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第21話 世界を救う物語

「桜子?何でお前がいるんだ?」


 何故か俺の部屋のドアの前に立っている桜子。お隣同士小さいときから家族ぐるみでお付き合いをしているのでよく遊びに来るけど、こんな夜中に何の用だろうか。顔を見るに、怒っているのは間違いない。


「何しているの?」


 威圧的な声でそういわれて、ドキッとする。俺のベッドには風呂上がりのアリスさん。そしてそちらに近づく俺。


「べ、別にまだ何もしてないよ!」


「まだ?」


「いや、それは言葉の綾で……」


「そもそも彼女は誰?拓也とどういう関係?」


 くっ、どうして咲といい桜子といい、俺とアリスさんの関係を詮索するんだ。やめろよ、俺だってまだはっきり分かっていないんだから。


 とりあえず咲にした言い訳……もとい設定を話す。


「この子はアリスさん。俺のネットで知り合った友達で、日本に来たけど泊まる場所がないからうちに泊めてあげているんだ」


「友達?ならなんで拓也のベッドの上にいるの?おかしくない?そもそも、海外に行くのに泊まる場所も決めないなんておかしくない?……!よく見れば拓也の服を着てるじゃない!私も着たことないのに!」


 ぐんぐんと俺に詰め寄る桜子。心なしか背後に般若が見える。てかお前が俺の服着たことないのは普通のことだろ。


 冷静に考えたら、泊まる場所もない、替えの服も持っていない旅行者って、ちょっとヤバい奴だよな。そもそも、入国審査で止められるだろ。うーんと、


「それは、鞄を盗まれたみたいで。その中に替えの服も、スマホも、お金も全部入ってたんだって!日本にいる知り合いは俺一人らしいんだ!」


 我ながらなかなか上手い言い訳を思いついたもんだ。


「そんなことどうでもいいの!なんで拓也のベッドに女の人がいるのよ!だめじゃない!あなたはベッドに他の人を連れ込んじゃ駄目なのよ!」


 おっと言い訳ガン無視のパワープレーだ。ベッドに連れ込んじゃいけないってなんだ、お前は俺に一生童貞でいろってか。


 俺は桜子に胸ぐらを掴まれ揺さぶられながら考える。


 桜子は少し混乱しているみたいだ。気持ちは分かる。家族がこれからムフフな事しようとする場面に出くわしたら気まずいもんな。俺も咲が家に男を連れてきたら、血の涙を流してしまうかもしれない。


「なに黙り込んでるのよ!」


 桜子が俺を揺さぶる勢いがどんどん強くなってくる。ちょっと、それ以上やられるとさっき食べた晩ご飯が発射されるからやめてくれ。


「桜子さんっていうのね。私はアリス」


 桜子を止めてくれたのはアリスさんだった。桜子は一旦止まって、アリスさんの次の言葉を待っている。


 アリスさん、頼んだ。桜子の怒りを鎮火してくれ。


「タクヤは悪くないの。私がタクヤと寝たいだけなの」


 おい、なんで火にアルコールぶちまける様な真似をするんだ。


「何いってるのよ!」


 桜子は掴んでいたものを投げ飛ばして、アリスさんに相対する。


 ちなみに掴んでいたものとは俺の事だ。壁際まで吹っ飛ばされた。痛い。


「大体、あなた何歳よ!」


「私?二十二歳だけど」


「い、淫行じゃない!強制わいせつよ!警察を呼ぶわ!!」


 荒ぶる桜子の背後から近づいて、俺は羽交い締めにする。


「ちょっと落ち着けよ!別に強制じゃないし、そもそもそういうことをしようとしてる訳じゃないから!てか、そもそも何でお前がここにいるんだよ」


 俺は桜子に後ろから抱きついて、耳元で囁く様な形になっていた。


「…………あふん」


 あふん?


 桜子がおとなしくなった。ちょっと急過ぎて戸惑う。


「桜子?…………桜子!おい、しっかりしろよ。なんでお前がここにいるのか教えてくれないか」


 さっきの剣幕は何処へやら、シナシナになった桜子がぽーっとした顔で答える


「…………咲ちゃんに、呼ばれて来たの」


「咲に?」


 なんで咲が桜子を呼ぶんだろう。


 ふと、その時、背後に視線を感じて、俺は振り返った。


 そこには、部屋の入り口から顔だけだしてこちらを見ている咲がいた。


「…………」


「…………」


「……咲、何してんの?」


「チッ」


 


 結局、咲と桜子の猛抗議を受けて、アリスさんには別の部屋で寝てもらうことにした。


 ちくしょう。


 今日はもう遅いので解散になった。桜子は去り際、明日ちゃんと説明しろと捨て台詞を吐いていった。


 しかし、さっきのアリスさんは少し様子がおかしかった。急に俺を誘惑するような事を言い出したりして。どういうつもりだったんだろう。


 まぁ、今日出会ったばっかりだし、そんなに詳しく知っている訳じゃないけどね。






 部屋から皆がいなくなって一人になった俺は、すぐに寝付けず天井に開いた穴から見える月を見ながら、昨日からの一連の出来事を考えていた。


 昨日、道路に空いた大穴に落ちてから、俺の世界が180度変えられてしまった気がする。


 空間の神であるトピカさんには、眷属達を殺せと命令され、


 異世界人であるアリスさんには、私の世界を救ってと頼まれた。

 



 ははっ、一介の高校生にはスケールがデカすぎる話だ。


 俺に何かを殺すとか、救うだとか、そんな大層な事が出来るとは思えない。


 


 ーー出来ないって言えたら、良かったんだけどな。


 残念ながら、トピカさんにはやらなきゃ世界を滅ぼすと脅されている。


 そして何より、俺には世界が滅びる事より大事な事がある。




 俺がアリスさんに惚れてしまっているって事だ。


 何で好きになったかの理由ははっきり整理出来てないけど、でも間違いなく好きだ。


 …………こんなのかっこつけるしかないじゃんか。好きな人にいいとこ見せたいじゃんか。


 うん。


 この先、どうなるかは分からないけど。神の力とか、眷属を殺すとか、俺に何が出来るか分からないけど。自分の出来る全力で、アリスさんのために頑張れるだけ頑張ろう。






 世界ぐらい、ちゃっちゃと救ってやりますよ。


 


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