第12話 とりあえず斬っとけば間違いない
それから俺たちは山の小道を歩きながら、四度、敵に襲われた。
「強い力を感じたと思ったら、これはこれはおいしそうな奴らだ。力、もらってもいいかい?私の名前はー」
「やぁぁぁぁ!」
狐の次は、狸。
「やれやれ、ケント様の命令とはいえ、こんなとこまで来る羽目になるとは。まあでも、仕事しないと怒られるしね。俺の名ー」
「はぁぁぁぁ!」
その次は、蛇。
「平塚拓也、オマエ。俺、キラービー。俺、オマエ、倒ー」
「とぅ!」
次、蜂。
「ふっふっふ、君達ー」
「はぁ!」
そして、また狸だ。
「あの、アリスさん?さすがに口上も述べさせないのは可愛想な気が…………」
「大丈夫、あなたには傷一つつけさせないから」
ズレた回答をするアリスさん。物凄くいい笑顔だ。
俺たちは狐を倒した後、とりあえず俺の家に帰るか、ということで、山を下山していた。本当は、はぐれてしまったアリスさんの仲間を探して、ああ、見つかりましたね。では俺はこれで。っていう予定だったんだけど、アリスさんは、
「私の仲間はもういいの。多分こちらには来てないし。だから私一人でタクヤを守ることにする。とりあえず、貴方の家に帰りましょう?大丈夫、私はタクヤとずっと一緒よ」
といって俺についてきている。まぁ先程、謎の二足歩行の喋る狐に襲われたばっかりというのもあって別れるのも危ないし、一旦家まで連れて行くことにした。
別に綺麗なお姉さんにずっと一緒とかいわれて、ドキドキして言いなりになっている訳じゃないんだからね!
で、山を下山しているわけだけど。
おかしい。絶対おかしい。
敵が出てきて俺たちを襲うことじゃない。常識的に考えて物凄くおかしい事だけど、それは一旦置いておく。アリスさんが喋る動物を見かけた瞬間に切り捨てる事でも無い。いや、これも頭がおか…………とにかくっ、俺が疑問に思っているのは、
全然山から出られないという事だ。
そもそも、山といってはいるが、所詮郊外の住宅街にある裏山だ。そんなにでかいわけじゃない。頂上までの道のりは手入れをされておらず時間は掛かるが、それでも三十分ぐらいで登り降り出来る。
しかし、かれこれ一時間以上歩いている。おかしい。
あたりは暗くなってきた。
戦いはアリスさんが卑怯なぐらい一瞬で片付けているので、たいした時間は掛かっていない。歩いている間、アリスさんは黙々と歩いているので会話もなく、そんなに時間が掛かるはずががない。
ちなみに俺は喋りかけて無いのかって?美人にそんな簡単に話しかけられる訳無いだろ、いい加減にしろ!
アリスさんは四度目の敵を倒した後、大剣についた血を払いながら、俺に話しかけてきた。ちなみに襲ってくる喋る動物達だが、倒した後は普通の動物の死骸なので罪悪感がすごい。これ動物愛護法とかに引っかからないよね?
「もう暗くなってきたし、今日はこのあたりで野営にしましょうか」
何言ってんだこいつ。
「野営ってそんな、何言ってるんですか」
「?」
アリスさんは真剣に疑問を浮かべている。冗談では無さそうだ。
「ここは町の中にある小さな山なので、すぐに町に着きますよ。てか、正確には一応ここも市内ですし」
「そうなの?」
町を通ってここに来たなら分かるはずだけど。
「…………あの、さっきも聞きましたけど、アリスさんはどうやってここに?」
「あなたに会うため空から落ちてきたの」
「うん。えっと……質問を変えます。どこから、ここに来たんですか?」
「コルマン帝国の隠されたゲートから来たのよ」
なるほどね。コルマン帝国の隠されたゲートですね。はいはい知ってる知ってる。あれでしょ、この前出来たあれのことでしょ。あれ、日曜だとすごい混んでるよね。前の国道まで車の列が伸びちゃって、すごい邪魔になってるよね。
うん。…………知らないよ、コルマン帝国なんて。変な固有名詞使わないでくれよ。オスマン帝国なら知ってるけど、コルマンなんて………………ん?聞いたことある気がする。あれ?何処で聞いたんだっけ、思い出せない。
「コルマン帝国って何処にあるんですか?」
「ここより…………ずっとずっと、遠くよ」
アリスさんが悲しい目をしている。嫌な思い出があるのか、それとも大事な物を思い出しているのか、その両方だろうか。
ここで素人なら、「はぁ、ブラジルとかですか?」とか、アホな顔して聞いてしまうんだろうが、俺は違う。
「つまりあれですね。異世界転移って奴ですね」
俺の予想では、彼女はこの世界の人間ではないだろう。少なくとも地球人じゃない。だってあんな職務質問待ったなしの大剣、コスプレじゃなきゃ異世界人以外無いだろう。
一昨日までの俺なら、異世界なんて真剣に考えることもなかっただろう。
でも、俺は変な空間に飛ばされ、3メートル越えのオークに追いかけ回され、瞬間移動する自称神に会い、そして戻ってきたかと思えば何千年と生きているという妖怪みたいな転校生に空に飛ばされたのだ。
今の俺なら、サンタクロースの存在だって信じられる。俺は名探偵のようなしたり顔で、アリスさんを見る。
しかしアリスさんの反応は冷たかった。
「異世界転移?何を言っているのか分からないわ」
アリスさんは何を言っているのか分からないという顔をしている。
あれ?反応が鈍い。俺の予想は間違ってるのか?だとしたらめちゃくちゃ恥ずかしいから、俺が入れるサイズの穴を探してくれると助かります。
「あの…………何で俺を守ろうとするんですか?」
「それはね、アラーラ長老の占いに従ってよ」
なんか、質問する度に疑問が出てくるんだけど。理由ぐらいもうちょっとわかりやすいものでもいいじゃん。ここへ来たのは街で俺に一目惚れして、とか、本当は俺たちは許嫁、だとか。
…………ちょっと欲望が漏れた。
「ええっと、その占いって」
アリスさんはこほんっ、と可愛らしい咳払いをすると、変な顔をしながら声を変えて喋り始めた。
「…………占いの神に従いし、アラーラ・サルザンドより、神の神託を皆に伝える。」
おそらくものまねなんだろう。そのアラーラ長老とやらの。見たことないから似ているかどうか知らんけど。
ん?サルザンド?それも最近どっかで聞いた気がするぞ。
アリスさんはものまねを続ける。
「トルクスピカの英雄、フェデリコ・サルザンドが倒されし時、世界に闇の侵略者が現れ、トルクスピカに住まう者達に、大きな危機が訪れる。いずれ世界は闇神に支配されることとなるだろう。この世界を救うため、新たな英雄を探し、その者の力が闇神を倒せるようになるまで守リ抜くのだ。その者は、コルマン帝国にある、隠されたゲートを超えた先にいる。その者はフェデリコ・サルザンドの力を引き継ぎ、その者は空間の神トピカの寵愛を受けた者である。その者は必ずやこの世界に平和と安寧をもたらしてくれるだろう。その者の名は、タクヤ。タクヤヒラツカだ!!」
……………なんか急に知ってる名前ばっかになったんですけど。