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第55話 本来登校というのはそんなにバラエティに富むものじゃない

 コルクがいなくなった後、咲は一言も会話をしてくれなくなった。


 まぁ、アリスさんがうちに来るまではそれが普通だったから、元に戻ったといえるかもしれない。でもお兄ちゃん、寂しいよ。


 そうして昨日より静かな朝食を過ごした後、俺とアリスさんは学校に向かった。もちろん桜子も一緒だ。


「うっ…………改めて一緒に家から出て来られると、堪えるものがあるわね…………」


 桜子は俺とアリスさんを見るなりそんなことを言っていた。どういう意味だ。


「今日は二条はいないんだな」


「そうね、見てないわ」


 昨日は家の前で待っていた二条。まぁあいつは遠くから車で通ってるみたいだし、何の用事も無ければ寄り道はしてこないか。


「まぁ、いいや。じゃあ、行こうか」


 俺は二人にそう言った時に気がついた。これ、両手に花ってやつじゃないか?


 超絶美女のアリスさんと桜子。


 桜子に関しては今までそんな意識してなかったけど、


「改めて見ると、桜子って美人だもんな」


「ふぇ!?ななな何よ急に!」


「いや、普通に思った事を言っただけだけど」


 何故か立ち止まって距離を取る桜子。それを見て俺は思う。


 見た目もいい。頭も良くて気も使える。なんだかんだいっていつも俺を助けてくれるし、桜子って結婚するなら理想の相手なんじゃないだろうか。


「なぁ桜子、俺と結婚してくれよ」



 カンッ!



 俺はそんな軽口をちょっと笑いながら言ってみる。幼馴染ジョークってやつだな。


 何言ってるのよ。とか言われるのを想像してた。だけど桜子は、


「ふぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 突然なんか変な鳥みたいな鳴き声をあげた。



 カンっ!



 俺の後ろでアリスさんがちょっとビクッてした。俺も普通にびっくりした。


「何を変な声出してんだ」


「だって拓也がそんなこと言うから」


「そんなに俺の奥さんになるのが嫌かよ。冗談だったけどさすがに俺も傷つくぞ?」


「…………え?冗談?」


「いや、そりゃそうだろ。この状況で突然プロポーズしたら俺は確実に変人だろ」


「それはそうだけど……でも、本当に冗談なの?一ミリも思ってないの?ねぇ、拓也どうなの?」


 ぐっと近寄ってくる桜子。


「ちょっとそんなに詰め寄るなよ……そうだな。まぁ桜子が奥さんなら毎日楽しそうだな」


「ふぇっ…………そ、そうよね!?」



 カンッ!カンッ!



 俺の言葉に笑顔になる桜子。


 これは本心だ。少なくとも不幸になることはない気がする。


 でもそれは俺目線の話だ。桜子は勉強も何でも出来るから、正直将来は勝ち組確定だろう。そんななか俺程度の奴と結婚したら、幸せになれるだろうか。少なくとも俺は幸せにしてやる自身はないぞ。


「でもまぁ、俺じゃあ釣り合わないだろ」


「い、いや、そんな事……」


 あれ?すっかり忘れてたけど、そういえば桜子って有方先輩と付き合ってるんじゃなかったっけ。サッカー部のキャプテンの。ちょっと前に告白されたって噂を耳にして本人に聞いてみたら必死で否定してた。多分あれは付き合っている奴の否定の仕方だった。付き合ってることはみんなに内緒ってやつだ。


「てか、お似合いの相手が既にいるじゃん」


「え?」



 カンッ!カンッ!



 有方先輩も一般家庭の出身ながらカンッ!特進クラスにいるっていう桜子とカンッ!同じタイプの秀才だ。カンッ!


「……てかさっきからカンカンうるせえな!」


 俺は思考を中断して音のする方、アリスさんのいる方向を見る。


「一体何の音……って!?」


「ちょっとアリスさん?邪魔しないで頂けない?私、その男を殺したいのだけど」


「タクヤは私が守るわ」


 そこには大剣を構えて鉄串を打ち落とすアリスさんと、その鉄串を俺に向かって投げつけている早川先輩がいた。






「通りすがりに何やら面白い話が聞こえて来たから、私も混ぜて欲しかったのですわ」


「だったら鉄串を投げてこないでください。話をする前に死んでしまいますから」


 なんとか早川先輩の凶行を止めて一緒に学校に向かって歩いている。まぁ止めたのは桜子なんだけど。


 マジでこの人怖いわ。桜子狂だわ。俺が桜子と付き合ってるって勘違いされて殺されかけたのが昨日。誤解が解けてやっと安心と思ったらこれか。


 今なら背中に桜子命とか入れ墨彫ってるって言われても驚かない自信がある。


 ちなみに俺たちの後ろにはメイドさんと、俺たちの速度に合わせて徐行するリムジンが付いてきている。ここ普通の住宅街の中だからすごい邪魔だと思うんだけど、藪蛇になりそうなので触れないでおいている。


「時にあなた、桜子さんを奥さんにするとか何とか言っていなかったかしら?」


「言ってません」


「言っていたわよね?」


「言ってません」


 ここは否定だ。じゃなきゃ殺られる。


「…………分かったわ。言っていないと言う事にしてあげますわ」


 よし、勝った。


「でもその後に桜子さんにお似合いの相手がいるだとか言っていたわよね?」


 てかこの人いつから俺たちの会話聞いてたんだ?もしかして家を出た時から?……いや、登校時間が正確に分かるって事は、家を出る前からかもしれない。俺の家はともかく、桜子の家ってもうプライバシーとかない状態なんじゃないか?


 …………だとしたら、どんまい桜子。俺には何も出来ない。頑張れ。


「ちょっと、あなた、答えなさい」


「えっと…………」


 俺の代わりに桜子が伏し目がちに答える。


「お似合いの相手なら…………はい。既にいます…………」


「!?」


 ショックを受けて口を開いたまま動かなくなる早川先輩。


 俺もちょっと動揺する。だって桜子の口から直接有方先輩と付き合ってる事を言われるのは初めてだ。ちょっとぼかした言い方なのはやっぱり二人だけの内緒だからだろうか。でも兄弟当然の俺にも内緒なのはちょっと寂しいぞ?


「…………それは…………誰なの?」


 早川先輩は俯いているが、声の震えから物凄い怒りを溜めている事が分かる。これって名前を言ったら有方先輩殺されちゃうよな。


 桜子と目が合う。俺は必死でアイコンタクトを取る。


 ダメだ。絶対に名前を言っちゃいけない。


 俺の思いが伝わったのか、桜子は顔を真っ赤にして叫ぶ。


「そんなの、言えません!!」


 言うやいなや俺たちを置いて走って行ってしまった。よかった。有方先輩の命が助かった。


 安堵する俺だがすぐに隣から不穏な空気を感じて緊張を取り戻す。アリスさんも大剣を握りしめて臨戦態勢だ。何かあったらすぐさま俺を庇ってくれるんだろう。まじでアリスさんは頼りになるな。


「……ちょっとあなた」


 呼ばれて背筋が伸びる。


「あなたは桜子さんが誰と付き合っているのか知っているの?」


「い、いや!知るわけないじゃないですか!てか、桜子は付き合ってる人がいるとは一言も言ってないですよ?お似合いの人がいるっていっただけで。もしかしたらそれって早川先輩のことかも知れませんよ……っとぁ!?」


 カンッ!


 あっぶねぇ!!早川先輩が至近距離で鉄串を飛ばしてくる。アリスさんが叩き落としてくれたおかげで俺は無傷だ。俺はアリスさんがいなければ何回死んでいた事だろう。


「そんな見え透いたお世辞はいいの。私だってバカじゃないの。自分が桜子さんにどう思われているか知っているわ。あの子が家で私の名前を呼ぶ事は一度もないの。だから自分を思ってくれているなんて思いあがりはないわ」


 どうやってその情報を手に入れたんですかね。


「だからあの子に彼氏がいるのは確実。となると……誰かという事だけど…………」


 俺を冷たい目で見る先輩。


「本当に俺じゃないですって!」


「…………まぁよくよく考えてみたら桜子さんのような素晴らしい子があなたのような何もない人間を好きになるわけないし、信じるわ。昨日は悪かったわね」


「う、うん……まぁ、はい」


 その納得のされ方はちょっと釈然としないけどまぁぐっと飲み込もう。てか昨日は悪かったで済むレベルじゃなかったけどな。


「じゃあ、俺じゃないって分かった所で、お開きにしますか。俺、今から学校があるんで、じゃ。アリスさん行きましょう}


 これ以上関わっていたくないので逃げようとするが、先輩は逃がしてくれなかった。


「ちょっと待ちなさい。私も学校に向かっているのよ?そんなに急ぐ事はないわ。それよりあなた…………」


 途中で悪い顔になってニヤリと口角を上げる先輩。


 やだやだ。悪い予感しかしなくてやだ。




「手伝いなさい。桜子さんの彼氏を見つけて、殺す事を」


 ほら来た!


 マジで運命を呪いたい。トピカさんといい、なんで俺に殺しを手伝わせようとするんだよ!いい加減にしろ!!

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