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音楽堂の音色さん  作者: 氷雨
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EPISODE1. 音楽堂にふらりと、

僕は響詩也(ひびきうたや)。今年の春から札幌学園(さっぽろがくえん)高校に通っている。

中学時代はパッとしない生活を過ごし、どこにでもいるただの中学生だった。部活も何もやっていなかったから、学校が終わったあとは友達の家でゲームしたりだとか、1人で勉強したりだとかして過ごしていた。

とは言っても、人付き合いが比較的苦手な僕は主に後者の方が多かったのだが…


それはさておき、そんな僕もとうとう華の高校生だ。高校生活くらい、甘い青春がしたい!

とは思うものの、入学して3日。早くも、どうしたらいいかわからずにいるのが現状だ。

朝の早起きが苦手な僕は、家から近いこの札幌学園高校。通称、'札学(さつがく)"受験した。その結果、小学校や中学校からの知り合いが多くなってしまい、下手にキャラ変、高校デビューが出来ないという状況になってしまったのである。

別に高校で目立ちたいとかそういう訳ではないが、汗水垂らして練習したりとか、友達と馬鹿やったりとか、好きな人が出来たりだとか…そういうのはなんか僕の柄じゃないような気がして、なんだか恥ずかしい。

恐らく、その小中の同級生達は僕の変化なんぞそんな気にしないだろうが、それでも心のどこかで変な恥ずかしさを覚えてしまうのである。

こんな訳で、高校生活初っ端から出鼻を(くじ)かれている。


そんなことを学校からの帰路で考えていると、ふと、あまり見慣れない古びた木造建築が目線に入った。建物は木造で出来ていて、ざっと築7,80年程と言ったところだろうか。年季が入っているものの、どこか美しいようなオーラを感じさせる。玄関らしき場所には、昭和の雰囲気(ただよ)暖簾(のれん)がかかっており、音色音楽堂(ねいろおんがくどう)と書かれている。


(こんな場所、今まであったかな…?)


割と長い間この辺に住んでいるが、この建物は初めて見るような気がする。もしかすると、気にして見たことがなくて今まであったけど気付いて来なかったという可能性もあるが。


(音楽堂か、正直音楽に詳しいとは言えないし、楽器も触ったないし。気になるけど、僕が入ったら確実に浮くよな。やっぱり、やめておこうか。)


音楽に対する関心が皆無(かいむ)な訳ではない。好きなアーティストはいるし、好きな曲や流行りの曲だったりはよく動画サイトに公式が投稿しているMVを見たりもする。世間一般的に見て、音楽への愛情は恐らく並程なのである。音楽堂と聞くと、音楽家であったり楽器の演奏者が通うようなイメージを抱くから、どうしても僕ごときがのうのうと入っていい場所だとは思うことが出来ない。

僕は古びた木造建築を横目にその場から立ち去ることにした。


"入るだけでいいから、こちらへおいで。"


その時、その古びた木造建築から僕を呼ぶ声が聞こえたような気がした。


(どうせ家に帰ってもやることないし、気分転換がてらにちょっとだけ覗いてみようかな。)


僕は再び足を止め、今度は古びた木造建築へと近付いてみた。

近付くと、窓から店の中が見えることに気付いた。向かって左側の手前には机が数脚あり、それぞれの机には1個ずつ音楽プレイヤーが(たたず)んでいる。小規模な喫茶店になっているのだろうか。恐らく音楽を(たしな)みながら飲み物を楽しむことが出来るのだろう。

反対側にCD、レコードが木造の洒落た棚に綺麗に並べられていて、今流行っている曲や、少し前に流行った懐かしいポップス、お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃん世代の曲などジャンルは様々のようだ。パッと窓の外から見ただけでも、この世にある全ての楽曲がここで聴けるのではないかと思うほど沢山のCD、レコードが並べられている。

さらにその奥には楽器コーナーがあり、ギターやドラム、ピアノなどのポピュラーな楽器だけでなく、見た事のない楽器もある。レジの近くには音楽雑誌が数十冊置かれている。

レジの奥に人影があるが、あまりよく見えない。


(きっと、雰囲気ある音楽の有識者がいらっしゃるんだろうな…)


窓から見ただけでも、この店が音楽好きにとっては(たま)らない空間であり、僕のような素人でも楽しめる空間であることがわかる。


(ちょっと緊張するけど…よし、入ってみるか!)


(きし)むドアを開けると、からんころんとドアベルの乾いた声が(ささや)く。



「いらっしゃいませ。音色音楽堂です。」



思ってたより幼かった声の主の方を見ると…





予想外なことに、小柄な少女がレジに座っていた。

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