EPISODE3. 音色さんは笑って、
「そ、その、奏…この店の店主やってて…しかも、高校2年生なんだ…よね…。」
近所にあった不思議な音楽堂。そこにいた少女は、現役女子高校生だった。
そしてその女子高校生は、1人で音楽堂を営む店主だった。
そして、僕。響詩也は今世紀最大レベルと言っても過言ではない失態を冒してしまったのであった。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!?????女子高校生だったんですか!?しかも2年生ってことは、同い年!?すみませんすみません本当にすみません失礼でしたよね申し訳ございませんなんでもするのでご許しくださいすみません!!!」
やらかしてしまった。僕としたことが見た目でだけで勝手に年下の少女だと判断した上、お店番をしてる偉い少女だと決めつけてしまった。もっと冷静になるべきだった。はあ、こんなんだからきっと友達1人すら、出来ないんだよな…
そんな全力でペコペコ謝る僕に対し、例の少…女子高校生はというと、何故か楽しそうにケタケタ笑っている。
「そんな謝らなくていいのに!あはは!君、面白いね。その制服見る感じ、札学の1年生だよね。なんでもするって言ったよね。ちょっとゆっくりしてってよ。」
何が可笑しいのかはさっぱりわからないが、彼女に言われた通りちょっとゆっくりしていくことにした。とりあえず怒ってはいないみたいで一安心。けど、見た目だけで決め付けないように今後気をつけよう。
「とりあえず自己紹介ね!」
彼女の名前は、音色奏というらしい。甘いものが好きで、人気チェーン店、ミセスドーナツのパンデリングという人気賞品が大好物みたいだ。あとは人と喋るのが好きで、1日に数人来る客とこうやって、色んなお喋りをするのが好きみたいだ。そしてやっぱり、1番好きなのは見てわかる通り音楽。小さい頃にお母さんに連れて行って貰って聴いたオーケストラがきっかけで、そこから音楽の世界に心惹かれたらしい。
「まあ、奏の自己紹介はこんなもんかな。人に名前を聞く前にまず自分から名乗れ。ってことで奏から名乗ったけど、次は君の番だよ。」
勝手に自己紹介聞かされてただけな気がするが、ここで名乗らない訳にもいかないし隠す必要もないので簡単に自己紹介することにした。
「あ、えーっと…響詩也って言います。さっき音色さんがおっしゃってた通り、そこの札幌学園高校の1年生で、えっと、好きなものは、ゲームです、かね?」
ですかね?ってなんなんだ。自分のことなんだから"かね?"って言われてもわかんないだろ。くそ、人付き合い苦手なのがここでも出てしまうのか。しかも自己紹介の内容薄すぎるだろ。入院中の飯かよ。ダメだこんなんじゃ話が続かない。いったいどうすれば…!
「響詩也か…響くんって呼ぶね!へぇ、ゲームが好きなんだ!なんのゲームが好きなの?奏あんまりゲームやんないからわかんないんだよねー。今どんなゲームが流行ってるの?三天堂Smitchとか?それともプラスタとか?でもああいうゲームって高いよねー。スマホのゲームとかはやってるの?スマホのゲームだった奏も入れれるしやってみようかな!じゃあさ、ゲームでs……」
「え、えと、あの、そ、そのええっと…」
永遠と喋り続ける音色さん。ついていけなくて困る僕。お喋り好きはダテじゃない。話が続くか心配する必要はなく、音色さんは次から次へと話題を出してくる。もはや話が終わるか不安になるまである。
気が付けば、もう夜の8時になっていた。
「もうこんな時間か!遅くまで付き合わせちゃってごめんねー。ついついお喋りが盛り上がっちゃって止まんなくなったよー。楽しかったよ。また来てね!」
「いえいえこちらこそ、とても楽しかったです。もちろんです。またお喋りしましょう!」
お喋りが盛り上がったというか、一方的にずっと喋りかけられてただけな気がするが…。
でも音色さん、すごいな。話の広げ方とか、話してる時の表情とか、普通に参考になる点がかなりあった。あんな感じで会話を広げるのか。きっと、僕と違って音色さんは高校でもこんな感じで沢山友達がいるんだろう。朝はたくさんの友達とおはようって言い合って、昨日の夜に見た面白いテレビの話とかしたり。昼休みには恋バナとか、愚痴とか、趣味の話とかをした楽しく笑いあって。そして放課後には友達とお買い物とか美味しいもの食べに行ったりとか遊びに行って。そんな高校生活を過ごしているのだろう。僕が思い描く理想の高校生活。音色さんは、そんな生活をしているに違いない。
そうだ、そんな音色さんに充実した学校生活送る秘訣とか教えてもらえば…!ここに通って音色さんとお喋りして色々学べば、僕も楽しい高校生活を送ることが出来るはず!
「あ、あの…!音色さんの、そのコミュ力ならきっと高校でも沢山の友達と沢山楽しいことしてるんですよね!良かったらその、友達つくるコツとか充実した高校生活を送るための秘訣とか…!」
僕が去り際に言ったその時、音色さんの表情が曇った。
「高校生活、ね…実は奏ね、高校、行ってないんだ。」
しまった。と思った。ついまた勝手な決め付けで余計なことを言ってしまった。考えれば、1人でこの音楽堂を営んでいるということを考えると高校に毎日通ってというのは難しい話だ。ちょっと考えてから話すべきだったと思う。
「えと、その…すみません悪気はなくて…つい…ごめんなさい。」
先程までの楽しげな雰囲気から一変して、音楽堂に重々しい雰囲気が漂う。本当に僕は馬鹿だ。少し考えれば良かっただけの話だ。ここに通っていればいつかは楽しい高校生活を、と思い上がっていた自分が恥ずかしい。察すべきことに気づけない僕に、高校生活を楽しむ資格なんてない。音色さんには謝ってもう帰ろう。この音楽堂にも、もう来ないようにしよう。
「すみませんでした。では失礼します…」
音楽堂から立ち去ろうとしたその時だった。
「まだ帰っていいなんて、言ってないよね。」
「え?でも…」
「響くん、なんでもするって言ってた。だから奏の話聞いてよ。」
音色さんは、哀しげな表情で僕に願ってきた。
「…わかりました。聞きます。」
音色さんはさっきとは違って、静かに話を続けた。
「ここの音楽堂はね、名前でわかる通り元々は奏のひいおばあちゃんが経営しててね、そこからおばあちゃん、お母さんへと引き継がれてたの。奏が産まれる前におばあちゃんが死んじゃって、産まれた頃にはお母さんがこの音楽堂を経営してたの。お父さんは海外で鉄道をつくる仕事してて、いっつも家にいなくて、だから家だと奏1人になっちゃうから、お母さんと一緒にこの音楽堂で過ごしてたの。だから、この音楽堂が奏の家だと思ってた。奏はね、この音楽堂が大好き。だからずっとここにいたいし、何があったとしても奏がこの音楽堂を守るんだって思ってたし、今も思ってる。ずっとこの生活が続けばいい。そう思ってた。今からだいたい1年くらい前。奏の高校受験の合格発表の日。奏は中学校の友達の家でその友達と一緒にパソコンで合格発表見てたの。無事2人とも合格で、嬉しくて、嬉しくて胸が張り裂けそうだった。帰ってすぐにお母さんに報告しようと思って、奏はすぐに友達とわかれた音楽堂に帰ったの。」
___1年前の3月、合格発表の日。
やったあ!奏の番号あった!受験勉強辛かったけど、これでようやく一安心だ!高校楽しみだなー、お友達沢山作って、高校のお友達をこの音楽堂に誘おう!絶対楽しくなる!合格したこと、お母さん、どんな反応するかな?嬉しすぎて泣いちゃうっていうのは想像つくけど…もしかしたら喜びすぎて倒れちゃったりとかして!もしそうなっちゃったらどうしよう…落ち着いて聞いてね?って最初に言うか!それだったら驚かせないよね。今日の夜ご飯はすごい豪華なご飯にしてほしいな!何がいいかな…やっぱりドーナツ!でも夜ご飯にドーナツってお母さんダメって言いそうだな…あ!お父さんにも連絡しないと!いや、待て待て…お父さんは久しぶりに来週帰ってくるからサプライズで報告しよう!お母さんには協力して貰お!
早く報告したくて、無我夢中で走った。
はぁ…はぁ…疲れた…!でももう着いた!どうやって言おうかな、とりあえず普通に入ってお母さん呼ぶか!
「お母さん!ただいま!」
音楽堂に入っても、お母さんの定位置、レジにはお母さんの姿はなかった。
「お母さん?話したいことがあるんだけどー?」
奥に進んでいくと、トイレの方から嗚咽のような泣き声が聞こえてきた。
「お母さん!?どうしたの!?」
トイレのドアを開けると、そこには泣き崩れたお母さんがいた。
「奏…っ!お父さんが…お父さんが……っ!!!」
「お父さんは、工事中の不慮の事故に巻き込まれて死んでしまったらしい。なにがなんだかわからなかった。これは悪い夢だと思った。でも、夢じゃなかった。さっきまで天国にいるような幸せな気持ちだったのに、一瞬で地獄に落とされた。それだけじゃなくてね、お母さん、奏の入学手続きだけ済ませたら、自殺しちゃってさ。制服買ったとき、似合ってるねって言ってくれたんだよ。辛いと思うけど、高校生活楽しむんだよって、お友達が助けてくれるって、言ってくれたんだよ。」
音色さんはもうボロボロ泣きながら話していた。
「あの、良かったらこれ、まだ僕1回も使ってないんで、使ってください。無理に話さないでくださいね。」
たまたまポケットに新品のハンカチが入っていたから、それを渡した。
「ありがとうね…」
しばらくして、音色さんはまた口を開いた。
「ありがとう。落ち着いたよ。実はこの話、他人にしたことなくてさ、続けさせて?いいかな?」
「もちろんですよ。続けてください。」
「ありがとう。お父さんだけじゃなくて、お母さんまでいなくなっちゃって、そんな状態で学校なんて行けるわけないじゃん。だからずっと音楽堂に1人でいたの。そしたらね、響くんみたいな優しいお客さんが来てくれるの。そんなお客さん達が話しかけてくれて。お喋りしてる間は辛い気持ちも忘れて、楽しくて。色んなお客さんが色んなお話してくれるの。あるお客さんがね、1曲おすすめしてくれたの。その曲が偶然、昔お母さんに連れてって貰ったオーケストラで演奏してた曲だったの。そこで奏気づいたの。音楽が奏を守ってくれる。音楽堂に来るお客さんが、音楽堂が、奏を守ってくれるって。だから、奏もこの音楽堂を守りたいなって。だから学校行かないで、ずっとここにいるの。中学校の時とかは、不登校なんてマジ有り得ないって思ってたんだけどね。お母さんが手続き済ませててくれたのと、3年分のお金はもう全部学校に払っててくれたおかげで学校に在籍してることにはなってるから、不登校って形になっちゃって。」
ひと通り話し終えたのか、音色さんはふぅ…と一呼吸置いた。すると再び口を開いた。
「ま、こういう訳で、実は音色さん、高校言ってないんですよねー!」
全て話してスッキリしたのか、その表情はどこか清々としていた。
「そんな過去があったんですね…まだ今日お会いしたばかりなのにデリカシーないこと言っちゃって、すみません。」
「本当だよ!今日初めましてだよね!まったくもう!」
音色さんは、腕を組んでわほっぺを膨らませて僕のことを睨んだ。良かった。今は元気そうだ。
「ま、それは冗談だよ。気にしないでね。むしろありがたいくらいだよ!今まで1人で抱えてたこと、響くんに言えてスッキリしたよ!ありがとうね。」
そう言って、僕にパッと明るい笑顔を向けた。その笑顔は描かれたかのように美しくて、思わず触れてしまいたくなる程だった。
「それなら良かったです!」
僕もそれに合わせて、僕にできる最高の笑顔で答えた。
「あ、そういえば響くん。充実した高校生活を送りたい。みたいなこと言ってたよね?まあ、奏にはそういう事情があるから、奏の分まで響くんには高校生活楽しんで欲しいな。応援する。奏に出来ることがあれば、なんでも言ってね!」
音色さんはさっきみたいに明るい笑顔を向けてきた。でも、一連の話を聞いた僕にはわかる。この微笑みは、100%の笑顔ではない。
「…音色さんは、本当にそれでいいんですか?」
「え?」
「音色さん、沢山友達つくって、音楽堂に誘いたいって言ってましたよね。その夢、叶えましょうよ!僕も友達作り頑張ります。でも音色さんにも学校に行って欲しい。お風呂とか、寝る所とか、ご飯は僕の両親に話付けておきます。なんで、音色さんのその夢、叶えましょうよ!」
「実は奏、学校の方から、単位数が足りなくて進級出来ないから留年か退学か選べって言われてさ。お母さんにお金払ってもらってるし、お母さんとお父さんの為にもって思って留年しますって言ったの。さっき奏、嘘ついちゃったの。留年したから本当は高校1年生。奏も札幌学園高校の生徒だから君と同級生なんだよ。入学式から、1人だけずっと休んでる子いると思うんだけど、それ奏なんだ。」
なるほど、だから僕を見てすぐに札学の1年生だとわかったのか。言われてみれば確かに、入学式の点呼の時1人だけ欠席してたような…あれが実は一個年上の人で、しかも奏さんだったのか。
「だったら学校行けるじゃないですか!沢山友達作って呼びましょうよ!明日からでも間に合いますよ!」
「でも、音楽堂は…いつも音楽堂に楽しみに来てるお客さん、奏がいないと…音楽堂開けないし。なにより、みんな同い年なのに奏だけ年上なんだよ?話に入れるか不安だし。怖くて今までも3日間休んじゃってもう行きにくいよ…」
「本当に、音色さんはそれでいいんですか。」
話を遮って、僕は言った。
「それじゃあ去年までと変わらないじゃないですか。変わりたいから、学校に行きたいから、お母さんとお父さんの為にも、学校に行くって決めたんじゃないんですか。何か行動しないと、変わることは出来ませんよ。」
続く僕の言葉に、音色さんは目を大きくした。
「大丈夫ですよ!出会ったばかりの僕が言うのもなんですが、そんなこと言ってるの、音色さんらしくないです。音色さんのコミュ力なら絶対大丈夫です!僕が保証します!それと、音楽堂も大丈夫ですよ。僕のお母さん、専業主婦で日中暇なので学校終わるまで店番頼めます!申し訳ないとは思わないでください!お母さんなら、絶対OKしてくれるし、奏さんのことも応援してくれると思います!なので…
お願いします。音色さんが充実した高校生活を送ることは、僕の充実した高校生活を送るための条件の1つなんです!」
「…!?」
深く頭を下げた。あんな悲しい話聞いたら放っておけるわけがない。勿論僕も高校楽しみたい。けど、僕はこの音楽堂が、音色さんの友達が集まって賑わってるところを見たい。顔をあげると、そこには少し頬を赤らめた可愛い少女がいた。
「ありがとうね、奏、頑張るね。」
「本当ですか!良かったー…。」
音色さんは頬をほんのり赤くしていた。それがどういう感情によるものなのかはわからない。けど、間違いなく、1年前の時の音色さんはここにはいない。
「でも、最大の目標は、響くんが充実した高校生活を送るってことだからね!目指せ!響くんリア充グループ化計画!」
「ちょっと!勝手に決めないでくださいよ!充実した高校生活をとは言いましたけど、別にリア充グループになりたい訳じゃ!」
「えー?でも、リア充グループにならないと学校内で音色さんと話す時に周りから釣り合ってないって思われるよー?」
「あー!音色さん調子乗ってる!リア充グループになれると思ってる!確かにコミュ力高いからなれると思いますけど!」
「響くんは奏が高校で浮くと思ってるってこと!?奏また泣いちゃう…」
「ちょっと卑怯ですよその手は!冗談ですってば!」
そこには、ケタケタと楽しそうに笑い合う2人の高校1年生がいた。
こうして、響詩也と、音色奏の、1つの感動的な曲のような高校生活が、ようやく始まるのであった。
「あ、そういえばご飯とか寝床とか店番とかそういうの、親戚のおばちゃんいるから大丈夫だよー!」
いや親戚のおばちゃんいたのかよ!ちょっと恥ずかしい…!
この汚い文章を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。
とりあえず序章が終わった感じです!今のところ全然音楽要素がないですが、これから音楽堂要素を詰めていくつもりです。これまでの4話分がプロローグというような形です!
夜中に執筆したので眠い、眠い!ってことで誤字脱字多いかもしれません。見つけた場合は、優しく教えていただけるとありがたいです!
それと、小説を書いた経験なんて全くないので壊滅的な文になっていると思います。今後書き進めてく内に成長していければなと思ってます。(投げやり)と、言うことなので、暖かい目で読んでいただけるとありがたいです!レビュー、評価の方よろしくお願い致します!
それではまたEPISODE4で。
お布団の中で半目で後書きを書いている氷雨でした。