第35話 ケラウノスと二条
「何してんのお前?」
二条はケラウノスに向かって土下座をしていた。
「やぁ拓也くん」
「やぁ、じゃねぇよ。マジでどういう状況?」
「見ての通り、ケラウノス様に会いに来たんだよ。いやぁ拓也くん、隠すなんて酷いじゃないか」
「別に隠してないよ。まずなんでお前がケラウノスの事を知ってるんだよ。ケラウノスってなんだよ」
「様をつけたまえ」
ちょっと本気になって言う二条。お前にとってケラウノスって何なんだよ。
「……僕はね、雷神の眷属なんだよ」
「お前って風神の眷属じゃないの?」
思いっきり風を操っていたじゃん。
「長年生きてきたから、いろんな力を使える様になっているだけで、最初に出会った神様はケラウノス様なんだ」
ん?
「ケラウノスは神器だろ?」
まるでケラウノスが雷神みたいに言いやがって。
答えたのは咲だった。
「……俺は雷神ケラウノスだ。って言ってる」
それを見た二条が驚く。
「君、咲くん!もしかしてケラウノス様の言ってる言葉が分かるのかい!?」
「えぇ、何でか知らないけど分かるの」
「それが武神の力よ」
何故かアリスさんが誇らしげに言う。
二条は立ち上がって、嬉しそうに咲に近づいてくる。
しかし、途中でアリスさんの大剣に阻まれる。
「いやぁ、よかった。ケラウノス様を見つけたがいいが会話が出来ない状態でね。もし良かったら通訳をしてくれると助かる…………えっと、アリス君?何をしているのかな」
「やっぱりまだ貴方を信用出来ないわ。正直まだケント達の仲間なんじゃないかと疑っているの」
そういえばケントの一味は全員風神の眷属だったな。
アリスさんが言うには、同族で神の力を引き継ぐ事があるらしいし、仲間であってもおかしくないが……
二条は嫌みな奴だけど悪い奴では無いと思うんだよな……
しかし、二条の返答は俺の期待を裏切るものだった。
「ケントは…………僕の弟子だよ。君達を襲ったのはケントだったのか」
その言葉を聞いたアリスさんは大剣を構え直す。
「やっぱり!貴方、悪い人だったのね!」
そういうなり大剣を振り下ろすアリスさん。
「ちょっとまってアリスさん!俺の部屋だから!室内だから!」
俺の言葉が届くより早く、大剣は地面に叩きつけられる。二条は普通に避けた。
どぉーん!という轟音と共に、俺の部屋の床に大きな穴が開く。
「…………」
上は大穴。下にも大穴。これなーんだ。
…………俺の部屋です。もはや風通しが良すぎて、部屋だったものといった方がいいかもな。
「ちょっと待ってくれアリス君。確かにケントは僕の弟子だ。僕が神の力の使い方を教えたからね。でも彼とは二百年以上会っていないんだ。僕は君達への襲撃とは無関係だよ」
攻撃されたにもかかわらず、妙に落ち着き払っている二条。
「…………お前、アリスさんが攻撃することを分かった上で誤解する言い方しただろ」
「何のことだろうか。決して拓也くんの苦難を面白がっているなんて事はないよ」
こいつ…………!
「アリスさん、やっちゃってください」
「分かったわ!」
こうなったらやけくそだ。穴が一つでも二つでも変わらねぇ。ここでこいつを消滅させないと……!
目の据わった俺を見てさすがに焦る二条。
彼を助けたのは咲だった。
「待ってアリス。多分この人の言っている事は間違いないの」
「なんで咲にそんな事が分かるんだよ」
俺は疑問に思う。
「それが言っているわ」
咲はケラウノスを指さす。
「彼は悪くないから許してやってくれ、って」
「いや、そういわれても……まず二条とケラウノスの関係を教えてくれよ」
そういって二条に視線を向ける。
「なに、簡単な話さ。今から数千年前、僕はケラウノス様に出会って眷属になったんだ」
「えっと、この槍に出会ったのか?」
「いや、当時のケラウノスは普通の筋肉隆々の男性だったよ」
筋肉隆々の時点であんまり普通では無いけど。
「しかもこの槍ってアリスさんの叔父さんのフェデリコさんが使っていたんだよな?」
「そうよ」
「それが何でこの世界にあるんだよ」
「僕に分かるのはこの槍が間違いなくケラウノス様だという事だけだよ。いつ槍の姿になってしまったか、何故アリスさんの世界に行ってしまったのか。それは僕には分からない」
自然と視線は咲に集まる。咲はその視線を受け、ケラウノスに近づく。
「……神々の戦争でこき使われて、嫌になって槍の姿で長い事隠れていたら、戻れなくなった、って言っているの」
思ったよりアホな理由だった。
「トルクスピカにいたのはトピカさんに連れて行かれたからだって。……トルクスピカって何?」
「ああ、言ってなかったか。アリスさんの世界の名前だよ」
そういやトピカさんが舐めた真似をするなよとか言って二つに折っていたな。なんか直ってたから気にしてなかったけど、前から知っていたのか。
さらにいえば……
「お前、俺のそばにケラウノスがあるの……いるのを知ってたろ」
今日の朝あった時、変な感じだったもんな。なんか誰かが俺を助けなかったかとか聞いてきた。
「うん。確信があった訳じゃ無いけど、ケラウノス様の気配を感じてね。僕もい少しだけ武神の力を持っているんだ」
また気配か……咲の気配察知能力は武神の力によるものなのか。
「てかお前どんだけ力持ってるんだよ」
「長年生きてきたからね」
「……私はその槍の言っている事が分かるのに、あなたは分からないの?」
咲が二条に聞く。それもそうだな。同じく武神の力を持っている咲が出来て、二条に出来ないって事があるのか?
「さっきも言ったけど、少しだけしか持っていないんだ。とっても弱い眷属から力を貰ったからね。咲くんは恐らく武神の寵愛を受けているんだろう?だったら僕と比べるのもおこがましい話だね」
ふーんって感じ。やっぱり神関係の話は俺の許容範囲を超えていて話が頭に入ってこない。
「……そんじゃあ、結局ケラウノスに何の用なの?」
「ただ会いに来ただけだよ。僕はケラウノス様に大恩があるんだ。実は眷属にしてもらった時、僕は死にかけでね。神の力を得る事で命が助かったんだ。その時からこの命はケラウノス様のために使うと決めた訳だけど、恩を返す前にいなくなってしまってね。長い間探し続けていたんだ」
二条はケラウノスを見ながら、見た事が無い優しい顔をする。
「いやぁ、まさか他の世界に行っていたとはね。見つからないのも当然か。…………しかし、やっと見つける事が出来た。アリスくんと拓也くんには感謝してもしきれないね」
その顔を見ていると、二条が本気で言っている事がわかる。さすがのアリスさんの誤解も解けたかな?
「でもケラウノスはサルザンド家の家宝で、今はタクヤを使い手に選んだの。貴方の気持ちは知らないし、ケラウノスの過去も知らないわ」
すげぇ厳しい事を言うアリスさん。アリスさんって敵と見なした存在に容赦ないよな。
そんな言葉をかけられた二条だが怒った様子はない。
「そこに関しては別に構わないよ。後はケラウノス様が決める事で僕はそれに従うよ」
「……ケラウノスは別にしたくてしてるわけじゃなくて、槍の姿から戻れないからしかたなくしてるだけだって言ってるの」
「咲、話がまとまりそうだから余計な事は言わなくていいぞ」
二条はそれを聞いて、
「だとするならば、僕は元に戻る手伝いをさせてもらうよ。決してアリスさんや拓也くんの邪魔はしないと誓おう」
「だったら俺的には別にいいけど、アリスさんはどう?」
「…………私もトルクスピカが救えるのなら問題ないわ」
どうやら話はまとまったみたいだな。
咲がケラウノスと会話が出来るのも確認出来たし。
「ケラウノス、とりあえずお前は咲に預けるけど、それでいい?」
「……こっちとしても喋れる咲と一緒にいたい。だそうなの」
「ならよかった」
いやほんとにとりあえず丸く収まってよかった。これで万事オッケーだ。
俺の部屋にまた大きな穴が開いた以外はな………




