
「コロナも乗り切ったしな」
「狐乃さんが強気だったせいか、ウチはあんま影響受けなかったな」
など、各々感想を述べつつ壁から座席の隅まで念入りに拭いていった。
景気の煽りは受けつつも、一年を通して店はまあまあな繁盛ぶりとなる。
グラスや食器の念入りな洗浄、年明けに向けての装飾の入れ替えなどをしていたら。
「おつかれ」
一人帰り。
「また来年な」
二人帰り。
気が付けば例の四人だけが残っていた。
霧人「俺らもそろそろ上がろーぜ、腹減った」
夕方の18時から始めて21時を過ぎている。
琉星「1年あっという間だったな」
優斗「年明けたと思ったらもう年末だ、はえーよ」
そこへ。
プルルルッと、愁也のスマホに着信が入った。
番号は狐乃からだ。
狐乃「おつかれ」
愁也「狐乃さん、おつかれさまです。どうしたんですか」
愁也は会話をスピーカーに切り替える。
他の三人も道具を片付けながら耳を澄ました。
店に残っているのはお前らだけかと聞かれたので、そうだと答える。
狐乃「ちょっと連絡が遅かったか。まあいい、差し入れの夕食を用意するから店で待ってろ」
優斗「マジすかっ!」
なんだろな、楽しみだな、などと言い合っていると。
狐乃「霧人、いるか?」
霧人「ハイ、いますけど」
なんだろと思いながら霧人が出た。
狐乃「洲王から今年は頑張ってたって聞いたぞ」
霧人「……え」
指名のかからない分、進んでヘルプに入るなど、陰での努力を聞いていたらしい。
狐乃「不器用なお前なりによくやった」
思いがけない言葉をかけられ、他の三人も聞き入る。
狐乃「お前だけでなく他のスタッフ全員もだ。人間の世界は世知辛いがちゃんとやれてる。お前らを仲間に持った俺も鼻が高い」
愁也「……」
琉星「……」
優斗「……」
霧人「……はい」
普段は厳しい狐乃に思いがけず褒められたので、三人は黙って俯いた。
狐乃「30分くらいでそっちに行く、適当に用意して待っててくれ」
愁也「……はい」
電話が切れると皆が無言となり、霧人がグスッと鼻をすする。
優斗「泣くんじゃねー、湿っぽくなるだろ」
霧人「だ、だってよ、狐乃さんが仕事で褒め、褒めてくれるなんて、は、はじめてで……」
愁也「泣くより喜べよ」
琉星「そうだぞ、褒められたんだしな」
琉星、愁也も慰めていると、様々な思いが胸を去来した。
人間の社会にきてから、達成感なんてものを感じた事はなかったが。
不思議と狐乃の励ましだけで気持ちが奮い起こされる。
それだけ彼にはカリスマがあった。
俺達の世界の頂点であり、憧れ。
俺達の存在と居場所を彼に認めてもらえる。
それだけで嬉しかった。
しがみついてきてよかった。
高ぶる気持ちをぐっと抑え、ペットボトルのお茶とグラスを用意し、イベント用のクラッカーを急いで用意した。
狐乃へのサプライズだ。
愁也「入ってきたら、お疲れ様でーす、で合わせるか」
霧人「狐乃さんの驚く顔が見たい」
優斗「そういや見た事ねーな、あの人の驚く顔」
瑠星「しっ、エレベーターが上がってきたぞ。準備しろ」
偵察に行った瑠星が戻り、コソコソ笑いながらソファーの影に隠れる。
チーン、とカゴが開く音がした。
カツカツと革靴の音が聞こえる。
店の自動ドアが開き、サクサクとカーペットを踏む音が近づいた。
優斗「フフッ……」
狐乃の驚く顔を想像して四人はワクワクし。
霧人「……せーの」
クラッカーを構え、バッと勢いよく飛び出した。
愁也「狐乃さん、今年一年おつk!」
そこまで言いかけ、愁也は息を呑む。
愁也だけではない。
琉星、優斗、霧人も現れた人物を見て目を見開いた。
なぜならそこには。
連獅子が立っていたからだ。
(赤い方)