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第二話

 学院で慌てて馬車を用立てて貰って、別邸に向かいましたわ。

 心中はともかく道中は穏やか。

 すぐに見慣れた金色の多い、趣味が今一つな別邸に到着致しました。

 門の前に完全武装の騎士が立っていて、入れませんけれど。


「ご機嫌よう。私、ルルシア・グランフレシアと申しますの。我が家に入ってもよろしいかしら」

「申し訳ありません、レディ。こちらの屋敷は今、調査中でして……」


 比較的若い、童顔の騎士は困ったような顔で受け答えをしてくれました。

 やっぱり入れてくれませんわ。うっかり中に入れて家財やら書類やらを持ち逃げされてしまったら困りますものね。


「困りましたわね。学院でお父様達が捕まったと聞いて急いで来ましたのに、家に入ることもできないとは」

「その心配なら無用よ!」


 もう少し粘ってみるかと玄関前で困った風にしていたら、唐突に扉が開きました。

 その向こうから出てきたのは豪奢な金髪を備え、プロポーションの整った女性。目つきがきつすぎるのがちょっと気になりますが、美しく堂々とした方です。


「ローザンカ様、なぜここに?」


 こちらの女性はローザンカ・スィリカ。王国の大貴族です。我が家とは比べ物にならないくらい立派な家柄の方ですわ。なぜか、学院で私を目の敵にすることが多い方でもあります。勝負にならないので、相手にしたくなかったんですけれど。


「ルルシア、貴方に説明をするためよ。ご両親についてはご存じかしら?」

「今わかるのは、屋敷にいないこと。捕まったことくらいかしら」


 私の答えに満足した様子で、大げさに頷くと、ローザンカ様は続けます。


「貴方のご両親は、横領、詐欺、恐喝、著しい職権乱用、反社会組織への協力、そのほか諸々の疑いで王都の騎士に捕らえられ調査中、といったところです。……驚きませんのね?」

「……いつかこういう時が来るとは思っていましたから」


 そもそも、私が何度言っても自らの行状を改めなかった人達ですから。遠からず来る日が今日だったのです。最悪ですわ。あと三年くらい持たせて欲しかった。


 それと同時に、ごく僅か、本当に鳥の羽の毛先ほどの量ですが安心もしています。ローザンカ様の読み上げた罪状に殺人はありませんでした。

 本当の本当に最後の一線だけは越えていなかったのでしょう、あの悪徳領主夫妻は。

 王国は貴族への処罰は甘い傾向があります。これなら、斬首ではなく、どこかの土地に幽閉するなりで、社会的に終わる程度で済むのではないでしょうか。

 悪徳な両親ですが、私へはそれなりの愛情を注いでくれましたので、そこは安堵ですわ。


 いえ、一安心している場合ではありませんわ。それはそれとして、家は潰れますの、この展開だと私は詰んでますわ。


「一応確認しますけれど。グランフレシア家はどうなりますの?」

「貴方の想像通りです。少なくとも、領地にはもう帰れません」

「そして、王都へも居られない、というわけですのね」


 実に困りました。現段階で私に打てる手はありません。ちょっと急すぎますの。


「そんな困っているであろう、ルルシアに良い話をするために、私はここにいるのよ?」

「ローザンカ様が? むしろ、私も一緒に捕まえる側でしょうに」


 大貴族の娘であるローザンカ様のことだから、両親ともども捕まる私を見物にでも来たかと思っていましたわ。


「勘違いしないで欲しいわ。私は貴方個人の能力は評価しているの。ただ、ご両親がちょっと……ね?」


 わかっているでしょ、という話しぶりです。家のことを抜きにすればローザンカ様は基本的に良い方です。善と言い切るには利己的ですが、悪い方ではありませんの。


「ルルシア、優秀な貴方に二つの道を用意したわ。一つは、我が家へメイドとして入ること」


 残念ながら、今回は善ではなく利己的な側面がお強く出ているようですわ。


「あら? なにを不服そうな顔をしているの? 我が家の使用人は待遇良いわよ。学院でも優秀だった貴方なら、出世して私のお付きにでもなれると思うわ」


 つまり、ローザンカ様は私を手駒にしたいようです。

 冷静に考えると、悪い話ではありません。周りからの視線は大分厳しいでしょうが、大貴族の屋敷の中で暮らしていけるとあれば、今よりは先行きは明るいと言えるでしょう。

 周囲からの嘲笑に耐えながらローザンカ様を支えれば、将来的に花が咲く未来もあるかもしれません。それと引き換えに、胃に穴の空きそうな政争の世界に飛び込むことにもなりますが。

 決断する前に、もう一つの方を確認しておきましょうか。


「先程、二つの道をとお聞きしました。参考までにもう一つの案をお教えいただきたいですわ」


 私の言葉に、ローザンカ様はやや粘着質な笑みを浮かべて口を開きます。美人が台無しですの。その笑い方。


「ルフォア国へ嫁ぎ先を見つけました。ちゃんとした貴族の男性ですよ。少なくとも、彼の国の基準では」

「ルフォア……」


 それは、十年ほど前にラインフォルスト王国と国交が始まった新興国です。

 森に囲まれた自然豊かな国で、独自の種族が長年閉鎖的に過ごしていたという、縁も知見も薄い国。ただ、文化も技術水準も非常に低いと聞いています。

 ぶっちゃけた話、王国では「蛮族の国」などと呼ばれている場所。それがルフォア国なのですわ。


「わかりました……」


 この二択、私には選択の余地はありませんでした。決断はこの場で致します。


「それでは、ルルシア・グランフレシアはルフォア国へ嫁ぎますわ」


 ローザンカ様が目が飛び出るほど驚きましたわ。絵画の題材にしたいくらい、見事な表情ですわね。

 これほどの美人の顔を崩すほどの発言をできたことに、私は心底満足したのでした。

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