第10話 出会いは突然訪れる
ちょっと短めです。
二条が去ってから、俺は一人、力を使う練習をしていた。
俺は少しわくわくしていた。男の子なら誰しも超能力とか、魔法とかに憧れたことがあるだろう。そんな力を自分が使えるといわれたら、心躍らない奴はいない。俺は自分の中に眠る力の覚醒のため、今までの人生の中でトップクラスに集中していた。なのに、
「全然っ、使えないんだけど!!」
俺は誰もいない広場の中心で、愚痴を叫んでいた。
二条に神を信じていたら思うままに使えるとか言われたから、信じてアホみたいな顔しながら一人でうんうんと唸るけど、何一つ不思議な事が起こっていない。
あの野郎、かっこつけて去っていきやがって。教えるって決めたなら、ちゃんと最後まで面倒を見ろよ。俺は手のかかることで定評のある平塚拓也だぞ。
…………そういえば二条に何で俺を見つけたのか、聞き忘れた。ネット検索しただけで位置まで特定するなんて、確実に神の力による物だと思う。でも二条の持っている風神の力で、果たしてそれが出来るのだろうか。普通に考えれば他にも神の力を持っているってのが妥当か。
何にせよ、二条もまだまだ謎の多い人物だ。
いつの間にか集中は切れてきた。
かれこれ何時間か、トピカさんに見せられた瞬間移動が出来ないか試しているんだけど、使える気配がないすらない。
何も変化がないのに何時間も続けたのは、それだけ期待が大きかったからだ。
いつの間にか日が傾き始めている。
今思い返してみると、二条は使えるようになるまでに二百年かかったとか言ってなかったか?それを一日で使えるようになるとか、絶対無理じゃね?
頭が急激に冷やされた様に冷静になる俺。明日も普通に学校だ。
…………真っ暗になる前に帰ろう。
険しい山道を、下っていく。ここは昔、子供の頃に来たことがあった。だけど来る時の大変さの割に、頂上に何もなさ過ぎて、皆一回きたらもう二度と来なくなるんだよな。だからこのあたりは本当に人気が無い。山を下るまで、誰に会うことはないだろう。
…………と、思っていたら。
「ん…………何だ?」
行く先に、何か人らしき影が倒れている。
「二条?」
俺は数時間前に山を下りた二条かと思い、駆け寄る。
しかし倒れていたのは二条ではなく、知らない女性だった。
「ちょ、ちょっと!大丈夫ですか!!」
俺が近寄ると、彼女はうめき声をあげた。
「うぅ、ここは…………?」
「大丈夫です。とりあえず、動かないで」
俺はそういって、彼女が怪我などをしていないか観察した。
その女性は、一言で言えばコスプレイヤーのようだった。
何のコスプレかと言われれば、戦士といったところだろうか。
まぁ、現実の兵士とかに比べれば幾分露出が多く、防御力にいささか不安がある服装と言わざるを得ない。お腹や二の腕、そして太ももなどから綺麗な白い肌が見えている。長い金髪は後ろで一つにまとめられており、その汚れのない透き通るような顔からは戦いの気配は感じられない。
しかし、なぜ俺が彼女に戦士という印象を受けたのかというと、まず大部分が朱色に塗られた服は金属で覆われており、そしてなにより、彼女の傍らには、彼女の身長と同じぐらいの大きな大剣が落ちていたからだ。
頂上の公園に向かう時と同じ道を通っているけど、登る時にはいなかった。二条が倒れている人を放置するような鬼畜ではないとすると、彼女がここに来たのはここ1〜2時間の間だろう。
怪我はない。とりあえず身元を確認して、一人では駄目そうなら警察か救急車を呼んで任せればいいだろう。
「えぇっと、大きな出血とかは無さそうですね。あなたはなんでこんな所に?自分の名前は分かりますか?」
「…………私の名前は、アリスよ」
アリスさんは一瞬迷った顔をしたが、すぐに俺の目をまっすぐ見つめて名前を口にした。
綺麗な女性にこうまじまじと見つめられるのは、思春期的にダメージがでかい。俺はその視線から逃げるように辺りを見渡しながら質問をする。
「アリスさん、っていうんですか。てか、一人ですか?ここには、どうやって?」
一人ですか?という俺の質問の意図が分からなかったのか、アリスさんは一瞬疑問を浮かべる。しかし、すぐに目を見開き、表情は驚きに変わっていた。
「一人!?そんな、嘘!!」
そういって立ち上がろうとするが、立ちくらみがするのか、すぐによろけてしまう。俺がそんな彼女を支えてあげようとするとれを伸ばすと、俺の手を振り払い、
「近寄らないで!!あなたは、誰!?」
焦燥と警戒の混じった顔で俺を睨み付けてくる。
俺は訳も分からず、正直に答える。
「えっと、俺の名前は平塚拓也といいます」
するとアリスさんは先程以上に驚いた。
「ヒラツカ……タクヤ!?あなたが、ヒラツカタクヤなの!?」
「はい、俺が正真正銘の平塚拓也ですけど」
「……………ほんとだ。空間の…………、そう……なのね。成功したのね。でも、私一人だけ…………」
何やらブツブツと呟いている。
ていうか、これはどうすればいいんでしょうか。アリスさんは俺に対する警戒も忘れて、近くの木に寄りかかると、考え事に没頭し始めた。腕を組んで考え事をしているせいで、大きな胸が少し持ち上げられている。くそ、目に毒だ。
俺は二つの童貞破壊装置から目を逸らして、横に落ちているアリスさんの身長ほどの大剣に目をやった。
ずいぶんでかい剣だな。アリスさんの持ち物か?でも鉄製ならアリスさんのような細身の女性には持ち上げることすら出来ないだろう。材質は発泡スチロールかなんかかな?
ただ、よく出来ている。柄の先につけられた宝石なんかは、本物であるかのように美しく輝いている。
うーん。撮影会があったら満員御礼になりそうな素晴らしいコスプレイヤーのアリスさんは、一体何故こんな郊外にある住宅街の裏山にいるんだろうか。
「あの、アリスさん?」
「…………なに?」
「ど、どうしてあなたがここにいるのか聞きたいんですが」
俺は話しかけられて少し不機嫌そうなアリスさんに、伺いをたてるかのように尋ねた。するとアリスさんは益々不機嫌な顔になり、
「タクヤ、あなたに会いに来たのよ」
といった。
え?プロポーズ?