チェックメイト課のお仕事
『第4回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品です。
キーワードは『チェックメイト』。
あれこれ遊ぼうと思いましたが、千文字の壁は厚かった……。
何とかまとまりましたので、どうぞお楽しみください。
異動命令に書かれた『補佐課』の文字……。
この課が設立されて以降、一般の部署の退職はゼロ。
退職予定者は補佐課に異動させ、有休の消化や諸手続きをさせるからだと専らの噂……。
別名『チェックメイト課』……。
どうして!?
これまで必死に働いてきたのに!
……諦めない!
絶対退職を回避する!
その為にはここの課長に、私の力を示すんだ!
決意と共に補佐課に入る!
「失礼します! 本日から配属になりました一井茜姫です!」
「お、来たねー」
目の前にはまばらに人が座る十人程度の事務机。
その奥に座る、私の挨拶に応えた人の姿に絶句。
ノーネクタイ!
ボサボサの髪に無精髭!
机の上はごちゃごちゃだし、何このだらしなさの化身みたいな人!
……位置的に課長、よね……?
「あ、あの、今日からよろしくお願いいたします!」
「あーはいはい。補佐課課長の代田でーす。よろしくー」
「それであの、私の仕事は……!」
「うちは他所の課がしんどくなった時の補佐要員だからさー。要請が来るまでのんびりしててー」
「な……!」
他の社員も本読んだり携帯いじったりしてる!
それじゃあどうやって私の力を示せば……!
「あ、そうそう。有休は使ってねー。社割の温泉旅館とかあるしー」
「っ!」
そうやって退職に追い込む気ね!
そうはいかない!
こんなだらしない人より有能だと示してみせる!
「会計課から応援要請。行ける人いるー?」
「私行きます!」
「倉庫整理に男手借りたいって話があって」
「力には自信あります!」
「営業の懇談会に盛り上げ役が欲しいって」
「歌いますか!? 踊りますか!?」
「一井ー」
「はい! 次はどこの応援ですか!?」
「補佐課の別名知ってる?」
……え。
これ答えていいのかな……。
「……ちぇ、チェックメイト課……」
「そ。さてその意味は?」
「……退職までもう後がない……」
「惜しいな。後がないのは身体と心さ」
「え……?」
「必死に働く奴は、ほっとくと身体壊すし、無理に休ませると心が病む。で、程々の仕事と程々の休養を取れるようにと設立されたのが補佐課だ」
そんな理由が……。
「そのお手本として俺がだらだらしてるのに、お前ときたら……」
「す、すみません!」
「ま、何もしてないと不安な気持ちもわかる。これからはスキルアップの勉強でもしたらどうだ?」
「そうします!」
私は見捨てられた訳じゃなかった!
そうとわかれば資格の勉強とか頑張ろう!
「一月に資格を三つとか……」
「こ、これでも控えめにしたんです!」
読了ありがとうございます。
社畜の魂百まで。
労基とか訴訟とか考えたら、こういう部署があっても
いいんじゃあないか……。
もっとも「これでギャラはおんなじ」とか言われたら希望者が殺到するので、リアルでは難しいかな……。
なお、一井茜姫は『一意専心』から。
『茜』をセンと、『姫』をシンと読むのを初めて知りました。
代田課長は『怠惰』から。
名前考えるの、めんどくせー。
でも名乗らない理由考えるのもめんどくせー。
次回のキーワードは『ひまわり』の予定。
……『季節感』って知ってる?
頑張ります!