EPISODE8. 響詩也は勇気を出して、
今日、僕に課せられたミッションはこれだ。友達を作れ。
一見簡単そうに聞こえるミッションだが、実は"恋人を作れ。"に次ぐ高難度ミッションのうちの一つだ。
ミッション達成のためにまず最初にやるべきこと。それは話しかけることだ。
だがしかし、高校生活が始まってわずか4日にして早くもぼっちと化している。尚且つ、4日目にして早くも遅刻。そんな僕は今クラスで、「あの響って奴やばくね?」「あいつとは関わらんとこ…」みたいな空気感を出されている。これ、友達作り無理じゃね?
という訳だが、まあ、声を掛けないことには始まらないので勇気を出さねばならない。
1時限目も終わり、10分間の休み時間に入った。今がチャンスだ!なのだが。先程も言った通り僕は4日目にしていきなり遅刻し、授業中にクラスメイトの見てる前で先生に半殺しにされるという醜態を晒してしまっている。
昼休みはみんな集団で弁当を食べていて話しかけに行くのはかなり気まずくなることを考えると、この10分休みが1番話しかけるチャンスではあるのだが…中学時代、少ししか人とコミュニケーションを取らなかった僕にとってこのハンデは大きすぎる。
だが、うだうだしちゃいられない。勇気を出して、比較的話しかけやすそうな人に話しかけに行くことにした。
話しかけやすそうな人…教室を見渡すと、僕の席(窓側の1番後ろ)の反対側、廊下側の1番前に1人で次の授業の準備をしている人がいた。
あの人は今1人だし、次の授業の準備をしているから次の授業なんだっけ?って聞けば不自然じゃない!よし。これで行こう。ちなみに、実は2時限目は日本史の授業だ。わかっているが、話しかけるためには何でもする。という精神だ。
意を決して僕は立ち上がった。まさかトイレと移動教室以外の用で10分休みに席を立つことになるとはな。
出来るだけ目立たないように、後ろの方を通って1度廊下に出てから前のドアまた入ってその流れで話しかけることにした。
でも待てよ。わざわざ時間割聞かなくても配られた時間割を見ればいいじゃんって普通に思うよな。しかもわざわざ反対側の席のやつに聞く必要はねえだろって思うよな。一時撤退。戦略的撤退だ。
一旦自分の席に戻って体制を立て直す。あまり深く考えるな響詩也。自分を信じろ。
考えると気がつけばネガティブ思考になってしまう傾向があるので何も考えずに行くことにした。
無心で。無心で。
と、ふと目的の座席をみたときだった。
「おーい我孫子ー、次古典だよなー。課題やってきたー?」
なんと…!グダグダしてる間に先客に話しかけられてしまった!てか、彼は我孫子くんというのか。覚えておこう。ま、まあまだ今日は終わっていない。まだ2時限目。チャンスは昼休み、放課後も入れるとあと5回チャンスがある。まだ勝負は終わっちゃいねえ!生きるも死ぬも今日の休み時間で勝負だ響くん!
ってか、2時限目日本史じゃなかったな。あぶねえ。
☆☆☆☆☆
2時限目、古典。我孫子くんの友人、隣田くんによると昨日課題が出せれていたらしく、それが今日提出らしい。
そして僕はその事実今知ったのであった。そのため勿論やっていない。
プリントは手元にあるのだが、1つも手をつけていないのでとても提出出来る状況ではない。
そうだこういう時こそ隣前後の人にプリントを見せてもらえば自然に話しかけることが出来る!
しかも隣の席はさっき我孫子くんと課題の話をしていた隣田くんだ。よし、見せてもらおう。
というか、これは友達をつくるという話がなくても見せてもらわないとやばい状況だ。
緊張するな響詩也。これは友達づくりの為じゃなくて課題提出のためだ。声をかけようとした丁度その時だった。
「ごめーん俺課題まだ終わってなくてさ、悪いけど大隣さん見せてくれないかな。」
机をとんとんと叩くためにちょっと椅子を傾けて手を伸ばしたタイミングで隣田くんはその更に奥の隣の人に話しかけたのであった。そんないいタイミングなことある?
不安定な姿勢だった僕はそのまま倒れてしまった。いてえ!
なんだ。隣田くんもやってなかったのか。だからさっき我孫子くんに課題やったか聞いてたのか…
今違う人に見せてもらってるってことは我孫子くんもやってなかったのか。なんだ意外とみんなやってないじゃん。
と、いうわけだが、まだ前の席の人がいる。彼女は前田美咲さん。前田さんはたしか、成績優秀で入学式の時に新入生代表で挨拶をしていた人だ。この人なら課題を終えているだろうし、見せてくれるだろう。
よし。女子に話しかけるのはちょっと緊張するけど、成績のためだ。課題提出のためだ。大丈夫だ。
話しかけようと決心したその時。
「みさきっちー!課題やってないからみーせてっ☆」
「あー!綾乃ずるい!麗子の方が先だったのに!」
は!彼女達はクラスのトップカースト!?先に前田さんな話しかけた金髪ロングは、あの大手企業一条グループの社長の令嬢、一条クリスティーナ綾乃。その後に話しかけた制服を着崩している外ハネショートは、読モにスカウトされたことのあるモデル体型とファッションセンスを持つ、押谷麗子。で、その後ろでニコニコしながら3人を見守る銀髪ボブは、常にニコニコと微笑みを浮かべ、持ち前のド天然で常に周りを和ませる笑原心和。またもや刺客に阻まれてしまった。
「綾乃ちゃんに麗子ちゃん…課題は答えを写しても意味無いんだよ?」
「「「ギクッ」」」
流石、優等生というような発言に、彼女らは項垂れた。
えっと、それ一条さんと押谷さんだけじゃなくて僕にも刺さるんですけど…?結構写してる人いますけど…?
そう思って右隣を見ると、大隣くんは気にせず「まじ助かるわぁ」とかいいながら答えを爆速で写していた。こいつ、やるな。
「まあ、貸すくらいだからいいけど…次からはちゃんと自力でやるんだよ?」
と、前田さん。すごい!なんかお母さんみたい!
「「はーい!!」」
一条さんと押谷さんは、前田さんと笑原さんからプリントを貰うと自分達の席に戻っていった。何この子達。親子みたい。
そんなことを考えていると、一条さんがこちらを睨んできていることに気付いた。
(お前みたいなモブ陰キャ男があーしのみさきっちに話しかけていいと思うなよ立場をわきまえろ立場を調子になるのよちょっとでもみさきっに触れようものならあーしお前のことぶっ○すからな覚えとけよ)
やだあの子怖い直接脳に訴えかけてくる…彼女達と関わるのはやめておこう。めんどくさいことななりそうだ。てか、ちゃっかり笑原さんは課題済んでたんですね。
☆☆☆☆☆
結局誰からも課題プリントを借りることが出来なかった僕は、どうせやってない人結構いるだろうと考え諦めて忘れましたと先生に行くことにしたのだが…
課題を忘れて来たのは先生によると僕だけらしく、またもやクラスメイトの前でこっぴどく叱られてしまった。くそ…!お前ら(やってなかったやつ)見せてもらったのかよ!
散々叱られ、自分の席に戻る時、クラスが少々ザワついていた。
「響のやつ課題やってなかったのか?誰かにみせてもらえばよかったのにな。」
「おいお前そんなこというなよ、アイツ友達いねえだろ。」
なんか、すごく色々な悪口言われてる気がする。はぁ、もう友達づくりなんて無理だ。
もう学校やめようかな。(泣)
残りのライフが0になってしまった僕は、結局その日放課後まで人に話しかけることは出来なかったのであった…