吸血鬼たち
「グレアスタンは結局、狩人になれなかったということですか。」
前時代的な衣装をまとった老人が呟く。
彼の目は、酷く寂しい。
薄暗い部屋の中。
時代劇のような恰好の男女が犇めいている。
皆、古い絵画に描かれるような貴族の服装をしている。
辮髪を垂らし、撒き毛を幾重にも重ねる。
吸血鬼。
竜心院の狩人たち。
その中でも数世紀を経て、なお狩りに立つ長老たちだ。
彼らは、表向き鬼籍に入っている。
しかし若者たちの血を啜り、闇に生きている。
獣を狩るために。
「夢から覚めなかったようだ。
神経衰弱だよ。」
「ふん。
近頃の世間は、啓蒙に毒されておる。
人権だの調和だの、心の阿片だ。」
「左様。
みな臆病で心が硝子細工のように脆い。
戦いの場に立てぬなど、騎士ではない。」
「やれやれ、愚かなことだ。」
「我々は、人間とは違う種なのだ。
彼らと同じように生きてはならぬ。」
枯れ木のように年老いた吸血鬼たち。
彼らは、欠伸が出るほど退屈な雑言を吐き合った。
誰も彼も同じことしか繰り返さない。
そんな彼らに若々しい一人の騎士が声をかける。
「皆、聞いておくれ。」
一斉に雑談が止む。
竜心院の院長、クヌートの言葉に一同が清聴する。
「グレアスタンは、我々の家族になれると思った。
残念な結果に終わって余も慙愧に耐えぬ。」
月並みの定型文だ。
長老たちにとって何度、聞かされたか知れない。
あるいは、クヌート自身も何度も口にした言葉だった。
だが例になくクヌートは、言葉を繋いだ。
「しかし…。
これで12人連続で竜心院の貴い血が絶えてしまった。
余は、これを重く受け止めねばらならない。
そこで我らは、新しい血族を院に招こうと思う。
月骨の野を進み、夜の都に進軍するのだ。
そこで上位者に見え、赤子を授からねばならぬ。
竜心院の血を、絶やしてはならないのだ。
それが我々の使命である。
最高存在が、それを望んでおられる!」