1 発生した事件
1
私、ドールエリスは家で学校に行く準備をしていた。
長ったらしいうすいターコイズ色のかみをクシでとかし、せい服に着替えると私はりょうの部屋を出た。
私の通っている高校は女子校で、みんなりょうで生活している。
りょうから学校の校しゃまではと歩9分と意外と遠い場所に立てられている。
すでに朝食はすませてあり、あとは学校に行くだけだ。
りょうは1部屋に4人で住んでいる。この部屋の他の人たちはもう学校に行っていた。
2階にある私達の部屋から1階に降りて、靴箱から自分の靴を取る。
くつをはいてげん関を出ると同じ高校に通う学生たちが複数人歩いていた。
学生たちのすき間に入って道を通っていると、後ろから元気な足音が聞こえてきた。
「おはよう!」
その声とともに私は後ろからかたをつかまれた。
「おはよう。」
振り返ると数少ない私の友達___ミリアレインが立っていた。
「元気ないじゃん。そういう時は起きた時に顔を洗うと良いらしいよ。」
そう言ってミリアは私のかたをゆらす。
「別に。メモ帳がないからどこにあるのか考えてただけ。」
かのじょは私やリリーという同級生にばかり話しかけてくるが、言葉を返さなくても機げんが悪くなったりしない。
私にとって良い性格の持ち主だ。
少なくともミリアは他の人よりかは付き合いやすい。
「そぉ〜?ま、元気ならいいんだよ!」「そうね。」
そんな他愛のない会話を交わしながら私とミリアは
学校に向かった。
「見ろよ。ぶあいそうだ。」
「マジかよ。あいつが人と話しているのめったに見れねぇーぞ。」
「あの二人凸凹のコンビじゃねぇの?」
そんなささやき声を聞いて私はため息をついた。
私は人なみにしゃべるくせに笑わないので、皮肉を込めてぶあいそうというあだ名で呼ばれている。
「感じわる〜なんで”ぶあいそう”なのよ。ドールちゃん。気にしなくていいよ。」
そうは言っても耳には入ってくる。別に好きで笑わないなわけではない。面白いことで笑わないだけだ。
「あら。ぶあいそうじゃない。久しぶりね。」
声が聞こえてきた。かのじょはフェミル・ライト。
気が強めで、私のあだ名を作ったちょう本人でもある。
かのじょ自身は私のことが嫌いなため、学校でフェミルからわざわざ私に顔を見せるのはめずらしい。
「あなたが顔を見せないだけでしょ。」
「何かしら。ひどいわね。」
そう言ってフェミルは特ちょう的な金ぱつをゆらした。
こちらを見つめてくる黒いひとみを見つめ返す。
「ほんとにこの子のことわかってないのね。ぶあいそうはいつもよ。」
先にミリアが口を開いた。なぜ私ではなく彼女が勝手にものいうのだろうか?
「あらそうなの?でも私はあまりドールと話したことがないのよ。彼女がぶあいそうだからじゃないの?」
相手もずい分とちょう発的な態度をとってくる。
ミリアとのけんかに発てんしないか心配だ。
なにせ彼女はちょうはつに弱いし相手はちょうはつが得意だ。
「何よ。あんたが話すをめんどくさがってるだけでしょ?」
「そうだとしても、話すのがめんどくさくなるのはドール側に原因があるんじゃない?」
「何ですって?私みたいに話しかけていれば彼女がたとえぶあいそうでも付き合いはできるのよ!」
ほら。始まった。いつものいざこざだ。
ミリアとフェミルは仲が悪く、私のことに限らずしょっちゅうけんかをしている。
そんな二人の関係を私は不思議に思う。
こんなに仲が悪いのであればどちらもおたがいをさけていてもおかしくはないと思うのだが、なぜかこの二人は積極的に関わり合ってけんかをしている。
私にはその行動が理解できない。
「とにかく私も無愛想なのは悪かった。とりあえず他の生とのめいわくになるからいったん落ち着いて。」
そういって私は二人の間にわって入った。ここでけんかを起こされると本当にめいわくだ。
「ほらぶあいそうもこう言ってるんだから。」
「だれがぶあいそうよ!」
「静かに。」
『はい。』
彼女らは周りを気にするタイプではなくだれかに言われたりしないかぎり気づかないため、私が毎回止めに入らなければならない。
めんどくさいが、止めなければもっとひどいことになる。
「あ、あの・・・・」か弱い声が聞こえてきた。
かのじょはリリーヘム。
茶色いかみは見事にぼさぼさになっていて、余ったせい服のすそを合わせてこん願するようにこちらを見ていた。
「どうしたの?」
「もうすぐ、授業始まります。せ、席に着いてください・・・・」
その言葉にミリアとフェミルが時計を見た。確かに授業が始まる1分前だ。
「あぶな!ありがとう。」ミリアはそう告げると自分の席に戻って行った。
「そんなこと言われなくてもわかってるわよ。」
一方フェルミの冷たい答えにリリーはむくれた。
「・・・・フェミルのこと、きらいなの?」
「うん。昔からなか悪くって。」リリーはそう言ってはずかしそうにうつむいた。
「そう。わかった。」それだけ言って私は自分の席についた。
それと同時に授業開始のチャイムがなる。
後ろにぼうぜんと立ち尽くしたリリーは教室に入ってきた先生に注意される事になった。
「さようなら〜」みんなの声が飛び交う放課後に、私はミリアと帰たくの準備を進めていた。
次が3連休のため、今日は久しぶりに家に帰る日だ。
「ねえ。」
「なぁに?」めずらしく自分からミリアに声をかけたと思った。
「今日の夜って、あなたコンビニのアルバイトだっけ。」
「そうだよ〜。」
そう。この学校ではアルバイトが禁止されていないのだ。
そのためミリアとフェミルはどちらも同じ会社のコンビニのアルバイトをしている。
「そう。頑張って。」
「で、何を言いたかったの?」
うれしそうに私の顔をのぞき込むミリアの顔を私はそっと手で押しのけた。
「メモ帳、リシアさんが見つけてくれた。」
「よかったね・・あ、私ここでおわかれだ。」
そう言ってミリアが指さしたのは二方向にわかれている道だ。
私は右。ミリアは左と家の方角がわかれている。
「じゃあね、ドールちゃん。」「うん。」
軽く手をふって別れると、はねるように道を進んでいくミリアの後ろすがたを見て何かうれしかったのだろうかと少し考え込んだ。
だが、答えが見つからなかったため、これ以上は考えるのをやめ帰たくするために右の道を進んで言った。
ガチャ。
ドアを開ける。「おかえり、ドール。」あたたかく出迎えてくれたのは母だった。父は会社に行っていて今は家を空けている。「ただいま。」そう言って私は家に上がった。
2
「ドール!」今日学校に行く前にミリアから電話がかかってきた。
「あのね!昨日家にどろぼうが入ったの!・・あいかぎ持ってるよね?」
私はいきなりの事件におどろいた。
「あのね。私の妹がどろぼうを見たの。長い金ぱつで高校生くらいの背丈だったって!時間帯は私がアルバイトをやっている時よ。」
ミリアの証言を聞くと、フェミルしか思いうかばなかったが、
金ぱつで背が低い人は数人いるだろうから彼女と決めつけるにはまだ早い。
それにアルバイトはミリアと時間帯は同じだ。
「わかった。こっちでも犯人を探してみる。」
そう行って電話をきると私はフェミルに電話をかけた。
プルルルルッというよび出し音が数回なると、向こう側につがなった音がした。
「もしもし。ドール?何の用?もうすぐ学校よ。」
イラついた声を無視して私は本題に入る。
「あなた。昨日アルバイトだったでしょ。」
「そうよ。それがどうしたの?」
突っぱねるような口調に私はい和感を覚えたが、とりあえず私は話を続ける事にした。
「昨夜ミリアの妹がどろぼうを見たって言っているの。金ぱつが特徴的で高校生くらいの身長だったつて。」
そう言ったのちに長いちんもくがおとずれた。
顔を見なくてもフェミルが絶くしているのは想像がたやすかった。
「時間帯はいつ?」
「ちょうどミリアがアルバイトに行っている間よ。」
「じゃあ、私じゃないわ。」
その反応は私にとって予想していた。
何しろ、ミリアとフェミルは同じ時間帯にアルバイトをやっている。
昨日フェミルがきていたかくらいミリアに聞けばたやすく証言が取れる。
それに関してはミリアは何も言っていなかった。
「じゃあ、また学校で。」そう言って私は電話を切ると、学校に行く支度を始めた。とりあえず今回のどろぼう事件は証言と細かい事をメモしておく事にした。
「ねぇ、今朝の電話どういうつもりよ。」
学校についた私は早速フェミルに問い詰められる事になった。
「電話で話した通りだよ。それ以外は私もミリアから聞いてないから。」
「そうじゃないわ。あんたの電話でちこくしそうになったじゃない!」
フェミルは声をあらげた。
「おはよう。二人とも。」
くらい声が聞こえた。
リリーかと思うと、そこにいたのはげっそりとしたミリアだった。
「あんた!どうしたのよ!」流石にフェミルもミリアの変わりようには驚いたようだ。
いや、げっそりってレベルじゃないだろう。
アンデットのようだ。
「あのね。どろぼうに何も取られてなかったの。」
「いい事じゃない。」
「フェルミには関係ないわよ。」
にらみ合った他二人の間に火花が散った。
「で?」
私は二人の間にわって入るとミリアに話を続けるようにうながした。
「あのね。それが不気味なの。まだ家に残ってかくれてるんじゃないかって思って。妹が心配なの。」
なるほど。そういう事だったか。
ミリアの妹、ミユクは9さいになったばかりの小学生だ。
ミリアが心配するのもわかる。
「あ、そうだ。ミリア。昨日フェミルてアルバイト来てた?」
「わからないわ。同じ時間帯だとしても直接会うわけじゃないしたん当の地区もちがうから。」
どうやら待ち合わせをしていたりするわけではないらしい。
これでミリアでフェルミのアリバイを証明することができなくなった。
となると本当にフェルミがどろぼうに入ったか、アリバイを証明できるべつの人物を探すしかない。
「ミユクちゃん他に何か言ってた?」
「特には何も言ってないわ。」
これで証こは全て出尽くした。あとは自分なりに考えなければいけない。
「あの、も、もう授業始まりますよ・・・」
またリリーに助けられた。
私たちは話している間は時間を気にしない。
「ありがとう。リリーは昨日どこかいった?」
ミリアがリリーに聞いた。
「えっ、い、行ってないけど。」
今少しうろたえただろうか?いつも片言だから変化が分かりにくい。
「そうわかったわ。」
私たちは席に着いた。
とりあえず今回の事件についてのヒントは再び紙にメモをしておいた。
「再びりょう生活かぁ〜妹が心配だよ。何かあってもすぐ行けないし。」
ため息と共にグチを言うミリアを私はめずらしいと思った。
いつも元気でなやみ事がなさそうなミリアもこんなことを言うものらしい。
「なら、毎日電話でもかければ良いんじゃない?」
その言葉は言ってからなぐさめにもならないと思った。
「そうする。ありがとう。」
一しゅんで元気を取りもどしたミリアにはやはりなやみ事などできそうにないと思った。
「ほら。りょうついたよ。」
ミリアの声で顔をあげると、確かにりょうが目の前にあつた。
話しているうちにいつの間にかついていたのだ。
「まぁ、今日はしっかりご飯食べてよくねなよ。頭もクリアになるって。」
そう言ってミリアは私のかたをポンと叩いた。
「そう。じゃあそうしようかな。」
げん関でくつをぬぐと、くつ箱に入れて自分が寝泊まりしている部屋に向かった。
「ただいま・・・」
この言葉がてき切なのかはわからないが、これでもこの部屋は私が生活している場所だ。
別に言ってもいいだろう。
「久しぶりなきがするな・・・」
そう言って他の3人が見ている中、クッションを自分の手元に引き寄せると頭をのせてゆかにね転んだ。
まぶたを閉じると、つかれがたまっていたのか、すぐに意識が遠くなった。
「ドール!きん急事態!すぐ起きて!」
ミリアがあわただしくこちらの部屋に入ってくる音で私は目が覚めた。
起きるとまだ朝の4時半前だ。
いや、もう4時だ。なぜなら私は少し寝るつもりでゆかで横になっていただけなのだ。
どう考えても一夜明けている。
それにゆかでねていたせいで身体中いたい。
ミリアの声で他の3人もベットから起き上がった。
「どうしたの?」
とりあえず自分も起き上がってミリアの方を見た。
「リシアさんがグラウンドでたおれてたって!」
その言葉を聞いてまだ完全に起きていなかった意識がはっきりとした。
「リシア?リシア・メイ?」ベットから声がかかる。
「そう。リシアさん!早くきて!」
せい服に着替がえると私はミリアに手を引かれて部屋を出た。
グラウンドに行くと、生とたちの人だかりができている。
人と人の間を進んで行くと、確かに中央にリシアさんがたおれていた。
そしてリシアの体には複数か所すり傷がある。
そのとなりには見覚えのある刃物と少しぬれたペットボトルが置いてある。
ペットボトルの中にはお茶が入っており、まだほとんど中身が減っていないように見える。
「はい下がってー!下がって下がって!りょうにもどって!」
いきなり聞こえてきた先生の声でみんながつまらなそうに引いて行く。
私も後ろ髪を引かれる思いだったが、先生に追いはらわれ、近よるにも近よれずその場を去った。
「ねぇ。どう思う?」
りょうに帰ると中、ミリアが私に聞いてきた。
「どういう意味?」
「事件せいがあると思う?」
確かにかのじょの体には争った形せきがあった。
これだけみると事件でしかないように見える。
「ほぼ確定と思ってるけど。」
問題は近くに落ちていた見覚えのある刃物だ。
「あの包丁、ミリアのでしょ。」
え?とミリアがこちらを向く。
あの包丁は一度ミリアの家で見たことがあった。
「やっぱり!」
とつぜん声が聞こえた。
「やっぱあんたでしょ!」
どうやらぬすみ聞きしていた人が居たらしい。
そこにいたのはリシアをしたっていたクライア・イースだった。
かのじょはリシアととても仲良くしていた人物だ。
リシアはかなりの友達を持ち、たくさんの人からそんけいされている人物だ。
その理由は主に二つ。
かなりゆう福な家庭で生まれ、けん力があるという事。
そしてもう一つはその人がらの良さだ。
だれにでも分けへだてなく接する平和を絵にかいたような人物像だ。
ただ、表面上と内面はちがうため、本来みんなのことをどう思っているのかはやはり他の人同様にわからない。
私にも何度か話しかけてくることがあったが、最近はあまり話していない。
「私じゃないわ。」
「じゃあなんであんたのものが落ちてんのよ!あんたがやったんじゃないの?」
そのさわぎで他の人たちが集まってくる。
「ミリアがリシアさんをおそったんじゃないの?」
クライアの言葉に集まってきた人たちがしゃべり出した。
「ミリアが?」
「でも現場に落ちてたのって・・」
よからぬうわさが広がりそうだ。
「白状しなさい!あんたがやったんでしょ?」
そう言ってクライアはミリアに指をさした。
「何か答えてよ。」
「本当に私じゃないわ!」
「ならなんであの場所にあんたの包丁が落ちてるのか説明しなさいよ!」
クライアがさらに問い詰める。
「それは・・・」
ミリアはやっていなくてもだれがあの場所に置いたかなんてわからない。
「やっぱあんたがおそったんでしょ!」
生徒の一人が声をあげた。本格的にピンチに陥っている。
「私こんなことやってない!信じてよ!」他の生徒に囲まれ、ミリアはそういった。
私もミリアをうたがっているというわけではない。
証こも不十分だし、他の人がやったという可能性もある。
早くこんなふざけた事をやってくれた犯人を特定して捕まえなくては。
「待って。本人が違うって言ってるし、私は彼女がやったという証こは不十分だと思ってる。だから少しゆうよをちょうだい。その間に犯人をつき止められるようにするから。」
ミリアを追い詰める群衆に待ったをかけると、クライアは不機げんそうに顔をしかめた。
「じゃあゆうよは1週間。これでいい?その間に犯人をつかまえなかつたらこいつをけい察につき出すから!」
「いいよ。」
こうして期限付きのそうさくが始まった。