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音楽堂の音色さん  作者: 氷雨
7/9

EPISODE6. 通学路で2人は、

8:20。遠くからキーンコーンカーンコーンと学校のチャイムが聞こえてくるが、響詩也と音色奏はゆっくりと通学路を歩いていた。

他の都府県とは違ってまだ肌寒さのある北海道。風は冷たく、路肩にはまだ少し車の排気で黒ずんだ汚い雪が残っている。

「うぅ…やっぱ寒いよねぇ…」

隣にいる小柄な少女、音色奏がプルプル震えている。こうして見ると彼女は制服を着せられてる小学生に見えるが、れっきとした女子高校生だ。

「本当ですよ、今朝も寒くて中々起きれなかったですもん。」

「ほほーん。だから朝遅れて来たって訳ね?響くんは朝と寒さに弱いっと…メモメモ。」

音色さんが胸ポケットから小さなメモ帳を取りだして何かを書いている。

「どっちかというと遅れたの音色さんの方じゃないですか!ってか、そのメモなんです?」

「あー、これ?これは響くんリア充化計画のためのメモだよ!響くんのこと沢山知っておけば何かに使えるかもしれないし!」

音色さんは胸を張ってキラキラした目で僕を見る。音色さんは音色さんで色々僕のために考えてくれてるんだな。それに比べて僕は音色さんのことをわかった気になっていて、実際にもわかっちゃいない。僕も頑張らないと。

「なるほど。色々とありがとうございます。でも、音色さんの友達づくりも重要事項ですからね?」

「あははは…それもそうだね!」

一瞬、少し困ったような表情を見せたが、すぐに「よし!」と小さくガッツポーズをつくってやる気を顕にした。

「一緒に頑張ろうね!響くん!」

音色さんは僕に右手を差し出してきた。えーっと。これは、握手を求められてるのか?差出人右手は小さくて、透き通るように白い。軽い力で握るだけでポキッと折れてしまうんじゃないかと思うほど、音色さんの手は華奢である。いやいや、そんな異性に握手なんて求めないだろ。何を勘違いしてるんだ僕は!

ぐだぐだしていると、音色さんが差し出してきた手をブンブンさせて催促してきたので握手をすることにした。

小さくて冷たい。見た目通り、美しくて弱々しい。小柄な少女、という感じだ。

「響くんの手、大きくて温かいんだねー!」

そんな一言で僕は我に返り、すぐ様手を振りほどいた。色々なことを考えて、長い間握りすぎてたかもしれない。恥ずかしい。

「あー、えーっと、こっこれは…その…!」

顔が火照ってるような気がする。さっきまで肌寒かったのに急に暑くなってきた。

「あはは!やっぱり響くんおもしろーい!」

そんな僕を見て音色さんは子供のようにケタケタ笑う。

どうも僕は陰キャムーブというものをかましてしまう。今みたいにちょっと手を握られるだけで緊張するし、目をあわせられるだけでも緊張してしまう。まあ言わば、コミュ症。というやつだ。

“コミュ症”とは、人付き合いを苦手とする症状。またはその症状を持つ人を指す。留意すべきは、苦手とするだけで、他人と係わりを持ちたくない、とは思っていないこと。(ソースは今ハマってるとある漫画。)

そんなことを考えていると、無言の空間が気まずくなったのか、音色さんは続けて口を開く。

「そういえば、奏まだ1回も学校行ってないから何組なのかわかんないや。遅刻してるのに入る教室わかんないや…どうしよう…」

そう言って音色さんは目をうるうるさせる。なにそれかわいい。

「だから遅刻しないように行きましょって言ったじゃないですか!」

でも確かに、本来入学式の日に玄関に張り出されている名簿で自分のクラスを確認するのだが、その日に音色さんは居なかったから自分のクラスが把握出来てないのである。

たしか、入学式を欠席した生徒は1人しかいなかった。僕のクラスに欠席者がいなかったということを考慮すれば、僕のクラス、1-4ではないということがわかる。(自明)

思い出せ…入学式のことを…


あ!!!そうだ思い出した!!!


僕、入学式寝てたから覚えてないや!てへぺろ!

「何組なんだろうなー。優しいクラスだったらいいなー…はあああ不安になってきた…」

そりゃそうだ。音色さんは3日登校しなかった上に、1年ダブっているのだ。普通に考えて不安に思うのは当然だろう。なんて声をかければ不安を無くすことが出来るだろうか。不用意に変なこと言えないしな。そうだ、普通に1年ダブっていることを周りに言わなきゃいいじゃないか。担任に言わないでくれと頼めば了解してくれるだろう。

「1年ダブっているってこと、隠せばいいんじゃないですか?先生に言わないでくれって言ったら、きっと理解して貰えますよ。」

僕が提案すると、音色さんは「その手があったか。」ポンと手を叩く。心なしか、頭の上で、電球がピカーンと光ったような気がしなくもない。

いやんなわけあるかい。そんな漫画みたいなのあるわけないだろ。

ところで、その漫画ってなんですか?

そんなしょうもないことを考えていると、音色さんが「聞いてるの!?」と怒っていた。

え、今なんか喋ってました?

「すみません、ちょっとボーっとしてて。もう1回言ってくれませんか?」

「べ、別に!2回も言うことじゃないし…」

なにそれツンデレ?かわいい。てか、この人キャラブレすぎじゃないですかね…可愛いからいいんだけど。

と、思っていると聞き取れるギリギリの声量で、音色さんが何故か顔を赤らめて口を開いた。

「そ、その…ひ、響くんと同じクラスだったら、いいなー?って…」

「あ、えとー、入学式の欠席者1人だけで、僕のクラス欠席者いなかったんで、それはないです。」

申し訳ないが、結果を知ってるのに期待させ続けることの方が申し訳ないので事実を伝えた。

するとを音色さんはぷしゅーと音を立てて目を丸くし「ひゃぁ」っと言って恥ずかしそうに俯いた。

「そ、そうなんだ!あは!あははは…」


やだなにこの生き物かわいい。


そして、8:30。登校時間を悠々と超えていた僕たち2人だった。

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