EPISODE2. 音楽堂の少女は、
近所にあった、不思議な音楽堂。
僕は今まで何故こんな美しい、そして尊いこの場所の存在に気付いていなかったのだろうか。
下校中、始まったばかりの高校生活に思い悩んでいた僕の目にふと入ったこの古びた木造建築。
そんな訳はないのだが、こちらにおいで。と、救いの手を差し伸べてくれたような気がした。
音楽堂となると少し専門的で音楽素人の僕が踏み入れるにはハードルが高いと思っていたが、窓の外から中を見てみると、緊張感はなく全ての客を包み込んでくれるような陽気を感じた。
意を決して店内に入ってみたのだが、そこにいたのは予想外なことに小柄な少女だったのだ。
「いらっしゃいませ。音色音楽堂です。」
初めてこの音楽堂に踏み入れた僕に対し、この少女は優しく微笑みかけてくる。
もしかして、この子が店主なのだろうか。いや、そんな訳ない。恐らくお店の方々が不在でお店番を頼まれているのだろう。なんて立派なんだ…!
きっと、今まで1人でお店番していて不安だっただろう。僕もどうせ暇だし、誰かお店の方々が来るまで僕も手伝ってあげよう。ちょっと声掛けてみるか。できるだけ優しく声をかけるように…!
「あ、えっとー、今お店番中…なのかな?偉いね!ちゃんとお店番出来て。僕も一緒に手伝うよ!」
よし、完璧だ!いやぁなんて僕は優しいお兄ちゃんなんだ…
「あ、あの…奏、その…」
少女は複雑そうな表情で、何か伝えたげに僕の方を覗き込んでいる。
まずかったか。いくら少女とはいえ、初手タメ口は馴れ馴れしすぎたかもしれない。まだまだ僕も半人前だな。←高校生活3日目現在友達0(重要!)
「そ、その、奏…この店の店主やってて…しかも、高校生なんだ…よね…。」
「あ、そうだったんだ!ごめんねーいきなり話しかけちゃって…って…
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!?????」
そう、彼女は店の方不在でお店番を頼まれている少女。ではなく、1人で音楽堂を営んでいる女子高校生だったのだ。