表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/75

第24話 お迎えに上がった塩顔イケメン

「二条?」


 玄関前で俺を待っていたのは、桜子ではなく二条だった。


 いや、正確には桜子もいる。初対面の二条に警戒して離れた所から様子を伺っている。


「なんでお前がここにいるんだよ」


「君の事が心配だったからだよ。昨日まで感じていた気配が無くなったからね」


 アリスさんが言うには、昨日までの俺は神の力がダダ漏れだったらしい。それが理由で昨日はケントとか言う奴の一味に襲われ続けていた訳だけど、今思えば二条が俺を見つけて転校してきたのも同じ理由だったのか。


「どうやら力を制御出来るようになったみたいだね…………怪我もないとは予想外だ…………」


 俺を興味深そうにジロジロと見てくる二条。後半は声が小さくて聞き取れなかった。


「やはり君は優秀だね。一日で力を使いこなせるようになるとは。僕の教え方が上手かったのだろうかな?」


 そう言われて思い出す。俺はこいつに文句を言いたかった事を。


「そんな訳あるかい。お前適当教えやがって。お前の言う事を信じて、数時間を無駄にしたんだぞ。しかもあの後二足歩行の喋る動物たちに襲われて、散々な目に遭ったんだからな?」


 俺は恨み節で二条を睨む。しかし二条は機嫌が良さそうににこやかに微笑む。


「でも、だとしたらなぜ、君は傷一つ負わずに力を制御出来るようになったのかな?…………誰かが君の事を助けてくれたりしたのかい?」


 目を怪しく光らせる二条。なんだこいつ、アリスさんの事をピンポイントで当てやがって。何か知っているのか?


「ああ、それは…………」


 そういってアリスさんを紹介しようと後ろを振り返る。


「あれ?」


 アリスさんがいなくなっていた。


 うん、おかしいぞ?


 そういえばアリスさんは占いの神の力で、一目見ただけで眷属を発見出来る。彼女は俺の後ろから、二条の事を見たはずだ。


 …………なんか嫌な予感がする。


 家の中を覗き込んで急に黙り込んだ俺を、二条が少しソワソワした様子で急かす。


「どうしたんだい拓也くん。焦らさないで早く紹介してくれないかな」


 そんな二条の上に、人型の影が現れる。


「やぁぁぁぁ!!」


 それは二階の窓から飛び降りたアリスさんだった。そのまま二条に斬りかかる。


「なっ!?」


 二条は突然の襲撃者に驚くが、風神の力を使い、ギリギリで対処する。自分に向けて風を発生させて、無理矢理飛び退く。


「っく、外したっ!」


 空振って地面を壮大に叩くアリアさん。轟音と共に、アスファルトに大きな窪みが出来上がる。


 どうしよう、これ絶対怒られるやつだろ。


 俺のそんな思いも無視して、アリスさんが叫ぶ。


「タクヤ、下がって!この男、風神の眷属よ!昨日の奴らの残党だわ!」


 そういって俺を庇うように立つアリスさん。そういえばケントの一味は全員風神の力使っていたな。一部力を使う前にアリスさんに切り捨てられていたけど。

 

「な、なんで二階から来たんですか」


「今朝、コルクが二階から飛び降りたのを見て思いついたの。あの時は何も出来なかったけど、私だって学習するの」


 変な学習をするな。

 

 うーん。アリスさんの先手必勝癖は、直らないな。この国だと剣で斬りかかったら、手錠をかけられるって散々説明したのに。アリスさん、この調子だと、いつか警察の厄介になる日が来るんじゃなかろうか。


 斬りかかられた本人である、二条の方を見る。


「……は?」


 滅茶苦茶驚いた顔している。そりゃそうだよ。いきなり美女に斬りかかられたら、そりゃあ驚くさ。


 とりあえず、紹介するか。


「えっと、ごめん。この美女はアリスさん」


「…………違う」


 違うって何だよ。合ってるよ。




 …………いや、合ってないわ。突然斬りかかるアリスさんは、人として違ってたわ。ホントすいません。訴えられたら絶対負けます。


「こんな美人を見て違うって……やっぱりお前、そっち側の人間なのか!?だとしたら、ごめん。俺はお前の期待には応えられない。俺は普通に女の子が好きだ」


 そういってアリスさんの凶行を誤魔化す俺を見て、少し気を取り直す二条。


「いやぁ、それは残念だね。僕は君に興味津々なんだけれど。しかしその女性が君を助けたのか。何者なんだい?僕にも紹介してくれるかな」


 少し残念そうな顔をする二条。なんで俺に興味津々なんだよ、と突っ込みたい。


「アリスさんはお前と別れた後、俺を助けてくれた女性だ。彼女も眷属の力を持っている」


 二条と気安く話す俺を見て、アリスさんが警戒しながら、


「タクヤ、彼はあなたの知り合いなの?」


 そう聞いてくる。


「そうです。こいつは昨日うちの学校にやってきた転校生です」


 その説明で納得したのは、視界の端にいる桜子だった。二条の事を俺に聞こうとしてたけど、タイミングを逃して立ち尽くしていたみたいだ。よく見るとスマホを耳に当ている。電話中かな?


「転校生?何それ」


「転校生ってのは、うーん、なんて言えばいいかな……えーと、違う学校からやってくる人のことです」


 転校生の意味なんて聞かれた事無いから、上手い説明がすぐに思いつかない。あれだよな、普段当たり前だと思っている事ほど言葉にするのは難しいよな。


「学校って何個もあるの?」


「はい、さっきも言いましたけど、この国ではすべての人が学校に通いますから。どの街にも学校がありますよ」


「そうなのね。……やっぱりこの国は凄いわ」


 そういって大剣を下に下ろすアリスさん。


「とにかく、あの男は敵ではないのね」


「はい」


「…………でも、嫌な感じがするわ。あまり信用しない方がいいわよ」


 意味深に囁いて、俺の後ろに下がるアリスさん。


 何はともあれ、誤解が解けて良かった。こんな朝っぱらから、バトル展開はお腹いっぱいです。




 俺たちの、すこし常識の欠けたやり取りを見て、二条は思案顔になる。


「…………もしかして、彼女はこの世界の人間では無いのかい?」


「おお、よく分かったな。彼女は別の世界からやってきたらしいぞ」


「ふむ、やっぱりそうか。あの山に僕たち以外は入った形跡が無かったからね。来るとしたら空間を飛び越えて来た事になる。空間の神の力を使って異世界から来たと考えるのが妥当だ。……でもそう考えるとすると、君は彼女と出会う前に神の力を使えるようになっていないとおかしくないかな?空間の神の力を使える人間はこの世界に君だけだろうし」


「いや、別に俺が呼んだ訳じゃない。向こうでなんか神器とかいうのを使ってきたらしいぞ」


「何故拓也くんの元へ?」


「なんか、俺に世界を救ってほしいんだと」


「そうか、なるほどね。空間の神の力は、とても強力な力だ。世界をまたいで求められても、決して不思議ではないだろうからね…………」


 ぶつぶつと呟く二条。ある程度彼の疑問は解消されたみたいだ。


「でも、お前異世界とか簡単に受け入れすぎじゃない?」


 俺は最初にアリスさんの叔父にあたるフェデリコさんに会っていたから受けいる事が出来たが、それが無かったら未だ信じて無かったかもしれない。


 二条はなんだ、そんな事かと軽く言う。


「僕は長年生きているからね。異世界の存在なんて、いくらでも聞いた事があるよ。実際に異世界人にあった事もあるよ。ほら、君も小さいときに色々な童話などを呼んだ事があるんじゃあないかな。その中には実際にあった出来事も混じっているもんだよ」


 まじかよ。


 二条の話を聞いて、急に世界がとてつもなく広く感じた。


 もしかしたら俺が今まで見てきた世界というのは、ほんの一部にしか過ぎないのか。


 俺のような一般人が知らないだけで、実はこの世界は不思議で充ち満ちているのかもしれない。




 しかし二条はアリスさんの事が分かると、それには興味を無くしたようで、


「でもタクヤくん、助けてくれたのは本当にアリスさんだけかい?他に君を助けてくれる存在はいなかったのかい?」


 そう聞いてきた。


「そうだよ、アリスさんだけだ。でもなんだ、お前の言い方だとまるで誰かが俺を助ける事を知っていたみたいじゃないか」


「いや、別にそういうわけじゃ無いんだが…………」


 そういって言葉尻を濁す二条。うーん、何かを隠しているみたいだ。


 気軽に話せるから割と心を許してしまっているけど、アリスさんの言う通りこいつはそんなに信用してはいけないかもしれない。実際俺はまだこいつと知り合って一日しか経ってない。何も知らないといっても過言では無いかもな。




 二条とアリスさんの誤解が解けて、話が一段落した所で、俺は桜子の存在を思い出す。


 そういえば昨日は、明日説明するって事にしてあんまりちゃんと話してないんだよな。だから今のやりとりは桜子からしたらさっぱりだろう。ちゃんと説明しないといけないな。かといって異世界やら神の力なんて説明して信じてくれる訳無いし、どう言い訳するべきかな。


 そう考えながら桜子の方を見る。すると彼女は先程と変わらず、スマホを耳に当てて誰かと会話していた。


「…………桜子、お前誰と長電話しているんだ?」




「え?女の人が暴れて刃物を振り回して、高校生に斬りかかったって警察に通報しているだけだけど?」




 俺たちは嫌がる桜子を担いで走ってその場から逃げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ