うちの父の口癖
うちの父は板前だったと言いましたが、
すぐに美味い飯を作れたわけじゃない
そりゃー、紆余曲折ありましたよ。
マズイと言われたこともありますし、
こんなん食えんと言われたこともあります。
流行らずにシンドイ思いをしたことも。
で、そんな父のところに、
業者がやってくるんですよ。
うちではこんなの作ってます、お宅の店で使いませんかと、
サラダやエビフライや唐揚げやと
持ってくるわけですよ。つまり外注品ね。
それ見たことあるんですが美味しそうだったんですよ
で、私ね、
お父さんこれ使おうよ、そしたら客がどんどんくるよと。
だってそんなのは絶対味も間違いないし、
肝 心 な の は 美 味 し い か ど う か じ ゃ ん っ て ね。
その時の父の料理ははっきり言って、
あんま美味しいもんとは思えんかったんで。
でも父は頑として首を縦にふらんかったんですよ
で、必死で工夫して、
やっと店が軌道にのったわけですが、
父に聞いたんですよ。何で使わんかったのと。
もしかして周りと同じような味になるのが嫌だったんかと。
すると父は言いました。
「そうやない。もっと深刻な問題や」と
なんのこと?と聞くと、父は言いました。
「だってよお考えてみい。明日からお前んとこには売らんと言われたらどうすることも出来んやろ。どんなに苦しゅうても自分で何とかする言うんは、自分を守るためでもあるんや。ひいてはお前らを守るためでもある」
完成品の味は変えることが出来ないやんかと。
売ってくれんで、違うメーカーの、使うなんてこと出来ないでと。
そんなことしたら店の味が変わってしまうやろと。
それは、その店自体の根幹を揺るがしてしまうとね。
それに父はこうも言いました。
肝心なのを外注するいうんは、
品質落とされてもこちらはどうすることも出来んのやと。
仕入れ先を変えるにしても、さっきも言うたように味が根本から変わってしまう。
そんなこと出来るか?と私に聞いて来たのです。
なるほど
しかしこっちは何度も試食させられ、胃も疲れ気味
あんまその言葉には納得できず( ̄∇ ̄;)ハッハッハ
それから父は、
新鮮な魚介が揚がったと聞いては卸売市場にいそいそと出かけ、
良いパン粉があるぞと聞いては買いに行き、
美味しいジャガイモがあると聞いては出かけ
自分で何もかも手作りしたのです。
そりゃ、試作品はクソ不味かったですよ。
でも何度も試行錯誤して、とにかくウマイ、と言われるまで沢山の人の意見を聞いて。
そのおかげでしょうかね。
どんな強力なチェーン店が来ても負けなかったし、
それどころか父の店に負けて撤退していった。
自分が生きるために根を張るんやと言う父の心意気
その時はワカランかったのですが今ではよおわかります。
その時に、気づいていればよかったと、ちょっと後悔しつつ。
前にも言うたかもしれませんが、
もうお亡くなりになりましたが、経済学者で金子さんという方がいた。
この人の名言と言うか
凄いイイこと言うなと思うたことがありまして、
とある親御さんがね、
子供にどんな財産を残してあげたらいいでしょうかと。質問されたことがあったんですよ。
で、その親御さんにしてみたら、財産運用とか、そうゆうの聞きたかったんでしょうね
だって相手は経済学者ですし
ところが金子さんは意外なことを言いました。
「貴方のお子さんに、学問を身につけさせてやってください」と
金子さんは言いました。
金は持って逃げるのは難しいが、
知識と技能は持って逃げれる。
なるほどなぁと思うた次第です。